《ソードアート・オンライン》第1層の攻略から半年。2023年の5月20日。第1層の攻略を行った彼ら―――《キリト》《ササマル》《ダッカー》―――の姿は、第37層にあった。
「かあ~、あいつらホントつれねェよなあ。同じギルドメンバーだったってのに」
ダッカーはぼやくと、味のしないリンゴのようなアイテムを咀嚼した。
「しょうがないさ、ダッカー。誰しもが皆平等に筋肉の導きを受けるわけじゃない」
彼らを先導するキリトは、若干寂しげな顔をしてそのぼやきに応える。
「キリトの言う通りさ。僕らが筋肉に呼応できたのは、本当にたまたまだったんだ」
ササマルも同様に言う。
そんな彼ら三人の傍に、《月夜の黒猫団》の《ケイタ》《テツオ》《サチ》の姿はない。そして、キリト達のステータスに表示されるギルド名は、既に《月夜の黒猫団》の文字はなかった・・・・・・。
♦♦♦
こんにちは!あるいはおはようございます?こんばんは?久しぶりですねぇ!地の文です。まあ、アイサツはほどほどに、何故キリトら三人が《月夜の黒猫団》に所属していないのか。気になりますよねぇ?私、気になります!なので回想にレッツゴー!
時は現在から遡り2023年5月10日、第36層攻略会議。アインクラッド36層の酒場で行われたそれは、第1層の英雄、《月夜の黒猫団》の《三筋衆》―――《黒の拳士》キリト、《切り裂く稲妻》ダッカー、《深緑の刺突者》ササマル―――を交えて開催された。勿論《月夜の黒猫団》のその他メンバーもこの会議には参加していたが、その顔は何だか浮かない様子。《三筋衆》が逞しく鍛え上げられた肉体を揺らして激しく舌を動かしているのに反し、彼らは酒場の隅でその様子を眺めるのみであった。
第1層を《三筋衆》が攻略してからというもの、彼らと《三筋衆》との間では度々軋轢が生じるようになった。ササマルとダッカーはキリトに感化されて肉体的特訓に励み、本来は成長しないはずのアバターをバキバキのムキムキに育て、レベルもガンガン上げていった。これに対しキリトを除く他メンバーは、どれだけ努力してもレベルは中々伸びずに、《三筋衆》との実力は目に見えて開いていく。
この状況は彼らを大変苦しめた。
同じギルドであったからだろう。彼らはいつも《三筋衆》と比べられ、精神的にも疲労。最近では圏外に出ることもしなくなった。毎日宿屋でヒキニート生活を送っていた。《三筋衆》が心配して見舞いに訪れても、サチは発狂して話にならないし、テツオは「うるさいんじゃい!この筋肉達磨ども!」と叫ぶばかり。唯一冷静だったケイタも、無気力感に支配されてぼーっとしていて、返事を寄越さない。
しかし、ここでギルドの団長たるケイタは思った。このままではまずい、と。
もし仮にリアルに戻れたとして、このままでは《三筋衆》と友達として接せられなくなってしまう。妬み、僻み、そして嫉妬が、彼らと仲良くすることを妨げてしまうからだ。
だが今ならまだ間に合う。何とかこの状況が打破出来れば、まだ関係は修復できるはずだ。そもそも《三筋衆》とて悪気があったわけじゃない。誰も悪くなかったのだ。悪いのは立場だ。これ以上この世界で彼らと同じギルドに居続けてはいけない。
無気力感を振り払って、ケイタは決断する。《月夜の黒猫団》の解散を。
「なんで、そうなんだよ!!!!」
第36層攻略会議が終わり、宿に帰る途中、ケイタはその意思を打ち明けた。
「ダッカー、俺たちは、もう・・・お前たちについて行けない、ついて行っちゃいけないんだ」
反発する《三筋衆》が一人、ダッカーに対して、ケイタは諭すように言う。サチは耳を塞いで唸りながら蹲った。
「そうか・・・悪かったな、今まで」
騒ぐダッカーに対し、キリトとササマルは冷静だった。ダッカーも喚いてはいるが、わかっているのだ。これ以上はいけないと。
だからダッカーもしょぼくれて「しかたないのか・・・」と呟いた。
「本当は、俺たちから切り出さなきゃいけなかったんだ」
キリトは言う。
「明らかにレベル差があるのにも関わらず、その差を無視して今まで無茶をさせてきた」
「ああ、僕たちがちゃんとしていれば、こんなことには・・・」
キリトも、ササマルも、ダッカーも、ケイタもテツオもサチだって、皆が皆後悔していた。みなわかっていたのだ。
「俺たちはこれから、商業ギルドとしてやっていくことにするさ」
だから、店を構えたらさ、メッセージを送るよ。その時は遊びに来てくれるかな。
その日、《月夜の黒猫団》は解散した。
♦♦♦
キリトは第37層の圏外で、こう切り出した。
「なあ、俺らも一からやり直さないか」と。
ササマルもダッカーも、わかっていたといった顔で頷く。
「そうだな。俺らぁちょっと人の気持ちを考えれてなかった」
「ええ、筋肉を求めるばかりに、人として大事な心を忘れてしまっていた・・・」
彼らは向き合って、ニッと笑いあう。
「ここからは別々の道だ」
「でも、《三筋衆》の道はまたいずれ交わるさ」
「ああ、俺らは筋肉を交わした友だからな!」
彼らは歩きだす。
力だけではないものを探して。
筋肉では語れない、思いを胸に抱いて。
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