鬼滅の刃の世界に転生したけど味方に鬼がいませんでした 作:せとり
任務は北海道の沿岸に湧いた鬼だった。
魚人みたいななりで海に潜む珍しいタイプの鬼で、行動範囲が広く、捕捉するのが大変だった。
正直、見つけられたのは運がいいだけだ。
ひたすら北海道の近海を巡回していたら、都合よく海の中を泳いでいた鬼と遭遇して、素潜りして仕留めただけだ。
任務を告げられてからかなり時間がかかっていたし、その間に犠牲者も出ていた。
頭のいい人ならもっと素早く、スマートに解決できただろう。
こんな調子で今までどれだけの時間を無駄にして、助けられる人を助けることができなかったのだろう。
つくづく自分が嫌になる。
「カァ~カァ~、任務~! 任務~! 南へ迎エ~!」
日課の鍛錬をしながら鬱憤を発散していると、私に付けられた鎹烏が任務を告げた。
心臓がドキッとした。
心がこれ以上無能を晒すのを嫌がっている。
でも、やらなければいけないことだった。
体が重く感じる。こんなことは生まれて初めてだった。
明くる月、柱合会議に参加するため、産屋敷亭に向かった。
禰豆子はいないので、当たり前であるが、炭治郎の裁判はない。
いつも通りの報告や雑談をして、柱たちに稽古をつける。
年々雑談の時間が短くなっている気がする。
いや、気のせいではない。今日なんてお茶を一口飲んだだけだ。お菓子には触れてすらいない。
しかも終わった頃にはなぜかなくなっている。蜜璃さんが食べているのだ。おいしそうに食べるので注意もしづらい。
近年の柱には、手合わせを願うせっかちな者が多かった。
強さに貪欲なのは良いことだ。
やはり原作の柱は才能が豊富で、半数近くが透き通る世界に入門しているなど、戦力向上が著しかった。
残念ながら痣を出さずに自力で赫刀を出せるのは悲鳴嶼さんだけだったが、いざとなれば全員痣を出せるだろうし、痣を出せば大半は赫刀もできるだろう。
柱合会議での稽古の場合、普段の個人稽古とは違って、全員に一斉にかかってきてもらって、9対1の集団戦を行う。
同時にそれぞれと手合わせできるし、連携の訓練もできる。一石二鳥だった。
皆全力で動いているので、日が傾き始めると徐々に疲れが見え始める。
昼から始まった稽古は、夕方頃にはお開きとなるのが常だった。
息を荒げ、汗だくになって死屍累々といった様相で庭に転がったり、片膝立ちになっている柱たちの中心で、私は木刀を片手に空を仰いだ。
「そろそろお開きにしよう」
「ああ?! ぜえ、まだ……ぜえ、やれるぜ……!」
実弥が息も絶え絶えになって立ち上がり、得物を構える。
「ふう、俺もだ。もう一本お願いする」
「はあ、負けていられん! 鳴柱! はあ、もう一本お願いする!」
「……」
悲鳴嶼さん、煉獄さんも立ち上がって構えを取り、富岡さんもふらふら立ち上がって無言で構える。
彼らの持つ武器は全て、木刀ではなく実戦で使う真剣だった。
訓練用の武器では再現できない特性を持った日輪刀を持つ人が珍しくなく、真剣ではないと練習にならないからだ。
最初は鍛錬に真剣を用いるのに戸惑うが、そのうち慣れてくれば本気で殺す気で打ち込んできてくれる。それでこそ練習になるというものだ。
最近は稽古の終わりも遅くなっていた。
今起きられない人も次は立ち上がってもう一本と言ってきたりして、後一本が延々と続いて完全に日が暮れることが続いていた。
その場合はあまねさんが食事に呼んでくれるので、それが終了の合図みたいになっていた。
今日も予想通り、もうすぐ食事の用意ができるとあまねさんが呼びに来るまで、稽古は続くことになった。
食事の前に汗を流してくださいと、お風呂場に案内される。
その場にいるのは女性陣だけだ。
しのぶさんと蜜璃さん、そして私。
お館様の屋敷にはそれなりに大きなお風呂があるが、一つしかないので、男女は同時に入れない。
そのため男性陣は遠慮して井戸の水浴びで済ませてしまい、温かいお風呂は女性陣に譲ってくれるのだ。
もはや今の性別に馴染んでいるが、女性と一緒に入るのは気恥ずかしいものがある。
汗をかいていないとはいえ、あれだけ運動して皆汗だくになって体を洗っているというのに、自分だけ身を清めないのは汚いように思えた。
かといって男性陣の水浴びに混ざるわけにもいかず、女性陣と裸の付き合いをすることになるのだった。
極力周りを見ないようにしながらお湯を浴びて、髪と体を石鹸で洗う。
余り手入れをしてないくせに艶やかな髪は、肩を超えて背中辺りまで伸びていた。そろそろ切らなければ。
本当はバッサリいきたいところだが、この時代に妙齢の女の人の髪が短いと異様な目で見られるので、あまり切れなかった。一度やってしまい、母に怒られたことがある。
以来、髪を切るのは母に任せることになっていた。そしてそれが帰省のタイミングでもある。
