フリード・セルゼンは悩んでいた。
目の前にいる女性堕天使レイナーレへの対応を。
「依頼を受けてくれると考えて良いのかしら?」
レイナーレの言う依頼とは一言でいうなら『悪魔の領地である駒王町への潜入任務』だ。理由としては駒王町内に強い神器の反応があるため、堕天使側の考えとしてはその神器が強力なものならこのままでは悪魔側の戦力になるのは容易に想像がつく。そのため、それより先に神器保有者に接触し保護するのが目的だ。……表向きは。
(嘘ではない……だが本来の目的は別なんだろうな)
フリードの知識通りならレイナーレの目的はアーシアの神器『
今考えなければいけないのは駒王町に行く依頼を受けるかどうか、だ。
依頼報酬は内容に不釣り合いなほどの金銭――敵対している勢力の土地に行くと考えれば妥当かもしれないが――に加えて宿と食事の補助付き。何も知らない妹のリントは例え罠でも受けるだろう。もちろん前金を貰って。実際、高額な報酬を貰えるとなると即断るという選択は取りづらい。何故なら実験施設の試験管ベイビーだったフリードとリントにはまともな仕事に就けない。存在自体が教会の汚点なため見つかったら即座に教会の追手がやってくるからだ。
それ故にこういった裏に関わる依頼で稼ぐしかない。一応ならまだ扱いとしてはマシだがアーシアがいるが、彼女一人がアルバイトの類をしたところで稼げる額もたかが知れているので結局傭兵紛いの仕事せざるを得ないのだ。
「受けるのは構いませんが、その前に一つ確認してもよろしいでしょうか?」
「何?」
「今回我々に依頼をした理由は?」
「……はぐれエクソシストの中でもまともに会話できる戦力があるなら利用したいと思うのは当然じゃないかしら?」
(否定できない)
レイナーレの言い分にフリードは何も言えなかった。はぐれエクソシストは元々教会に所属し悪魔を狩る事を生業としていた者達。その理由の大半は聖書の神への狂信。「神の名の元に悪を断罪せよ」と教育され、その行動が行き過ぎた結果、今度は教会側が抑えに回るがその頃にはエクソシスト側が「教会は堕落した! 自分達がやらなければ誰が悪を断罪するのだ」と自分から離反した者が『はぐれエクソシスト』になる事が多い。そのため、教会から離れても一般的な会話が成立する者は少ない。
(しかしなぁ……)
レイナーレ達は依頼のために買い出し中だったリントに接触し依頼書を渡した。つまり自分達をターゲットにしているとレイナーレ達は自白している形になっている。最も、フリードも知識がなければ三人の内の誰か、あるいは全員が危険であると考えて逃げ出しただろうが。アーシアが狙いだと知っており、なおかつ原作に関わる出来事と知っていたために受ける方向で考えてしまったのだ。
(今更だが本当に受けるべきか? これ……)
アーシアが危険だと分かっているのに受けるのはどうなのかと今更になって考え始めたフリードはそのまま戦闘になるのも覚悟で断ろうかと思ったが――
「ちなみにそこに書いてあるのは前金、追加で報酬を払うわ」
「よろしくお願いします」
後にフリードは気づいた。「こいつらアーシア含めて殺すつもりだから払う気ない」と。
「寝床が廃教会の時点でまともに報酬払う気ねえな、これ」
「完全にミスったっすね、これ」
「あはは……」
廃教会内部を掃除しながら愚痴を言うフリードとリントに苦笑するアーシア。二人の言い分が理解できるために何も言えないのだ。
「いやね、まともに仕事に就けない身分じゃ贅沢言えないのは分かってるよ? それでももうちょっとまともな場所で寝泊まりしたいと思うじゃん?」
「本当リアルはクソゲー」
「その、気持ちは分かりますけど、頑張って修繕すれば良いんですよ! ほら、日本では『住めば都』というじゃないですか!」
「ですってよ? 日本語が無駄に上手い兄貴」
「うるせえ」
ちなみにこの三人、今は日本語で話している。何故なら現在地が駒王町の廃教会だからだ。所謂「郷に入っては郷に従え」と前世が日本人のフリードは日本語で話すように指示したからだ。ちなみにリントとアーシアが流暢な日本語が話せるのはフリードが教えたからだ。更に補足するとフリードが二人には日本語を教えた理由として「俺が日本好きなだけだ」という事にしている。嘘ではないが別の理由も有る。原作の舞台が日本だから教えた方が良いと思ったからだ。
「で、どうすんすか? 明らかにキーブレードかアーシアの神器を狙ってるっすよ?」
「隙を見て逃げるしかねえよ」
既に駒王町にいる以上、戦闘になれば悪魔も出てくるのでややこしい事になるのは目に見えている。ならばチャンスが有れば逃げ出すのが吉だろう。
「個人的に調べたい事が有るから利用させてもらっただけだしな」
「あ~前世の友人ってやつっすか?」
「まあ、な。とりあえずここに来れば会える可能性が高いからな」
結局のところ、フリードの目的はそれに尽きる。前世の中学生の頃から仲良く大学でバラバラになってもよく三人で遊んだオタク仲間でもある友人達。彼等に会うために駒王町に来たのだから何としても情報を得たいのだ。
「正直、アドリビトムって言う組織に接触できれば一番楽だったんだがな……」
「えっと、確か友達の一人が関わっている可能性が高い組織ですよね?」
「ああ。一人がそれに関連する能力を持っているからな」
アドリビトム――「テイルズオブザワールドレディアントマイソロジー」というテイルズシリーズの歴代キャラが共演するゲームに出てくるギルドの名前だ。言葉自体は音楽記号で自由を意味するad libitumのため100%確実に関わっているとは断言はできないがそれでも接触する価値はあるのだが、運が悪いのか遭遇できずにいる。
「とりあえずは掃除終わり次第、例の神器所有者について調べるぞ」
「仕事が出来る有能さを見せて『殺すのは惜しい』と思わせるんすね」
「何もしないよりはマシってだけだがな」
話しながらも三人はテキパキと廃教会内を片付けていく。気づいた時には寝床として充分に整っていた。
「これでよし」
「やっと終わったぁ~」
「お疲れ様です」
「アーシアもお疲れ」
掃除が終わりお互いに労いの言葉をかける。
「それじゃ早速調査するぞ」
「調査すると言っても何を調べるんすか?」
「主に情報の裏取りだな。事前に貰った情報だと『悪魔の領地にいる強い反応を出す神器持ち』ぐらいしか情報がないからな」
ちなみに神器持ちは当然、
「中身次第では協力できるかもしれないからな」
「兄貴の友人かもしれないと?」
「可能性はある。そうでなくても近くにいるかどうかは分かるはずだ」
友人が一誠なら原作そのままの性格などあり得ないという信頼、そうでなくとも変態な性格を矯正しようとするだろうという考えを自分も含めて共通して持っているからだ。
「居るとしたらDQのスキルを頼んだあいつだろうしな……なんだかんだ真面目だからそばにいたら放っとかないだろ」
フリードは独り言を呟きながら考え込む。
「兄貴、兄貴」
「ん?」
「結局どうやって調べるんスか?」
「ああ、それは――」
情報を集めるための方法をフリードは口にした。