鬼滅の刃の世界に転生したけど味方に鬼がいませんでした 作:せとり
鬼殺隊士の山形さんとの邂逅から数日後、待ちに待った来客があった。
私服を着た隠の人で、改めて鬼殺隊に勧誘された。
できれば最終選別を待つことなく隊士になりたかったが、年齢もあるし、一度師の下で学んだ方がいいと、育手を紹介されることになった。
無給状態で半年間も家を離れるのは嫌だったが、修行中も少ないながら給料は出すし、結構な額の手付け金を提示されたことで、喜んで承諾した。
やはり鬼殺隊は金満だ。
すぐにでも家を出ることになった。
家族には鬼や鬼殺隊のことを話したが、半信半疑のようだった。
それでも手付けとして渡された現金の魔力は大きく、涙ながらに送り出された。
売られゆく娘に対するような態度だったのがちょっと気になる。何か勘違いされていそうだった。
まあそのうち誤解も解けるだろうと、気にしないことにした。
そして紹介された育手が、原作でもお馴染み、善逸や獪岳の師匠の桑島慈悟郎さんだった。
山形さんの伝手だという。山形さんは桑島さんの弟子だったようだ。
私の呼吸の適正と思われる雷の呼吸を学べるのはラッキーだった。
他の弟子の人とも顔合わせをしたが、獪岳や善逸はいなかった。
年号も明治だし、原作はまだ先のようだ。
桑島さんの下に来て、ようやく本物の雷の呼吸を学ぶことができた。
うろ覚えの知識でやっていた壱の型は、似て非なるものだった。
本物は雷鳴のような踏み込みの音が出るが、私の場合は全くの無音だった。
師匠に見せたところ、私の型の方が負担が少なく、完成度が高いので無理に変える必要はないということだったが、なんだかもやっとする。
霹靂一閃だと思っていたものが霹靂一閃じゃなかった。
新しい型で漆の型と言ってもいいぐらいだそうだが、なんだかしっくりこないので、そのまま霹靂一閃ということにした。
そんなこんなで師匠に弟子入りしてから数日後、もう教えることはないと言われてしまった。
早すぎる免許皆伝だった。
とはいえ師匠から合格を貰ったところで最終選別はまだ先だ。
鍛錬に集中できるようにとお給料も貰っているので、自主練に明け暮れることにした。
某漫画の真似をして1日1万回型稽古を始めてみた。
壱から陸の型までが1セットだ。
最初は型を確認する意味も込めてゆっくりやって10時間以上かかったが、徐々に早くしていき、全力でやるようになった頃には1時間を切っていた。
それだけでは鍛錬にならないと思い、回数を増やして10万回にした。
全力で肉体を追い込んでいるのに息一つ上がらないのだから、この体はチートすぎた。
一度、自分の限界を知ろうと、飲まず食わずで全力の型稽古をぶっ通しでやってみた。
結果、2日目にしてやや疲労を感じ始めて、3日目で喉の渇き、空腹を覚え、5日目で少しふらふらしてきて、体のキレが悪くなってきたところで、師匠に止められてそれ以上は検証できなかった。
実戦と練習は違うが、まあ実戦では消耗が倍になると仮定して、半分ぐらいは見てもいいだろう。実戦でも2日間連続戦闘ぐらいはできるはずだ。
休むことも修行のうちだと説教されたので、休憩のついでに瞑想を始めた。
自然と一体になってみたり、街中で透かして見て人の動きを観察して予測してみたり。
すると、だんだんと神経が透かして見えるようになってきた。
脳が命令を出し、脊髄を伝わり手足に伝達される信号がまるで光のように見えた。
筋肉や骨を観察するよりも、より素早い反応が可能になった。
極めれば思考を読むことすら可能そうだったが、まだそこまでの域には至っていない。
というか至れそうにない。
脳のどこの部位が活性化しているとかが分かっても、脳に関する知識がないので、具体的に脳のどの機能が向上しているのかが分からない。
透き通る世界を活かすために、医学の勉強とかして見たかったが、本が難解すぎて挫折した。
勉強するための勉強が必要なレベル。基礎の基礎からして足りていない感じだった。勉強するために外国語の学習が必要っておかしくないか?
