幼馴染が無双するそうなので便乗したいと思います。   作:馬刺し

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今回と次回 原作要素が入ります。



15話 幼馴染と暴食魔人。

「……随分と霧が濃くなってきたな。大丈夫か?」

 

 四日目早朝4時から渓谷探索を開始した俺たちは、現在下流へと足を進めていた。

 メイプルを背負った状態では、渓谷から崖を登っての脱出が不可能だということに気付いたからだ。

 

 因みに、視界が悪いためシロップと朧は彼女達が装備している【絆の架け橋】という指輪の中で眠りについている。

 シロップと朧はLv3に上がった際、自由に指輪の出入りができる【休眠】と【覚醒】のスキルを得ることが出来ていたのだ。

 

 そういうわけでメイプルを背負い、サリーと横並びに歩く、といういつも通りのスタイルで俺たちは移動しているのだが……

 

 既に出発して二時間とちょっとが経過していた。

 

 下流に進むほど霧が濃くなっているため、何かしらのギミックはあるのだと俺たちは推測していた。

 

「うん。この視界の悪さでの奇襲の警戒は、少し疲れるけど……自分の身を守ればいいだけなら、問題ないかな」

 

「私は守らなくていいから問題なし!」

 

「うん、少なくとも大楯使いが言うセリフじゃないな……ま、俺も後ろに盾が張り付いてるようなモノだからな。前方だけなら問題ないか」

 

 全方位からの奇襲に対応できるサリーに、そもそもダメージを受けないメイプル。

 時々思うのだが、俺だけ防御能力低すぎて早死しそうで怖い。

 

 彼女らは言葉通り、何度かの襲撃をアッサリと返り討ちにしている。

 本当に頼もし過ぎて、男としてちょっと辛い。

 

「……?ちょっと止まって、アサギ」

 

 しばらく歩いていると、サリーが俺の前に手を出して制止させた。

 彼女の視線の先にあるのは、一つの泉。

 

「これは……?」

 

 メイプルの疑問に、サリーと俺が目を合わせる。そして、小さく頷いた。

 

「「渓谷の終点だよ」」

 

 

 昨日、俺が眠っていた間だったのだが、サリーは単独で上流を目指していたらしい。

 その先に存在したのは、一つの泉。

 その泉の中へ潜っていくと【魔石杖】という杖が一本だけ得られたらしいのだが、大事なのはそこではない。

 

 今現在の様子と、サリーに聞いた状況が酷似していることだ。

 

「……何もない、なんてことがあったら……メイプルはここでリタイアだな」

 

「えぇ!?」

 

 渓谷を登る手段がないのだからしかたないだろう……いや、流石にどこかしらには救済措置が用意されていると思うが。

 

 メイプルに冗談だ、と言おうとした瞬間。

 

 ブワッと勢いよく風が吹いた。

 それと同時に、霧が吹き飛ばされていき泉の様子が明らかになっていく。

 

 泉の中心には、一つの壺が存在していてその壺は泉の水を吸引し続け、それと同時に大量の霧を放出し続けていた。

 取り敢えずメイプルを下ろし、闇夜ノ写を装備するよう促しておく。

 

 暫く様子を見ても、何も変化が起こらないようなのでもう少し近づいてみることにした。

 

「……じゃ、メイプルが先頭。その次に私で、アサギは後ろから」

 

「りょーかい……って、俺が一番守られてません?」

 

 サリーの言葉にそう言葉を返すと、何故かそれにメイプルが回答する。

 

「ふふっ、私が守ってあげるよ!あっくん!」

 

「……あ、はい……お願いします」

 

「なんか落ち込んでる!?」

 

 今日の俺は自虐が多めかもしれないと思った瞬間だった。

 

 

 彼女らが前進していくのを見ながらも、耳を澄ませて警戒態勢を取り続けておく。

 サリーが気づかない攻撃に、俺が気付けるとは思えないのだが、ないよりマシという物だ。

 

 そして、二人が泉に足を踏み入れた瞬間……辺りが霧に包まれた。

 

「……っ!?何も見えないって……メイプル!」

 

