鬼滅の刃の世界に転生したけど味方に鬼がいませんでした   作:せとり

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17.鬼のいない国

 

「本当に役に立たなかったな、あ奴らは」

 

 視界の同調により上弦の四人が殺される様を見届けて、無惨は吐き捨てるように呟いた。

 そこは無限城の一室。豪華な家具や装飾、本や実験器具が持ち込まれた、無惨の居住空間だった。

 

「せめて手足の一本でも落としてから死ねばいいものを。まるで無駄死にではないか」

 

 いくらでも指示を出せる立場だったのを棚上げして、無惨は一連の戦闘をそう評した。

 

 戦果という戦果は、刀鍛冶の里を潰したのと、どうでもいい柱を二人殺したぐらいだ。

 刀鍛冶の里を潰したのだって、鬼殺隊も馬鹿ではない。技術書の類は保管しているだろうし、里を離れていて難を逃れた鍛冶師もいただろう。一時的に刀の製造、補修能力を大きく削ったぐらいで、大勢に影響はなかった。

 全ての上弦を失い、もはや使える駒は下弦以下のゴミばかり。

 せっかく血を分け与えて重用してやったというのに、本当に不甲斐ない奴らだった。

 

 400年前の悪夢の再来と言えたが、無惨は取り乱しはしなかった。

 結局、無惨が雲隠れすれば、鬼殺隊にそれを探し出す能力はない。

 400年前もそうだった。自分を倒せるだけの力を持った化け物がいたとしても、遭遇しなければいい話なのだ。

 相手は所詮は人間だ。100年も時間が経てば間違いなく死んでいる。

 

 極端な話、無限城に引きこもって一歩も外に出なければ、死ぬ可能性は無くなる。

 一人の人間のためだけに行動を制限されるのは業腹だが、浅草で嗅ぎつかれた耳飾りの鬼狩りのことも考えれば、閉じこもっていた方が安全だろう。

 

 鳴女に血を与えて。新たな上弦にするのもいい。

 今でも便利な血鬼術が更に強くなれば、できることも増えるだろう。

 今まで手元に置いて使ってきたが、鳴女に反抗の意思は見られず、忠誠は確かだった。危険な能力だが問題ないだろう。

 

 上弦の鬼は再編しよう。

 重要な成果は何一つとして上げていないが、有象無象の柱を間引く程度には役に立つ。

 ないよりはあった方がいい。

 

 鬼の素体となる人間は、鳴女に用意させればいい。

 更なる血を与えるのだ。今まで以上に働いてもらおう。

 

「全く、なぜ私がこんな苦労をしなくてはならんのだ」

 

 さっさと明日藍がくたばり、太陽を克服した鬼が生まれることを、無惨は願った。

 

 

 

 

 昭和X年。193X年。

 あれから20年の月日が流れた。

 

 鬼殺隊は、日本から鬼を駆逐していた。

 だが、無惨を倒したわけではない。

 

 10年ぐらいした頃だっただろうか。既存の鬼を殆ど駆逐して、新たに現れるのは雑魚鬼ばかり。鬼殺隊の練度は日進月歩の勢いで高まっていき、先代のお館様の方針通り、無惨を追い詰めつつあった。

 ある時からぱたりと鬼の被害がなくなって不審に思っていたところ、海外で鬼らしき被害が多発し始め、無惨が日本からいなくなり、海外に逃亡したことを知った。

 

 その時の鬼殺隊の反応は微妙だった。

 この頃には若い隊員は鬼に復讐心を持たない金に釣られて集まった者が多くなっていたが、ベテランや幹部には鬼に恨みを持つ者が多かった。日本から鬼を駆逐したのは嬉しいが、無惨にみすみす逃げられたことはむかつく。金目当ての人たちも鬼がいなくなったことでリストラされないかと不安で、色々と動揺していた。

 

 海外まで追うべきか、追わないべきかは大きく意見が分かれた。

 

 その頃の鬼殺隊は、営利団体としての面も持ち合わせつつあった。鬼殺隊の戦力が高まるにつれて、徐々に事業を始めたりと、表に出始めたのだ。

 それは鬼殺隊の運転資金を稼ぐためでもあるし、徐々に強まる国の統制の対策に、隊士たちの表向きの身分を手に入れるためでもあり、鬼のヘイトを引いて鬼を誘引し、一般人への被害を減らす目的など、複数の要因があった。

 

 様々な実業を行い資金を稼ぎ、鬼殺隊員は警備員の名目で雇われていた。関連施設には鬼の――表向きはテロ対策としてある――襲撃に備えて、関連施設はガチガチに防備を固めていた。

 

 お館様の先見の明はやはり凄まじく、投資においてはチート級の働きをした。

 現実でゲームみたいな勢いで金を増やしていくのだから、すごすぎる。

 たまに失敗することもあるみたいだけど、全体の稼ぎからすれば誤差だった。

 

 刀鍛冶の里の壊滅も、刀が届くのがものすごく遅くなったり、刀を砥ぎに出してもなかなか返ってこなかったりと、しばらくはかなりの影響が出たが、今はもう心配いらない。なんなら以前より生産力が増したぐらいだ。

 

 そう言ったわけで現在、鬼狩りには二つの部門が存在した。

 

 実業部門は、海外の鬼は放っておくべきだと主張した。国粋主義の高まりなどもあって、海外で被害があろうがその国の仕事、自分たちは関係ないという隊士も多かった。

 実質の鬼殺隊である警備部門は、地の果てまで無残を追って殺すべきだと強く主張した。意見としては少数だったが、武力では圧倒的だったし発言力は強い。予算は実業部門の業績に影響されるので、あまり強く出れないが。

