ゴリトくんが征くSAO破壊録   作:邪骨

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第5話 『狂戦士アスナ、爆誕』『シリカ、狂戦士との邂逅』

『狂戦士アスナ、爆誕』

 

 

 2022年11月6日。

 

 その日、結城明日奈は絶望した。

 

 鬱屈とした人生。母の妄執。父の無関心。彼女はひどく疲れていた。

 しかしそんな家庭の中でも、彼女の兄は楽しそうであった。親の敷いたレールが性に合っていたのかもしれぬ。兄は仕事熱心で、自身の仕事が大好きな人であった。そんな兄は彼女に関わった仕事の一つである『ナーヴギア』と『SAO』について熱く語ってみせ、その姿は人生に諦観したアスナの心を揺さぶるに至る。

 結果、無理を言って兄がサンプルとして会社から貰った『ナーヴギア』と『SAO』を借用し、それを体験してみようと思い立ったわけである。

 

 その行動が、自身の人生を狂わすとも知らずに。

 

『・・・・・・以上で《ソードアート・オンライン》正式サービスのチュートリアルを終了する。プレイヤー諸君の――健闘を祈る』

 

 嘘だと思った。あり得ないと思った。しかし優れた頭脳が、目の前の赤い怪人の言葉が真実であると理解してしまう。メニュー画面の何処にも《ログアウト》の文字がないことが、それにリアリティーを持たせた。

 

 焦燥。

 

 ぬくぬくと安全な国で育ってきた彼女の、人生で初めての危機。今までも勉学などで努力してきたし、苦労を知らないわけでもなかった。それでも命に関わる危機というのは、その時の彼女にとってはあまりにも新鮮で、恐怖に値するものであったのだ。

 

 ゲームオーバーが、すなわち《死》を意味するデスゲーム。それが《SAO》

 

 ヒットポイントがゼロになれば、頭部に装着した《ナーヴギア》が未だ眠り続けるリアルの脳を焼き切って、死ぬ。

 

 恐怖。

 

 赤いローブの怪人――茅場晶彦――の言葉を聞いて暫くは、アスナは宿屋に引き籠っていた。そして所持金が切れると、宿近くの路上で廃人の如く暮らすようになった。

 

 そんなある日のことである。いつもの如くポン中のような虚ろ眼でいると、ある報せが彼女の耳に入った。

 

 曰く「第一階層が攻略された」のだとか。しかもボス戦に挑んだのはたったの三人。彼らは死にかけながらもなんとかボスを打ち倒したらしい。

 

 イカレていると思った。

 

 死ぬことが怖くないのだろうか。ここでは死んでしまえば本当に死ぬのに・・・と、ここまで考えたところで彼女の脳裏に電流が走る。

 

 死んで死ぬのは当たり前だ。いつだってそうだ。リアルだってデスゲームみたいなものじゃないか。結局は《いつ死ぬか》というだけ。遅いか早いかの違いしかない。

 

 なら、今はどうだ。まるで廃人、死んでいるみたいだ。生きているとは言えない。

 

 死んでいるみたいなら、実際に死ぬことを忌避する必要が何処にある。どうせ死ぬなら、最後まで生き抜いてやれ。戦果を上げろ。敵を殺せ。そして死ね!

 

 気づいた時には立ち上がり、道端に転がっていた棒きれを握りしめていた。

 

「ははっ」

 

 正直、気が触れていた。顔面は狂気に塗れ、笑みが絶えない。しかしポン中フェイスよりかは確かに生で満ち溢れた顔であった。

 

 走り出す。

 

 圏外に出る。

 

 フレンジーボアが爆散した。

 

「ヒヒーーーッ!!!!ヒキキキキーーーーッ!!!!!!!」

 

 形容しがたい雄たけびを上げて、結城明日奈は草原を駆ける。

 

 

 その日、一人の狂戦士が生まれた。

 

 

♦♦♦

 

 

『シリカ、狂戦士との邂逅』

 

 

 

「死ねェ!死ね死ね死ねェ!死んでしまえッ!!!!」

 

 モンスターの脳天を鈍器でかち割る彼女は、血走って叫ぶ。

 

「殺す!殺す!殺す!」

 

 食人花の花弁が散乱!

