鬼滅の刃の世界に転生したけど味方に鬼がいませんでした   作:せとり

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7.決意と上弦の陸

 お館様に、始まりの剣士――縁壱さんのことが記されている文献を見せてもらえるようにお願いした。

 とにかく珠世さんの存在を確認しようという意図だ。

 お館様が快諾してくれて、輝利哉様を案内につけてくれた。

 書庫に入った輝利哉様が、目当ての書物を持ってきてくれた。

 

「こちらです」

「ありがとうございます」

 

 丁寧に受け取ってそっとページをめくる。

 達筆な草書体で読めない。

 

「……読めないです」

「失礼しました、読み上げますね」

 

 本を返して、内容を輝利哉様に読み上げてもらう。

 

 400年前の、幼くして代替わりしたお館様の手記のようだった。

 古い文献の内容は興味深いが、長々と拘束するのは悪いので、縁壱さんが出てくる部分だけ、抜粋してもらう。

 何度か読んでいるのか、ページをめくる手に迷いがなかった。

 

 縁壱さんが鬼狩りになって柱になって呼吸を広めるまでは、まだ幼かったからか伝聞調で、原作と大体同じだった。

 肝心の無惨戦の内容は、本人から聞き取りした内容のようだった。

 緊張と共に、耳を凝らして聞く。

 

 その内容は、原作での回想と大体同じだった。

 無惨には七つの心臓と五つの脳が存在したとか、かすったら死ぬと直感しただとか。

 一瞬で切り刻み、命を何だと思っていると無惨に問いかけるまでは一緒だった。

 

「そこで無惨が連れていた女の鬼が無惨の名を叫び、呪いによって死んだそうです」

 

 は?

 死んだって珠世さんが? え?

 

「追い詰められた無惨は体を四散させて、1800の肉片になってばらばらに飛び散ったそうです。日柱はうち1500の肉片を斬ったそうですが、300の肉片を逃して無惨を殺すことはできなかったそうです」

 

 そうか、順番が入れ替わっている。

 ばらばらの肉片になって逃げる前に無惨の名を呼んでしまったから、ぎりぎりで無惨が弱る前で、呪いが外れていなかったのだろう。そして珠世さんは死んだ。

 

 終わった。

 珠世さんがいないという事は、鬼を人間にする薬も、老化薬も、分裂を阻害する薬も、細胞破壊の薬もみんな作れない。

 デバフなしで、無惨を倒さなければならない。

 縁壱さんですらできなかったことが、私にできるのか……?

 

 いや、できるできないではない。

 やらなくてはならないのだ。

 今まで見殺しにしてきた人たちに贖罪し、報いるためには、もうそれしかない。

 

「その後日柱は、無惨を取り逃したこと、兄である月柱が鬼に寝返ったことから、鬼殺隊を追放されたそうです。……日柱に関する記述は、以上になります」

「ありがとうございます。大変参考になりました」

「まだ調べたいことはありますか?」

「いえ、もう十分です」

 

 連れだって書庫を出る。

 

「また何かあったらおっしゃってください。僕にできることならなんだって協力します」

「ありがとうございます、輝利哉様。……さっそくで悪いのですが、お館様にご相談したいことができました。取り次ぎをお願いしてよろしいでしょうか」

「わかりました、父上に聞いてきます」

 

 そう言って、雁夜様は廊下を駆けて行った。

 

 

 

 お館様にお目通りが叶った。

 布団に入ったまま上体を起こすお館様は、私が柱になった当初と比べると、格段に病が進行していた。

 両目にまで及ぶ痣は痛々しかった。

 

「明日藍から話があるなんて珍しいね。どうしたんだい?」

 

 いつも通りの優し気で落ち着きのある口調に励まされて、私は意を決して口を開いた。

 

「任務地を変えてほしいのです。一か所にとどまらず、各地を回って上弦の鬼や無惨を見つけたいと思っています」

「それは、地元を離れることになるけれど、いいのかい?」

「はい。もう我儘はいいません。いままで本当に申し訳ありませんでした」

 

 土下座する勢いで頭を下げる。

 そう、これまで何度か転勤の話はあった。

 安定してきた僻地は他に任せて、激戦区である関東などを任せるべきだ、という話が。

 今まで私は、原作に関わりたくなかったこともあり、地元を離れたくないという理由で固辞してきた。

 

 全てを失って復讐に身を燃やす者もいる中で、その言い訳は一部の者からは大いに反発された。

 それでもお館様は私を擁護してくれて、納得しない者を説得してくれたのはいつだってお館様だった。

 それを今さらになって撤回するわけで、本当に無駄に迷惑をかけていただけだった。

 

「謝る必要はないよ。家族や地元が大切なのは人として当然のことだ。むしろ決断してくれたことに感謝したい。ありがとう、明日藍」

「恐縮です……」

 

 決して責めてこないお館様の態度はありがたくもあったが、心苦しくもあった。

 

「無惨や上弦の鬼とは簡単に狙って遭遇できるとは思えないけど、何かあてがあるのかい?」

「……いえ、通常業務をこなしつつ、努力目標という感じです」

「そうか、とにかく君がこちらに来てくれるのは鬼殺隊にとって喜ばしいことだ」

「私が必ず、無惨を倒します」

 