 

 議論は平行線で、何なら各派閥同士でも細かい意見が合わなくて、言い争いになっていたりした。

 

 結局はお館様の鶴の一声で、海外の鬼の対処を行うことが決められた。

 鬼殺隊の存在理由は、元々人を食らう鬼を退治して、無辜の民の安寧を守ることだ。それは海外の人々も例外ではない。そうお館様は言った。

 お館様のお陰で実業部門は多大な利益を出せているため、お館様の求心力は、ともすればかつての鬼殺隊以上のものがあった。

 産屋敷財閥は、お館様の判断の下、団結して動き出した。

 

 しかし海外に行って鬼を狩ると一口に言っても、実行するとなると大変で、人種や言語、文化の差異などもあって、現地に行って鬼狩りを行うまでが本当に大変だった。

 鬼殺隊は日本に根を張っていた土着の組織だったんだなと思い知らされた。

 

 鬼殺隊の隠れ蓑に産屋敷傘下の企業が進出したり、現地で人を雇って作ったり、そういうことを繰り返していくうちに、鬼殺隊も随分と国際色が豊かになった。

 

 

 

 明日藍は痣者の寿命を克服していた。

 四十も近くなろうとしていたが、死ぬ気配もなく生きている。

 杏寿郎と、実は隠れて痣を出していたらしい実弥と小芭内は、お館様の後を追うように次々と亡くなってしまった。

 特に小芭内は蜜璃が亡くなってからは鬼気迫る勢いで鬼を狩り、蝋燭の火が燃え尽きるように死んでしまった。

 仲間たちとの別れは非常に辛かった。

 

 刀鍛冶の里で行方不明になっていた獪岳が、新たな上弦の鬼になっていたのが判明して、慈悟郎が切腹した。原作を再現するかのように善逸が獪岳を討ち、敵の血鬼術による効果で重傷を負って蝶屋敷に担ぎ込まれた善逸は、何とか一命をとりとめた。

 

 いつものように、世界には悲劇はありふれていた。でも良いことも沢山あった。

 

 かつての同期の柱たちや、少し下の炭治郎らの世代は殆どの人が結婚して子を成していた。

 明日藍も何度かお見合いを提案されたが、前世の意識の残滓を引きずって、なんとなくそう言った気分にはなれず、明日藍は独身だった。

 二十歳から三十歳ぐらいまでは結婚しないのかと度々ネタにされていたが、四十が近づくとだんだん皆その話に触れなくなっていった。なんだか気を使われているようで釈然としない。

 身体制御の極意で体の若々しさは保っている。まだ見た目は二十歳そこそこだった。

 最近は若作りをやめようかなと思っている。

 親友であるしのぶがだんだん老けてきて、自分が置いていかれるような思いを感じていた。

 このままだとしのぶがお婆ちゃんになったとしても、自分は若々しいまま。それはひどく悲しいことのように思えた。

 

 本心としては、一緒に老いて死にたい。

 だが無惨討伐の仕事が残っている以上、戦力的には若さを保っていた方がいい。

 どうしたものかと、ここ最近はずっと考えていた。

 

 だが、明日藍は学んでいた。

 このままうじうじと悩んでいてもしょうがない。こういう時は相談だ。

 

「あの、喧嘩売ってます?」

 

 もはや病院として使われる機会は殆どなくなり、ただのしのぶの私邸となった蝶屋敷の一室で、若い頃より肌の艶が無くなったしのぶが、額に青筋を浮かべて微笑んでいた。

 

 彼女も既に現役を退いていた。引退したのは柱の中で一番早かった。理由は医学の道に専念するためだった。

 鬼を人にする薬といった、鬼関係の研究成果はまだ上がっておらず、これからといったところだが、人体の構造の知見に関しては既に世界最高峰の医学者として名を馳せていた。

 詳しくは知らないが人体の構造についてノーベル賞に値するような論文をばんばん出しているらしく、日本はおろか世界中から注目の的になっているらしい。

 

 しのぶは、明日藍の特殊な視界を利用できただけで自分は医学者としては平凡だと謙遜していたが、間違いなくしのぶ本人の優秀さがなければできないことだ。

 若さを保つ技法だって、しのぶの協力なくしては、明日藍一人では決して成しえないことだった。

 結局その若作りも自分以外は誰も習得できず、少し恨めしそうな目を向けられたが。

 

「いや、かなり本気で相談してる」

 

 明日藍が真剣な面持ちで言うと、しのぶは渋々といった様子で答えた。

 

「正直それを相談されたところで好きにしろとしか言えませんが」

「じゃあ、しのぶはどっちが嬉しい?」

「それは――」

 

 しのぶは言葉に詰まった。

 一緒に老いていきたいという思いもあれば、無惨を倒してほしいという願い、友には若く健康に元気でいてほしいという気持ちもある。

 

「うー……総合的に見れば……」

「見れば?」

「あー……やっぱりなしで」

「ええ?」

 

 しのぶは回答を避けた。

 自分の言葉で明日藍の人生を縛りたくないと、しのぶは思った。

 

「お婆ちゃんになる未来の話をしてもしかたないでしょう。そうなる前に無惨を倒せばいいんです。あとは明日藍が自由に決めればいい。そうでしょう?」

「……そうだね!」

 

 話を逸らしたと思ったが、明日藍は笑顔で頷いた。

 可能性は低い未来だったが、そうなるのが一番だった。

 

 




 
次回、最終話です。
明日更新予定です。
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