鬼滅の刃の世界に転生したけど味方に鬼がいませんでした   作:せとり

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5.味方の鬼

 元号が大正に変わると、柱の顔触れも殆ど原作と同じになってきた。

 あとは甘露寺さんと無一郎君が上がってくれば原作の柱が揃うことになる。

 この冬か来年の冬ぐらいには炭治郎一家が無惨に襲撃されるのだろうか。

 原作開始は間近だった。

 

 私も15歳になった。

 180cmには届かなかったが、かなり身長が伸びた。

 戦う者として体が大きくて手足が長いのは有利だった。

 ただ胸が育ってしまったのは頂けない。単純にデッドウェイトだった。

 

 カナエさんは死んだ。

 最期を看取ったしのぶさんの話によれば、痣を浮かび上がらせて、最後まで勇敢に戦ったという。

 私には真似できない。

 敵わないと思った瞬間、私なら逃げている。

 今まで逃げずに済んでいるのは、単に天から授かった才能があるだけだ。

 精神性はきっとそこらの一般人と変わらない。戦士の心持ではない。

 鬼殺隊一の臆病者だ。

 鬼殺隊最強なんて言葉、私にはふさわしくない。

 

 実家に帰ると安心する。

 年々豊かになっていく村の景色は、原作にはなかったもので、自分が齎した良い影響だと胸を張って言える。

 

 だからと言って罪が消えるわけではない。

 家族と共に過ごす時間は幸せで、だから帰省は最低限にした。

 遊んでいる暇があったら働けと、私の中の良心が囁くのだ。

 

 罪悪感を誤魔化すために、仕事に没頭した。

 忙しくしている間は不安を忘れることができた。

 他の隊士の手伝いをしたり、希望者に稽古をつけて回ったりした。

 行く先々で感謝されたり、尊敬されたりするが、そんな賞賛を受ける資格は私にはない。

 否定しても謙遜と取られて、ますます感心されることが多く、次第に否定することもなくなった。

 実力や名声が独り歩きして、虚像だけがどんどん大きくなっていると感じる。

 期待には応えたいという気持ちはある。

 例え虚像だとしても、自分を信じてくれる人に失望されたくなかった。

 

 冨岡さんに稽古をつけた際、それとなく炭治郎のことを聞こうと任務の話を訪ねると、最近こなした任務の話をしてくれた。

 その中には一家が全滅して、鬼の襲撃に居合わせずに助かった少年を保護して育手を紹介したという話があった。

 名前を聞けば、竈門炭治郎とのこと。

 ついに原作が始まった。

 

 禰豆子のことも聞こうとそれとなく探りを入れたら、

 

「? 生き残りは炭治郎だけだ」

 

 そうとぼけられた。

 失礼だが、冨岡さんにも腹芸ができたのかと驚いた。

 ……すっとぼけただけだよね?

 その任務で鬼を斬ったという話はないから、冨岡さんが禰豆子を殺して原作ブレイクということもなさそうだし。

 しかし冨岡さんが腹芸するなんて、いささか信じがたい。

 まさかとは思うが、禰豆子が鬼化できずにそのまま死んでしまったとか?

 ……考えすぎ、だよね?

 最近はどうも鬱っぽいから、嫌な方向にばかり考えがいってしまう。

 そうだ。冨岡さんが腹芸できて何がおかしい。

 鬼を匿うという事の重大さが分かっているからこそ、嘘をついたのだ。

 

 もしかしたら冨岡さんの自分の中のイメージに二次創作の設定が混じっているのかもしれない。

 冨岡さん=ポンコツというイメージがあるが、それは二次創作で誇張されたイメージで、きっと原作ではもう少ししっかりしていたのだろう。

 何分10年以上前の記憶だ。いろいろと混ざっていても仕方がない。

 

 ちょうど任務に呼ばれたので、冨岡さんとはそれで別れた。

 

 あの時もっと、深刻に考えていれば。

 後年、そう後悔することになる出来事だった

 

 

 

 

 善逸から手紙が届いた。

 内容は、最終選別に参加して合格したという報告と、その顛末だ。

 同期のこともちょっと書かれていた。

 可愛い女の子だから目が行ったのか割と詳しく書かれていたカナヲと、お館様のご子孫に乱暴に振る舞って悪い意味で印象に残った玄弥、それを止めた炭治郎と思しき人のことが書かれていた。

 原作は順調そうだ。

 

