「どうしてこうなったんだろ……」
そう言って頭を悩ましているのはアスタロト家の次期当主『ディオドラ・アスタロト』。本来であれば優しげな雰囲気の美青年と評される彼だが今は眉間に皺を寄せて天を仰いでいる。
「おーい、ディオ。なんか黄昏てるみたいだけどどうかしたか?」
「その呼び方止めろ、ゼファー」
そんな彼に話しかけたのはゼファードル・グラシャラボラス。いろいろ会って仲の良い友人となった相手だ。ちなみにディオと呼ばれるのを嫌がる理由は「悪のカリスマ」と被るからである。
「そんなことよりもどうしたんだよ? 悩ましい顔して」
「いやね」
そこでディオドラは言葉を切り逡巡すると、やがて決心したのか口を開く。
「シトリー家から依頼があってね」
「ふむふむ」
「正確にはソーナ・シトリーからだけどね」
「あのいかにも『真面目です』って言わんばかりの女か」
「……嫌いなの?」
「真面目キャラは俺の敵だ」
いかにも不良の兄ちゃんと言う感じのゼファードルだから仕方ないか、とディオドラは判断した。
「で、依頼内容は?」
「……暗黒闘気を使えるように指導してくれだって」
暗黒闘気。それは「DRAGON QUEST―ダイの大冒険―」に出た悪の心を持つ者が発する生命エネルギーの事だ。今の冥界では何故か悪魔だけが使える闘気と伝わっている。だがそれは何故か?
その理由はディオドラ・アスタロトにある。
まず前提として彼は転生者だ。転生特典は『ドラクエシリーズの技と魔法が使える』というもの。
彼は最初にディオドラ・アスタロトに転生したことに気づいた時に思ったのだ。
「あれ、僕、主人公に殺される役じゃね?」
正確には旧魔王派のシャルバ・ベルゼブブに殺されるのだが原作知識が曖昧だったディオドラはその勘違いに気づかぬまま主人公、兵藤一誠への対策を考えた。
「『いてつく波動』だ」
いてつく波動。それはドラゴンクエストで主に魔王クラスのモンスターが使う技。効果は「敵味方全体の状態変化を消す」というもの。つまり強化、あるいは弱体化などの効果を無効にする。
これを使えるようになれば『赤龍帝の籠手』の倍加を無効化できるのではないかと考えたのだ。
「そうと決まれば鍛えなくちゃ」
あれは恐らく闘気を使う技のはずだと思い至ったディオドラはその日から鍛え始めた。何故ならいくら転生特典で使えるようになっているとはいえ使うためには条件がある。分かりやすいのだと魔法なら魔力、ゲーム的に言えばMPが必要だ。
ドラクエの特技ならやはり闘気が必要だろうと「ダイの大冒険」の知識を踏まえてディオドラは判断した。補足するなら「ハイスクールD×D」では仙術などに使うものとして闘気は存在するのでそういう意味ではディオドラの判断は正解だろう。
「とはいえ鍛えるにしても時間が足りない」
ディオドラはアスタロト家の次期当主。鍛えるためだけに時間は使えず、当然ながら次期当主として勉強もしなければいけない。
「……駄目元で頼んでみるか」
その頼みの結果、アスタロト家はある黒猫の転生悪魔がディオドラの将来の眷属として保護されることになるとはこの時のディオドラは予想もしていなかった。
閑話休題《話を戻そう》。
時間を掛けて鍛えたディオドラは闘気を身に着け、更に「いてつく波動」を使う事に成功した。
これで赤龍帝の対策ができた。喜んでいたディオドラだが、そこでふと思ったのだ。
「これって他の悪魔も使えるのかな?」
なぜそう考えたのかと言うと、自分以外――特に眷属にする転生悪魔――が使えるようになればより安全だろうと。原作では自分の眷属も殺されていたのを少しだけ思い出したのだ。
そこでディオドラは実験体――協力者を見つけて鍛えることにしたのだ。そこでディオドラは同年代であるゼファードル・グラシャラボラスに目を付けた。彼は「凶児」と呼ばれるほどの問題児だ。そんな問題児の矯正と言う名目で闘気を身に着けさせるために鍛えたのだ。
ゼファードルがどんな目に遭ったかあえて語らない。強いて言えることが有るなら闘気を身に着けた後にディオドラを殴り飛ばしたゼファードルを責められないだろうという事だけだ。
問題はそこからだった。
「痛いなぁもう……あれ? 回復の効き目が悪い?」
