どうも、地の文・・・ッ、何だお前ッ!?離せコラッ、流行らせコラッ!!おい何だお前その手に持っているのは、鋭利だね♡痛ァイ、痛ァイ痛ァイ痛ァイ!!!!誰かお助け!!!!!!!!(地の文くん死亡)
2023年、7の月。桐ヶ谷和人ことキリトは、タチの悪い女に付き纏われていた。
「ンナァ~ナァ~、キー坊~。オネーサンにそのスキルの情報を売ってくれよナァ~」
その女は頬に髭のペイント、頭にすっぽりとフードを被った、怪しさ満点の容貌をしていた。
彼女は自身を《アルゴ》と名乗り、ある日突然キリトの元を訪れた。彼女曰く、「キリトくんの持ってるスキル、あきらかに新種ダヨネ。しかも珍しい格闘系の。オイラも戦闘スタイルは格闘だからサ、そのスキルの取得条件とか知りたいんダ。勿論タダで教えてくれってわけじゃない。言い値で売ってくれて構わないゾ。あっ、あとキミのことキー坊って呼んでいいかナ?」らしい。つまりはキリトの所持スキルの情報が欲しいということだが、彼は自身のスキルが悪用(それほどまでに強力無比なスキルなのだ!)されることを恐れ、情報の売却を断固として拒否。それ以来彼女に付き纏われているのだ。
「アルゴ、何度も言うようだが、俺はこのスキル・・・《天上破砕拳》の情報を売るつもりはない」
「ンナァ~、それはオネーサン困っちゃうなァ。それにそうも断られると、情報屋としての魂がくすぐられちまうナ」
「諦めてくれ」
「嫌だネ」
「強情な」
「情報屋だからネ」
アルゴは「にゃハハ」と高笑いして、キリトの周りをグルグルと回る回る。
「邪魔をするなら帰ってくれ」
「じゃあスキルについて教えてくれよナ」
このやり取りを何百回繰り返しただろう、とキリトは天を仰いで思った。彼女のストーカーっぷりは、日に日に増していくばかり。始めは圏内で遭遇したときにしつこく縋ってくるだけだったのに、今では圏内だろうが圏外だろうが、時間を問わずに一日中追いかけ回してくる始末だ。周りのプレイヤーからはその様子をからかわれて《鼠の旦那サマ》だなんて呼ばれ始めて至極面倒くさい。
なのでキリトはとうとう根負けして、スキルの情報を売ってやることにした。
「わかったわかった、売ってやるよ」
「おッ、ほんとうかイ?」
「俺に二言はない」
「にゃハッ、ついにキー坊が折れタ!」
「やかましい」
しかしキリトとてただ売り払うだけでは気が済まないし、少々心配事もあったので条件をつけることにした。
「おやおやァ?もしかしてアンナことやソンナことをッ、頼んじゃうのかナッ!?」
「違うわい」
彼が提示した条件は二つ。まず売った情報を他者に売らないこと。そしてスキルを習得するならば自分を連れて行くこと。
「それってオネーサンとデートがしたいってことかナ?」
「そう意味じゃないと言っとろうに。いいか、このスキル《天上破砕拳》は習得条件があまりにも厳しく、今のアルゴのレベルでは到底習得不可能だ。だがな、俺の監督の元やれば、何とか習得は出来ると思われる。だから俺を連れて行けというんだ」
「なるほどナ。オーケーオーケー、キー坊の条件に従うヨ。だからほら、はやく売っておくれヨ」
「ああ、売るからはしゃぐな。それでその情報というのはだな・・・・・・」
♦♦♦
「臭いッ!臭いぞキー坊!」
「まるで俺が臭いみたいな言い方はヤメロ!」
アルゴとキリトは第39層の沼地を歩いていた。
「臭いゾッ!」
「仕方ないだろう。ここを渡らなければお目当てのクエストすら受けられん」
