鬼滅の刃の世界に転生したけど味方に鬼がいませんでした   作:せとり

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18.悲願

 

 

 2019年。令和元年。

 また年号が変わったが、未だに無惨は倒せていなかった。

 だが、手が届きそうなところにまで来ている。

 衛星、監視カメラ、ネット、スマホ、ドローン、SNSなど。

 科学技術の発達はすさまじく、今まで追えていなかった無惨の痕跡を捉えるところまで来ていた。

 

 どうやら無惨は相当慎重になっているようだ。普段は無限城に引きこもっていて、外に出ることは滅多にないようだった。

 世界各地の行方不明者の情報を集めて精査して、鳴女の血鬼術による被害者を探し出し、被害状況の分布を調べておおよその潜んでいそうな場所を特定し、その広大な範囲をパトロールして、偶然鳴女が血鬼術を使う場面に居合わせたり、気分転換に外出した無惨とばったり遭遇するのを待ち望む日々。

 

 気が遠くなるそれを繰り返して、気がついたら100歳を超えていて、前世の明日藍が死んだ改元した年になっていた。

 いつからか改元したことは覚えていてもその年号の名を思い出せなくなっていたので、令和と聞いてはっとしたものだ。そういえばそんな感じの年号だったなと。

 

 明日藍の外見は、実年齢を言われても信じられないほど若々しいままだった。

 とはいえ若作りをしているだけで、体はかなりがたが来ていた。

 一応最大出力は若い頃と同じ力を出せるが、それを持続できる時間が全盛期とは比べ物にならないほど短くなっていた。

 無理せずに出せる総合的な力は、かつての半分以下になっていた。

 それでもなお、世界規模の組織となった鬼殺隊でずっと最強を張っているんだから、この身体はチートすぎる。

 

 かつての友人や仲間たちや家族はとっくの昔に亡くなってしまっていたが、その子孫たちや、今も志を共にする仲間もいる。

 たまに寂寥感を感じることもあるが、寂しくはなかった。

 

 

 

 無惨は擬態しないで外に出ることもあるのか、少ないながらも無惨本人――マイケルジャクソン似の東洋人の姿――の目撃情報も集まっていて、その行動はある程度パターン化されて予測されつつあった。

 例えば鬼殺隊の影響力が強いからか、日本やアジア近辺には寄り付かず、主にアメリカやヨーロッパで目撃されていること。

 冬は極端に日が短くなるのを好んでいるのか、カナダ、アラスカ、ロシア、北欧といった北極圏の国でよく見られることなど。

 

 それでも範囲はとてつもなく広いが、宛もなく世界中を彷徨っていた頃に比べれば、とんでもなく状況は好転していた。

 

 明日藍は、真冬のフィンランドのとある町を歩いていた。

 最近行方不明者が出ていて、地元では悪魔や吸血鬼が出たと噂になっている町だった。

 最近は現代人が鬼にされているので、かつてと比べて鬼の行動は合理的なものが多くなっていた。特に証拠隠滅のできない鬼は長く生きられない。理性のない雑魚鬼なんかは、現地の警察にだって勝てない。ある日突然、人を食らう化け物になってしまうその現象はグール病とか言われて、鬼の存在は世界に知られつつあった。

 

 ニット帽とコートといった防寒具は正直いらないのだが、ある程度人に怪しまれないためには必要だった。

 肩にかけた竹刀袋には日輪刀が入っている。

 いくら世界中に根を張り、東洋のロックフェラーやロスチャイルドと言われる産屋敷グループの力でも、一般市民や末端の警察官までは話を通せないので、あからさまに武装して歩くわけにはいかなかった。

 

 いまや全集中の呼吸は東洋の神秘の武術として世界中に知られており、世界各地に剣道道場があるほどの世界的なブームとなっていた。ヨーロッパでも竹刀袋を担いでいる人もちらほらと見かけるので、一人で夜の町を徘徊していること以外は怪しいものはなかった。

 

 感じた気配を辿り、一軒の家の前で足を止める。

 少年の見た目をした若い鬼だった。人の家族に囲まれて一家団欒を過ごしていたが、人間には血鬼術の影響があった。恐らくは精神に作用するタイプの血鬼術だろう。

 直接的な攻撃系の血鬼術よりも、こういった搦め手タイプの鬼の方が生き残る確率も高く、厄介だった。

 

