鬼滅の刃の世界に転生したけど味方に鬼がいませんでした   作:せとり

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16.蝶屋敷

 

 刀鍛冶の里の惨劇から数日が経った。

 

 刀鍛冶の里の住民は、明日藍が助け出した女子供を除いて全滅だった。

 職人で働き手だった男たちが全滅したことで、鬼殺隊の製造面の能力は激減した。

 空里の維持管理のために少数がそちらで暮らしていたり、里以外に住んでいた人だったり、刀を届けに里を出ていた人など、少ないながらも災禍を免れた職人はいたので、日輪刀の製法が途絶える最悪の事態は免れた。

 今後は職人の育成を進めつつ、足りない分は民間の鍛冶師などに依頼して何とか乗り切っていく予定らしい。

 

 明日藍は、蝶屋敷に入院していた。

 蝶屋敷には何度か足を運んでいたが、患者としてやってくるのは初めてだった。蝶屋敷の皆がかいがいしく世話をしてくれるので不自由はない。

 

 医者であるしのぶの見立てでは、明日藍は剣士として再起不能であるらしい。

 足の怪我は全体的に酷いものだったが、特に膝が深刻で、軟骨は骨と違って一度擦り減ればもう回復しないらしい。柔らかい軟骨がすり減ると硬い軟骨に置き換わり、とても今までのようには動けなくなるとか。

 

 血の巡りを良くして治癒に専念すれば、徐々にではあるが回復していっているので、その心配は杞憂だと明日藍は言ったが、強がりだと思われた。

 そんなわけで、鳴柱の引退という噂は鬼殺隊中にあっという間に広まった。

 

 柱を中心に、交友のあった色んな人がお見舞いに来て、口々に『よく頑張った。あとは任せろ』という風なことを言っていく。

 全ての上弦を一掃して、皆大なり小なり浮かれていた。

 

 だが、全ての元凶である無惨がまだ残っている。

 完全に明日藍という脅威が無惨に知られてしまった。

 間近で見てきた珠代にも、臆病者と評される無惨のことだ。確実に逃げに徹するはずだ。見つけ出すのは至難の業だろう。

 

 明日藍を抜きにした鬼殺隊が、無惨を倒すことはほぼ不可能だ。

 仮に神出鬼没の無惨を、全国に薄く散らばる隊士の誰かが見つけたとしても、単なる隊員が足止めできるはずもない。準備も何もない遭遇戦では絶対に無理だ。

 仮に遭遇した人が柱で、何とか持ちこたえて、近くの柱が駆けつけて複数で戦ったとしても、薬で弱体化してない無惨に勝てるとは思えなかった。

 

 宝くじを買い続けるように、自分が足を使って無惨と遭遇できることを祈るしかない。そう思っていたが、先日行われた緊急柱合会議にて、自分がいかに馬鹿であるか思い知らされた。

 

 地道にやっていくべきだろう。お館様はそういった。

 明日藍が北国でやったように、地域の鬼を殲滅して安全地帯化し、より隊士を集中できるようにして戦力と索敵の密度を高め、鬼狩りの効率化と、無惨の捜索を進めていく。

 今まで柱の死因の断トツ一位だった上弦の鬼がいなくなり、柱の生存率が増せば鬼狩りも捗り、ひいては鬼殺隊全体の生存率向上、練度向上に繋がるだろう。上弦が補充されたとしても以前のような強さになるには時間がかかるはずで、今の柱たちの実力なら、十分相手ができるはずと。

 未来は明るい。悲願である無残討伐にも手が届きかけている。

 お館様は今後の方針を、そう結論付けた。

 

 明日藍は、お館様を改めて尊敬した。

 すらすらと語られる今度の展望は、希望を感じさせるに十分なものだった。

 それに比べて自分は……いや、比べることすら烏滸がましい。

 

 自分にできることはただ鬼を倒すことだけだ。

 まだ、頑張ったなんて口が裂けても言えない。

 これから一生をかけて無惨を追い、奴を殺して初めて、ようやく皆に顔向けできるようになる。

 それまで休んでいる暇なんてなかった。

 

 動かさなければ体が鈍る。

 皆が寝静まった夜。病室から音を立てずに抜け出して、刀を振って鍛錬する。

 安静にしているように言われているが、大げさと明日藍は思った。

 もしも足に後遺症が残ったとしても、引退するなどありえない。足がもげるまで戦うべきだ。自分の価値は戦力だけだというのに、戦うことをやめたらただの最低クズ人間が残るだけだ。

 

