幼馴染が無双するそうなので便乗したいと思います。 作:馬刺し
「あ〜!やっとあっくん来た!もう、遅刻するかと思ったよ〜!」
俺が広場へと歩いていくと、こちらの姿を見かけたメイプルが、大きな声で話しかけてきた。
お前有名人なんだから、ちょっと大人しくしといてくれよ……こっちまで目立っちゃうじゃん。
「本当、私も焦ったよ。ログインはしてるのに、中々広場に来ないから……集合場所忘れたのかと思った」
目立ちたくない気持ちは俺と同じなのか、メイプルから少し離れた位置に立っていたサリーまで、そんなことを言ってくる。
「悪い、悪い。ちょっと気合入れてきた。これだけ準備して、流石に忘れることはないだろ……にしても、凄い人の数だな」
スペースは問題なさそうだな……なんて、予想していた広場には、人が密集しており、人混みが得意ではない俺は、早くも人酔いを起こそうとしていた。わ〜、超脆弱で悲しい。
「確かに、人がこんなにたくさん集まってるのは、初めて見たかも……少なくとも、1回目のイベントよりは、全然多い気がする!」
「パーティー単位で参加できるのも、人が多い理由にはなりそうだよなぁ……」
人が多いことで、若干やる気がマイナスされている俺に対して、メイプルを見れば……前回のイベントに参加していることもあり、緊張というよりは、ワクワクが勝っているというような、様子である。
サリーも、我関せずといった様子で目を瞑り、大会開始に向けて、集中力を高めているようだった。
うん、この子たち、メンタルがタフなんだよな。いや、俺も人混み酔いをしてるだけで、緊張してるわけじゃないんだけどね……
広場に集まったプレイヤーたちが、イベント開始を今か、今かとソワソワしている時に、メイプルは何やら知り合いを見つけたようで、トコトコとどっかに移動してしまった。
開始までには戻るんだよ〜、と保護者の様な気持ちで、その後ろ姿を見送ると、メイプルが向かった先とは逆の方向から、澄んだ女性の声が、途切れ途切れに聞こえてきた。
「我らーーー帝の国のーーーが、ーーーー!ーーー!」
同じ様な衣装に身を包んだプレイヤーが、周辺に集まっているのを見るに、擬似的なギルドの様なものなのだろう。
そろそろギルド制度が、導入されるらしいので、早めに作り始めたのかもしれない。
にしても……凄え人気だな、あの赤髪の女性プレイヤー。美人さん感があるのも、当然人気の一つなのだろうが、それだけではなさそうだ。
堂々と演説の様なものをしているその姿に、一部のプレイヤーは信仰心を持っているかのような、振る舞いを見せている。
こういうカリスマ性、というのも一種の才能と言えるのだろう。
ボーッとそちらの方向を見ていると、何故だろう……遠くにいるはずの彼女と、一瞬目があったような気がした。いや、気がした……ではないな、現在進行形で目は合っている。
そして、何故だろう。
今まで会ったこともないはずの彼女は、凛とした雰囲気を少し崩し……ちょっとだけ、何か共感しているような表情を、こちらに向けている……ような気がする。
……え、何?
もしかして、あなたも人混み酔い寸前だったりするの?