 竹刀袋から日輪刀を取り出して、二階の窓の鍵を壊し、こっそり侵入する。

 他人の家族と団欒を楽しむ少年の鬼は、まるで普通の子供のようだった。いたたまれない気持ちになりながらも、速やかに仕事を終わらせる。

 

 そこからほど近い場所に停められていた、エンジンがかけられたままのジープの助手席に明日藍は乗り込んだ。

 運転席にはがっしりとした体つきの黒人系の男が座っていた。彼は鬼殺隊の支援要員、現代の隠で、明日藍のスケジュールを管理するマネージャーのような仕事や、運転手をしていた。

 恋人を鬼に襲われて復讐を誓い、隊士を志したが、呼吸が使えず、隠になった男だった。

 

 隊士の武器は、未だに日輪刀が主流だった。

 太陽光を人工的に作るとかも試したが、結局は鬼に有効なのは本物の日光と日輪刀――正確には陽光山で採れる猩々緋砂鉄と猩々緋鉱石を使った武器――だけだった。概念武装めいた神秘を感じる。

 貴重な金属を使い捨てでばら撒く銃は主流になれず、鎹烏の代わりにスマホという現代的なアイテムを持ってはいるが、基本的な装備は大正の鬼狩りのままだった。

 

「お疲れ様です、鳴柱。終わりましたか?」

 

 流暢な日本語で男は聞いた。

 明日藍は邪魔なニット帽とコートを脱ぎながら答えた。

 

「ああ、鬼を一体斬った。念のため、少しこのまま町を回ってくれ」

「ラジャー」

 

 そういって車が出される。

 自動車が普及し、交通手段が整備されるにつれ、明日藍が自身の足で移動することは減っていた。

 世界中を股にかけるようになって移動距離が増え、体が衰えてかつてのようにいかなくなった事情もある。

 索敵のために車外に意識を広げながら、ナビから聞こえてくるニュースの音をぼんやりと聞く。

 

『グール細胞の研究に莫大な予算を投じた政府ですが、未だに目ぼしい成果を上げられていません。長年続く無駄な浪費に、市民は怒りの声を上げてデモ行進を――』

「ちっ、デーモンの研究なんて馬鹿げてる」

 

 ニュースの音声を聞いて、運転手の男が吐き捨てた。

 

「どうせ権力者が私利私欲で不老不死を欲しているだけだ。デーモンを人に戻す研究ならうちがしてるんだからそっちに出資しろってんだ」

「……そうだね」

 

 原作では珠代が成し遂げた鬼を人にする薬は、未だに完成していなかった。

 やはり日光を克服した鬼がいないというのがネックのようだった。

 

 鬼の存在が知られるにつれて、その特異な存在に興味を示し、不老不死や再生医療への利用を考え始めた人がいた。

 その研究も未だ進展はないようだったが、研究が実を結び、第二第三の無惨が生み出されないかと恐ろしくもあった。

 

 ふと、初期設定のスマホの着信音が鳴った。明日藍の携帯だった。

 かけてきたのは同僚の柱だった。透明な世界にも至っている才能豊かな武人だが、イタリアの男らしくプレイボーイで明日藍も冗談交じりに何度か声をかけられていたほど陽気な人間だった。

 どうしたんだろうとスピーカーにして電話に出る。

 

『アスラン! 今どこにいる?!』

 

 普段の様子と違う、興奮して音割れしかけた男の声が、明日藍の現在位置を訪ねた。英語だったが、勉強し直したので会話ぐらいはできる。

 

『フィンランドの……北の方だけど』

 

 キッティラです、と運転席の男が小さな声で補足したが、訂正する前に電話越しの男が声を張った。

 

『ムザンだ! ムザンを見つけた! 心臓が七つで脳が五つ、女の姿に擬態しているが間違いない! デーモンキングだ!』

 

 その言葉を聞いた瞬間、日輪刀に手を伸ばし、臨戦態勢になった。

 ここ百年の間、ずっと待ち望んでいた報せだった。

 

『――場所は?』

『ロシアだ! ロシアのモスクワ!』

 

 遠すぎると、運転席の男は呻きを上げた。

 それでも現場に急ぐべく、男はアクセルを踏んでジープを加速させる。

 明日藍は近いと思った。直線距離で1000キロぐらい。地図を見ればフィンランドからモスクワまでは一直線の道も繋がっていた。

 

