幼馴染が無双するそうなので便乗したいと思います。   作:馬刺し

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12話 幼馴染と奥の手。

「………攻撃を、やめた?」

 

「わからない。一応、メイプルの近くに集まっておこう?私も、一度止まっておきたいところだったし」

 

 相手の体力が、五割を切ったところで突然今まで嘘のように続いていた、氷の礫による攻撃が止んだ。

 それと同時に、怪鳥はかなり高い位置へと移動していく。

 それこそ、全力で攻撃しても避けられてしまうほどの距離。

 

「りょーかい……何するつもりだ?」

 

 サリーに返答するも、一度怪鳥へ目を向けた瞬間……奴が嘲笑った気がした。

 

 躊躇いなく勘を信じる。

 放っておくのは、得策じゃない。

 

「【シングルシュート】!」

 

 時間をかけたくなかったため【刃状変化】を使用することなく、懐に収まっていた『蒼刃』を抜刀と同時に撃ち放つ。

 

 その結果……相手に攻撃が当たる直前で、その刃が凍りついた。

 『蒼刃』はそのまま、部屋の中央へと真下に落ちてザクりと床へと突き刺さる。

 

「アサギ!?って……嘘、でしょ」

 

 【破壊不能】がなければ、武器の耐久値など一瞬で消し飛ばされていたかもしれない。

 そう感じるほどの冷気。

 

 未だノーダメを保ち続けている程の回避能力を持つサリーでさえ、無意識のうちに一歩足を退かせた。

 

「………行動中は無敵ってか」

 

 恐らく、五割の体力を削った後に起こす行動を、封じられることがないように、今だけに限り冷気による防御が、発動しているのだろう。

 ……永続的に、この防御だったら倒せなくて、泣く。

 

 怪鳥の本気はそこからだった。

 

 メイプルとサリーの方向を一瞥した後、地上へと降り立つ……いや、地面に爪を深く突き立てたのである。

 その様子を見て、何をするつもりなのかを予測……メイプルと俺の位置、怪鳥の降り立った位置、それらを把握した瞬間『戻り切れない』と即判断を下した。

 

 

 

 怪鳥の口が開かれると、そこには初めて見る魔法陣が展開されている。

 

 そして……

 

「あっくん!…………この、【悪食】!」

 

「アサギ!!!」

 

 極光が放たれる。

 

 当然、メイプルは【悪食】を消費して、その輝きを正面から迎え撃つ。

 だが、自分の背後には少年の姿はない。

 大楯を持って、攻撃を止め続けている彼女だからこそ、この一撃をまともに受ければ、タダでは済まないことが、理解できてしまった。

 

 攻撃が止む。

 

 それでも、あっくんならば……と希望を捨てずに、前を向いた少女の前には、渾身の一撃を放った怪鳥が、意外そうな顔でこちらを見ているのみ。

 

 そこに……このボス部屋に、少年の姿は存在しなかった。

 

 

◇◆◇

 

「……くも、……あっくんを!」

 

 この世界に来て、初めてパーティーメンバーの消滅を体験したメイプルが、冷静さを欠いてしまったことは、幾ら何でも仕方のないことだったと言える。

 だが、次に撃ったその手は、間違いなく悪手だった。

 

「メイプル、待って!」

 

 サリーによる制止の声も聞かずに、突貫を始めたのだ。

 怪鳥が声を上げる。

 メイプルを迎え撃つように、床から鋭く尖った膨大な量の氷の棘が生成されていく。

 

 そして、その攻撃は……

 

 残り五回を残していた【悪食】のストックをラスト一回まで奪い取っていった。

 衝撃に耐え切れず、メイプルの体が宙に舞う。それでも、ダメージだけは入らなかったことは、VIT極振りとしての意地だったのかもしれない。

 

 背中から地面へと叩きつけられたメイプルが見たものは、怪鳥が光り輝く魔法陣を展開しようとする様子。

 大楯をかざす余裕すら無い彼女を救ったのは、冷静さを欠いていないもう一人の仲間だった。

 

「メイプル、こっち!」

 

「……っ!【カバームーブ】!」

 

 メイプルの姿が瞬間移動した一瞬遅れで、先程の光が再び放たれる。

 その時になって、ようやくメイプルは、今の自分がどれだけ無謀なことをしていたのか、ということを理解した。

 

「ごめん……サリー」

 