 

「死ね死ね死ね」

 

 吸血ドライアドの胴体が散乱!

 

 死屍累々血だまりを作る!

 

 ぐちゃぐちゃと棍棒を振り回して、結城明日奈ことアスナは暴れている!

 

「何だアイツら!マジで死ね!マジで殺す!リアルに帰ったら殴る!茅場も殴る!晒し首にしてやる!」

 

 圧倒的殺意!恐るべき呪詛!少女の絶望はいつしか、怒りと憎しみに変化していたのだ!それは両親に対する苛立ちであったり、こんなクソッたれなゲームに閉じ込めやがった《茅場晶彦》に対する憎しみであった。

 彼女はそれらをモンスターにぶつけることで、何とアインクラッド第50層まで単独で登ってきてしまったのである!しかも不眠不休で!一年間も!

 

 結果彼女のレベルは90に至っていた。

 

 ちなみにモンスターをいともたやすく屠殺するその姿から、周りのプレイヤーからは《撲殺女帝》の名で呼ばれ、恐れられている。

 

 不健康で殺伐とした生活をしてきたおかげで粗暴になった口で叫びながら、彼女は圏外を駆けていく。

 

「もっと殺させろ!もっと死ね!」

 

 彼女が現在雑魚狩りを行っていたのは、第35層の《迷いの森》。木々が鬱蒼と茂る圏外だ。

 

「フーッ、フーッ」

 

 興奮して口から吐息を漏らす彼女の聴力は今、通常の30倍になっていた。コウモリなんか屁だ!そして聴力30倍の耳は、この階層全体の音を聴くなど容易く、モンスターの蠢く音を察知してはこうして殺戮しているのである。

 

「きゃあああッ」

 

 だから、こうした悲鳴なども聞き逃すことはないし、その驚異的な脚力で現場に瞬きする間もなく到着できるのだ。

 

 視界が白色めいてその正体を掴むことは出来ないが、おそらくはモンスター!アスナはソレに全力で体当たりした!!!!

 

 ドパァンッ!!

 

 ジャバアッ!!

 

 激しい衝突音と、何かが噴き出る音。

 

 果たしてモンスターはミンチとなって、ホロめいて消えた。

 

「きみ、大丈夫?」

 

 アスナは全身に被った血液を払うと、足元で怯える少女に声をかける。怖がらせないように口調はよそ行きだ。

 

「ヒッ・・・、あの、ありがとうございました・・・」

 

 しかし彼女の狂気じみたフェイスに、気遣いなど無意味に恐怖した少女は、怯えつつも礼を述べた。

 

 少女はどうやら先程アスナが轢き殺したモンスターに襲われていたらしかった。

 

「えっと、私、シリカです・・・」

 

「私はアスナ。間に合ってよかった」

 

 優し気なお姉さん面でニコリと笑った彼女は、スッと手を差し出す。シリカはキョドりながらもその手を掴んだ。

 

 シリカ、《狂戦士アスナ》との邂逅の瞬間であった。

 

 

 

 ヤバいよヤバいよ。

 

 シリカは内心恐怖していた。調子に乗ってソロでフィールドに出てみたはいいものの、慣れないソロだからか細かなミスが蓄積し、大事な相棒がおっ死んで、さらにはとうとうモンスターに追い詰められていた。

 

 叫ぶ。

 

 どうにもならないことを知っているから、最後の抵抗。しかしそれが良かった。

 

 瞬間、目前にまで迫ったモンスターが爆ぜ、ミンチとなって降り注ぐ。代わりにその場所には血液エフェクト塗れのヤベェ女が立っていた。

 

 ヤバいよヤバいよ。

 

 シリカは内心恐怖していた。モンスターをぶっ殺してくれた女性――アスナさんというらしい――が「一人じゃ危ないでしょ?送るよ」と言ってくれたので、厚意に甘えて街まで送ってもらうことにした。しかしよくよく考えてみるとこのアスナさんとやら、どうやってモンスターを殺したんだろう?そんな疑問がふつふつと湧いて、徐々に恐怖に変わってきた。もしかしたらこの人はプレイヤーに偽装したモンスターではないか?そう思いだすと恐ろしくてたまらなかった。