 一瞬の判断ミスが命取りになるかもしれない、そう思い声をかけた相手はメイプルだった。

 視界が潰され、そして水場が近くにある状況ならば、溺死によって彼女の守りは破られる可能性がないとは言い切れないのだ。

 

 焦って一歩、足を踏み出そうとして……止めた。

 考える。

 思考を巡らす。

 思考回路を回し続けて、最適解を導き出す。

 冷静になれ、と頭で考え続けた結果、気が付いた。

 

 ……音がしない。

 

「……チッ、そういうことか!【ウインドカッター】!」

 

 霧に対して、風の刃を二度三度と打ち込み、一時的に視界を取り戻す。

 目の前には、泉が広がるのみ。

 そこに二人の姿はなかった。

 

 そう簡単に彼女らがやられるとは思えないため、考えられることは一つ。

 

「別空間への転移……どうするかな?」

 

 泉を覗き込むと……

 

 霧の中、取り残された少年が一人、ポツンと存在しているだけだった。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 その頃、それぞれメイプルはサリー、サリーはメイプルの偽物と戦いを繰り広げているのだが、そんなことを知る術を少年は持たない。

 

 暫く考え続けた後、結局俺は、彼女らをひたすら待つことにした。

 

 釣りを試すも、コポコポ音を立てている壺のせいだろうか?

 全く当たりはこない。

 

 ポスポス言いながらツボが吐き出す霧の影響で、料理をしようにも手元が見えない。

 

 禅でも組むか、そう思うもジョボジョボと壺が音を立てており、集中できない。

 

 段々と、フラストレーションが溜まっていく。

 そして……キレた。

 

「あ〜、もう!うるせえぇぇ!!!!!」

 

 放たれた『蒼刃』による【シングルシュート】は泉中央に存在する壺へ直撃。

 そのまま落下して、泉へと落ちていく。

 そして、その刃が半分ほど水に浸かった瞬間、俺は叫ぶ。

 

「【凍結封印】!」

 

 水に半分刃が浸かる=刃が水を貫通、という暴力的な解釈で使用したそのスキルは、見事発動すると、泉を中心部から凍らせていく。

 十秒ほどで完全に凍りついた泉の上を、滑らないように歩いていき、中心部の壺へと手をかけた。

 そして……引っこ抜く。

 

 その瞬間

 

『何してくれとんじゃ、ワレェェ!?』

 

 頭に声が響き渡った。

 その音量の大きさは半端ではない。

 

「うぎぁぁぁあ!?頭が、割れる!」

 

 俺の絶叫と壺?の声が響き続けること十数秒。

 なんとか行動できるようになった俺は【凍結封印】が溶ける前に『蒼刃』を引っこ抜き、泉から抜け出した。

 

 その際にスキル【轟音耐性小】を手に入れたのだが、気休めにもならない。

 

 泉から抜け出すと同時に、壺を地面へと叩きつけた。

 

『イテェわ、アホたれぇ!』

 

 その瞬間、再び声が頭に響き渡る。

 

「うぐぅ、あた、まが……割れるだろ!?」

 

 相変わらずの音量に、頭を抱える。

 

『割れちまえ、割れちまえ!やっほぉ〜!!!」

「がぁぁぁ……んの、やろ!」

 

 壺を叩きつけ、頭を抱え、痛みを叫び、とこれら三つの動きをローテーションすること十数分。

【轟音耐性大】を獲得した瞬間、俺の痛みはゼロになった。

 

 痛みから解放され、脱力するように俺はその場に倒れ込んで、諸悪の根源である壺へ勝ち誇ったような視線を送る。

 未だに脳内へと壺の声は届いているのだが、耐性が大になってからは少し大きめの声だな、と感じるだけになっている。

 

「……はぁ、はぁ、お仕置きの……時間、だ!」

 

 膝を立て、壺へと手をかけた瞬間……視界全てが白へと染まった。

 

 

◇◆◇

 

 

 辺りを見渡す。

 

 簡素でかなりの広さを持った部屋が、そこにはあった。

 

 

「さ、さっきまでは、随分と……好き勝手、してくれたやんか……」

 

 目の前にあった壺からは、3メートルほどの身長とそれなりに膨よかな腹をお持ちになった黒色の巨人が現れていた。

 