 謝って済む問題かといえば、それは違う。

 だが、謝罪しないのはもっと間違いである。

 そう考えた末の、一言。

 そんなメイプルに、サリーは優しく笑いかけた。

 

「いいよ……私も、気を回せてなかった」

 

 ポンポンと、メイプルの頭に手を置いてから、彼女は立ち上がる。

 アサギに甘えることも多々あるが、本来の彼女は、姉御肌で面倒見の良い性格をしている。

 

 そんな彼女の怪鳥を見据える眼光に、メイプルに向けていた温かさなど、一切存在しない。

 

「でもね……負けるつもりなんて、ない」

 

 この状況下で放たれた言葉は、勝利宣言。

 正直、一人では勝ち目が薄い。

 連携のサイクルは、既に破綻している。

 

 だが……既に布石は打たれているはずだ。

 彼はタダでは転ばない。

 信頼や希望、期待ではない。それが事実だ。

 だから、私も諦めない。

 彼が何を考えているかなど、わからなくても構わない。ただ一つ言えることは彼は諦めてなどいなかった、ということだ。

 

 メイプルよりも後ろにいたサリーだけが気がついたこと。

 少年の姿が極光に飲まれる直前、彼は不敵な笑顔を浮かべていたのだ。

 

「第三ラウンド……こっちから、行かせてもらうよ!」

 

 今のメイプルを当てにはできない……いや、当てにしてはいけない。

 ここが彼女の正念場。

 

 放たれた氷の礫を、見切り続けていると、先程メイプルを吹き飛ばした氷の棘による攻撃が向けられる。

 その広範囲攻撃は……一度見た。

 

「【跳躍】!【超加速】!」

 

 高く飛び上がると同時に加速。

 怪鳥の元へと辿り着くと同時に、スキルを発動。

 双刃によるラッシュが始まる。

 

「【ダブルスラッシュ】!【パワーアタック】!【スラッシュ】!……ッ!【ウインドカッター】!」

 

 背中に張り付いての連撃に、怪鳥はサリーを振り払うために高速回転を行う。

 しかし、その行動を読んでいたサリーは、背中を足場に体を宙へと回し、空中にて【ウインドカッター】を使用。

 

 だが……彼女の単騎性能にも限界はある。

 

 どれだけPSが高くても、ステータスの差が大きすぎれば敵わない。

 

「……チッ!見えてるのに、体が……追いつかない!」

 

 接近戦を仕掛けてきた怪鳥に、舌打ちをしながらも、被ダメだけは防いでいく。

 それが出来ているのも、先程の【超加速】の効果時間のみである。

 残された時間は十秒とない。

 

 そして、遂に攻撃がサリーを捉ようとした瞬間……

 

「……そろそろ、忘れる頃だと思ってたよ!」

 

 彼女はニヤリと口角を上げた。

 

「【カバームーブ】!【悪食】!!!」

 

 黒の鎧に身を包む、極振り少女が立ち上がる。最後の【悪食】を使い、カウンターを決めた。

 そのパターンは……奇しくも戦闘開始時と全く同じ。

 

 違うのは、次に放たれるスキルの威力。

 パキリ、パキリと闇夜ノ写の表面上に浮かび上がっていた結晶が音を立てて割れ始める。

 その正体は、これまで【悪食】により溜め込んだMPタンク。

 

「全力のぉ!【毒竜】!!!」

 

 過去最高の攻撃を受け続けた彼女は、過去最高の攻撃を撃ち放つ。

 彼女の全てをかけたその一撃は、相手の体力を大きく削り……残りHPを二割まで持っていった。

 

 

 

 メイプルが片膝をつく。

 体力面の問題ではない、精神面の疲労が大きかったのだ。

 

 そして、何よりも大きかったのは。

 

『全力の【毒竜】を撃っても、怪鳥を倒すことなんて出来なかった』

 

 その事実。

 

 そして、メイプルとは違った意味で、精神面の疲労を感じ始めたのはサリー。

 単純に、極限集中状態が切れ始めたのである。

 

「それでも……それ、でもーーー」

 

 顔を上げたサリーが、メイプルが見た光景は信じられないものだった。

 

 上空へ移動していた怪鳥が、黒色に染まっていた。

 黒化が進んでいくと同時に、怪鳥の体力が減っていき、その現象は残り一割で止まった。

 