 いよいよ事態が動き出す。

 春からは忙しくなる。

 柱合会議の前には上京しておきたいから、関東・北陸の鬼狩りを徹底しよう。

 私の担当地域である東北以北はかなり平和になっていた。

 人殺しや行方不明事件があり、鬼の疑いがあればすぐに0.5縁壱ぐらいの私がすっ飛んでいくのだ。鬼からしたらたまったものではないだろう。

 元々鬼の出現が少なかったのもあって、安全地域と呼べるぐらいには安定している。

 

 関東・北陸の鬼狩りに精を出して一時的に鬼の個体数が激減したことから休暇を貰い、浅草に行く。

 春の陽気が増えてきた、三月下旬の頃だった。

 

 出待ちだ。

 炭治郎、珠世さん、愈史郎あたりが狙いだ。

 無惨はレアキャラだけどエンカウントしたら対応に困る。

 人が多い街中での遭遇戦はやばいし、薬のデバフがかかってない状態で仕留めきる自信もない。見逃すのが無難のはず。

 

 夜にこうして街中を眺めていると、たまに人に擬態した鬼が混じっていたりする。

 そういう時は暗殺同然に周囲にも気づかれないように首をはねている。

 鬼の死体は消えるとはいえ完全に消滅するまでにタイムラグがあるので、どうしても目撃者はいて、夜の町を歩いていると突然首が落とされて死体が消える、という怪談話になってしまっていたりする。

 夜の町の恐ろしさを比喩した作り話だと思われているようだけど、まさか本当のことだとは思うまい。

 

 何日も夜明けまで徘徊するが収穫はなく、時間だけが過ぎていった。

 いつものように夜の浅草を徘徊していると、喧嘩だなんだという騒ぎが聞こえてくる。

 そちらへ向かうと、警察が見える中で現場を一目見ようと野次馬が群がっていた。

 人波をかき分けて中心部へ行くと、炭治郎が鬼を押さえていた。

 警察が二人を引きはがし、どちらも取り押さえようとする。

 原作だと珠世さんに二人とも助けられるはずだが……あれ?

 しばらく様子を見る。周囲の気配にも気を配るが、珠世さんや愈史郎らしき気配は一切感じられない。

 おかしい。

 

「ぐおおおお」

「いってえええぇ!」

「うわっ、大丈夫か?!」

「くそ、こいつ狂人か!」

 

 鬼を取り押さえていた警察官が手を噛まれ、肉ごと持っていかれる深い傷を負って流血した。

 鬼の異常さに気づいたのか、暴力を振るってかなり手荒に大人しくさせようとするが、血の匂いに興奮した鬼が落ち着くはずもない。

 

「危ない! くっ、放してください! 俺はその人に人殺しをさせたくないんだ!」

「何言ってやがる! 大人しくしろ!」

「こいつ、刀なんて持ってるぞ?!」

 

 3人がかりで地面に押さえつけられる炭治郎も拘束から逃れようとするが、常中もできない状態では3人は振り払えなかったようだ。帯刀もばれて日輪刀が取り上げられそうになっているし、もう滅茶苦茶だ。

 

 珠世さんが来る気配もないし、自分が場を収める必要があるようだ。

 この鬼は確か、浅草の旦那だったはず。将来無惨を抑え込むのに一役買う血鬼術を持つ。

 殺すのはまずい。だが、見逃すのも立場的にまずい。

 切腹を迫られたらどうしよう。

 わずかな逡巡。

 鬼は殺すことに決めた。

 ここで珠世さんに回収されていない以上、この後に珠世さんに拾われて味方になるとは限らないし、そうなれば自分がやったことはただ見逃しただけ、助けただけになって、単純に失態になる。

 無惨の動きを封じて薬を打ち込む隙を作り出すのだって、代用は可能だろう。替えの利かない存在ではない。

 

 人波を縫って、一瞬で鬼の首を落とす。

 炭治郎を押さえる警察を軽く払い、炭治郎を片手で抱えて回収して、誰にも気づかれずにその場を後にした。

 

「えっ?」

 

 気がついたら私に抱えられていたという感じで目を白黒させていた炭治郎は、驚きの表情で私を見上げた。

 

「あ、あなたは?」

「鬼殺隊、鳴柱、鳥海明日藍」

「柱……?」

「詳しい話はあとで。口を閉じて、舌を噛まないように」

 

 速度を上げて、夜の町をさっそうとパルクールで移動する。

 都心から離れて人気が少なくなったところで炭治郎を下ろす。

 さて、これからどうしよう。

 こうなるとは思っていなかったので、何のプランもない。

 とりあえず、炭治郎に話を聞こう。

 

「それで、君の名前は?」

「た、炭治郎です。竈門炭治郎、階級は癸です!」

「そう、炭治郎。君はいったいあそこで何をしていた? なぜ鬼を斬る素振りがなく、警官に取り押さえられていた?」

「それは……」

 