一度そう思うと先程までは、何あれ怖いだった彼女の印象が、何あれ可愛いに変わってしまう。
いや、まさかな……先程まで堂々と演説を行なっていた人が、人混みを苦手としているわけがない。
もう一度視線で、先程の表情の意味を聞きたかったのだが……アイコンタクトを送ろうとした瞬間、運営からのアナウンスが入った。
いつの間にか、メイプルもこちらへと戻ってきている。
それから行われたのは簡単なルール説明と、注意事項……特に、一度ログアウトしたら、二度とイベント復帰はできない、ということを念入りに説明された。
恐らく、時間加速機能を使用するからだろう。
もう一つ新たに知ったのは、前回金メダルを得ているプレイヤーの救済措置についての話。仮に、このイベント中に金のメダルを奪われてしまった場合にも、イベント終了後に銀のメダルが5枚送られることになっているらしい。
……俺が、わざとパーティーから外れて、打ち合わせ通りにメイプルを倒せば、5枚の銀メダルをノーリスクで確定ゲット出来るのでは……などと黒い考えを浮かべたのは、秘密にしておこう。
「二人とも、ログアウトはしない方向でいいよね?」
一応確認だけど、という前置きを挟んでサリーがそう聞いてきたので、俺とメイプルは同時に答える。
「「当然!」」
そんな俺たちの様子に、ニヤリとサリーが嬉しそうな笑みを浮かべて……俺たち3人の体が光に包まれた。
◇◆◇
澄んだ空気、心地よい風が頬を撫でる。
俺たちが降り立った場所は、草原のど真ん中……なんなら、どちらを見ても草原しかないと言っても過言ではない、そんな場所だった。
「……ここなら、幾らでも寝れる気がする」
「確かに!」
思ったことを口に出した俺に、メイプルが力強く同意した。
そんな俺たちの姿を見て、サリーが苦笑いしながら声をかける。
「……気持ちは分からなくもないけど、まずは探索だよ。3人分のメダルを集めるなら、400枚中の30枚……全体の10%近くを回収しないとだから、そんなに余裕はないよ〜」
その言葉で、折角の旅行気分は完全に、普段の攻略モードに戻ってしまった。
……戻った方が、攻略としては正しいのだろうが、なんだか勿体無い感も拭えない。現に、メイプルは気分が下がってしまったのか、体を地面にめり込ませて、その勢いまま落下してしまーーーーは?
「メイプルうぅぅ!?」
「うわぁ!?どうしたの、急に叫んでって……あれ?メイプルは?」
地面に沈み込んでいってしまったメイプルの姿を見て、俺が絶叫していると、前方の索敵兼、次に向かう目的地を探していたサリーが、驚いてこちらを見る。
そして、当然姿の見えないメイプルに、疑問を持った。
「地面に沈んでった」
「……は?え、ちょ、はい?」
端的に説明してみると、珍しくサリーが狼狽えていた。そりゃそうだろ、俺自分の目が信じられないもの。
そんな困惑状態に陥った俺たちに、原因となった少女から、声がかけられた。
「おーい、あっくん!サリー!なんか、洞窟に落ちちゃったよ〜、隣に道が続いてるんだけど、どうする〜」
地上にいる俺たちからすると、何もないところから声が聞こえてくるため、少し変な気分になるのだが……まあ、それはいい。
試しにメイプルが沈んで行った位置に移動して、左手を地面についてみる。
すると、左手は何の抵抗も受けることなく、スルッとその地面を貫通してしまった。
「どうする、サリー?」
念のためパーティーのブレインに指示を求めると、予想通りの返事が戻ってくる。
「もちろん、乗り込むよ!」
好戦的な笑みを浮かべた彼女に、応じるように俺もニヤリと片頬をあげる。
俺たちの第二回イベント初の、ダンジョン攻略が、始まろうとしていた。
「……っと、意外と高さあったんだな。下手に落ちたら、死んでたかもしんないな」
本当に存在した地下洞窟の地面に降り立ち、そんなことを呟くと、隣にはそんな心配が全く必要なさそうなメイプルさんが、立っていた。
……頭から落ちても、ノーダメなんだろうな。
ジト目で彼女を見ていると、隣にサリーが降り立ってくる。
こちらは完璧な着地と言っていいほどの技術で、衝撃を最小まで抑えていた。
流石の一言である。
今度、PS特訓でもつけて貰おう、と心のメモに記しておくことにした。
「それじゃあ、行こう!横穴があったのは、こっちの方だよ〜!」
俺たちが下に来るのを、随分と待ちわびていたのか、メイプルは満面の笑顔で進むべき方向へと俺とサリーの腕を引っ張ってくる。
そんな様子を見て、俺とサリーはついつい苦笑してしまうのだった……何あの子天使か、何かかな?