 足の痛みは我慢できる程度だった。完治までは結構かかりそうだったが、戦闘は可能だ。

 明日から仕事に復帰しよう。一日だって無駄にはできない。

 

 軽く流す程度で鍛錬のルーチンをこなしていると、屋敷で起き出して、こちらに近づいてくる人の気配を感じた。炭治郎だった。

 

 

 

 庭で行われている何かの気配を感じて起き出してきた炭治郎だったが、その鍛錬風景に言葉を奪われた。

 かろうじて見える速さで行われている型稽古は、ぞっとするほど動きに無駄がなく、あまりにも流麗だった。

 しばらく炭治郎は呆然と見入っていたが、その稽古を行う人物が明日藍であると気付いて、慌てて声をかける。

 

「明日藍さん?! 何をやっているですか、怪我をしてるのに!」

「見ての通り、もう動ける。大丈夫だ」

「ええっ」

 

 引退の噂が流れているほど酷い怪我をしていたというのに、もうあれだけ動けているという事実に炭治郎は困惑した。真偽を確かめるべく、鼻を研ぎ澄まして明日藍の内心を探る。

 相変わらず匂いは嗅ぎ取りづらかったが、自分を責めて、無理をしている匂いが感じられた。

 

「いや無理してるじゃないですか!」

「いやしてないけど……」

「絶対してますよ! とにかく一回やめましょう明日藍さん!」

 

 あまりにも炭治郎が騒ぐので、寝ている人の迷惑になると思い、明日藍は稽古の手を止めた。

 

「こっち! こっちに座ってください!」

「はあ……」

 

 オーバーに騒ぐ炭治郎に促されて、明日藍は縁側に座る。

 

「焦る気持ちはわかりますが、無理は禁物ですよ。今無茶をすれば治るものも治らなくなってしまいますよ!」

「自分の体のことは自分が一番わかってる。大丈夫だよ。心配してくれてありがとう、炭治郎」

 

 その言葉は本心から言っているようだったが、感じる自責の念から絶対に無茶をすると考え、炭治郎は明日藍を止めなければならないと思った。

 

「ちょっと触りますね!」

「え、うん」

 

 炭治郎がいきなり地面にしゃがみこみ、病衣に包まれた明日藍の足を触る。

 膝を触られて、鋭い痛みが走った。

 

「いたっ」

 

 思わず声に出る。

 

「やっぱり痛みがあるんじゃないですか! 駄目ですよ、安静にしてなきゃ!」

「いや、そんなに痛くないから」

「痛いって言いましたよね今?」

「無視できる痛みだから」

「やっぱり痛いんじゃないですか!」

 

 大人しく安静にしていろという炭治郎と、もう動けると主張する明日藍。両者の言い分は平行線で、やがて炭治郎が別口から切り込んだ。

 

「どうしてそんなに焦っているんですか?」

 

 炭治郎の純粋な問いに、明日藍は無表情に夜空を見上げてしばらく黙った後、おもむろに答えた。

 

「……こうしている間にも鬼の被害は止まらない。本来助かったはずの人が死んでいる。私が殺しているようなものだ。休んでいる暇なんてない」

「え……」

 

 突然の、言っていることのスケールの大きさに、炭治郎は絶句した。

 その間にも、明日藍は胸に抱え込んだ蟠りを吐き出すようにして喋っていた。

 普段なら言葉にしないことがすらすらと口に出ていた。どうしてだろう、炭治郎が相手だと話しやすかった。

 

「私は自分のことしか考えていない最低な人間だ」

「え?」

「自分の都合で何人もの人を見殺しにしてきた。性格が悪い上に頭が悪い。見栄っ張りで嘘つきで、どうしようもないクズだ」

「??」

 

 何を言っているんだこの人は。炭治郎は真顔になった。

 

「今回の件で亡くなった里の人だって。悲鳴嶼さんも、蜜璃さんも。私が殺したようなものなんだ……」

 

 強い慚愧と後悔、悲しみの感情が、明日藍からは伝わってきた。

 とんでもない自己評価に告白だったが、それを明日藍は本気で言っているのだと、炭治郎は理解する。

 思わず立ち上がり、炭治郎は否定する。

 

「それは違いますよ! 明日藍さんは精いっぱいやった! 頑張った! だから少数ながらも助けられた人がいて、上弦の鬼だって全部倒せたんじゃないですか!」

「もっとうまくやれたはずなんだ。私がちゃんとしていれば、既に無惨を倒していた。今起こっている鬼の被害は全て私の責任だ」

「……何を言っているんですか?」

 

 真顔の炭治郎が思わず本心を口にするが、明日藍の話は止まらなかった。

 