 炭治郎は言葉に詰まった。しかしすぐにはっとした表情をして口を開いた。

 

「そうだ! 無惨がいたんです! 鬼舞辻無惨が、人のふりをして! あの人は無惨に鬼にされたんです! まだ人も殺してない! だから取り押さえようと……!」

「なるほど」

 

 柱としては、無惨がいたという報告を受けたら絶対に追う場面だよね。

 でも追いたくない。仮に追いつけちゃったらどうするんだ。

 けどここで無惨を追わないのは柱らしくないし……ああもう、今日は何もかもうまくいかない。どうにでもなれだ。

 

「まずは無惨の足取りを追おう。すでに逃げた後かもしれないが、無惨と遭遇する機会など滅多にない」

「はい!」

 

 炭治郎が元気よく返事をした。

 

「俺、鼻が利くんです! 近くにいけばもしかしたら」

「よし、現場に戻ろう」

 

 そして炭治郎を抱えてとんぼ返り。

 くんくん鼻を鳴らす炭治郎に、どうか見つかりませんようにと祈る。

 だが願いむなしく、炭治郎は何かを嗅ぎつけたようだった。

 

「この臭いは……! 鳥海さん! あっちです!」

「はい」

 

 行きたくないと思いつつも、炭治郎が指さす方向に走る。

 その方向に、透き通る世界の視界で見たくないものが見えてしまった。こじゃれた黒いスーツに白のフェルトハット、マイケル・ジャクソンスタイルの無惨だ。

 二体の鬼を召喚して、何やら言いつけた後に、無惨は壁に現れた襖へと消えていった。

 よし、いいぞ。無惨がいなくなった。

 

「放すぞ」

「えっ?」

 

 重かった足が軽くなり、炭治郎を放って手ぶらになって、一気に加速して路地裏へ。

 何もさせることなく、二体の鬼を瞬殺する。

 無惨に監視されているかもしれないので、首を刎ねた後も二人の視界に映らないようにした。

 

 炭治郎が駆けつけてくるころには、鬼は殆ど消滅していた。

 首を斬られて消滅しかかっている2体の鬼を見て、驚きの表情を見せる炭治郎。

 

「鳥海さん!」

「遅かった。無惨には逃げられた」

「臭いを辿ってみます!」

「いや、無駄だ。襖に消えていく無惨の姿が見えた。恐らく空間系の血鬼術だろう」

「そんな……」

 

 怨敵を逃したショックで、がっくりと膝をつく炭治郎。

 こうも落ち込まれると、みすみす逃がした側からするとかける言葉がない。

 無惨にやられたのだろう、近くで転がっていた人間の死体に近づき、供養するように寝かせておいた。

 

「鳥海さん、彼らは……?」

「無惨と遭遇してしまった一般人だろう。運が悪い」

「ひどい……」

 

 鼻のいい炭治郎なら、どろどろに溶けて壁や地面の染みになっている死者の存在も察してしまったのだろう。口元に手をやって悲痛に表情を歪めていた。

 

「行こう。長居は無用だ」

「はい……」

 

 意気消沈した炭治郎を連れて、路地裏を後にした。

 

 

 

 

 うどんの代金を払っていないことに気がついた炭治郎に付き合って、うどんの屋台にやってきた。

 怒る店主に平謝りする炭治郎の姿を、私は呆然と見つめていた。

 禰豆子がいなかった。箱もない。

 それを炭治郎は気にする様子もなかった。

 初めから存在しないのだろう。

 

 どういうことだ?

 禰豆子がいない?

 そんな馬鹿な話があるか?

 禰豆子がいないなんて、物語の根幹が崩れてしまう。

 

 いや、早合点するな。鱗滝さんの下に預けているとか、そういう可能性がある。

 とにかく炭治郎に話を聞こう。

 

「ごめんなさい、これで許してあげてください」

「えっ、十円券?!」

「迷惑料です。それと二人分のうどんを貰えますか?」

「へ、へい!」

 

 やはりお金の力は偉大だ。金があれば大抵のことは解決してくれる。

 屋台の前でうどんを待ちながら、炭治郎と話し始める。

 

「それで炭治郎、君は鬼を取り押さえようとしたと言っていたね? それはいったいどうして?」

「鬼にも良い鬼と悪い鬼がいると思うんです。あの人はまだ鬼になったばかりで、手遅れじゃなかった。だから助けようとしたんです」

「鬼を見逃すのは隊律違反と理解しているか?」

「……はい」

「そのことで罰するつもりはない。別に被害も……なくはなかったか。警察の人が腕を噛まれてた」

「あ……」

「まあ済んだことだ。死人も出なかったし減給ぐらいで済むだろう」

「はい……」

 

 炭治郎は自分の判断が元で人に怪我をさせてしまったことを悔やんでいるようだった。

 

「炭治郎はどうして鬼殺隊に? 復讐? 金? それとも何か別の理由が?」

「復讐です。俺の家族を皆殺しにした鬼舞辻無惨、あいつだけは許せない……!」

「……皆殺し?」

 

 嫌な表現だ。

 禰豆子の話もでてこないし、まさか本当に……?

