鬼滅の刃の世界に転生したけど味方に鬼がいませんでした   作:せとり

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4.実家とスタンス

 柱としての任務がひと段落ついて、久しぶりに実家に帰ってきた。

 任地は広大で、予想通り大変だった。

 特に海に隔てられているのが面倒で、いちいち船に乗るのが煩わしかったので走り出してみたら、普通に水の上を渡れた。

 そうなると、むしろ山や障害物が多い陸路よりも、海路の方が走りやすくて近いこともあった。

 東奔西走駆け巡り、鬼を討伐して回っていると、潜伏していた鬼を大半は滅殺したのか、任務の頻度も落ち着いてきた。

 赴任した直後は、同時に複数の案件(しかも位置はばらばら)を抱えていたりとデスマーチ状態だったのが懐かしい。

 

 実家に着くと、そこにはかつての茅葺小屋とは比べ物にならないほど立派な屋敷があった。

 柱になったことで、お館様が金や人やらを手配してくれて家を建て直してくれたのだ。

 かつての家も一応はまだ残っていて、今は倉庫として使われている。

 

「あ! 姉ちゃんだ!」

「おかえりー!」

「わー!」

 

 庭で遊んでいた弟たちが私に気づいて駆けよってくる。

 視線は私が背負う荷物に釘付けだった。

 

「ただいま。皆いい子にしてたか?」

「うん!」

「だからお土産ちょーだい!」

 

 飛びついてくる妹を抱きとめて、持ちあげる。

 

「それを判断するのは母さんかなー」

「えー、けち!」

「今はこれで我慢してね」

 

 ドロップとキャラメルの入った小包をそれぞれに渡す。

 サクマドロップと森永ミルクキャラメルだ。この時代からあったんだと見つけた時は感心した。

 割といい値段がするけど、今の自分からしたらはした金だ。

 

「わーい」

「おいしー」

「ありがとう!」

「虫歯にならないようにちゃんと歯を磨くんだぞ」

「はーい」

 

 口の中を透かして見ても虫歯はないようなので、みんな言いつけは守っているようだ。

 感心感心。

 子供たちを引き連れて、玄関を開ける。

 

「おかえり、明日藍」

「ただいま、母さん」

 

 これだけ騒いでいたからか、母さんが玄関で出迎えてくれた。

 新築の木の香りがする。

 この家で寝泊まりした回数は少ないが、家族に囲まれていると実家に帰ってきたという感じがする。

 

「今回は長くいられるの?」

「いや、明後日には出るよ」

「相変わらず大変ね、体は平気? 怪我したりしてない?」

「大丈夫。ぴんぴんしてるよ」

 

 そう言って笑いかけると、複雑そうな表情をして抱きしめられる。

 最近は背が伸びてきて、いい物を食べているからか同世代と比べて発育が良かった。

 この時代の女性らしい小柄な母とは殆ど身長が変わらない。

 

「いつも頑張ってくれてありがとうね」

「うん」

「こんな贅沢な暮らしができるなんて、母さん考えもしなかった」

「うん」

「でも、辛かったらやめていいんだからね。無理して稼ぐ必要なんかないからね?」

「うん、大丈夫。無理なんかしてないよ」

 

 鬼狩りのことは信じてもらえたのだが、鬼殺隊士の殉死率の高さを知られてしまってからはこうして心配されるようになってしまった。

 私が柱と呼ばれる凄腕の剣士というのは知っているのだが、性別や見た目といった要素がバイアスになっていまいち強さを信用されていないようだった。

 心配されるのは嬉しいが、あまり心配をかけるのは心苦しかった。

 

 

 

 夕飯は豪華だった。

 白米のご飯をたっぷり炊いて、私が一狩りしてきた鹿肉の鍋だ。

 食べきれない肉をおすそ分けして隣人たちに食材を分けてもらって、野菜や、海や山の幸もたっぷりだ。

 最近は食事のレベルも上がっているとはいえ、滅多に見ない豪華さに子供たちははしゃいでいた。

 

「それでどうだ? 最近の仕事っぷりは」

 

 鹿肉をおかずに米をかきこみながら、父が聞いてくる。

 

「元々いた鬼は大体殺しつくしたみたいで、仕事量は落ち着いてきたよ」

「そうなのか? それにしては中々帰ってこれないみたいだが」

「人に稽古もつけないとだし、自分も鍛錬したいしで、平和なら平和でやることが沢山あるんだよ」

「なるほどなぁ」

 

