鬼滅の刃の世界に転生したけど味方に鬼がいませんでした   作:せとり

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2.出会い

 

「ひゃははは!」

 

 鬼の不愉快な笑い声と共に、鬼の両腕から生やされた機関銃が火を噴いた。

 連続した大口径の銃撃音に、弾丸の着弾音や飛翔音が混じって、まるで戦場のようだった。

 

 鬼狩りの剣士、山形は身を低くして地形の窪にへばりつきながら、大きく息をついた。

 

 ――大物ではないかという疑いはあったが、まさか下弦の弐に遭遇するとは。

 その鬼は血鬼術で両腕から機関銃を生やすことができるようだ。

 鬼本体の力量はそこまで高くない。機銃だけならまだやりようがあったが、鉄条網も出せるようで、鬼の周辺には鉄条網が張り巡らされて近づけなかった。

 機銃による火力は暴力的で、臨時で集められた隊の仲間は接敵から1分もせずにほぼ全滅した。

 数少ない生き残りを逃がすため、山形は殿にあたっていた。

 

 鬼に家族を殺され、復讐を誓い、鬼狩りを志してから5年。

 5年前は何の力もない子供だったが、今では立派な鬼狩りの剣士だ。

 階級だって甲だ。こいつを倒せば柱になれる。

 だが、その道は果てしなく険しかった。

 

 息が荒い。肺が痛い。足がもう限界だ。

 自慢の雷の呼吸も鉄条網が邪魔で攻めに使えず、時間を稼ぐために全力で逃げに使い、既に満身創痍だった。

 いつの間にか鉄条網は茨のように周囲に展開されており、徐々に逃げ道は狭まり、撤退もままならなくなっていた。

 万事休す。

 山形は、死を覚悟した。

 

 だが、ただでは死ねない。

 死んでもあの鬼の首をはねてやると、決意した。

 

「どうした~? 怖気づいたかぁ? いつの間にか周りに鉄線が張り巡らされててびびっちまったか~?」

 

 銃声が止まる。

 硝煙と土煙で、辺りは視界が悪くなっていた。

 今のうちに位置を変えよう。この窪に自分がいると思わせて、別方向から奇襲したい。

 真正面から突撃したのでは、万が一にも勝ち目はない。命を捨てるにしても、少しでも成算を高めたかった。

 体を汚しながら、慎重に、だが素早く匍匐で移動する。

 

「ガタガタ震えてしょんべんちびっちまったかぁ? それとも死んじまったのか~? ぎゃはは!」

 

 射撃が再開された。こちらの位置には気がついていない。

 ――やれる!

 息を整え、瞬時に起き上がり、居合の構えをとる。

 ――雷の呼吸、壱の型、霹靂一閃――?!

 

 飛び出した瞬間、嘲笑する鬼の横顔と目が合った。

 片方の機銃がこちらを照準していた。

 どんな手段をもってしてか、気づかれていたようだ。

 回避しようとしたが、もう遅い。

 一か八かでそのまま踏み込んだが、到底間に合いそうになかった。

 

 時間の流れが遅くなる。

 死神の鎌が振り下ろされるような気持ちで、引き金が引かれて銃口が火を噴くのを見た。

 

 ものすごい衝撃がして、一瞬意識が飛んだ。

 被弾した? いや、そうではない。体に痛みはなかった。

 先ほどの衝撃も、むしろ横合いからのものだった。あれはいったい――?

 とにかく、生きているなら戦うまでだ。

 刀を握り直そうとして、日輪刀が無くなっていることに気づいた。

 

 ――まずい! 落とした?!

 剣士として恥ずべき失態だった。素早く周りを見るが見当たらない。

 そして鬼の様子を確認しようとして、目の前の光景に困惑した。

 

「……は?」

 

 下弦の鬼が頸をはねられて、倒れている。今にも消滅しようとしていた。

 傍らに立つのは一人の少女。まだ幼く、10にも満たない年齢だろう。普通の村娘のような服を着ている。

 手に持つのは、刀身全体が赤く染まった日輪刀。炎の呼吸による色変わりではない。あんな色変わりの仕方もあるのか。

 隊服を着てないし年齢も幼すぎるといった怪しい所もあるが、助けてくれた以上は味方だろう。

 ほっと安堵のため息をつく。

 安心したら力が抜けて、地面に倒れこんだ。足が痛い。

 