「浅草の時もそうだ。周囲に被害を出さないようにしながら戦うという選択もできたはずなのに、怖気づいた私は無惨をみすみす見逃した」

「はあ……」

 

 もはやどこまで信じていいのかわからない話に、炭治郎は気のない返事をした。

 

「炭治郎だって私の被害者だ」

「はあ……はあ? どういうことですか?」

 

 さすがに自分に関することは聞き流せず、炭治郎は聞き返した。

 

「私はあの場に無惨が来ることを知っていた。なのに自分の都合で炭治郎の家を探そうともせずに見捨てるばかりか、自分の家族や地元を豊かにして喜んでいた。本当に最低な人間だ……」

「無惨が来ると知っていたって……未来予知ができるとでも言うんですか?」

「それに近いものがある」

「は、はあ……」

 

 支離滅裂だ。罪悪感で頭がおかしくなっている。失礼だが炭治郎はそう思った。

 明日藍が、これほどまでに心を病んだまでの経緯と苦悩を想像して、炭治郎は涙を流した。

 袖で涙を拭って、優しく炭治郎は言った。

 

「明日藍さん、やっぱり休みましょう。疲れてるんですよ。あなたには休憩が必要だと俺は思います」

「……とにかく明日にはここを出ようと思う」

「明日藍さん……」

 

 頑なな様があまりにも痛々しく、炭治郎はどうすれば明日藍の力になれるかを考えた。

 とても自分一人では説得できそうになかった。助けを呼ぼうと考えて、屋敷の主人であるしのぶの姿が真っ先に思い浮かぶ。

 同じ柱で、聞くところによれば年齢も同じで仲が良いという。適任だろう。炭治郎はそう考えて、しのぶを呼んでくると告げた。

 次の瞬間、目にも止まらぬ速さで炭治郎の腕が掴まれていた。

 

「しのぶさんは……呼ばないでほしい」

「な、なんでですか?」

 

 炭治郎が、腕を掴む握力の強さに顔を引きつらせながら聞くと、明日藍は気まずげに答えた。

 

「その……合わせる顔がないからだ」

「どうして?」

「……しのぶさんの姉のカナエさんが死んだのだって、私のせいだからだ」

「は、はあ」

「蝶屋敷の子たちは、本当に甲斐甲斐しく世話をしてくれる。でも私にそれを受ける資格はない。今は一体でも多くの鬼を殺すことが唯一の贖罪の方法なんだ……」

 

 本当に重症のようだった。とにかく励ましの言葉をかけようと炭治郎は口を開けかけて、縁側の影に潜んでいた人物に気がついた。

 寝間着姿のしのぶだ。表情は陰に隠れて見えないが、ひどく怒った匂いがした。

 

「しのぶさん!?」

 

 炭治郎が叫ぶと、明日藍はびくりと体を震わせて、恐る恐るしのぶの方へ視線をやった。心なしが表情が青ざめていた。

 

「さっきから聞いていれば、ずいぶんと面白そうな話をしていますね、明日藍さん、炭治郎くん?」

「し、しのぶさん、ちょっと落ち着いて! 明日藍さんはその、心を病んでいるというかですね、とにかく誤解なんです!」

 

 どこから聞いていたのか分からないが、誤解されていたらまずい。炭治郎は怒ったしのぶを止めようと、必死に言いつのった。

 

「誤解? 誤解なんてしていませんよ。殆ど最初から聞いていましたから」

「だったら……」

 

 炭治郎の言葉を遮るように、しのぶは話し始める。

 

「鬼の被害が出るのは自分の責任? 無惨を倒せなかったのは自分が最低な人間だから? 挙句の果てには悲鳴嶼さんや蜜璃さん、姉さんが死んだのは自分のせいだ? とんでもなく傲慢な物言いですね。全く度し難いです」

「う……」

 

 分かってはいても直接は聞きたくなかった非難の言葉に、明日藍は身を縮こまらせた。

 炭治郎は慌てて、明日藍を守ろうと二人の間に割って入ったが、しのぶに肩を掴まれて顔を合わせて、体を恐怖に震わせた。

 しのぶは満面の笑みだったが、目は全く笑っていなかった。心の底から本気で怒っている。

 

「炭治郎くんはちょっと黙っていなさい。いいですね?」

「……ハイ」

 

 炭治郎は緩慢に頷いた。しのぶは怒ってはいるが、悪意は全く感じられない。きっと任せても大丈夫のはずだ。

 心の中で明日藍に謝りながら、炭治郎は静かに脇に引っ込んだ。

 