この沼地の名は《マヌキサク》。アインクラッド第39層の端に位置するとんでもない悪臭を放つ、この階層の隠し迷宮区である。普段は霧に囲まれその存在を視認できないのと、あまりの悪臭にプレイヤーやモンスターすら近寄らないのとで、この存在を知るものは現在キリトとアルゴのみである。
「にしたってあんな平原広がるのどかな場所に、こんなクッサイ場所があったなんてナァ・・・」
「おい、そろそろ腰が痛くなってきた。降りてくれないか」
アルゴはキリトにおんぶされていた。自称オネーサンのくせしてガッシリとキリトの背中にしがみついていた。
「ンナァ、だってナァ、汚くなっちまうじゃんヨ」
理由があまりにも乙女チックだった。
「お前のためなんだぞ、少しは自分で歩いてくれッ」
「嫌だネ」
「強情な」
デジャブ。
彼らのじゃれ合いはさておいて、彼らが何故こんな沼地に足を運ばなければならなかったのか。それはすなわち件のスキル、《天上破砕拳》を習得(アルゴが)するためであった。
この沼地を抜けると一軒家があり、そこに住む《カラテマスター》と会話をすることでクエストが発生。《カラテマスター》の弟子となって、厳しい特訓を終えると《天上破砕拳》を習得できるというもの。そして《カラテマスター》の住まう一軒家に辿り着くためには、《マヌキサク》を通る他道がないため、しかたなくというわけである。ちなみにモンスターが居ないくとも、腐っても迷宮区。何処を通ったらいいのかわかりにくく、よく迷う。
「ヌァ~、キー坊これ迷ってんじゃねーのカ?」
「だったら自分で探索しろ」
そしてキリト達もまた、迷っていた。耐え難い悪臭によって判断能力が低下し、同じところをグルグルしている。なんと恐ろしい事か。
そうやって出口を求めてグルグルしていると、一筋の光がドファアッと見えてきた。
「出口だ!」
キリトは叫んで走り出す。アルゴは首をがくがくとさせた。
「アバババババ、キー坊、アババババババ」
がくがくアルゴ。
「マッスル!マッスル!マッスル!」
ハイになったキリト。
「ブクブク、キー坊、ブククブク」
あわふきアルゴ。
「マッスルゥ!!!!」
キリトはアルゴを背負ったまま、光に向かって一直線。何度かジャンプした後、草はえる大地に着地した。
「到着!到着ゥううううううう!!!!」
発狂キリト。
彼の叫んだ通り、確かに眼前には一軒家があり、地面は沼ではなく土である。つまり、キリト達はようやく《カラテマスター》の家に辿り着いたのである!
「うぼぇ、キー坊、くるちぃヨ」
アルゴはキリトの背中で嘔吐くと、ベロベロ吐いた。虹色のエフェクトゲロゲロだ。キリトは今ばかりは《ソードアート・オンライン》の安っちいエフェクトに感謝した。生温かくもないし、エフェクトだから十秒も経たずに消えるしね!
「おいアルゴ、しっかりしろ」
「ンナァ、すっきりしタ」
「前を見ろよ、《カラテマスター》がいらっしゃったぞ」
「ンナァ」
疲労困憊なアルゴのもとにヒタヒタと歩いてきたのは、目の落ちくぼんだ痩せこけた老人であった。この老人こそ《カラテマスター》。《天上破砕拳》を受け継ぎし者。
「すんごい気味の悪い老人ダナ、キー坊」
「そう言うな。彼はこう見えてカラテの達人なのだ」
「んまァ、クエストが出るか確認するかナ」
言うが早いか、アルゴはカラテマスターに話しかけた。
「ナア爺サン、オイラクエスト受けに来たんだがヨ」
「力が欲しいか」
「ンナァ?」
「力が欲しいか」
「何だこの爺サン」
アルゴは困惑した!
「NPCだからな、定型句しか喋らない。いつものことだろう」
キリトの解説!
