幼馴染が無双するそうなので便乗したいと思います。 作:馬刺し
「いやぁ……食った、食った!BBQってのもやっぱりいいもんだな〜」
「ほんとにね……ずっと集中してたから、助かったかも」
俺とサリーは現在、ボス部屋中央にて、ゆったりと寛いでいる。
具体的に言えば、俺がストレージから取り出した椅子やらクッションやらを使って、リラックスしていた。
ここは攻略済みダンジョンとして扱われる筈なので、訪れることができるプレイヤーはいないだろう。
よって襲撃の可能性が0であるため、超快適な休息可能空間と化していた。
……所々に存在する【毒竜】の毒だまりに触れさえしなければ、だが。
今は亡き
そんな俺に対して……
複雑な表情を浮かべながらも、ジト目を向けてくる少女が一人。
なんか、似た状況が前にも合ったような……なんて既視感を覚えながらも声をかけた。
「どしたよ、メイプル?……お腹でも壊したか?豚肉は焼いたぞ?」
わざと前例に倣って同じように聞くと、メイプルも、そのことに気がついたのか苦笑しながらも返事をする。
「……あっくんだけ、卵を貰えてなかったから、いいのかな?って」
メイプルが話しているのは、報酬として新たにゲットできたモンスターの卵、というアイテムのことである。
温めると孵化する、という情報の少なさだが、おそらくテイム可能なモンスターが生まれるのでは?と俺たちは予想していた。
緑色、紫色の二種類の卵が存在していて、俺が怪鳥のドロップ素材を多めに貰う代わりに、それらの卵はメイプルとサリーが得ることになっていたのだ。
因みに、獲得できたメダルは5枚。
メダルについて言えば、もしもの時に備えて、対プレイヤーならほぼ死なないであろうタンクの二人に半分ずつ確保して貰っている。
メイプルが不満そうな顔をしていたが、俺はお前らと違って普通に死ぬからね?
……まだ、死んでないけど。
正直、探索が楽しいので、報酬は彼女らの分の20枚が集まれば、俺は充分かな、なんて思っている。
それを口にすると『あっくんが取らないなら、私もスキル取らない』なんて、駄々をこねそうな奴がいるので、最後二日間ぐらいの夜は、単独行動でプレイヤーを狩ったことにしてメダルを集めたって嘘をついておこう。
「また、いつか取れるチャンスは有ると思うよ……その時は手伝って貰うってことで手を打ってくれ」
「……ん」
頷きながらもまだ何処か釈然としないような、顔をするメイプルを見てから、視線でサリーに助けを求める。
「ほら、メイプル。折角譲ってくれた卵なんだから、もっと嬉しそうな顔でいないと!アサギも、そっちの方がいいでしょ?」
ほんと、お前最高だわ。
メイプルの扱い方をよく心得ていらっしゃる。
『それも、そっか!』と言った様子で、笑顔になってくれた天使を見ながら、俺はいい仕事をしてくれたサリーと、拳を合わせたのだった。
この時、俺は思ってもいなかった。
今、交わした約束と胸に秘めた計画。
その両方が叶わない……なんてことを。
俺は予想出来なかった。
◇◆◇
結局、俺たちが怪鳥の巣から出てきたのは、もう日は沈んでいた。
所謂、夜の部が始まりそうな時間帯である。
巣を出発する時、三つの魔法陣から出る場所を選ぶことができたので、剛運のメイプルに選択を任せたところ、俺たちが飛ばされたのは、廃墟エリアのようだった。
運営がプレイヤーを飛ばした付近に、メダルを置くとは考えにくいので、流し見程度の確認しかしない。
暫く歩くと、森林エリアに入る。
既に22時を回っていた。
休息をして、集中力の戻ったサリーと普段から徹夜に慣れている俺が、ゆっくりとしたペースで探索を行なっていく。
メイプルは定位置で、仮眠を取らせてある。
仮眠のローテーションを回せることは、三人で探索した時の強みだった。
メイプルはSTRが0なので、俺たちをおんぶすることなど出来ないのだが。
「……そう言えばーーーー?」
「ーーーで……だからさーー!」
「ーーは……だろ……」
ポツリ、ポツリと会話続けて、俺とサリーは歩き続ける。
彼女と俺の間に存在する沈黙の時間を、苦だと思った事はない。
最近は、ゲームで会うことが多く合ったので、こうやって二人の時間を過ごすのは久しぶりだった。
「そう言えば!かえ……メイプルと一緒に、駅前デートしたって、聞いてるんだけど?」
「……そんなこともあったなぁ」