そう思ったのは、きっと俺だけでなくサリーも同じだったはず。
「……そう言えば、闇夜ノ写は使ってないけど……悪食は温存か?」
一回目の雑魚ゴブリンの襲撃を跳ね除けた後、『白雪』を使い続けているメイプルに、そう聞いてみると、彼女は少し不満そうな表情で、その質問を肯定する。
「1日10回しか使えなくなっちゃったからね……しっかりと、使い所で使わないとなくなっちゃうよ……それに【悪食】があることで、自分がどれだけ楽をしてたのか分かっちゃって……もうちょっと、しっかり大楯を使えるようにしないと!」
どうやら不満だった理由は【悪食】の使用回数が定められたことではなく、自分のPS不足を実感させられたから……だったらしい。
向上心目一杯なようで、何よりである。
二人してサリーに、回避技術のコツを聞いたり、などと歩きながらも技術向上に努めていると……俺とサリーの聴覚が、敵ゴブリン、第二陣の襲来を感知した。
「「【ファイアボール】!」」
「……そんで【刃状変化】!」
同時に放たれた炎弾は、一つは敵の方へ、もう一つは長剣に変形されて、少年の左手へと握られた。
そして狙いを定めた後、長剣はスムーズに打ち出される。
アサギはイベント前の二週間で、既に全属性の魔法スキルを取得し終わっており、今やそのスキルの数は、多芸なサリーにも匹敵する程であった。
如何にゲームにのめり込んでいたかが、よくわかる。
サリーによる炎弾が、第二陣の雑魚ゴブリンを殆ど倒してしまい、続いて放たれた長剣が、唯一立ち上がろうとしていた第二陣のリーダー格らしい、少し大きめのゴブリンの首を刈り取っていく。
メイプルが、ようやくその存在に気付いた頃には、既に戦闘は終わっていた。
攻撃する間も無く、本当に一瞬で戦闘を終わらせてしまったアサギとサリーの姿は、ゴブリンからすれば、恐怖そのものと言っても過言ではなかっただろう。
余談だが、この後の第三陣ゴブリン軍団は、一人だけ戦闘に参加出来ず、鬱憤をため込んだメイプルの【毒竜】によって虐殺されていったという。
……俺とサリーはその様子を見て、ため息をつくことになったのだが。
そんなこんなで、入り組んだ洞窟の先に進むこと一時間程だろう。
これでもか!……というぐらいボス部屋感を全開でアピールしている扉の前に、俺たちは立っていた。
「メイプル、闇夜ノ写を装備しておいて。アサギも武器の確保お願い……それと私はボスの姿を確認次第、横からから接敵する。メイプルは私の補助をお願い。それで、アサギなんだけどーーー」
幸い目立った障害もなく、メイプルの【悪食】は10回分きっちり残っている。
そのことを踏まえて、サリーは対ボスの作戦を話し始める。
俺たちがボス部屋に突入したのは、その5分後のことだった。
◇◆◇
「……あれ、ボス部屋じゃなかったのかな?」
このボス部屋に入ってしばらく経つが、ボスモンスターと思われるモンスターの姿は見られない。
「いや、おかしい……絶対ここに……ッ!?」
サリーがメイプルの言葉を否定し、警戒しながらゆっくりとエリアの中心へと、移動していったその瞬間……疑問を抱き、微かに彼女の警戒が緩んだ瞬間、彼女の上空から、そのボスモンスターは姿を現した。
その攻撃を、サリーが躱すことが出来たのかはわからないが、彼女に振るわれた怪物の右腕を止めるため、飛び出した人物がそこには居た。
「【カバームーブ】!【カバー】!」
その一言で、サリーの元へと一瞬で移動したメイプルは、その黒い大盾をサリーと怪物の間に割り込ませて、相手の攻撃を弾き返した。
それと同時に【悪食】が発動し、怪物に少なくないダメージを与えていく。
「ありがとう、メイプル!…………ふぅ、しっかり集中しないと……【ダブルスラッシュ】!」
メイプルがダメージを与える様子を見ながら、サリーは自分の頬をパンッと叩いて、息をついた。
どうやら、気合を入れ直したようで、そこから先は流れるような攻撃を見せていく。
怪物もとい、ゴブリンたちの主であろうそのボスモンスターは、彼女らの攻撃に怒りを感じたのか、攻撃の速度を跳ね上げた。
それでも、しっかりの集中しているサリーに攻撃は当たらない。
