幼馴染が無双するそうなので便乗したいと思います。   作:馬刺し

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16話 幼馴染と開戦。

 魔人(なんて格好良さげな存在とは認めない)との戦いを終えた後、現れた魔法陣に乗ることで辿り着いたのは、見覚えのない部屋。

 目の前には螺旋階段が存在していて、そこに見覚えのある人物たち……というか、パーティーメンバーたちが腰掛けていた。

 

「あれ?あっくんだ!」

「え、嘘……本当だ。ラッキーだね……」

 

 こちらに気がつくと、メイプルが大きく手を振ってくる。

 隣にいるサリーはぐったりとしているので、かなりキツイイベントに巻き込まれたのかもしれない。

 

「お疲れだな……大丈夫だったか?」

 

 一声かけておくと、帰ってきたのは予想外の言葉だった。

 

「偽メイプルと2時間近く戦い続けてたよ……」

「私も1時間ぐらいかけて、偽サリーを毒で押し潰して来たよ〜」

 

 困惑状態になりかけるも、そろそろ不思議事態にも慣れてきたため、会話を続ける。

 俺は俺で、壺と会話してたりしたからな……お互い様か。それとメイプル、言い方考えような?

 

「お、おう……お疲れさま?」

「うん……ほんとに疲れた。メイプルの相手はしばらく十分かな」

 

 メイプルが毒を使い、偽サリーに耐久戦を挑んだのはまだわかるが、サリーが偽メイプルに勝利した、という事実には尊敬の念を抱くほかない。

 対メイプル兵器一号として誇っていいと思う。

 それとお前も言い方気にしろ。

 それだと少し誤解生まれるぞ?

 

 先程からの言い方云々は、俺が来る前にお互いを弄りあっていたことが原因だそうなので、遊びの延長だったそうだ。

 こいつらがまともに喧嘩したところなんて、殆ど見たことがないので心配は一切してなかったのだが……

 

 対メイプルの作戦を後で詳しく聞いとこう、と心のメモに記しているとそのメイプルから質問が飛んできた。

 

「……あれ?あっくんも誰かと戦ってきたの?」

「……良くあるのは、強化された自分とかじゃない?その方が、私は燃えてくるんだけどな〜」

 

 サリーも同じことを考えていたのか、そんな考察を話してくる。

 こいつも大概バトルジャンキーなんだよね。俺だったたら、強化版の自分と戦えなんて言われたら、即座に拒否する自信がある。

 ……メイプルが自分と戦う想像して凄く嫌そうな表情浮かべているのを見ていると、やっぱり戦ってもいい気はしてきたが。

 

 

「いや、俺は……うん。色々あって、壺と喧嘩してた」

 

「「へ?……壺!?」」

 

 予想はしていたが、なんだかんだ言って、俺の状況説明が一番長くなってしまったことは言うまでもない。

 

 

◇◆◇

 

 

 お互いの状況確認も終わったところで昼食を挟むことにした。

 朝が早かったので、丁度腹も空いてきた頃だったのだ。

 

 今日は準備が簡単なサンドイッチ。

 メイプル、サリー、俺の順で階段に腰掛けて『いただきます』と声を合わせた。

 

 よくわからないが甘い癖にピリッと舌が痺れる調味料や、ノーマルな卵、食欲の萎えそうな青色のクリームをサンドしたものなど、多くの種類を用意しておいた。

 サリーが引きつった笑みを浮かべている気がするが、俺もメイプルも基本ゲテモノやら地雷臭のする料理やらを食べることに抵抗はないため、パクパクと食べ進めていく。

 

 そんな中、ふと気付いた。

 サリーが何かに気がついたように視線を俺の持っている飲み物に集中させている。

 俺の目の前に浮いているその左手には、ラストの卵サンドが食べかけのまま握られており、小さく上下するそれが俺を誘惑してくる。

 

「……どうかした?」

 

 なぜ、自分の飲み物を凝視されているのか、わかっていながら聞いてみる。

 ああ、卵サンド食いたい。

 ……俺、定番とか言ってるけど、まだ食ってなかったんだよな。

 