「もっと飛ばしてくれ」

「しかし、あまり速度を出し過ぎると警察に止められますよ?」

「それでいい。少しでも体力を温存したい。捕まるまで全速で走ってくれ」

「……ラジャー!」

 

 捕まれば車を捨てて、そこから走っていくつもりだった。

 明日藍の指示に覚悟を決めて、運転手はアクセルを全開にした。

 三百キロ近い速度を出して、卓越した運転技術を披露して前を走る車を次々に追い抜きながら、公道を全力で走り抜けていく。

 

『今から向かう。くれぐれも気を付けて。無理しないように』

『もちろん。今は気づかれていないから遠目に見張っているよ。あのオカマ野郎、金髪の美女になって映画なんて見てやがるぜ! ははっ!』

 

 軽い調子を装った言葉だったが、声はひどく震えていた。彼もまた家族を鬼に殺された被害者で、ようやく見つけられた無惨に怒りが抑えられないようだ。

 

 明日藍は柱の男を落ち着けながら、どうか間に合うようにと、今は亡き仲間たちに祈った。

 

 

 

 

 どうにか三時間ほどでモスクワ近辺にたどり着いた時、明日藍は大きく息を切らして疲労困憊の状態だった。

 若い頃はこれぐらいでは息が切れることすらなかったが、本当に老いたものだ。

 それでもまだゴールではない。ようやくスタート地点に立てるかというところだった。

 

 疲れた体を押して、GPSを頼りに無惨を探す。

 ――奴がお家に帰りそうだ。交戦して足止めする。

 しばらく前に、無惨に張り込んでいた柱の男はそう言い残し、連絡が途絶えた。

 急がなくてはならない。

 煌びやかな夜のモスクワの街を、建物を足場にして跳んで走る。

 

 やがて戦いの気配を察知して、一直線にそちらへ向かう。

 中心地から少し離れた場所にある大きな公園の一角に、無惨はいた。

 白人系の女の姿をして黒いドレスを纏って擬態した無惨は、体から無数の触手を生やして振り回し、つまらなそうに立っていた。

 対抗する柱の男は、目だった外傷はないが、毒が全身に回っているのか痛々しいあばたのような腫れがいたるところに見られた。心臓の鼓動が消え入りそうなほどに小さく、今にも死にそうな有様で、それでもなお懸命に時間を稼いでいた。

 

「お前たちは本当にしつこい。異常者共が。いい加減私に付きまとうな」

 

 本当に嫌気がさした様子で無惨が言う。

 その言葉は日本語で、誰に聞かせるわけでもない愚痴だったのだろう。読唇して離れた距離から聞き取った明日藍は、全身に怒りが満ちるのを感じた。

 

 コンディションはあまり良くない。だがついに無惨と邂逅した。

 百年間、渇望するほどに待ち望んだ瞬間だ。

 たとえ自分がどうなろうと、絶対に奴を殺すという覚悟を胸に、明日藍は強く刀を握った。

 

 ――壱の型、霹靂一閃・神速・六連。

 雷のような速さで無惨に迫った明日藍は、無防備だった無惨の頸を斬った。

 ――参ノ型、聚蚊成雷。

 老いて劣化した肉体が悲鳴を上げるのに構わず、全力で無惨の体を切り刻む。

 赫刀が効果を発揮して、切り刻んだ肉片から再生は殆どしていない。この程度なのかと拍子抜けする。

 こんな奴に今までどれだけの人が犠牲になり、不幸になったことか。

 負の感情に突き動かされて、明日藍は徐々に速度を落としつつも手を動かし続けた。

 

 後ろで人が倒れる音がした。

 柱の男は、明日藍が到着して無惨を切り刻み始めたのを見届けて、安心した表情で事切れていた。

 それを見て、明日藍は奥歯を噛み締めた。

 

「……やった、のか……?」

 

 殆ど固体が無くなるまで微塵切りにした無惨だったものの血だまりを呆然として見る。

 こんな簡単に終わっていいのか? なにか見落としはないか?