泡と汚れを流して、湯船に浸かる。
お湯に浮かぶ胸を見て、少しだけ眉をひそめる。この部分は本当にいらん成長をしてくれたものだ。
しのぶさんが斜め向かいで浸かり、蜜璃さんは隣にやってきた。
3人なら結構な余裕をもって浸かれる湯船なのに、蜜璃さんはなぜか必ずどちらかに密着する。距離が近い。
湯船に浸かっている暇を紛らわすために、ぽつぽつと雑談が始まる。
こういう場面で饒舌なのは蜜璃さんだった。
とりとめもないことでも楽しそうに話し、相槌を打っているだけでもずっと話が続きそうだった。
「どうも鳥海さんは元気がないですね? なにかありましたか?」
いつもの微笑みを浮かべながら、しのぶさんが聞いてくる。
その微笑みが最愛の姉を失ったことに起因するものだと知っているから、直視できなかった。
俯くと、深い谷間が目に入った。
「わかりますか?」
「まあ、なんとなく。いつにもまして静かだなーと」
「そっか……」
「なんだかわからないけど元気だして、明日藍ちゃん! 悩みごとがあるなら何でも相談に乗るよ!」
ふんすと両手でガッツポーズして身を乗り出す蜜璃さん。
全ての不安を吐き出してしまいたい気持ちにかられるが、こらえる。
彼らの前では、私は鬼殺隊最強の柱だった。弱いところは見せたくない。
適当に誤魔化そう。
「大したことじゃないよ」
「えー、話してくれないんですか」
「明日藍ちゃん、私たちってそんなに頼りないかな?」
蜜璃さんは悲しげな表情で、しのぶさんもどこか寂し気な雰囲気だった。
あれ? これってそんな顔されるような話題なの?
どうにか場の空気を和らげるべく、茶化せるような言葉を探す。
蜜璃さんを見て、ふと思いつく。
「本当に大したことじゃないです。その……婚期が気になって?」
「はっ?」
「きゃーーー!」
予想通り、蜜璃さんが食いついた。
「明日藍ちゃんもついに色を知ったのね! 誰? 気になる人は誰なのー?!」
きゃーきゃー言ってはしゃぐ蜜璃さん。
予想通りとはいえ、ちょっとそのテンションにはついていけないかもしれない。
誤魔化し方を間違えたかも。
「気になる人とかはいないけど、私たちもそろそろ結婚しててもいい歳だよなーと」
「そうだよねーそうだよねー! 早く相手を見つけたいよね! うんうん!」
やばい。蜜璃さんのテンションがアゲアゲだ。
その後も男の好みだとか結婚後の生活だとか答えづらいことをマシンガンのように聞いてくる。
この調子だと、翌日には答えたことが言いふらされて、鬼殺隊の女性陣に知れ渡っていそうな勢いだった。
やばい、誰か助けてくれ。
しのぶさん!
期待の籠ったまなざしをしのぶさんに向ける。
「鳥海さんって一番年下ですよね? 実は喧嘩売ってます?」
あ、あれ? おかしいな。どっかで地雷を踏んだみたいだ。なんだか怒気が見えるぞ。
「あれ? しのぶちゃんと明日藍ちゃんの二人って同い年だよね?」
「ええ、私が2月24日生まれて、鳥海さんが3月28日生まれです」
「へー、そうなんだ! そういえばしのぶちゃんにもさん付けしてるしね、そっかー」
そして蜜璃さんは、何かに気づいたかのように首を傾げた。
「そういえば不死川さんのことを名前で呼び捨てにしていたような?! きゃー、気づいちゃったわ!」
「いやいやいや、違うよ」
「必死になって否定するもの怪しいわ!」
単に不死川さんは兄弟で、紛らわしいから下の名前で呼んでいただけで、でも名前にさん付けするのもちょっと変だし、君付けするのもおかしいだろうと、呼び捨てで名前呼びしてしまったのだが、特に何の反応もなかったのでそのままになっていただけだ。
そんなようなことを説明すると、蜜璃さんは残念そうに納得していた。
「あれれ? おかしいですね。私の記憶が正しければ玄弥くんが入隊する前から不死川さんのことを名前呼びしていた記憶がありますが」
「きゃーー! やっぱり恋だわ!」
何とか誤魔化したと思ったが、しのぶさんはにやにや笑って原作知識故の矛盾をついてきた。
一端は収まったかのように見えた蜜璃さんのテンションは爆上げだ。
なんだこれは……。何が起きている?
どうして私はこんなくだらない話で、これほどまでに追い詰められているというんだ?
ガールズトークって怖い。そう思った。
那谷蜘蛛山。
炭治郎視点も面白いかと思ったけどほぼ原作だったのでカット。
禰豆子がいない分は、炭治郎が頑張ったり義勇が早く駆けつけたりしたんでしょう。
今さらですが捏造多めです。
適当なことを書いてたりするので原作未読の人は(いるのかな?)注意してください。
今さらついでに。
作者の中で主人公の外見はアズールレーンの鳥海をイメージしています。
名前もAzur Laneをもじったつもり。ガンダムじゃないです。