「大丈夫ですか?」

 

 少女が近づいてきた。

 暗がりだが、これだけ近づけば顔は確認できた。

 見たことのない顔だ。

 将来の美貌を予感させる幼いながらも美しい顔立ちに、肩にかかるぐらいの艶やかな黒い髪。

 お嬢様みたいな容姿に反して、服装は継ぎはぎの目立つ小袖で、貧乏そうな装いだった。

 

「ああ、大丈夫だ」

 

 子供の前でみっともない姿は見せられないと立ち上がろうとしたが、少女の手に制される。

 

「筋肉が断裂しかけていますし、関節もやばいです。骨にも罅が入っています。無理をしない方がいいですよ」

「あ、ああ……」

 

 見ただけでなんでそこまで分かる。

 

「これ、お返ししますね。無断で拝借してしまい、申し訳ありません」

 

 そういって渡される日輪刀。黄色い刃文のそれは山形のものだった。

 借りていた? いつ? 赤い日輪刀はどうした? 様々な疑問が頭の中を駆け巡る。

 死を覚悟した瞬間の横合いからの衝撃、消えた日輪刀、帰ってきた日輪刀。

 単純に考えれば、銃撃が体に届くよりも早く助けられて、その際に刀を拝借して、そのまま鬼の首を落としたということになる。

 そんなこと人間にできるのか? それもこんな幼い少女に。

 

「お前はいったい何者だ?」

「この近くの遊佐村に住んでいます、鳥海 明日藍です」

 

 遊佐村というと、鳥海山の南側にある村だったか。

 そういえば、鳥海山の周辺で妙な噂が広まっていたことを思い出した。

 曰く、鬼が出て、幼い少女が夜明けまで切り伏せ続けたと。

 眉唾ものだと思ったが、どうも具体性を持って話されていて、実際に鬼にやられたと思しき死人も出ていて、真偽を確かめるために隠が派遣されたとのことだったが、まさかこの少女が噂の正体か。

 

「お仲間の遺体はどうしましょう。野ざらしは可哀そうですよね。埋葬しますか?」

「いや……そのうち隠がくるはずだ。そのままでいい」

「そうですか。じゃあ、えーと……お名前は?」

「山形だ」

「山形さんは、噂に聞く鬼殺隊ですか?」

「そうだが……なぜそんなことを聞く?」

 

 まさか知らないとでも?

 山形が攻めあぐねていた下弦の鬼を、一瞬にして首をはねたということは、それを可能にするだけの身体能力と技量、そして知識があったはずだ。何も知らない人間が日輪刀を奪い、鬼の首をはねるという行為をするはずがない。

 

「私も鬼殺隊に入りたいです」

 

 無表情にそう言う少女の真意は読めなかった。

 

「まず、鬼殺隊のことをどこで知った?」

「鬼から聞きました。あ、鬼と偶然遭遇してからは夜に周辺を警邏(パトロール)してるんです。弱点とかも鬼から聞きました」

「その強さはどこで手に入れた?」

「生まれつきです」

 

 頭が痛くなってきた。

 少女からは敵意を感じない。話していると一見普通の少女に見える。

 だがその身に秘めた力量は尋常なものではないはずだ。

 よくよく考えてみれば、相手がその気なら自分は死んでいた。警戒する必要はないかもしれないと山形は考えた。

 少女に向かって、山形は頭を下げた。

 

「いや……すまない。少し疑ってしまっていた。遅れてしまったが、助けてくれて感謝する。ありがとう。お陰で死なずに済んだ」

「いえ。どういたしまして」

「厚かましいお願いだが、どうやってあの鬼の首を斬ったのか、再現してもらえないか?」

 

 そういって刀を差しだすと、少女は快諾した。

 

「わかりました。では……あの木が鬼という事で」

 

 指さすのは、50メートルほど離れた先にある杉の木。

 

「いきます」

 

 抜き身の刀のまま居合のような構えをとると、軽く腰が落ちて、音もなく消えた。

 

「は?」

 