「……ランプの魔人ってか?らしすぎるだろ!」

 

 喋ることのできる相手。

 初めて見るが、只それだけで相手の格が普通のボスモンスターとは比べものにならない存在なのだろう、ということを感じられる。

 

「……しっかり可愛いがってくれたるわ、このクソガキ」

 

 相手がパンッと、柏手をした瞬間、自分の周りに、先ほどとは違うデザインである四つの壺が現れる。

 瞬間、恐怖センサーにより身を屈めるとすぐ上を毒の塊が通り過ぎていった。

 動きを止めず、転がり込むようにして距離を取った後、四つの壺の方向へと視線を向ける。

 それぞれの壺からは、細長い蛇がチロチロと紫の舌を出し入れしてこちらへと頭を向けていた。

 

「……止まったら、死ぬか」

 

 呟き、俺は速度を上げる。

 サリーほど高速移動に慣れていない俺は、高速移動時の自分をうまく制御できるとは思えない。

 そのため、最大速度までは上げない。

 速さの緩急で、相手の攻撃のタイミングをずらしていく。

 

「ほら、ほらっ、そろそろくたばっとけや」

 

「喧しい!お前、威厳ゼロだぞ!?」

 

 パンッ、パンッと二度の柏手。

 

 一度目の柏手の効果か、突風により壁へと身を押し付けられる。

 そして、二度目の効果だろう。

 身動きを封じられた俺に、炎弾が迫る。

 

「ふぐっ…………ここっ!【ウォーターボール】!」

 

 タイミングを合わせて、相殺。

 突風がなくなった瞬間、叫ぶ。

 

「【ウインドカッター】!【ファイアボール】んで【刃状変化】!」

 

 風の刃が魔人へと向かうが、魔人は遊んでいるようで指を使って挟み、刃は放り投げられてしまう。

 

「危ない、危ない、死んじゃうとこでちた」

 

「腹立つ!?……って、落ち着け、落ち着け」

 

 パンッと柏手。

 

 これは……下!

 

 身を屈め、毒を躱す。

 先程とは違い、パターンが分かっているため、回避は容易だ。

 

 

「遠距離は、俺の威力じゃ意味はなし……よし、大体は、掴んだ!」

 

 左手に炎剣、右手に『蒼刃』を構え、MAX100%の速度を30から80程へと持っていく。

 

「ふはは!近距離か?いいやんか、ワレ!」

 

「その、似非大阪弁を、やめろ!腹立つ!」

 

 パンッ、パンッ、パンッと三回。

 

 打たれた柏手を耳に、遂に切り札を切る。

 

「【冬の呼び声】」

 

 天気 吹雪

 AGI + 30%

 

 速度は、80から130へと。

 

 数値で見れば平常時のサリーと同等ぐらいだが、体感では大きく変わってくるだろう。

 

 事実、魔人は俺の速度を見誤ったのか、半瞬前に俺が居た位置へと、超威力のレーザーを落としている。

 え、なにそれ、怖い。

 

「ワオっ、外しちゃったゼ!テヘペロっ!」

 

「キャラ変えしてんじゃねぇぇえ!?」

 

 絶叫、そして接敵。

 滑り込むようにしながら黒き巨体に右手で持つ『蒼刃』を突き刺していく。

 魔人が呻き声を上げて、こちらへ腕を振り払ってくるが、それを左手に持った炎剣を投げて迎え撃つ。

 爆発と同時に、氷属性付与による冷気が相手を襲った。

 俺はその衝撃により、相手の攻撃範囲からは離脱する。 

 

「【ファイアボール】【刃状変化】!」

 

 転がりながらも、次の武器を装填。

 前を向き、相手が柏手を打とうとしているのを見て、先程のように防御はされないと判断する。

 

「【ペネトレーター】!」

 

 脇腹を穿ったその炎剣が爆発した瞬間、パンッ、パンッ、パンッと柏手が打ち終わろうとしていた。

 

 レーザーが来る。

 確実に俺のHPを一撃で奪う、下手したら黒化怪鳥レベルの一撃が、俺に放たれる。

 ゾワリ、と鳥肌が立つ感覚。

 