 明日藍は何度となく周囲と無惨の状態を確認したが、怖いぐらいに何もなかった。

 

 べべん、と琵琶の音がした。

 無惨の血だまりの下に襖が開き、回収しようとしていた。

 鳴女に動きがあったことに、少し安心する。予想通りの行動だった。

 襖の外に残された細胞がないことを確認して、明日藍は無限城へ飛び込んだ。

 

 明日藍を押しつぶそうと、四方八方から建物が迫ってくる。

 とにかく無惨と明日藍を分断しようという意図を強く感じる、無惨を巻き込むことを厭わない攻撃だった。

 無惨の血だまりの位置を常に意識しながら、鳴女の排除に取り掛かる。

 建物を隔ててそれなりに遠い位置だったが、隠すことのない気配は最初から筒抜けだった。

 質量兵器の攻撃をかわしながら、最短ルートで距離を詰め、霹靂一閃で頸を刎ね、琵琶を弾けないように腕を斬る。

 鳴女が消滅を始め、空間の歪んだ城を維持していた力が消えて、無限城が崩壊していく。

 

 出た先は、先ほどいた場所のモスクワの公園の一角だった。

 積み木をひっくり返したかのように、無限城の残骸が零れ落ちていく。

 明日藍は無惨の下へと舞い戻り、瓦礫に埋もれないように守り切った。

 無惨を守るために剣を振るうことになるとは腸が煮えくり返りそうだったが、瓦礫に埋もれて隠れられると面倒だった。

 

 木造建築の残骸で埋もれる中、明日藍のいる場所だけは不可視の傘でもあったかのようにぽっかりとスペースが空いていた。

 

「はあ、はあ……」

 

 痛みを通り越して、体中の感覚が既にない。目も霞んできた。透明な視界も途切れつつある。

 スマホを取り出して時間を確認すると、まだ午前二時だった。モスクワの一月現在の日の出時刻は約午前九時だった。

 今夜は長くなりそうだと、ちょうどいい高さの残骸に腰を下ろした。

 刀を握り、油断なく無惨を見据えながら、明日藍はただ日の出の時を待った。

 

 

 

 

 

 はっとする。

 一瞬意識が途切れていた。ぼうっとしていたようだ。

 目の前に無惨はいなかったが、なんだか疑問に思わなかった。むしろ使命をやり遂げたかのような達成感に満ち溢れていた。

 気分が良かった。ふわふわとした心地で、天にも昇る気持ちだった。

 

 いつの間にか陽気も良くなっている。

 澄み渡る青空の下に赤い彼岸花が咲き誇り、幻想的な雰囲気を醸し出していた。

 川があり、対岸に無数の人影があった。

 全て、見たことのある顔だった。今は亡き、死んでいった家族や友人や仲間たち。

 みんな笑顔で、こちらに向かって手を振っていた。

 

 懐かしさと感動に、明日藍は涙をこぼした。

 

 明日藍は、不意に思い出した。

 弱弱しい日の出と共に、無惨が太陽の光に焼かれて消滅するのを見届けて、気が抜けて意識を失ったらここにいたことを。

 自分は死んだのだと、明日藍は悟った。

 

 ――皆、見ててくれたかな?

 失敗だらけの人生だったけど、ついにやり遂げたよ。

 みんなと同じ天国には行けないかもしれないけど――。

 

「今、そっちに行くよ――」

 

 明日藍は涙を拭い、手を振り返して、満面の笑みを浮かべて仲間たちの下へと駆け出した。

 

 




 
 
 







 
 
 
というわけで終わりです。最後まで読んでいただきありがとうございます。
誤字報告、感想、評価、ブクマ、大変励みになりました。この場を借りてお礼申し上げます。本当にありがとうございました。

 








あとがきは下の方に置いておきます。
読みたい方だけどうぞ。




























本当はここまで救いある死を主人公に与えるつもりはなかったんですが、流石に可哀そうかなと思って分岐させました。
初期プロットでは蝶屋敷で内心を吐き出すことが出来なくてメンタルケアできず、逆に更にこじらせてしのぶさんとのコミュにも失敗して、孤独なまま一人で戦って普通に老いて平成を見ることもなく寿命で死ぬ予定でした。
無惨様生存ルートです。
死後に大々的に葬式とかが行われて、今まで成してきた功績や救ってきた人やその子孫なんかも登場させて、本人が思うほど意味のない人生じゃなかったと語っておわり……みたいな感じでした。

本作の辿った無惨様死亡ルートは、メンタルケアに成功してしのぶとの友情が深まり、仲間と友に戦って若作りして令和まで生きて、「もう100年経つしあいつも死んだやろ」と油断して出歩くことが増えていた無惨様が、スケスケに目覚めた柱に捕捉されて主人公が到着するという、無惨視点では滅茶苦茶運が悪いことになってました。

何はともあれ最後まで書けて良かったです。
お付き合い頂ぎありがとうございました。


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