何かこうプロローグ
『・・・・・・以上で《ソードアート・オンライン》*1正式サービスのチュートリアルを終了する。プレイヤー諸君の――健闘を祈る』
真紅のローブを羽織ったその巨大な人影は、その言葉を残して上空へ上昇し、消滅した。
彼が告げたのはデスゲームの開始。
そしてこの巨大な広間に残されたのは、ファンタジックな装備を身に着けた約一万のプレイヤー達。
「嘘だろ・・・」
その一万の中に、彼は居た。
筋骨隆々にして長躯、スサノオと見紛うばかりの顔面は、いかにも益荒男然としていた。
名を『桐ヶ谷和人』、アバターネームは『キリト』という。
彼はこのクソッたれなデスゲーム《ソードアート・オンライン》に巻き込まれた、ただの一般人である。
♦♦♦
桐ヶ谷和人は今年で14になる、ただの中学二年生であった。
彼はゲームに疎く、またネットも偶に触る程度。日課は筋トレと映画鑑賞、それに読書という、現代社会においては些か健康すぎる彼がいったい何故こんな
それは数日前に遡る。
その日、彼はいつも通りに筋トレをし、いつも通りに生活をしていた。
そんな彼に声を掛けたのは、何だかけしからんバストの剣道少女(まあ妹なのだが)であった。彼女は親愛なる兄に何か用があるらしく、一つの箱を差し出した。
「兄貴に誕生日プレゼント!・・・あぁ、うん、一カ月遅れちゃったけど・・・お小遣い貯めて買ってきたんだ!買うの大変だったんだから!」
差し出された箱には『ナーヴギア*2(SAO同梱版)』との文字が。
彼こと和人は、目の下に隈をつくり*3笑顔を浮かべるマイシスターに抱き着くと号泣!嬉しさのあまり泣き出したのである!
ゲームなぞ5年前にやったきりであった彼だが、妹のその心遣いは素直に嬉しかった。しかしナーヴギアの定価をニュースサイトで知っていた彼は、妹の懐具合が心配になった。なので後で妹の財布に二万程忍ばせておいてやろう・・・そう思ったのである。
さて、それからの話は簡単だ。
妹の財布に結局三万円忍ばせてきた彼は、早速自室でナーヴギアを装着。そのまま設定を済ませ、『リンクスタート!』と叫び昏睡、今に至るというわけだ。ちなみにアバターネームの『キリト』の由来だが、実は何の捻りもなく、『普段から友達にそう呼ばれているから』なのだそう。
「うぎぎ、悩んでも仕方がない・・・取り敢えずフィールドに出てみるか・・・」
『桐ヶ谷和人』改め『キリト』は、『はじまりの街』の主街区をうろつきながらそう呟く。
《ソードアート・オンライン》がデスゲームと化してから4時間ちょっと。キリトは街の外に出ることなく、どうするべきかと街をグルグルしていた。とりあえず初期金額で買えるアイテムをバランスよく買い集めた彼だったが、外に出て冒険をするか、もう少し留まるか判断しかねていたのだ。
なんたってこれはただのゲームではない。ゲームオーバーはそのまま死を意味するデスゲームなのだ。あまり迂闊な行動は出来ない。
もし外に出てレベル上げに勤しむのだとしても、流石にソロは心許無い。やるのであれば複数人とパーティーを組み、安全を最低限確保した状態で挑みたかった。
「しかし・・・フレンドは0、今更他のパーティーに紛れ込むのも何だか気が引ける・・・」
そもそもこのゲームがデスゲームと化すまでにも何時間か時間があったわけだから、当然既に大半の奴らはギルドを結成しており、組んでいない奴を探すのは極めて難しい。あまりよく知らないコミュニティーに入っても、何か問題を起こして解散するのが目に見えていた。
どうにか入りやすそうなフレンドリーなギルドはないものか・・・と、その時であった。
「そこの厳つい兄ちゃーん!もしかしてまだソロかー?」
そんな元気そうな声が彼の後ろから響いた。
振り返れば、そこには五人の男女があった。
「厳つい兄ちゃんってのは俺か?」
「そうだよ、あんた以外誰がいるってのさ!」
キリトの疑問を肯定したその男は、自分を『ケイタ』と名乗った。他の四人をそれぞれ『テツオ』『ササマル』『ダッカー』『サチ』といい、『サチ』を除く全員が男性だ。彼らは学校の友達どうしらしく、デスゲームとなってしまったこのゲームでどう生きていくのか話し合ったらしい。話し合いの結果彼らは、『戦闘系か生産系か、どちらに進むにせよメンバーあと一人くらいは欲しいよね』と結論を出し、こうしてソロっぽい奴に声をかけては勧誘していたのだと言う。
「それで兄ちゃんはソロなのか?」
「まあソロだが・・・」
「じゃあ俺らのギルドに入ろうぜ!歓迎するからよ!」
「はあ、よろしく」
その提案はキリトにとって渡りに船であったため、普通に快諾した。
「ちなみにギルド名は?」
「月夜の黒猫団!」
ダサいな・・・キリトは素直にそう思った。*4
♦♦♦
「ウヹえええッ兄貴ィイイイッ、兄貴ィイイイイイッ」
泣き叫ぶ彼女の名を『桐ヶ谷直葉』。『キリト』こと『桐ヶ谷和人』の妹ちゃんである。
「あだじがぶヴぇぜぶぼじんぁぼぼぼ!」(「私がプレゼントしなければ!」と言っている)
彼女は病院のベッドに横たわる自分の兄の胸板に顔を埋め号泣!彼女は自分の行動に後悔していた。
自分があんなクソゲープレゼントしなければ!
自分がプレイしてみれば何て言わなければ!
自分があのゲームを買おうだなんて思わなければ!
桐ヶ谷妹は泣き叫び、病室の隅ではその母がハンケチで涙を拭う。
(和人・・・!無事に帰ってきなさいよ。そうでなきゃ来月からの雑誌の表紙*5はいったいどうするのよ!!!!)
・・・母の泣く理由は少々おかしい気もするが、見事な家族愛である!
(あぁ、兄貴の立派な筋肉が衰えてゆくのを見ているなんてイヤ!神はなんて非道なのだろう!)
・・・家族愛?
まあなんかヨシ!
とにかくこうしてキリトくんの物語は幕を開けた!
頑張れキリトくん!負けるなキリトくん!立ちはだかる敵をその筋肉で薙ぎ払え!