鬼滅の刃の世界に転生したけど味方に鬼がいませんでした 作:せとり
琵琶の音と共に、上弦の鬼たちが召喚される。
一人欠けた上弦の鬼たちが、無限城に集められていた。
童磨が猗窩座に絡んだりと上弦たちが顔を合わせる中、最後に女装姿の無惨が現れる。
「!!?」
その姿に驚く上弦たち。
しかしつい先日行われた下弦の鬼の解体の時と違い、すぐさま跪いたのは年季の深さ故だろう。
「妓夫太郎が死んだ。上弦の月が欠けた」
女装姿の無惨が不機嫌そうに言う。
「誠に御座いますか!」
場にそぐわぬ軽い調子で、童磨がニコニコと叫んだ。
「それは申し訳ありませぬ! 妓夫太郎は俺が紹介した者故……どのようにお詫び致しましょう。目玉をほじくり出しましょうか。それとも――」
「黙れ」
怒気を浮かべた無惨が人の胴体よりも太い触手を生やし、童磨を叩き潰した。
「近頃の柱はどうなっている? 追い詰めれば痣を浮かべ、刀を赫くする者ばかり」
鬼殺隊の柱のレベルが、近年急速に上がっていた。
柱と遭遇した上弦の鬼が追い詰めると、戦国時代の柱たちのように痣を浮かべて、赫い刀を使い始めるのだ。
相手をした上弦の鬼があわや倒されそうな場面もあり、ここ数年の無惨は上弦たちを不甲斐なく思い、苛立っていた。
「それに比べて貴様らはどうだ? 100年前から何も変わらない。産屋敷一族を葬れない。青い彼岸花を見つけられない。挙句の果てに柱にすら負けそうになっている。貴様らは一体、これまで何をしてきた?」
「ヒイイッ、どうかお許しくださいませ!」
青筋を浮かべて怒る無惨を前に、上弦たちは縮こまることしかできなかった。
「妓夫太郎は敵の姿を見ることなく、一瞬で殺された。またこの殺され方だ。ここ最近、同じ殺され方をした鬼が増えている。柱の変化も同時期だ。二つの現象に関わっている鬼狩りがいる」
無惨は冷ややかな目で上弦たちを睥睨した。
「そいつを見つけ出し、殺せ」
何の情報もないのにどうやって見つけるんだろう。
そう思った誰かがいたのだろう、無惨は鋭い目をその思考をした者に向けた。
「お前は考える頭もないのか? 上弦を殺す鬼狩りが柱でないはずがないだろう? 簡単なことだ。柱を探し、手当たり次第に殺せばいい。わかったな?」
言いたいことだけ言って、無惨は琵琶の音と共に消えていった。
「ヒイイッ、承知いたしました……!」
消えた無惨に対して畏まる半天狗。
引き締まった空気を壊すように、いつもの調子の童磨が口を開いた。
「いやぁ、大変だね! あれほど怒った無惨様は初めて見る!」
「仕方ない…事だろう。我らの…不甲斐なさが…原因だ……」
「柱の成長には驚きだね!俺もちょっと前に女の子の柱と戦ったんだけど、いやぁ強かったなぁ。黒死牟殿みたいな痣を浮かべて刀を赫くしてさ! それで斬られると再生が遅くなるんだもの! あれには驚いたなぁ。結局食べ損ねちゃったし」
「赫い刀で斬られると酷く痛むのだ。ヒイイッ、恐ろしい恐ろしい!」
「私は危うく殺されるところでしたよ……」
過去を思い出して震える半天狗と玉壺。
黙りこくる猗窩座に対し、笑顔の童磨が話しかける。
「猗窩座殿はどうだい? 強くなった柱と戦ったかな?」
「……」
猗窩座は答えなかった。
それに気分を害した風もなく、童磨は矛先を転じた。
「黒死牟殿はどうだい?」
「……壮年の柱と…戦った」
「へえ! どうだったんだい?」
「……」
「赫い刀はどう思う? 黒死牟殿は同じことができないのかい?」
「……」
黒死牟はそれ以上話すことなく、鳴女を見た。
「そろそろ…送れ…」
「畏まりました」
「えー、もう行ってしまうのかい?」
童磨の問いかけに応えず、琵琶の音が鳴り、黒死牟の姿が消えた。
「わ、儂も……」
「ヒョヒョっ」
「……」
それに他のものも続き、順々に送り帰されていった。
「おーい、琵琶の君。もしよかったらこの後俺と――」
「お断りします」
べべん。
最後には鳴女のみが残り、無限城には静寂が訪れた。
▼
夜の駅に来て、機関車番号が無限の客車に乗り込む。
俗にいう無限列車だ。
そこに潜むと思われる鬼を倒しに来た。
下弦の壱の……なんだったか。とにかく催眠系の血鬼術を使う鬼だったはずだ。
列車での被害はまだ報告されていないが、待っていればそのうち来るだろう。
鬼殺隊士が張り込んでいるのをばれないように、隊服は脱いで一般人に変装して、木造のボックス席に座っていた。
発車までの時間を、窓から外を眺めてぼうっと過ごしていると、よくないものが列車内に入り込んだのを感じた。
視線を向けて、意識を集中する。
間の車両や人を透過して、見つけた。
黒髪の中性的な容姿の、鬼にしては珍しい洋装の鬼だ。
そいつを見て、原作の記憶が呼び起こされる。あれが下弦の壱で間違いない。
席を立ち、懐に隠し持つ短刀に手をかけながら、車両を移動する。
下弦の壱もまた車両を移動していた。機関室に向かっているようだ。
速足で追いついて、肉眼で捕捉する。
背後からの強襲。
気配を一切感じさせない神速の居合斬りに、下弦の壱は背後を振り向くことすらなく首を斬られた。
確実に殺した手応えがあった。
騒ぎになる前にそのままの勢いで車外に逃走。遠目から鬼の消滅を見届けて、帰路についた。
これで、下弦の壱の被害は未然に防ぐことができた。
原作通りにすれば上弦の参ともエンカウントできたが、別に猗窩座は下弦の壱と連携していたわけではなかったはずだ。
別件でたまたま近くにいただけだとメモ帳には書いてあった。
下弦の壱を倒したことで、猗窩座の行動が変化することはないだろう。
原作の無限列車の時期に、この線路の周辺に猗窩座がいる可能性は高く、それを捕捉して倒すのが次の課題になる。
時期は、機能回復訓練中の炭治郎達が任務に復帰する頃だ。
おおよその場所も時期もわかっている。
そんな有利な状況で見つけ出すことが出来なければ、全国のどこにいるかもわからない無惨を探し出すなど夢物語だ。
絶対に見つけ出して、必ず倒す。
私はそう意気込んだ。