「……なんで……なんで!?」

 

 サリーがワナワナと震えだす。

 そろそろ大声に注意しといた方がいいよな〜なんて冷静に考えていると【轟音耐性大】を入手していたことを思い出した。

 超便利だな、これ。

 

「なんで、平然とMPポーション飲んでるの!?」

 

 意外と声が響くな、と他人事風に考えながら、俺は少し前に手に入れたスキルの効果を思い出すのだった。

 

 

 

 

 

【暴食の壺】

 

 プレイヤーは自分のMPを秒間5ずつ吸収していく"壺"を得る。

 "壺"は最大で自身のMP×10の容量を持ち、容量が最大になるまで吸収は行われ続ける。

 任意で吸収を止めることは不可能。

 MPが0になった際のみ"壺"からMPを使用することが出来るようになる。

 また、プレイヤーはMP消費50以上の魔法を使用できなくなる。

 

 

 

 

 

 

 青いパネルを開き、サリーへとスキル効果を見せながらMPポーションを飲み続ける。

 ポーション類は蓋を開けるだけで効果が発動するのだが、やろうと思えば飲める。

 

 食事中だったので飲み物代わりにしていた、というわけだ。

 

「……なんか、随分と使い手を選ぶスキルだね」

「……このスキルって……微妙じゃないの?」

 

 サリーがこちらをジト目で見ながらそういうのに対し、メイプルは純粋にそう疑問をぶつけてくる。

 高威力魔法の使い手ならば、MPタンクは喉から手が出るほどに欲しいものだが、それにより使えるMPに制限がかけられては、本末転倒すぎるからだ。

 

「……ま、普通に使えば、そこまで性能は良くないかな……サリーとか俺みたいなのなら、運用可能だけど」

 

 そう、小技を連発するサリーや()()()()()M()P()()()()が大きい俺からすれば、このスキルは化ける。

 事実、俺はこのスキルにより奥の手を一つ、温存出来るようになっているのだ。

 

「壺に攻撃かぁ……私も、まだまだメイプル化が足りないなぁ」

「本能のままプレイすると、強くなれるのが俺とメイプルで実証されたな」

 

 本能プレイのメイプルに、音による快適空間の妨害を理由に壺を攻撃した俺。

 俺がいうのもなんだが、サリーには"普通の異常"な強さを身につけていって貰いたいものだ。

 

「よし、全員食い終わったな?出発の準備しとけよ〜」

 

 もう一つの方はまだ隠しておくとして、話がひと段落ついた所で声をかけた。

 

「うん。今日も美味しかったよ!」

「うい、お粗末さん」

 

 メイプルに笑顔でそう言われると、毎日食事を作ってやりたくなるのでやめて頂きたい。何こいつ、可愛いかよ。

 

「準備は殆ど終わってるよ。それと……その、一応言っとくけど、美味しかったよ?」

「……っ、あらあら、サリーさん。随分と素直でございますわね?」

「うっさい……ん?あれ、私……卵サンド……」

 

 メイプルに対抗するわけではないだろうが、サリーまでそんな嬉しいことを言ってくれるので、つい茶化してしまった。

 恥ずかしそうにしながらってところが、ポイント高いですよね、俺的に。

 

 そして、サリーが気付いてはいけないことを思い出そうとし始めたので、声を張り上げる。

 

「よし、じゃあ、行こう!早く行こう!」

「うわっ!?あっくん、いきなり持ち上げないでよ!」

「卵サンド……って、アサギ?なんでそんな焦って……あ!もしかしてーー」

 

 サリーから制裁を喰らう前に、メイプルを背負い螺旋階段を登り始める。

 もちろん、AGIで絶対的に遅れをとっている俺が、彼女から逃げ切れる訳がないのだが、そこはそれ。

 逃げ切れないから、逃げない。

 なんて、理論的に対処できる余裕はないのである。

 食べ物の恨みって怖いよね! 