「明日藍さん」

「……はい」

 

 やや震えていた明日藍だったが、やがては死を受け入れた殉教者のように、真っすぐにしのぶの目を見つめ返す。

 

「あなたは酷い思い違いをしています」

 

 うんうんと、炭治郎は陰で激しく同意した。

 

「まずは直近の話をしましょうか。その足の怪我をした時の状況、もう一度教えてくれますか?」

 

 しのぶの問いに、その時のことを思い出しながら、明日藍は答える。

 

「上弦の伍に、今にも殺されそうな子供の姿が見えて……神速の六十連で距離を詰めて……そいつの頸を刎ねました」

「そうですね。一キロ近く離れていたそうですね? 後であなたが通った道を見たら、地面は抉れ木々は圧し折れ、凄まじいことになっていましたね」

「六十連? 一キロっ?!」

 

 なんか色々おかしな話が聞こえてきて、炭治郎は驚きの声を上げそうになり、咄嗟に口を押えた。

 

「そんな芸当ができるのは明日藍さんだけです。子供を救ったのは明日藍さんの功績です。胸を張ってください」

「でも、救えたのはその子と、生き残りの17人だけ……」

「そうですね」

 

 満面の笑みのしのぶに肯定されて、明日藍は深く落ち込んだ。

 炭治郎はハラハラした気持ちで見守っていた。

 

「無理をして助けた子は、実は見捨てる選択もあったのではないですか?」

 

 明日藍は黙り込んだ。しのぶは有無を言わせない声音で言った。

 

「正直に話してください」

 

 観念したように、明日藍が答える。

 

「はい……一瞬見捨てようかと思いました……」

「なぜですか?」

「まだ相手には気づかれていなかったから……そのまま距離を詰められれば、より少ない危険で安全に上弦たちを倒せると思いました……」

 

 その話を聞いて炭治郎は、明日藍が上弦の参――猗窩座を倒したときのことを思い出す。

 相手に全く反応させない、まさに神業というべき所業だった。

 もしあの場に他の上弦が三人いたとしたら、どうなっていただろう。炭治郎はその光景を思い浮かべて、一瞬で頸を斬られる四人の上弦の姿がありありと想像できた。

 

「子供を見捨てていれば、明日藍さんが怪我を負うことはなかったと?」

「……はい……」

 

 明日藍はついに顔を俯かせてしまった。

 

「全てを救う気概でいるくせに、一人を助けるために大怪我をして、こうして入院している。何か矛盾を感じませんか?」

「それは……努力が足りなかったから。自分の実力不足で――」

「違います」

 

 ぴしゃりと、しのぶが遮った。

 はあとため息をついて、呆れたようにしのぶが言う。

 

「まるで違います。馬鹿ですか? ああそういえば自分で言っていましたね、頭が悪いって。そこだけは同感ですよ」

「うぅ……」

 

 純粋な罵倒に、明日藍の瞳にうっすらと涙が滲んだ。

 しのぶは額に手を当てて、本当にあきれ果てたという仕草をしていた。

 

「体を壊すぐらいの無茶をしたところで、一人を救えるかどうか。所詮はその程度なんですよ、一個人の人間ができることなんて」

 

 どこか自嘲気味に言うしのぶに、明日藍は恐る恐る顔を上げた。

 しのぶの悪口にあたふたしていた炭治郎も、しのぶの怒りがだんだんと収まっていることに気づいて、安心していた。

 

「要するに私が言いたいことは、仲間を頼れってことです。私たちはそんなに頼りになりませんか?」

 

 ふるふると明日藍は首を振って否定したが、しのぶは更に言い募る。

 

「確かに明日藍さんからみれば、私たちは子供のようにひ弱で、頼りない存在かもしれませんけどね」

 

 再び言葉に怒りを滲ませ始めるしのぶ。

 

「でも庇護対象と見られていたのだとしたら頭にきちゃいます。私たちは、隊士になった時点でとっくに死ぬ覚悟をしているんです。柱ともなればその覚悟も一入です。そんな私たちを守れなかっただのなんだのと、酷い侮辱ですよ、それは」

「でも……」

「でもじゃありません」

 

 しのぶは笑顔で明日藍の頭を握りこぶしで小突きながら、寂しそうな顔をして言った。

 

「共に命を懸けて、無辜の民を守る仲間だと、私はそう思っていたんですけどね。どうやら勘違いしちゃっていましたか?」

「――違う。私は、皆のことを仲間だと……」

 

 思わず否定した明日藍だったが、徐々に声が小さくなっていく。しまいには大粒の涙を浮かべ、嗚咽し始めた。

 