 

 ああ、さっさと逃げておけばよかった。

 

 シリカは後悔する。しかし時は既に遅し、街の入り口が見えてきた。

 

 ああ、街を見せて安心させてから、油断した隙にザクリとやるパターンなんですね、わかります。

 

 シリカの妄想は止まらない。

 

「さ、着いたよ」

 

「へ?」

 

 しかしそれは杞憂だったらしい。いつの間にやら彼女らの体は圏内にあって、アスナはシリカを襲う気配の一つも見せない。

 

「あっ、あれ・・・?なんで・・・アスナさん、モンスターじゃなかったんですか?」

 

「は?」

 

 この言い草には心の広い血塗れお嬢様も困惑。ボコすぞメスガキ、ですわ~↑。

 

「え、アスナさんはモンスターで、私を食べようとしてたんじゃないんですか?」

 

「何を言っているの・・・私がモンスターなわけないじゃない。それにここ、圏内」

 

「あっ・・・(察し)」

 

 圏内にモンスターが入ってくることは不可能。当たり前の常識ですわ。あなた少々常識が足りていないのではなくて?(お嬢様ボイス)

 

 シリカは今までの非礼の数々を思い出すとイカの血液めいて青ざめ、土下座を敢行した。その姿、正しく日本産社畜の極みよ。将来が有望視される。

 

「気にしないでよ、シリカちゃん。ちょっと気が動転してただけなんだよね?」

 

 お嬢様系狂戦士アスナさんは、そう言って彼女を許す。しかしシリカはアスナの気も知らず、こんなことを思っていやがった。

 

(ちッ、軽々しく『ちゃん』付けなんかしてんじゃねぇよ。クソババァ)

 

 クズだこいつ!紛れもないクズ!犯罪を犯していないだけの立派なクズ!

 

 最低だが外面だけは良いのでこれまで生きてこれたシリカちゃんは、その内面を隠し通す輝かしいションボリ顔で申し訳なさそうに平謝り。

 

「いえ、でも・・・すみませんでした・・・」

 

 アスナは笑って、「それよりもお風呂に行きましょ?疲れたでしょシリカちゃんも」と、シリカの手を引いてズンズンと街を歩いてゆく。

 

(勝手に触らないで欲しいんですけど・・・)

 

 相変わらず内心クズいことを考えているシリカは、思い出した疑問を口に出す。

 

「そういえばアスナさん、あの時どうやってモンスターを倒したんですか?」

 

「ああ、あれ?ちょっと轢き殺しただけだよ」

 

「え?」

 

 シリカは内心恐怖した。やはりこの御仁はヤバイお方だと再認識した。あのとき彼女の全身が血塗れであったのは、モンスターの返り血を浴びたからだったのだ!

 

(ゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイ、ババァだなんて思ってゴメンナサイ、許して)

 

 小心者なシリカは、その圧倒的な実力差に平伏し、口には出さないものの内心許しを乞うていた。そして同時に、アスナに絶対の忠誠を誓うことを心に決めた。

 

 

「・・・・・・」

 

 

 そうやってキャイキャイしながら歩く彼女らの後姿を眺めるものがあった。

 

 その者、邪悪な顔に赤い髪を蓄えた毒女。名をロザリアといった。彼女はドブのような人格の持ち主で、リアルでは水商売で生きていた。そんな彼女もリアルではそのドブのような心を他人に知らせることなく生きてきたが、ここSAOでは話が変わった。立場が変わると人も変わるのは当たり前の話だが、彼女の場合それが悪い方向に突出。今ではオレンジギルド《タイタンズハンド》のリーダーを務めるまでになっていた。殺して物を奪って売りさばく。この一連の作業が、彼女にとって快感であったようだ。救いようのないゲスである。

 

 彼女は一体何を思って去り行くアスナたちを見ていたのか、不穏な気配を孕んでその日は暮れゆく。

 

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