「……その反応するような、歳じゃないでしょうに……で?私には、いつ声をかけてくれるのかな?」
「……また、今度な」
「……そうやって、ヘタれる所嫌いじゃないよ?」
「うっさい」
「あははは!いいじゃん、いいじゃん!だって……よく考えてくれてる証拠でしょ?」
「……どうやって二股かけようか悩んでるだけだ」
「……そうやって、冗談で誤魔化そうとする所は嫌い」
「辛辣すぎない?」
「ま……三人でいられるなら……それでも、いいかもね」
「……ん、なんか言った?」
「いや、なんでもない!それより、なんか面白いこと話してよ!」
「唐突に無茶振りすぎません!?」
夜は更けていく。
ポツリ、ポツリと会話は静かな森の奥へと響いて、そして吸い込まれていく。
本当に……この時間は嫌いじゃない。
◇◆◇
そして、2時頃。
景色が竹林に変わって、少し時間がたったそんな時。
中の節から、僅かに光を漏らしている一本の竹が存在していた。
サリーと顔を見合わせる。
どちらの頭にも、中学時代の小太り教師が無理矢理暗記させてきた古文のことしか、思い浮かんでいなかっただろう。
パッカーン!とやって人が出てきても困るのだが、メダルがある可能性は大きいので、サリーに切り倒して貰うことにする。
パッカーン!……だと、桃の方がイメージ強いのか?
なんて馬鹿丸出しの考え事をしていると、聴覚と視覚が周りに多くのモンスターが出現し始めたことを感知した。
「メダルは一枚あったけど……うん。簡単に逃がしてくれそうには、なさそうだね」
サリーが言った側から現れたのは、それなりに危なそうな一本の角を生やした兎さん。
それも、沢山。
「これ、差し出して謝ったら許してくれないかな?」
「流石に……無理じゃない?」
これら全てで、ゴブリンキングの半分だと思うと、明らかに労力と報酬が割に合ってない。
溜息をつきながらも、俺たちは抜刀したのだった。
……メイプルは、中々起きないし。
時は進んで約三時間後。
新しい朝が来た。
それが希望の朝かは、知らないが大きく伸びをして、辺りの惨状を確かめてみる。
毒やら、焦げ焼けたやら、凍りついたやら……地面はボロボロ、竹林も崩壊とやりたい放題やった結果、俺たちは兎の殲滅を終えた。
起きてすぐに戦いに引き摺り出されたメイプルは、最初の方『うさぎさぁぁぁぁん!?』と泣き喚いていたのだが、ツノの攻撃が防御貫通持ちであることが判明した瞬間、新月を抜刀。
【毒竜】を撃ち放ち、満足気な表情を浮かべていた。
……それでいいのか?
何はともあれ
「結局、徹夜か。サリーは今の内に寝とけ……背負ってやるから」
動きっ放しのこの少女に、休みを取らせてあげたい。
「い、いや、私はーー」
「ほらほら、サリー!しっかり休まないと!」
メイプルも気持ちは同じらしく、遠慮しようとしていたサリーを無理矢理こちらへ連れてきた。
STR 0のメイプルが連れてこれたのだから、本気で嫌がっているわけではないのだろう。
しぶしぶ、といった様子の彼女を背負い、メイプルと共に歩き始める。
10分もすれば、サリーは夢の世界にご招待されていった。
俺たちの三日目は、朝からかなりの疲労を伴って始まったのである。
◇◆◇
一方 少し遡って
とある管理者たちの会話。
「おい【銀翼】がやられたぞ!?」
「はぁ?【銀翼】が?あれは、プレイヤーが勝てないような、俺たちの悪意の塊だろ?誰にやられたんだよ?」
「い、今、映像を映します!」
仕事をこなしながらも、管理者たちの視線は、映し出された映像に集中する。
そこには、黒い鎧を身に纏う少女の姿。
「め、メイプル!?いや、機動力が足りてないだろ??」
その言葉に答えるかのように、メイプルの【カバームーブ】による変態機動が、画面に映し出される。
「「「「「………………」」」」」
「ま、まぁ……いい。だが、それだけで攻略できるほど……」
沈黙はなかったことのように、誰かが声を上げる。
そして、もはや驚きすぎて冷静になってきた一人の管理者が、新たな映像を映し出す。
そこには……
氷の礫の弾幕に単身で突っ込み、そして回避し続けていく、という神業を披露するサリー。
システムの穴をついたどころではない、荒技で逃げ場となる影を作り出したアサギの姿。
そして問題の場面。
何故、コイツは自分が殺される悪夢を見て、飄々としていられるのだろうか?