 樹木がざわめく音に、標的となった杉の木を見ると、ちょうと機銃の鬼の首の高さ、2メートルあたりで綺麗に斜めに両断されていた。徐々に木がずり落ちていき、やがて限界を迎えて大きな音を立てて倒れこみ、倒木になった。

 

 一瞬遅れて何が起きたのか理解して、鳥肌が立った。

 踏み込みも、50メートルの距離を駆けるのも、首をはねるのも、全てが一瞬だった。

 間近に見ていたのに行動の起こりすら見えなかった。

 神業だった。柱だって無理な芸当だろう。実は神仏の類とか言われても信じてしまうかもしれない。

 

「どうでしょう。合格ですか?」

「……合格?」

「入隊するにふさわしい実力かどうか確かめる、といったような意図かと思ったのですが、違いましたか?」

 

 実力を見たいとは思ったので、特に否定はしなかった。

 

「鳥海、といったか。君はどうして鬼殺隊に入りたいんだ?」

「天職だと思ったからです」

「天職?」

「はい。武力でもって人食い鬼を駆除する仕事。私にぴったりだと思いました」

「……そうか」

 

 鬼狩りになる動機の多くは鬼に対する恨みだが、中には金や、奇抜な理由で隊士をしている者もいる。

 この少女もその部類なのだろう。

 なんにせよ、これほどの実力の持ち主が鬼殺隊に入ってくれるのは喜ばしいことだった。

 

「だが困ったな。最終選別――入隊試験はつい最近行われたばかりだ。次は半年後になる」

「半年後、ですか……」

 

 長いと感じたのか、気落ちしたような声音だった。

 同感だった。これほどの才能、半年も遊ばせるのはもったいない。

 

「この後、一緒に来れないか? お館様に君のことを紹介したい」

「それは当然、日を跨ぎますよね?」

「そうだな、一週間は見てほしい」

「さすがに無理です。何も言わずにいなくなれば家族に心配されます。それにそろそろ帰らなくては」

「わかった、では後日自宅に伺わせてくれ。詳細な住所を教えてくれないか?」

「わかりました、住所は――」

 

 急いで懐からメモ帳と鉛筆を取り出し、少女のいう言葉をメモする。

 道順まで詳しく教えてもらった。これだけ情報があれば何とかなるだろう。

 

「では、そろそろ帰ります。お大事にしてください」

「ああ。本当に助かった。そうだ、お礼がしたいのだが何か欲しいものはあるか?」

「できれば日輪刀が欲しいです。鬼を見つけても日の出まで足止めするのは大変なので」

「なら、俺のを持っていくといい」

「……いいんですか?」

「ああ、当分は養生だからな。俺が持っているよりきっと役に立つ」

 

 そう言って鞘ごと渡すと、少女は嬉しそうに頭を下げた。

 

「ありがとうございます。……では、もう行きます」

 

 もう一度頭を下げると、少女は天狗のように木々を飛び跳ねて去っていった。

 

「はあ……負けていられないな」

 

 もう疑う気持ちはなかった。

 人間でもあそこまで強くなれるのだと驚きと共に感動した。

 全集中の呼吸を知り、人間でも鬼の身体能力に迫ることができると知った時と同じぐらい、気分が高揚していた。

 

 あれだけの幼さであの強さ、まさに天才というにふさわしい存在なのだろうが、それでも同じ人間だ。

 努力し続ければ、影ぐらいは踏むことができるかもしれない。

 

 鬼を滅ぼす。その目標は、鬼狩りの剣士として成長し、鬼の強さを熟知するにつれて、夢物語のように感じていた。

 今日出会ったのは、希望だ。

 夢を現実にできるかもしれない力を持った少女。

 鳥海 明日藍。

 その名は、山形の記憶にしっかりと刻み込まれた。

 

 

 




機銃鬼。
日露戦争に従軍してトラウマと手足を欠損するという重い障害を負い、帰国した。
障碍者となった彼を故郷は実家は冷遇し、耐えられなくなって家を出た。物乞いをして過ごしていたところで無惨と出会い、鬼になった。

全身からマキシム機関銃を生やして乱射する。弾薬は実質無限。
有刺鉄線を生やして操り、陣地構築したり行動を制限したりする。目玉を作って偵察できたりもする。
毎分500発の7.7ミリ機銃を何本も生やして撃ちまくってくる鬼……つよそう。
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