 決意を表明すると、お館様は少し驚いたような雰囲気を出した。

 

「明日藍がそこまでいうなんて珍しいね。何か心境の変化があったみたいだね」

「はい」

「どんな理由か聞いてもいいかい?」

 

 お館様には嘘をつきたくなかった。

 でも本当のことも話したくない。

 だから言葉を選んで、本心を口にした。

 

「それが私の成すべきことだと……絶対の責務だと思いました」

「そうか……。私でよければいつでも相談に乗るから、あまり思いつめないようにね」

「はい。お館様もどうかご自愛ください。吉報をお持ちします」

「それは楽しみだね」

 

 お館様の笑みを受けて、私は退室した。

 

 原作は既に崩壊していた。

 だったら、今までやれなかったことをしよう。

 まずは一体でも多くの上弦を倒す。

 

 万世極楽教を隠に探してもらう。

 私は吉原だ。

 屋号は忘れたけど、上弦の陸が花魁に化けていることは知っている。

 見つけ出して殺してやる。

 

 

 

 

 見つけた。

 吉原の遊郭を歩き回り、道行く人に性格の悪い花魁を尋ねて目星をつけて、数軒目で当たりを引いた。

 

 かなり性格が悪いと評判で、黒い噂もある花魁、蕨姫とか言ったか。

 きつめの美貌のスタイルのいい人間の女に化けた鬼が花魁装束を纏い、京極屋の一室にいた。

 人食い鬼特有の血生臭い気配に、常人とは思えない身体構造。

 胎の中に何かある。

 一瞬胎児かと思ったが、違った。これが兄の方の鬼だろう。

 

 兄妹を同時に首を刎ねなければ死ななかったはずだ。

 体内にいるなら同時に首を斬るのも簡単だ。

 

 気配を殺して正面から屋内に侵入する。

 本職の忍者みたいにはいかないが、一般人に気取られずに行動するぐらいはできる。

 

 何事もなく、上弦の陸のいる部屋の前にやってきた。

 相手はこちらに気づくことなく、爪の手入れなんかをしている。

 今から死ぬとも知らずに呑気なものだ。

 

 ――雷の呼吸、壱の型、霹靂一閃。

 

 慣性制御染みた身体制御によって音もなく一瞬で加速し、襖を突き破って堕姫と妓夫太郎、二人の首を同時に斬る。

 堕姫は自分の爪を眺めるまま、私に気づくこともなく首を刎ねられた。

 支えを失って後ろに倒れこむ首の瞳に私の姿が映り込みそうになったので、両目を一閃して視界を潰す。

 

 動揺の気配に満ちながら、堕姫が口を開きかけた。

 胎児の妓夫太郎が脈動した。

 

 少し嫌な予感がした。

 私に危害が及ぶ感じではなかったが、周囲に被害がいくかもしれない予感。

 悪あがきを阻止するべく、追い打ちすることにした。

 

 ――参の型、聚蚊成雷。

 

 対無惨を考えて鍛えぬいた連撃の型をお見舞いする。

 無数の斬撃の音が重なり合い、雷鳴のような音が轟いた。

 相手に何もさせることなく、切り刻んでミンチにしてやった。

 赫刀の効果もあって再生すらできない。

 いかな上弦の鬼といえど、そんな状態になってしまえば何もできず、やがて物言わぬ肉の残骸は消滅を始めた。

 

 そういえば、瞳の字を確認していない。

 擬態したまま死んでいったので、傍から見れば上弦の鬼を倒したなんて分からない。

 鎹鴉から見れば、また私が潜伏した鬼を見つけて、サクッと処理したという認識だろうか。

 まあ、それでもいい。

 所詮は上弦の鬼も、無惨がその気になればすぐに補充できる手駒に過ぎない。

 そう、とにかく無惨だ。無惨を倒さなくてはならない。

 

 どうやって探し出せばいいのか、見当がつかないが。

 とにかく手当たり次第に人を透かして見て、心臓が七つと脳が五つある人を探すぐらいしか思いつかない。

 いったいどれだけ時間がかかるのか。果たして見つけられるのか。

 不安しかない。

 

 不法侵入を見咎められる前に京極屋を出る。

 事前に見つけておいた地下空間の上に行く。

 堕姫が捕らえた人を帯に閉じ込めて保管していた場所だ。

 血鬼術が消えて、帯に捕らえられていた数人が外に出され、暗闇の中でパニックになっているのが見えた。

 早く助けよう。

 土砂が降り注がないように注意して、土を掬うような斬撃で地面に大きな亀裂を入れて、地下空間に通じる穴を開ける。

 夜とはいえ、真っ暗闇の空間よりも、外の方が明るかったのだろう、捕らえられていた女性たちが一斉に上を向いた。

 

 穴の底に転がる白骨を見て、痛ましい気持ちになる。

 もっと早くこうしていれば、死ななくて済んだ人も大勢いただろう。

 そう思うと白骨死体が私が殺した被害者に見えて、胸が苦しかった。

 

 パニックになっている女性たちを落ち着かせて、地上に運ぶ。

 謝罪の意味も込めて、それぞれにお金を持たせてその場を去った。

 

 ――助けてくれて、ありがとう。

 そんな言葉が背後からかけられたが、私には受け取る資格のない言葉だった。

 

 

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