 

「俺の家は山奥で暮らす、代々の炭焼きだったんです。あの日は麓の村に炭を売りに行って、夜も遅いからと泊めてもらって、翌日帰ったら、みんなが……!」

 

 その時のことを思い出したのか、怒気を纏って拳をぎゅっと握る炭治郎。

 

「生き残りは、いなかったのか」

「はい……。母さんも、竹雄も、花子も、茂も、六太も、皆……」

「そうか……」

 

 あれ? 禰豆子は?

 

「男の子が3人に、女の子が1人だったのかな? それだけ男が多いと元気いっぱいで、長男は大変だったろう」

「はい……」

 

 在りし日を思い出したのか、炭治郎は涙ぐんだ。

 

「本当は、六人兄弟だったんです。禰豆子っていう妹がいたんですが、幼い頃に風邪をこじらせて……」

 

 !?

 ね、禰豆子さーん?!

 幼少期に死んだとか、そんな馬鹿な。嘘だろう。

 

「そうか、辛かったね。よく頑張った。打倒無惨を目指して、これからも一緒に頑張ろう」

「はい!」

 

 それからのことはよく覚えていない。

 足元がガラガラと音を立てて崩れていくような感覚だった。

 気がついたら炭治郎と別れ、日は明けていて、眠っていた町が活気づき始めていた。

 

「禰豆子が……いない?」

 

 それも幼少期に死んでいたなんて。

 炭治郎一家を探していれば、簡単に気づけたことだった。

 

「うっ」

 

 胃液が喉にせりあがってきた。吐きそうだ。息が荒い。胸が苦しい。

 涙が出そうだった。

 この世から消えてなくなりたい。

 道端でうずくまる。

 

 アホすぎる。

 禰豆子がいない? 何年も前に病で死んだ?

 なぜ私は気づけなかった? 原作のキーマンだぞ。無惨をおびき寄せる最大の餌だったのに。

 原作は崩壊してしまった。

 とっくの昔に既に崩壊していた原作を守るために、私はどれだけの人を見捨ててきた?

 無能、ゴミカス、死んでしまえ。

 

 無惨を笑えない無能っぷりだ。

 頭無惨という言葉が相応しい。

 

「どうしましたか、大丈夫ですか?」

 

 優し気な女性の声と共に、背中を撫でられる。

 一瞬、カナエさんの姿を幻視した。

 もちろんそれはただの幻覚で、見知らぬ親切な若い女の人だった。

 

「はい……すいません、平気です」

「そうは見えませんけど……ちょっと休んで行かれませんか? 私の家はそこなんです」

「ありがとうございます、でも大丈夫です」

「あっ」

 

 ふらふらと立ち上がり、逃げるようにその場を去った。

 

 ぐるぐる町を徘徊して、気がつけば夜だった。

 

 そうだ、珠世さんだ。

 無惨を弱体化させる薬を開発する上で欠かせない、もう一人のキーパーソン。

 原作とずれて、昨日は遭遇できなかった。

 嫌な予感がした。

 

 その日から、私は東京の町を珠世さんと愈史郎を探して歩き回った。

 鎹烏から任務を告げられるまでの1週間、ひたすら探した。

 しかし見つけることはできなかった。

 

 まさか、珠世さんまでいないだなんて。

 そんなことはないよな?

 

 




0.5縁壱。
自己評価。本当のところはわからない。

光の炭治郎。
家族は皆殺しにされて禰豆子もいないのに、原作と似たメンタルをしている。
闇落ちして復讐の鬼になるパターンも考えたけど、ちょっと想像できなかった。



とりあえず折り返し地点(多分)、タイトルの意味回収です。
縁壱みたいな奴が鬼殺隊に入ったのに鬼側に一切テコ入れなしだとバランスが悪いので、味方に弱体化してもらいました。

それぞれこんな感じです。
珠世:ポップコーンする前に、追い詰められた無惨を見て「死ね無惨!」とか言っちゃってぎりぎり呪いが外れていなくて死亡。
愈史郎:人間のまま病死。
禰豆子:幼少期に風邪をこじらせて死亡。
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