 大きくうなずく父。

 

「だったらもう少し休んで行ってもいいんじゃないの?」

 

 母が言った。

 無理という言葉をどう伝えようか迷っていると、先に父が口を開いた。

 

「お前なぁ、明日藍のやっていることはすごいことなんだぞ。親なら応援してやったらどうだ」

「でも危ないわ。この前だって山形さんが死んでしまったじゃない。明日藍だっていつ死んでしまうかわからないのよ?」

「それでもな、やれる奴がやらなきゃいけない仕事ってのはあるもんだ。その仕事に詳しくない奴がそう口出しするもんじゃない」

「でも……」

 

 口論が始まりそうだったので、強引に話題を変える。

 

「そういえば父さん、発電所を作るとか道を引くとかいった村おこしの話はどうなってるの?」

「ああ、村長たちと話してみたら結構乗り気だったぞ。ただその方面に詳しい人がいないもんで、具体的な話は進んでないが」

「詳しい人は見つかりそう?」

「みんな色々声をかけてくれているみたいだから、そのうち見つかるだろう」

「そっかー」

 

 家ばかりが豊かになっても周りに妬まれそうなので、村に金を落とすために村おこしを考えていた。

 といっても私は金を出すだけで、実行は父やその他の名士たちに任せているのだが。

 父が積極的に動いてくれるお陰で、家にも名士としての風格が出てきたと思う。

 正直、学のない両親に仕送りして使い込んだりしないかななんて考えていたけど、とんだ失礼な考えだった。

 学は無くても考える頭がないわけではない。立派な人は立派だった。

 家のことは父に任せておけば大丈夫だろう。

 

 

 二泊した翌朝、皆に見送られて家を出た。

 いい羽休めになった。

 仕事を頑張ろうというモチベーションが回復した。

 

 

 

 

 原作に対するスタンスは、『基本は原作順守。あとは流れに身を任せる』だった。

 原作通りの流れ――特に無惨が鬼殺隊の本拠地にのこのこやってくるところなんか、千載一遇の大チャンスだ。

 あの場に私がいたら、かなり有利に事を運べるだろう。

 それ以降の犠牲を出さずに無惨を倒すことだってできるかもしれない。

 

 原作は追っていたし、覚えている限りの原作知識は覚書して本にまとめていたが、それでも抜けているところは沢山あり、下手に手を出したらその後にどう影響してくるか、まるで予想ができなかった。

 なので、原作にはノータッチでいく。

 心苦しいが、死ぬのが分かっている人たちを助けようとはしない。

 必要な犠牲ということで、死んでもらう。

 

 とはいえ職務上、現場に居合わせたら助けないわけにはいかない。だが任務地が原作の主な舞台であった東京から遠く離れた僻地なので、原作に居合わせることはほぼないだろう。

 数多の犠牲の上に成り立つチャンスは、絶対にものにする必要があった。

 無惨を倒すための鍛錬は、日々欠かさずに行っていた。

 

 鬼をこの世から消し去った後の鬼殺隊がどうなるのか、たまに考えることがある。

 まあ、鬼狩りという非生産的な組織を1000年にわたって維持し続けてきた産屋敷一族なら、鬼殺隊という不良債権がなくなれば国政を左右するような大財閥になることだって夢ではないだろう。

 あまり平和とは言えない時代だし、全集中の呼吸を修めた超人的な剣士たちは引く手数多のはずだ。

 いわんや柱ともなれば、将来も安泰と考えて間違いないだろう。

 

 原作の開始時期を知るために、元師匠である桑島さんとは文通したり、たまに顔を出したりと交流を続けていた。

 善逸も獪岳の姿もまだ見えない。

 

 悲鳴嶼さんはだいぶ前に柱になったし、煉獄パパさんはやめていったし、宇随さんやカナエさんも柱になった。

 そろそろだと思うんだけどな。

 

 ここ数年で、柱の顔触れはかなり変わった。

 煉獄パパさんみたいに引退した人もいれば、恐らく上弦の鬼に遭遇したのだろう、帰らぬ者となった人もいる。

 定期的な稽古で柱の戦力を底上げして、透き通る世界に至った者がいたし、早死にしようが関係ないと痣を出して赫刀に至った者もいた。それでも死んでしまったあたり、上弦の鬼の壁の高さが感じられる。