それどころか、彼女はもう一段自らの速度を上げていく。
「【超加速】!」
なんでも、一分間の間AGIを50%増加させることができるらしい。
慣れていない人ならば、目で追うことが困難になりそうな程の速度を保ったまま、怪物の全身に斬り傷をつけていく幼馴染が、こちらに目を向けた。
「……はぁ、やっと出番か」
これまで俺が、戦いを傍観していたのには、理由がある。
「【潜影】解除っと……ぶちかますとするか」
そう、俺はこれまで影の中にいたのだ。
使い続けた先に【潜影Ⅳ】に強化されたこのスキルなのだが、攻撃不可の制限は外れず、代わりに潜影中でのHP、MPの自動回復や移動速度の上昇、潜影可能時間の増加が行われた。
現在では、最高3分間影の中に潜むことができる。
まあ、今、そこに関してはなんでもいいか。
とりあえず、俺がするべきことは、全力で怪物に攻撃することだけだ。
こんな作戦に出たのにも、理由はある。
メイプルの【毒竜】は新月のスキルスロットに付けられたスキルだ。
そのため、MPの低いメイプルでも日に5回まではMP消費0での連発を可能としている。
……前回の大会では
言いたいことは……メイプルの持つ強技は、殆ど全てに回数制限が存在している、ということだ。
よって、連戦の可能性が含まれる今回のイベントに対して、俺とサリーが立てた対抗策は、メイプルに多く攻撃される前に、なるべく俺がダメージを与える……というものだ。
ようやくゲーム初心者から抜け出しそうとしているメイプルを"温存"という概念で混乱させたくないため、俺とサリーが勝手に動いているだけだが、作戦は簡単だ。
サリーがメイプルよりも攻撃をして、タゲを取った後、俺が急所部分を連打して仕留める。
ただそれだけのこと。
だが、その結論に至るまでは少し長かった。
俺が最初から、主攻を担うという作戦もあったのだ。
しかし考えていくと……メイプル程ではないにしろ、俺も一つ一つの攻撃を行う度に、MPをかなり消耗していくタイプ。
よって、俺の消耗とメイプルの温存を考えた末に……サリーがタンクをして、俺が弱点以外の無駄弾をなくして、削る。
その作戦に落ち着いたのである。
影に潜っていたのは、万が一にも俺がタゲを受けることがないようにするため、そして急所を確実に当てられるよう、こちらへの警戒を0にするためである。
「ふぅ……【ペネトレーター】!【超速交換】!」
敵頭部に、炎の長剣が突き刺さると、同時に次弾を装填、今回はストレージ内に一本しか、武器を入れてきていないため【超速交換】によるランダムでの装備変更だろうと、何を装備するかなど確定であった。
「【シングルシュート】!」
撃ち放たれた『飛天』が先程と同様の位置に突き刺さる。
その二連撃により、多大な被害を受けた怪物は暴れ狂うと……大きな怒声を上げた。
正直、考えられる中でも最大威力の攻撃だったので倒せなかったのは予想外だった。流石はボスモンスター、と言ったところか。
漸くこちらの姿を確認したゴブリンの主が、メイプルとサリーがいた方向から飛び出して、こちらを踏み潰そうとしてくる。
確認してみると、その怪物の残り体力は一割を下回っており、俺は次での瞬間、この戦闘が終わることを確信した。
「【カバームーブ】!」
焦った表情で、こちらへと飛んで来てくれた少女は、勇猛にも飛びかかってくる怪物の前に立ちはだかる。
その彼女の優しさに、ほっこりとした気持ちになりながら、俺は右手で手持ち最後の武器を握った。
「【悪じーーーへ?」
そして、その少女の頭にポンッと手を乗せてから、
右腕を薙ぎ払うようにして、こちらに振り下ろしてきた相手の様子が、よく見えた。
屈み込むことで、その攻撃を避ける。
そして、右手に握った『蒼刃・凛』を巨体のどこかしらに突き立てたまま、引き裂くようにして、飛び込んで来た怪物とすれ違う。
最後、消える直前に何故反撃を受けたのかわからない、というような表情をしたそのゴブリンの前に少年は立った。
そして、
「投げるだけしか能がない、なんて思った方が悪いんだよ」
そう言って、愉しげに少年は笑った。
報酬
銀のメダル2枚
ゴブリンキングサーベル