「あ、あれ……」

 

 まさかここで泣かれるとまでは思っていなかったのか、しのぶは困惑の表情を浮かべて、炭治郎と一緒にあたふたし始めた。

 

「と、とにかく! 仲間だと思うならもっと頼りにしてください!」

 

 ほら泣かないでと、しゃがんで視線を合わせ、ハンカチを取り出し優しく涙を拭うしのぶ。

 抱いて頭をなでたり、背中を優しく叩いたりと、まるで子供をあやすかのようだった。

 

「一人で背負いこまなくてもいいんです。私たちにも肩代わりさせてください。仲間でしょう?」

「うん、うん……」

 

 しばらくして落ち着いてきた明日藍に、しのぶは慈愛の籠った声で言った。

 

「明日藍さんは休んでいてください」

「……でも」

「ちょっと休むから後は任せたと、どーんと構えていればいいんですよ。今まで十分に頑張ってきたんだから、それぐらい許されます」

 

 私も明日藍さんに負けじと頑張りますから。

 笑顔でそう言うしのぶに、今度は先ほどとは違う感情で、目頭が熱くなる明日藍だった。

 

「俺も頑張ります! 明日藍さんの分まで!」

 

 感極まって炭治郎が叫んだ。

 

「きっと善逸や伊之助やカナヲだって頷いてくれます! 他の人にだって俺から頼んできます! だから安心して休んでいてください!」

「他の人に言うのはやめて。恥ずかしいから……」

「じゃあ休んでくれますよね!」

「うん……」

 

 明日藍は小さく頷いた。炭治郎は喜び、しのぶは穏やかな笑みを浮かべた。

 

「ありがとう……炭治郎、しのぶさん。胸のつかえがとれたよ」

「いえ、明日藍さんが元気になれば俺も嬉しいです。少しでも力になれたなら良かったです」

「そうですね。……それと呼び方、しのぶでいいですよ」

「えっ」

 

 縁側に隣り合って座るしのぶの顔を、明日藍はまじまじと見つめる。

 

「同い年なのによそよそしいと思っていたんですよ、私たち。友達じゃないですか。ねえ、明日藍?」

「あ、うん……しのぶ」

 

 その言葉を口にして、明日藍は顔が熱くなるのを感じた。

 しのぶも照れているのか、頬は赤くなり、耳まで朱に染まっていた。

 照れた顔なんて初めて見た。二人はそう思い、どちらともなく息を噴き出し、笑いだす。

 

「じゃ、じゃあ俺はそろそろ寝ますね。おやすみなさい」

 

 気まずさを感じたのか、炭治郎はそう言って寝室に戻っていった。

 残された明日藍としのぶは、暫く共に星空を眺めていた。

 やがておもむろに、しのぶが口を開く。

 

「姉さんの仇を討ってくれて……ありがとう、明日藍」

「え」

「実は改めて、その感謝に伝えに来たんですよ? でも病室にいないし変な話をしているしでおかしな流れになっちゃいましたけど」

 

 思い出して、小さく笑うしのぶ。

 

「さあ、夜も遅いですしもう寝ましょうか。怪我人が夜更かししてはいけませんよ」

「うん」

 

 小さく笑い合う。立ち上がろうとすると、しのぶが体を支えてくれた。そのまま歩きの補助までしてくれる。

 礼を言って、病室まで戻る。

 寝床に寝かせてもらっている途中、炭治郎たちの寝室から、騒がしい声が聞こえてきた。

 

『うわあ! って善逸?! お前泣いているのか?』

『だって、だって、明日藍さんがいっつも苦しんでいるのは音で分かってたから……よかっだ、よがったよぉー!』

『善逸……』

『よがっだよおー!』

『うわあ来るな善逸! はな、鼻水が!』

 

 しのぶと明日藍は、きょとんとした後に、状況を理解してくすりと笑い合う。

 

「おやすみなさい、明日藍。ぐっすり寝てくださいね」

「うん。おやすみ、しのぶ」

 

 暗闇の中、病室で一人横になり、明日藍はいつもと違うことに気がついた。

 こうして休んでいると、常に頭を振り乱したくなるような罪悪感や焦燥感が襲ってきていたが、それが無くなっていた。

 かつてない安心感を感じて、すぐに眠気が襲ってきた。

 みんなと一緒なら、きっと無惨も倒せる。ベッドの中でうとうとしながら、明日藍はそう思った。

 

 




 


 
炭治郎としのぶのカウンセリング。こうかはばつぐんだ!
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