 柱の戦力を上げたことで、原作が変わるんじゃないかと思ったが、原作通りになりそうだった。

 複雑な心境だ。

 

 原作で鬼殺隊最強を張っていた悲鳴嶼さんの才能は今まで見た中で一番高かった。

 肉体のポテンシャルは見ただけで分かる。あんな巨漢のマッチョが弱いわけがない。

 ちょっと指導しただけで透き通る世界を体得したし、鍛錬の末に痣なしで赫刀を出すことにも成功した。その気になれば痣も出せるだろう。

 上弦と遭遇しても返り討ちにできそうなくらいだった。

 宇随さんやカナエさんも才能豊かだが、悲鳴嶼さんには敵わない。

 二人もその気になれば痣を出せそうだけど、童磨を単独で返り討ちにできるほどの力はないだろう。

 ここでも原作は守られそうだった。

 カナエさんとは歳も近く、同性ということで何かと話しかけてくれる。

 屈託のない笑顔をカナエさんは私に向けてくれるが、後ろめたくて直視できなかった。

 

 原作順守。

 そのスタンスを決めた頃は、人の命を切り捨てるということを、どこか軽く考えていた。

 見知った人が死んでいく。中には親しくしていた人もいた。

 私が全力を出していれば助かった命かもしれない。でも原作通りに進めると決めたから、手を抜いている。

 原作知識を活用すれば、上弦をいくつか欠けさせることができるかもしれない。

 万世極楽教の上弦の弐と、吉原の上弦の陸。所在がつかめそうな鬼が2体もいる。

 無惨だって、浅草や東京を張っていれば見つけることができたかもしれない。

 珠世さんらと接触できれば、薬の開発を早めることもできたかもしれない。

 炭治郎の生家を見つけ出して待ち伏せすれば、無惨と遭遇することができるかもしれない。

 

 あえて見殺しにせずとも、やれることは沢山あっただろう。

 仕方のないことではない。それしか考えつかなかった、私の無能が全ての原因だ。

 私の意図的な怠慢のせいで、大勢の人が犠牲になっている。心が苦しかった。

 

 私にできることは、お膳立てされた状況で無惨を仕損じないために己を鍛えることだけ。

 そう思っても、もっと他にやれることがあるのではないかと考えてしまう。

 原作知識があって、縁壱のような力を貰って、できることと言えば無限城の最終決戦での犠牲を減らすことだけ? 自分の無能さに反吐がでそうだった。

 

 せめてお館様ぐらいには原作知識を話して相談するべきかもしれない。

 それができないのが私の弱さだった。

 失望されるのが怖かった。

 どうして今さら。なぜ今まで黙っていた。もっと何かできることはなかったのか?

 お館様なら絶対に言わないだろう。でも心のどこかでそう考えるかもしれないと思うと話す気になれなかった。

 話してどうなるという思いもある。

 自分の記憶だけが根拠の曖昧な未来知識。

 信じてもらえたとしても、そんなもので人を動かして、もし間違えればそれは私の責任だ。

 人の命に、責任なんて持てない。恐ろしい。怖くて仕方がない。

 

 傍観者を気取り、自分の力だけで片付けようとしたのは、無意識のうちに責任を避けていたからだろう。

 

 自分って嫌な奴だったんだなと、最近になって大いに自覚した。

 無能で優柔不断で、臆病で利己的で責任を嫌う。自分でも嫌いな要素が満載しているのが私だった。

 多分、鬼殺隊で性格が悪い奴1位は私なんじゃないだろうか。

 

 無惨を倒せるなら命を惜しまない者が大勢いる中で、私は無惨を倒した後ものうのうと生き残るつもりでいる。

 本当に最低だった。

 

 




お館様に相談。
それをすると話が終わってしまうので、主人公のメンタルを弱くしてバランスをとりました。
未来余地染みた勘を持つ人が未来知識を得て武力チートを運用したら、無惨討伐RTAが始まっちゃう。

主人公の性格。
根は真面目で、責任感が強く、努力家で完璧主義。
だけどメンタルが弱く、失敗を恐れ、他人の期待を裏切ることや、責任を負うことを嫌う。
上手くいってる時は自信に満ちているんだけど、失敗すると自信を失って中々立ち直れない。そんな感じです。

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