 

 アレを、やるしか……ないのか。

 

 

 俺が右手をギュッと握りしめ、その言葉を口にしようと息を吸い込んだ瞬間。

 

「な、何故……ワイーーーーアタシがやら、れて」

 

 目の前にいた魔人が、消滅しようとしていた。

 

「…………は?というか、このタイミングでもツッコませようとするのやめろ!?」

 

 驚きで人が殺せるなら、今の俺の命は既になくなっているだろう。

 そう思うほどの、驚愕。

 

「お前……体力少なかった、のか?」

 

 ギリギリ思いつくのが、その可能性だけだった。

 思わず、AIであるはずの魔人にそう問いかけると、彼?はあることに気がついたように、声を上げた。

 

「お主……陸上での、攻撃は、わ、ワーーアチキとの、戦いを見越してーーー」

 

 

 

 そして、光を漏らして消滅していく。

 

 

 

「えぇぇ、お前……えぇ?壺へのダメージそんなにデカかったの……というか、言い直さなくていい!」

 

 

 喜びとかそれ以前に困惑とツッコミが大きすぎて、俺は魔人との戦いの勝利を、素直に喜べなかった。

 

 

 それから三分ほど、ようやく落ち着いた俺は、辺りを見回した。

 

 目の前には箱が存在している。

 

 大きさは……両手に収まるミニマムサイズ。

 

「…………あの野郎、報酬悪くするとかやめてくれよ?」

 

 呟きながらパカリとその箱を開くと、そこに存在していたのは黒色のチョーカー。

 

「【顕現ノ証】……装飾品か。これで、二つ目っと」

 

 地雷しか踏まなそうな名称のチョーカーなので、他に報酬がないかどうか、先に確かめてみることにする。

 

 粗方、見終わったかな?と思ったころに、一つだけドロップアイテムを見つけた。

 

 例の壺である。

 

「…………ま、運んできたの俺だしな」

 

 少し、いやかなり迷ってから、そのブツに触れた。

 すると、壺が一瞬だけ眩い光を放つ。

 眩しさで、思わず目を閉じた。

 

 そして、目を開ければ手の中に壺の姿は見えなかった。

 代わりに、脇差を装備している腰辺りに壺を象った小さな小さなアクセサリーが付けられていたが……

 

 同時に、無機質なアナウンスが脳内に響く。

 

『スキル【暴食の壺】を取得しました』

 

「……【暴食の壺】うん、これも地雷案件な気がするからな……心して調べるとするか」

 

 メダルはなかった。

 それだけで、装備品やスキル効果への期待が高まるというものだ。

 ランプの魔人ならぬ壺の魔人。

 彼が完全な状態だったら、それこそ怪鳥を上回るレベルの強さを誇ったのかもしれないのだから。

 

 

◇◆◇

 

 

 とある管理者たちの会話。

 

 

 

「メイプルとサリーがドッペルゲンガーを撃破しましーーーえぇぇぇ!?あ、あ、アサギが『暴食の魔人』を単独撃破、しま、した」

 

「「「………………嘘だろ」」」

 

 いつものオーバーリアクション(オーバーではないのだが)を取る余裕すらなくなるその言葉に、全員の動きが固まった。

 

「この際ドッペルゲンガーなんて知らん!『魔人』がやられたのか!?特殊AI搭載の??アイツが!?単騎で!?何で!」

 

「あぁぁぁ、気にするのはメイプルだけじゃなかったのかよ!?」

 

「おま、今更何言ってんだ。メイプルに関わったやつ全員警戒って言ったろ!?」

 

「削られてるぅぅ!?戦闘開始前に、魔人さんの体力九割近く削られちゃってるぅぅ!?」

 

「……俺作のドッペルゲンガーが……どうでもいい、だと?」

 

 阿鼻叫喚、地獄絵図。

 チームメイプルにより、SAN値を削られていく管理者たちのテンションが、逆に上昇していく。

 

「ああ、もういい!好きにやらせとけ!どーせ、メイプルだろの心を全員が持つんだ!」

 

 諦めの境地に達した彼らが、それからのイベントをミスなく完璧に運営していったというのは、また別の話。

 


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