メイプルに加えて、PSお化けに、精神力お化け。
アサギだけは、まだ許せるとしても、他二人は異常者である。
「…………もう、アイツらがラスボスでいいだろ」
その呟きに反論できる人物は、少なくともここにはいなかった。
勿論、このイベントが終了するまでに、アサギは異常者へと格上げされることになるのだが、その発端となる出来事が起きるのは、まだ少しだけ、先のことである。
◇◆◇
「こりゃ、凄え……絶景だな」
目の前に広がるは、渓谷。
俺たちは、その崖の上に立っていた。
この景色が目の前に広がったのは、兎を殲滅してから、竹林を歩くこと一時間程のことであった。
途中、待ち伏せを仕掛けてきたプレイヤーがいたが、メイプルの【パラライズシャウト】という、範囲麻痺毒付与技により、あっさりと無力化。
手の内を晒すのもアホらしいので、しっかりと『蒼刃』を突き刺して、トドメをさしておいた……メイプル狙いが何故、時々湧いてくるのかがわからない。
……無謀なことはやめときゃ良いのにな。
なんて、ゴタゴタがあったのはともかく、サリーが眠りについてから一時間弱である。
いくら何でも、今起こすわけにはいかないだろう。
「メイプル、サリーに膝枕でもしてあげて。俺は、ちょっとこの崖降りてくるよ」
当然、メイプルでは、崖から落ちるのが目に見えているため、サリーの護衛として活躍して貰うことにする。
「え、あ、うん……?あっくんは、一人で行くの?」
「そのつもり。サリーが起きたら連絡してね」
メダルは持っていない。
正直、装備のロストもない今なら、死んでも大きなリスクはないのだ。
初期リスポーン地点からは、少し遠いが、三日目なら、どうってことないだろう。
行ってきます、と一言だけ残し、俺は崖を降り始めた。
向かう先は、霧に包まれた谷底である!
なんて、意気込んだのは良かったのだが、特に何事もないまま、二時間とちょっとで、俺は谷底に到達した。
視界は霧の影響で封じられたも同然、よって目を閉じて耳を澄ませる。
ほんの僅かだが、水の音……川が流れているような音を聞き取った。
メイプルの方へと、谷底到達の連絡を送り降りてきた崖に、目印としての傷をつけてから、その音がする方へと向かっていく。
チョロチョロと小さな音を立てて、流れていた小川を見つけ、取り敢えず安心した。
あまり深さがあるようならば、俺は渡れないで、引き返すことになる所だったのだ。
膝をつき、小川を覗き込む。
流石はゲーム、その水はかなり透き通っていて、ゴミの一つも混ざっていない。
流石に、全身を清める訳にはいかないので、両手で水を汲み顔を洗う。
ああ、素晴らしい。
【ウォーターボール】で顔を洗ったり出来ないか、試したいことがあるのだが、うまくいかなかったのだ。
勿論、ゲーム内のため、顔を洗ったところで意味などないのだが、気持ち的にスッキリする。
泳げないだけで、水が嫌いなんてことはないからな?
むしろ、銭湯や温泉は好んで入る方である。
「使うかい?」
「おう、さんきゅ」
軽く洗顔した後、同じように隣で顔を洗っていた優男風の金髪イケメン聖騎士様から、タオルを受け取る。
中々上質なタオルだ、ボフッと顔を拭いてから、お礼を言ってそのタオルを返す。
そんな、極めて自然な動作をしてから、ゆっくりとその存在の方向へと顔を向け……
「どちら様ですか?」
自分でも恐ろしいぐらい、満面の笑みでそう問いかけた。
どうやら人は、一定の驚きを通り越すと、菩薩の如き微笑みを浮かべられるようになるらしい。
もはやノリツッコミともいえる俺の言葉に、その青年は苦笑を浮かべながら答えるのだった。
「俺はペイン、君と同じプレイヤーさ」