「ンまぁ、そうカ。でもこんな急で融通の利かないNPC居たかンナァ・・・」
アルゴは納得したがしきれていない!
「力が欲しいか」
老人は囁く!
「ンナァ」
雑過ぎる思考パターンのNPCに悩むアルゴ!
「力が欲しいか」
老人は囁く!
「力が欲しイ!」
アルゴは考えるのを放棄した!
「よろしい、ではついてきたまえ」
老人はアルゴに着いてくるように促すと、家の中にスウッと入っていく。
「ほら、はやく行けよ」
アルゴはキリトに言われるがまま、老人の後を追った。
クエスト《おじいちゃんと遊ぼう!》
第39階層の《マヌキサク》に住むおじいちゃんと遊ぼう!遊んだらドキドキ、報酬ゲット!
徒手空拳でおじいちゃんに勝てたらクエストクリア!がんばってネ!
「こんなの出来るかァア!!」
叫ぶのはアルゴ。彼女は自慢のフード付きコートを脱ぎ捨てて、汗まみれになってカラテマスターと殴り合っていた。
「力が欲しいか!」
老人は吠えて、彼女の腹に拳を叩き込む。
「ぷえッ」
情けない声を出して、壁面に衝突するアルゴ。ゴボゴボとエフェクトを吐いた。
「この爺強すぎるゾ、キー坊ッ!」
「最初にそう忠告しただろう」
アルゴの避難を躱して、キリトはその様子を呆れ顔で眺めていた。
なあに、大丈夫さ。ここは圏内扱い。どれだけ殴られて蹴られようと、死にゃあしないさ。キリトは笑いながらそう言う。
そう、こんなのは序の口。本番は勝負に負けてからさ。
このクエスト、カラテマスターとの勝負に負けると《修行》をしなければならない。この《修行》は走り込みだったり腕立て伏せだったりと様々だが、肝心なのはこれらが圏外で行われるということ。しかも場所は切り立った崖の上だったり、流れのはやい川の中だったりと危険極まりない。疲労で足元がふらついて転落、落下ダメージで死亡なんてした日にゃ目も当てられない。さらにいうとこの修行、カラテマスターに勝てるまで延々と繰り返されるのでそういう確率がどんどん上がっていく。尚クエストは破棄できない。
今回キリトがアルゴについてきたのは、この《修行》のサポートのためであった。もし何かあればキリトの力で何とか助けてやれるし、いざとなったらキリトがカラテマスターを倒して強制的にクエストを終わらせることも出来る(その場合アルゴはスキルを手に出来ないが)からだ。
《修行》一回目、走り込み。
「アヒィ、ヒイ、つら、つらいヨ」
「力が欲しいかアッ!」
「それしか言えんのカ爺!」
《修行》十回目、山越え。
「ホントに、これッ、修行になってんのカ?キー坊」
「なってるなってる。STRとVIT、AGIも確実に上がってるよ」
《修行》二十回目、バンジージャンプ。
「ホントに修行なのカこれェエ!!!!」
「何でかLUKが上がってるぞ」
《修行》三十回目、水泳二キロ。
「ガボガボッ!ボコボコッ!」
「がんばれ!がんばれ!」
《修行》
《修行》
《修行》
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「爺、オイラの修行の成果、見せてやるヨ」
「力が欲しいか!」
全身にダメージエフェクトを持ったアルゴは、治癒ポーションを飲み干してそれらを消し飛ばす。アルゴ、これで八十六回目の挑戦。今度こそ勝てるのか。
老人ダッシュ!
アルゴの背骨にとび膝蹴り・・・できていない!アルゴ、間一髪で蹴りを回避していた!老人の四角に回り込んだ彼女は、そのまま老人の首に手をかけてチョークスリーパー!全身の筋力をその腕に込める!そして捻り、捩じり、首を折る!