 命を削っての超強化。

 怪鳥にとっての奥の手。

 正真正銘、最後の最後の超強化だろう。

 

 言葉を交わすこともなく、メイプルとサリーは中央へと集まった。

 

 サリーのゲーマーとしての本能が言っていた。

 アレに手を出してはいけないと。

 

 だが、それを感じ取ったところで戦闘は終わらない。

 せめて、受け流して見せる。

 そう心の中で決意したサリーは、次の瞬間、自分の想定が甘かったことを悟った。

 

 翼を折りたたみ、目で追うことが出来ないレベルの速度で、怪鳥は急降下してくる。

 目視不可の剣や、対人戦に於いての透明化ならまだわかる。

 だが、空中戦闘型の大型ボスモンスターの姿を見ずに、その攻撃を受け流すことなど、流石のサリーでも……いや、誰でも不可能だ。

 もう、頼れる【悪食】はない。

 それでもと、飛び出したメイプルの大楯と黒化怪鳥の突進が、激突する。

 

 

 

 

 そして……この瞬間。

 

 

 

 

 蹂躙される予定だったこの闘いは、その未来を変える。

 

 

 大楯が粉々に粉砕される。

 

 それと同時に怪鳥の体が、メイプルの胴体に直撃しようとする。

 

 いや、一瞬だけ触れたのだろう。

 溶けるようにして胴体部を覆っていた鎧が破壊される。

 

 深々とメイプルの体を貫こうとした、その直前に……怪鳥の下部分から、霧のようなものが発生、そしてその姿が変化した。

 

 具体的に言えば、黒から白へと。

 それが意味することを端的に言えば、強化状態が終わったこと、であった。

 

 メイプルの体が、吹き飛ばされる。

 だが、そのHPは一割を切るものの、ギリギリで残っていた。

 強化が解除されたことにより、怪鳥の瞬間火力が下がったのである。

 

 怪鳥はそのまま連続で、サリーを襲う。

 

 サリーは強化が解除される、という想定外の後押しを受けたのだが、黒化された際に距離を詰められ過ぎていた。

 

 しかし……その攻撃がサリーを傷つけることを……メイプルは許さなかった。

 

 盾は持っていない……相手の近距離攻撃は僅かだが自分のVITを上回っているため、ダメージを受けてしまう。

 

 今までの闘いを振り返れば、今のHPで、次の衝突を耐えられる筈がないことを……その行動をとることで、自分が死んでしまうことを、メイプルは理解できていた。

 

 それでも……彼女は吹き飛ばされたその先で、そのスキル名を叫ぶ。

 

「【カバームーブ】!」

 

 両手を広げて、サリーと怪鳥の間に入ったメイプルは、再び爪による攻撃をモロに受けてしまう。

 地面に叩きつけられた彼女のHPが、すごい勢いで減っていき……土壇場でスキルを拾ったのか、彼女の体力はミリ単位で、残った。

 

 サリーは叫ぶ。

 ここで決められなければ、自分が守られた意味などないと。

 

「【ウインドカッター】!【ファイアボール】!【ダブルスラッシュ】!」

 

 怪鳥が暴れ狂う。

 そして……近距離からのあの魔法陣展開。

 

 勢いそのままに深追いしてしまったサリーを、嘲笑うかのように三度目の極光が放たれる。

 

 本当に、嘲笑(わら)っていたのはサリーだということも知らずに。

 

「【蜃気楼】っと、それじゃ、バイバイ」

 

 二度三度、振り抜かれた双刃が怪鳥の全身に切り傷を増やしていき、ついにその巨体が地面に伏す。

 

 絶望と同様に

 

 勝利は、突然と訪れたのだった。

 

 

◇◆◇

 

 強化状態がなぜ、終わったか。

 それは一重に"第三者"の介入があったから以外の何者でもない。

 

 カツリ、カツリと靴音が響く。

 左腕を回して、悠々と彼女らの元へ歩いていく人影が一つ。

 

「……ふぅ、効いて良かった。無事ですかい、お二人さん?」

 

 怪鳥とメイプルが激突したのは、部屋の中心部……それは、ある物が落下した位置でもあったことを、覚えているだろうか?