少なくとも独学で何とかなりそうな気配は欠片も感じなかった。
思えば家の手伝いばかりで、こんなにまとまった鍛錬の時間が取れたのは初めてだった。
肉体や技量の上達を感じた。
兄弟子たちは自分のことをすでに剣の道を極めた天才のように思っているようだけど、そんなことはない。
おそらく自分以上の才能を持っていた縁壱さんなら、この程度はとっくの昔にたどった道のはずだ。
極めたなんて烏滸がましい。まだ成長の余地はいくらでもある。
努力をやめなければ限界はない。
目指すは縁壱だった。
目標は果てしないが、研鑽を続ければ、いつか届くこともあるかもしれない。
そんなこんなで半年が過ぎて、ようやく最終選別に参加した。
鬼を全滅させるつもりはなかったが、暇だし歩いていると鬼が目につくので、倒していたらほぼ全滅のような形になった。
手鬼だけは見逃した。
かなりの人数が生き残って合格した。
日輪刀を支給されて握ると、当然というべきか、黄色の刃文が現れた。
自分の適正は雷の呼吸で正解だった。
初めて言い渡された任務は鬼の捕獲だった。
見つけた鬼が弱かった場合は殺さずに捕縛して、藤襲山に連れてこいと。
首を斬って終わりじゃない分、中々面倒な仕事だった。
出身地を配慮されたのか、任務地は東北だった。
おかげで実家にちょくちょく顔を出し、直接仕送りを渡すことができた。
私の収入で羽振りが良くなって、段々と生活水準が上がっているのが見れて嬉しかった。
給料を上げるために昇格を急いだ。
任務が言い渡されるなり任地に駆け付け、血眼になって鬼を探して、鬼狩りに励んだ。
意外と鬼はそんなにいないのか、1週間に1体見つけられればいい方だった。
1年ほどかけて徐々に階級を上げていき、下弦1体を含む鬼50体の討伐に成功し、柱への昇格が決まった。
やったー。
……無一郎は2か月で柱だっけ?
1年もかかるとかどういうこと? 実は才能ないのでは?
密かに落ち込んだ。
柱合会議に参加することになった。
隠の人にリレー形式で運んでもらい、鬼殺隊の本拠地、産屋敷亭に到着した。
耳栓と目隠しをされていたけど普通に周囲の様子が把握できていたことは黙っておこう。
「こちらです」
あまねさんに案内されて部屋の前にやってきた。
もう大体揃っているようだった。襖越しに、柱と思われる複数の強者の気配が感じられた。
旅館の女将のような美しい所作で、あまねさんは襖を開けた。
「失礼します。鳥海明日藍様をお連れしました」
「案内ありがとう、あまね。明日藍も遠路遥々ご苦労だったね。さあ、入っておくれ」
笑顔で出迎えてくれるお館様。
知っていた通り、非常に安心できる声だった。
あまねさんを見た時も思ったが、お館様も若かった。
13~14歳ぐらいか。病の進行もなく、今のところ健康そうに見えた。
とりあえず部屋に入るもその後はどうしていいのか分からず立ち尽くしていると、お屋形様がおいでと手招きしてきた。
「彼女が新しい柱、鳴柱となる鳥海明日藍だ。皆仲良くしてあげてほしい」
お館様の言葉に対して、居並ぶ柱たちからは、驚きや戸惑いの気配が感じられた。
柱たちは、原作では見たことない人ばかりだ。
原作では最古参の柱である岩柱こと悲鳴嶼さんの姿が見えなかった。どうやらまだ柱になっていないようだ。
柱は4人しかいない。これで全員なのだろうか? だとしたら定員を大きく割っていた。
「恐れながら、お館様。柱となるには彼女は少し、幼すぎませんか?」
見た目でほぼ間違いなく炎柱と判断できる煉獄さんっぽい人が言った。
「そうだね。けれど実力は確かだ。こう見えて明日藍は1年で鬼を50体以上討伐し、下弦の壱も討伐している。柱となる条件は満たしているよ」
実績を持ちだされると弱いのか、口ごもる推定炎柱。
代わりにこの場の最年長と思われる、壮年の男が口を開く。
「その者からは強者の気配が感じられません。しかしお館様が嘘を言うわけもなく。……空恐ろしいものを感じますな」
「10やそこらで下弦を倒すほどです。尋常な才気の持ち主ではないでしょう」
落ち着いた雰囲気の青年が言った。
「いいねー、将来有望だよ。よろしくね、明日藍ちゃん!」
そう言って笑いかけてくる、紅一点の柱の女性。
なんだかんだで、反対する者はいなさそうだった。
紹介が終わって、空いていた座布団に座って話を聞く。
色んな報告や連絡事項を話し合っていた。
私も任務地を言い渡された。
引き続いて東北と、更に北海道・樺太が加わった地域が担当地となった。
広すぎない? 新人いじめ?