そこで治癒魔法が効き辛い事に気づき、そこで自分達が使っている闘気が暗黒闘気に似たものだと気づいたのだ。まあ、悪魔が「光の闘気」(主に勇者が使う闘気)を使えるのもおかしいのでむしろ「暗黒闘気」を使える方が自然な気もする。
「これ……論文でも作って発表すれば功績になるか?」
実際、アジュカ・ベルゼブブも技術開発の最高顧問という立場だ。血縁関係がある自分がそれっぽい功績を立てれば殺されかけた時に助命してくれるかもしれないという期待もあった。それ故にディオドラは「暗黒闘気」についての論文を発表。結果、鍛えた悪魔だけが使える闘気として「暗黒闘気」の名が冥界で知れ渡った。
ここで時間をソーナ・シトリーの依頼が来た時に戻す。彼女は「暗黒闘気」を身に着け眷属に、ひいては将来レーティングゲームの学校で指導できればと思っての依頼だ。
しかし――
「なめてんじゃねーぞって言いてえ」
「言いたいことはわかるけどさ……」
厳しい鍛錬をしたゼファードルからすれば学校の体育の授業感覚で身につくと思われているようでイライラする気持ちは分かる。
「まあ、どのみち僕はこの依頼を受けられないけどね」
「ん? なんでだ?」
「……フェニックス家のご令嬢と見合い話が持ち上がっていてね」
その令嬢とは当然ながらレイヴェル・フェニックスである。
「何で今更? いや、別に話が出るのはおかしくねえけどよ」
「……この前、特訓していた技を見られてね」
「……なんて技だ?」
「フェニックスウイング」
「ああ……もうだいたい分かった」
つまりディオドラが漫画に出た「フェニックスウイング」と言う技を再現しようと特訓していた所を家臣に見られ、フェニックスの名を勝手に使うのは不味いのではと思いフェニックス家にゴマすりに行き、何故か見合い話が持ち上がることになった。
「多分、フェニックスの名が相応しいかどうか調べた上でそうなったんだろうけど……」
「まあ、良かったんじゃねえの? 次期当主なら婚約者いてもおかしくねえんだし」
「……そうだね」
確かに喜ばしい事ではある。しかし、今回の問題は依頼の方だ。
「そんな訳で依頼の方を受けるにはタイミングが悪いんだ」
「なるほど。見合い話の直前に他家の令嬢に会いに行くのは外聞が悪いか」
気にしすぎかもしれないが可能性が有るなら醜聞になるような事は避けるべきだろう。
「と言う訳で、頼んだ」
「おい」
ディオドラがゼファードルの肩に手を置いた時点でゼファードルは気づいた。今回の依頼を自分に任せる気だと。
「嫌だからな! 何で俺が真面目委員長キャラな奴を鍛えないと行けないんだよ!」
「まあまあ、そう言わずに」
嫌がるゼファードルをディオドラは説得する。
「そういう相手が嫌がりながら自分の言う通りにする姿を見たくない?」
「――――」
ゲスい。発想がゲスい。ある意味、悪魔らしいと言えばそうだがそういう事を平然と言えるのはどうなんだ。
「相手は鍛えることに対するハードルは低いから厳しい鍛錬にヒィヒィ言いながら付いていくか、心折れる瞬間が見れるんじゃないかな」
「良いだろう。受けてやる」
ゼファードルの言葉を聞き、ディオドラは「計画通り」と言わんばかりの笑顔を浮かべる。
(まあ、なんだかんだ言ってもちゃんと鍛えるだろうし問題ない)
内心、ディオドラはそんなことを考えながらお見合いについて考える。
(仮に婚約しても兵藤一誠に取られるだろうし……適当でいいか)
最低限、礼儀正しくはするが。そう考えながらディオドラはお見合いの準備をするのであった。
数日後、ディオドラ・アスタロトとレイヴェル・フェニックス、ゼファードル・グラシャラボラスとソーナ・シトリー。それぞれの婚約が発表されるなどこの時誰も考えもしていなかった。
憑依転生者その2
ディオドラ・アスタロト
特典:「ドラクエシリーズの技と魔法を使えるようになる」
強制的に転生させられた被害者その2。ドラクエはゲームも好きだが漫画の「ダイの大冒険」はもっと好き。原作知識はかなり曖昧。原作のディオドラの死因を勘違いしている。勘違いした結果、いてつく波動や暗黒闘気を使えるように鍛え、それを他の悪魔も使えるように論文にして発表した。しかし、ほとんどの悪魔は鍛え方が足りないので使えるようになった者はいない。例外は直接指導したゼファードルとディオドラの論文を参考に鍛えているサイラオーグのみである。転生を嫌がった理由は「兵藤一誠の思い通りになる印象しかないから」