ボキッ
子気味いい音。しかしそれは老人の首から鳴ったものではない。アルゴの腕だ!ペインアブソーバが効いていなければ今頃絶叫モノであっただろう。
アルゴは力の入らない右腕を揺らし、飛び退いて老人から距離を取る。アルゴは左腕でインベントリを開くと、ポーションを取り出して使用。折れた右腕が回復した!ずるい!
彼女は絶対に死なない圏内という条件を利用したゾンビ戦法をしようというのだ!コワイ!
吹き飛ぶ右足!しかしポーションで回復!
裂かれる頭蓋!しかしポーションで回復!
突かれる心臓!しかしポーションで回復!
何度倒れても復活!復活!復活!ゾンビ!
HPが尽きるまで!
「力が・・・欲しイ・・・か」
「これでッ、終わりダアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!!!」
絶叫!絶叫!絶叫!
カラテマスター、脳天に拳がめり込む!
砕ける!頭蓋!
飛び出る!眼球!
勝った!勝った!勝った!勝った!大勝利!
クエスト完了!
「やっと、やっと終わったナ・・・」
満身創痍のアルゴは、その場でへたり込む。腰砕け。
そんな彼女の視界には、《天上破砕拳》の文字が見えていた。
♦♦♦
「いやア、キー坊、世話になったナ」
「なに、俺はアルゴが死なない様に見ていただけさ」
「まあそう言うなヨ。オネーサンの好意は素直に受け取っておくもんだゼ」
ここはアインクラッド第39階層圏内のカフェテリア。
カラテマスターを見事打ち倒し、《天上破砕拳》をその手に納めたアルゴは、ニコニコ笑顔でキリトに感謝を告げる。
キリトの目の前に出されたコーヒーとお茶菓子はアルゴの奢りだ。
「それにしても、《天上破砕拳》は凄まじいナ」
アルゴが遠い目をしてそういうが、その視線の先には巨大なクレーターがあった。これは彼女が《天上破砕拳》を試し打ちしたことによって出来たモノだ。
「だから止めたんだ。《天上破砕拳》・・・通常は破壊不能なオブジェクトや地形を破壊する、正しく
「にゃハハハ・・・せっかく手に入れたスキルだけど、オネーサンにはちと使いこなせないかナァ。ところでこれ、拳振って発動するけど、ソードスキルって言っていいのかナ」
「知らん。ソードスキルと書いてあるんだ、多分そうなのだろう」
コーヒーを啜って答えるキリト。彼自身もこのソードスキルが何なのかよく分かっていないらしい。
「ともかく、このスキルを広めるのはやめてくれよ」
「オネーサンを見くびってもらっちゃあ困るゼ、キー坊。情報屋は契約を順守する、間違いないゾ」
「わかってるさ、一応言っておくだけだ」
ゆるく時間が流れる。ここがデスゲームの中である事さえ忘れてしまうくらいに。
「ナア、キー坊」
静寂を破ったアルゴは、こんなことを言い出した。
「オネーサンとパーティーを組まないカ?」
キリトは困ったことだと思った。もともと今回アルゴに付き合ったのは、彼女から逃げる為であった。四六時中付き纏われてはたまらなかったからだ。パーティーを組むとなると、付き纏われるのが合法になるだけで、何の解決にもなっていないではないか!
彼はその想像に筋肉をブルりと震わせた。
しかし、断ろうにも目の前の彼女を見ろ!期待に満ちた眼差し!キリトはNOが言える日本人!NOが言える!決して流されない!流されない!
「まあ、ちょっとだけなら」
流されてなんかいない!
桐ヶ谷和人は女の子が悲しむことはしない。絶対にしない。それが彼の信条であり、ルールなのだ。きっとここで断ればアルゴはガッカリするだろうし、もしかしたらちょっと泣いてしまうかもしれない。それはいけない。いけない!
だから流されてなんかいない!
アルゴを背負って帰るのも、ただの気遣いだ!
おしまい!
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