 

「【凍結封印】……役に立ったろ?」

 

 少年こと、二人の幼馴染み兼思い人の姿が……プレイヤー、アサギの姿が当然のようにそこにある。

 彼は中央に突き刺さっていた『蒼刃』を抜きながら、最後の援護についての種明かしをする。

 

 『蒼刃・凛』の真骨頂。

 

 スキル【凍結封印】

 

 物体貫通時に任意発動できる。

 貫通箇所から同心円状に、1分間、触れたもののスキルを無効化する冷気を、広範囲に発生させる。(パッシブスキルは別)

 自分のみ、その効果から逃れる。

 2時間後、再使用可。1日に3回まで使用できる。

 

 その効果をメイプルに当てず、怪鳥に当てる、という完璧なタイミングで発動したのだ。

 最後の最後に最高の仕事をしたと言えるだろう。

 

 飄々とした様子で、お疲れさん、なんて声をかけてくる少年にメイプルはツッコミを入れるのだった。

 

「な、な、なな、なんで、なんで生きてるの!?」

 

「まぁ、そんな気はしてたけどね……」

 

 その驚きようが、ジト目でこちらを見てくるサリーと正反対で、俺はついつい苦笑をこぼしてしまうのだった。

 

◇◆◇

 

 少し時間を遡る。

 

 俺が『戻りきれない』と判断を下してから、極光が放たれる0.3秒ほど前の間に、俺は全力でメニュー画面を操作していた。

 そして、一つのアイテムを取り出すと、間髪入れずにそれを地面へ叩きつけた。

 

「…………間に合えっ!」

 

 そのアイテムの名は『汚染された悪夢』

 あるクエストで、悪夢しか見ることを許されない、という呪いを受けた男性に清めの水を渡すことで得られる……というか、押し付けられるアイテムである。

 その効果は……モンスターを影で包み込み、悪夢を見せる。

 効果時間は、モンスターの抵抗率による……というもの。

 

 それを、自身へと使用したのだ。

 

 システム的に、可能なのかどうか分からなかったため、最終手段として用意していたのだが、結果的にその効果は発動した。

 

 極光に包まれる直前には、自信を影が覆っていくのを見て、ニヤリと笑いを、浮かべてしまったぐらいである。

 当然、影を発生させるスキルなので【潜影】を使用。

 三分後ぐらいにしたら、適当に帰ろうと思っていたのだ……しかし、簡単には戻らさせてもらえなかった。

 

 

 影のような存在に、十回殺された。

 

 そしてソイツから十回仲間を、幼馴染を失う感覚を味わうハメになった。

 

 お陰様で【ストレス耐性中】というスキルを取得したのだが、もう二度とこんな光景を見たくはなかった。

 

 まさにそれは、悪夢だったのだ。

 

 なんとか、影のようなものを振り払うと、俺はボス部屋の隅の方で寝っ転がっていた。

 実は、メイプルが特大毒竜を生み出した時には、既に帰ってきていたのである。

 では何故、戦闘に参加していなかったのか?

 

 それが、現在進行形で俺を苦しめている一番の問題だった。

 

 

「あっ、言っとくけど……今の俺、装備の+値を含めて……HPとMP以外の全ステータス0になってるから。殴ったりしないでね、死んじゃう♪」

 

「「嘘でしょ!?」」

 

 なんか悪夢に加えて、呪いを喰らったのか、一時間全ステータスが0になるデバフを喰らっていたのだ。

 AGI 0の極振りの気持ちがよくわかった。

 

 俺の予想では、悪夢を見せる影に覆われたわけではなく、影そのものに入り込んでいったから、悪夢もデバフもここまで重いものになったんだと思う。

 

 だって、そういうアイテムじゃないもの。

 使用法を守らない俺が悪いな、うん。

 二度と使わない。

 

 HPが残り1だと暴露したメイプルに、サリーが全力でヒールを使っているのを眺めながら、思う。

 まぁ、何はともあれ、俺たちは生きて怪鳥との闘いを終えることが出来たのだ。

 少しぐらい、勝利に酔いしれるのも悪くないだろ……と。

 

 青いパネルを表示して、時間を確認するともう既に18時を回っている。

 俺はストレージから、必要な道具やら何やらを取り出して、二人に声をかける。

 

 

 

 

 

「おーい、お前ら!B B Qやろうぜ!」

 

 

 

 

 

 その後、攻略し終わったボス部屋にて BB Qを行う三人のプレイヤーの様子が、運営側の人々を困惑を通り越して、呆れさせることになるのだが……それはまた別の話だ。


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