そんなことを思ったが、ここ1年で柱が2人も死んでしまって、人手が足りないらしい。
北国は鬼の出現頻度が低く、更には東北の鬼を私が狩りまくったことでさらに出現頻度が減っていて、恐らく何とかなるとのこと。
柱になるのに1年もかかったのはそれが原因か。
大半の鬼は東国や西国で生まれるらしい。他の地域には流れ者の鬼が大半なのだとか。
確かに無惨ならわざわざ僻地にいったりしなさそう。鳴女の血鬼術で転移すれば済む話だけど、距離に制約があったりするのかもしれない。
事務的な話が終わり、お茶やお菓子が出てきて一息ついて、雑談タイムという感じになった。
――明日藍の首筋の痣は生まれつきかい?
そんなお館様の話の切り出しから始まって、話題は産屋敷家の文献に伝わるという痣や赫刀の話になった。
お館様が話し終えた後、私も知っている限り説明した。
痣は全集中の呼吸の行きつく先で、肉体強化を行うために呼吸を深めていけば、脈拍と体温が上がっていくのでそのうち浮き出てくるはずと。
赫刀は、刀を思いっきり握って体温と圧力で刃を赤く染めて、日輪刀の潜在能力を引き出している? 鬼に対して効果覿面で、再生能力を阻害するほか、血鬼術の行使も妨害できると。
赫刀を実演して見せると、おお~という歓声と、小さな拍手。
各々が刀を抜いて思いっきり柄を握ってみるが、誰も赫刀は出せなかった。
「明日藍ちゃん、ちょっと触っていい?」
少し疲れた様子の女性の柱――彩風さんが手をわきわきしながらやってきた。
頷くと、熱を測るときのように髪をかき上げて額に手を添えた。
「熱っ」
驚いたように手を引っ込めて、その後まじまじと見つめられて、体のいろんな場所を触られた。
くすぐったい。
「40度以上は絶対あるわ、これ。もしかしたら50度を超えてるかも……」
「はあ!?」
「すまん、私にも触らせてくれ」
壮年の男――清水さんがそう言って額を触れてきて、結局その場の全員に体温を確かめてもらった。
しかし50度だなんて。大丈夫なのか人体。
実家にいた頃は、湯たんぽ替わりにされても暖かいとは言われても熱いとは言われなかったので、今ほど体温は高くなかったと思う。成長して体温も上がっているのだろうか。
早死にリスクも上がっていそうで少し怖い。
とはいえ自己診断では健康そのものなので、悩ましいところだ。
「こんなに熱があるのに顔色一つ変わらないなんて」
「……凄まじいな」
どれだけの握力が必要なんだという話になって、庭先で披露することになった。
手入れの行き届いた綺麗な庭で、その辺にゴミとか落ちてないので、握りつぶせる手頃なものが見当たらない。
仕方ないのでしょっぱなから石を握ってみることにした。
漫画とかだと石を握りつぶして粉々にしているシーンとかあるけど、そんなこと自分にできるとは思えない。
とりあえずやってみて、できませんでしたって人間アピールしておこう。
「ふんっ」
力を込めて握った瞬間、手の中の石は砕け散った。
手を開くと、粉々になった石が手のひらから零れ落ちていった。
あれ?
柱たちの様子を見ると、唖然とするか、顔が引きつっていた。
ドン引きされていた。
唯一お館様だけは満面の笑顔で喜んでいた。
「すごい! すごいよ明日藍! まさか石を握り潰すなんて」
興奮しすぎて咳き込むほどだった。
思わぬはしゃぎように面を食らう。他の柱の面々も普段らしからぬお館様の様子に驚いているようだ。
「まるで始まりの剣士みたいだ。他にできることはないかい?」
そう言われたので、透き通る世界のことについて話してみる。
無駄な動きや思考を削ぎ落し、無我の境地に近づいていくことで、徐々に世界が透き通って見えてくると。
柱の人たちと手合わせすることになった。
始まりの合図と共に霹靂一閃で首筋に木刀を添える。反応できる者はいなかった。
それでは学べるものがないので、手解きする形になった。
さすがは柱たちで、動きは精錬されていて、指摘できる粗はあまりなく、修正も早かった。
わずかな時間でも、どんどん技量が上達していった。
柱たちとも打ち解けて、定期的な稽古をせがまれるようになった。お館様からもお願いされる。
あの、任地は東北以北なんですが。ハードワーク過ぎませんか?
常人なら過労死待ったなし。
まあこの身体なら問題なくできそうではあったので、承諾した。
テンションが高いお館様。
まだ若くて老成してない。縁壱の再来だーってはしゃいでいる。
オリ柱たち。
ここしか出てこないので覚えなくていいです。
50度越えの体温。
タンパク質はそのぐらいの温度で変質するらしいですが、縁壱さんなら平然としてそう。むしろ素手でお湯を沸かしたりできそう(偏見)
石を砕く握力。
縁壱さんなら鋼鉄のインゴットを粘土と言って渡しても普通に遊んでいそう。