鬼滅の刃の世界に転生したけど味方に鬼がいませんでした 作:せとり
刀鍛冶の里にほど近い場所にある、案内役の隠の休憩所。
その山小屋に、しのぶと義勇がいた。
二人の間には、重苦しい沈痛な雰囲気が流れていた。
最初は二人とも、刀鍛冶の里に上弦の伍が襲来したとの知らせを受けて、刀鍛冶の里に向かっていた。
しかし続報によって状況が変化する。
里には3体の上弦の鬼が確認され、行冥と蜜璃は死亡した。
そしてお館様から、この場所で集まり、待機するように指示が出たのだった。
しのぶと義勇はこの山小屋に一足先に到着し、柱が揃うのを待っていた。
誰かが近づいてくる気配に、二人は俯きがちだった顔を上げ、扉の方を見た。
乱暴に扉を開けて、息を切らした白髪の古傷だらけの男、実弥が小屋に入ってきた。
「ちっ」
開口一番、実弥は義勇の顔を見て、嫌そうに舌打ちした。
「状況は、どうなってやがる」
「まあ、とりあえず掛けてください。冨岡さんは水とお茶を入れてきてもらえますか」
「……わかった」
しのぶに言われ、義勇は奥の方へと消えていく。
義勇を体よく追い出し、しのぶは状況の説明を始める。
「すでに報せを受けたと思いますが、まず上弦の壱、弐、伍が刀鍛冶の里を襲い、即座に駆け付けた悲鳴嶼さん、蜜璃さんの両名が亡くなりました」
「……ああ」
「その戦闘での被害は鬼側にはありません。鬼たちは刀鍛冶の里に留まり、生き残りの人々をいたぶりながら、こちらを挑発しているそうです」
「生き残りがいるのかよ? だったらどうして助けに向かわねえ」
実弥から発せられた怒りを受けて、しのぶは重々しく溜息をついた。
「戦力の逐次投入は危険というお館様の判断です。これほどの規模の襲撃は例がなく、恐らくは無惨の肝いりの作戦です。まだ伏せられているだけで、上弦の鬼が勢ぞろいしている事もありえます」
「だから、里の人間は見捨てるっていうのかよ?」
「最低5人の柱が集まるか、明日藍さんがやってくるまでは待機とのことです」
「ちっ」
どうやら長丁場になりそうだと思い、実弥は乱暴に椅子に腰かけた。
「柱が5人ってのはどういう計算だ?」
「上弦の壱とは、悲鳴嶼さんが1対1でやりあいましたが、惜しくも敗れたそうです。そいつは別格だとしても、上弦の伍と戦っていた蜜璃さんは、上弦の弐が加勢してくるまでは優勢に戦っていたそうです。上限の壱に2人、弐と伍に1人ずつ、予備選力が1人という感じでしょうか」
「その5人はいつになったら集まるんだよ」
そう問われて、しのぶは遠い目をして窓の外を見た。
「大体の柱は所在が割れていますが、5人が集まる頃には夜が明けそうです……」
「おいおいおい、夜が明けたら鬼共も帰っちまうだろうが。そうなりゃ生き残りも助からねぇ」
「ええ、夜明けまでに間に合うかどうかは、明日藍さん次第なところがあります」
「その鳥海はどこで何してやがる。足の速いあいつがまだ来てねえなんて、実家にでも帰ってやがんのか」
「遠方へ任務に出ていたらしいですが、詳しい場所までは……」
義勇がお盆に水の入った湯飲みと急須を乗せて、奥から出てきた。
無言で水を実弥の前に置く。
「……ありがとよ」
実弥はぶっきらぼうに礼をいい、走ってきたことで喉が渇いていたこともあり、一気に水を飲み干す。
義勇は空になった湯飲みに、急須から湯気の立つお茶を注いだ。そして自分の席へと座った。
その後、しのぶから分かった範囲での、血鬼術や戦い方などの詳細な鬼の情報を聞かされる。
「おせぇ……」
情報共有が終わって話が途切れ、無言で待っていたところに、貧乏揺すりをした実弥が苛立ちながら言った。
「まだあなたが来てから30分も経っていませんよ、不死川さん」
ちらりと時計を見て、冷静に指摘するしのぶ。
今まで黙り続けていた義勇が、唐突に口を開く。
「苛立ったところで状況は変わらない」
「あん? 何が言いたい、冨岡てめぇ」
「……」
そして義勇は再び沈黙した。実弥の苛立ちは増した。
そんな険悪な雰囲気の中、小屋の開け放たれた窓に、一羽の鴉が舞い降りた。
伝令だ。三人は鴉の言葉に耳を傾ける。
「鳥海明日藍、刀鍛冶ノ里ニ突入! 上弦ノ鬼達ト交戦! 救援ニ迎エー!」
鴉が言い終わる前に、風のような速さで3人は家を出ていた。
森を走りながら、実弥が苛立ちながら口を開いた。
「あいつは直行すんのかよ! 例え全ての上弦が相手だとしても1人で十分ってか!」
「さすがに、そこまで自信家ではないと思いますが……」
「だが、俺達柱が全員でかかっても手も足も出ない強さだ」
「だから俺達は必要ないってか!」
実弥の怒鳴り声に、義勇が口を開きかける。二人が言い争いでヒートアップしそうなところを、しのぶが口を挟んだ。
「彼女は足が速いですから。もしかしたら鴉の続報が届かず、最初の指令に従って行動しているのかもしれません」
「……だとしたら、少しまずいかもな」
「ええ、初見の上弦の鬼を複数相手取れば、流石の明日藍さんでも負けかねません」
「急ぐぞ!」
一行のペースが上がった。
体力温存よりも、到着の速度を優先した走りだった。