 

 その後、制裁を与えようとしたサリーが、何かに気がついたようで、顔を真っ赤に染め、怒りのボルテージを爆発的に上昇させるのだが、その理由は何度聞いても教えてくれなかった。

 

 

◇◆◇

 

 

 螺旋階段を登りきると、そこは森林地帯だった。

 どうやら、渓谷内ではないようなので、メイプルがリタイアする必要もなくなった……地味に心配していたので、安心である。

 

 森林地帯を軽く探索しながら、移動していく。

 メイプルとサリーが、偽物を倒すことでそれぞれ1枚ずつメダルを得ているのだが、俺は良い装備を得ることこそできたが、肝心なメダルは得られていない。

 

「いい加減、メダル0からは抜け出したい頃なんだが……」

「あははは……」

「本当だよ!」

 

 俺の計画を知っているサリーは苦笑いをし、メイプルはまだ30枚を諦めたつもりはないのか、背中に乗ったままこちらを揺さぶってくる。

 

 頭の上に乗ったシロップまで、ポンポンと俺の頭を叩いてくる始末だ。

 ……ペットって飼い主に似るらしいからな……変な方向に進化していかないように祈っておこう。

 

 朧はサリーの隣をトコトコと歩き続けている……シロップも歩けばーーあ、コイツもAGI低いんだった。

 見た目カメだから仕方ないか。

 

 気持ちを切り替えて、いい加減メダル問題に向き合ってみることにする。

 

「……勝負かけるなら、明日か明後日にするつもりだけど、サリーはどう思う?」

 

 新しい装備を今日の夜あたりに、一人で確認しておきたかったため、そう言ってみたのだが、サリーも同じような想定をしていたらしい。

 俺の意見に、賛同してくる。

 

「こっちは少人数だから、夜戦の方が上手くいくだろうしね……今日は稽古の続きもやっておきたいから」

 

 このように話しているのは、半分はメイプルを騙すための仕込みでもある。

 "釣り"が失敗した場合、もう一つの作戦を使うつもりだったからだ。

 サリーと俺が二人で夜戦に出かけるフリをして、サリーが持っているメダルを一時的に俺へ預けてもらって、それを戦果としてメイプルへ見せる。

 そうすれば、心置きなくメイプルがメダルを使用できる、という作戦だ。

 そこ、汚いとか言わない。

 アイツが優しさの面で頑固なのが悪い。

 

「ということで、明日か明後日は俺とサリーでプレイヤー狩りしてくるからな。そこ、よろしく」

「うん!頑張ってね!」

 

 ……純粋に応援されると心が痛い。

 

 俺とサリーが苦笑いしながら、目を合わせるのを見て、メイプルは首を傾げたのだった。

 

 

 

 それから更に歩くこと1時間とちょっと程。

 

 今回の森林地帯は、そこまで大きなものではなかったらしい。

 

 

 

 俺たちは……砂漠に来ていた。

 

 

 

「あっちぃぃ……って言いたくなる景色だな」

「……そう言われると、暑くなってくる気がするから、やめて」

「あははは……」

 

 砂漠探索に付き合わせるのは、流石に酷であるため、シロップと朧を【休眠】させてから探索を開始する。

 

 サリーには咎められたが、暑いはずなのに全く熱を感じない、どうしても違和感を抱いてしまうものだ。雪山にいたときも同様である。

 

「にしても……なんもねぇな。ここ……」

 

「あってもサボテン……プレイヤーもいなさそう。案外、こういうところの方がメダルは残ってるかもね」

 

「……あっくん。サボテンって、食べれなかった?」

 

「……一応採取しとくか」

 

「私は食べないからね!?」

 

 

 そんなこんなで、しばらく探索し続ける。

 何度も大きな砂丘を越え、数えるのが面倒になってきた頃……視界が開けたその先に、鮮やかな緑色が見えた。

 

「オアシス……か。ま、定番っちゃ定番だな」

 

 大抵何かしらのイベントがあるんだが……と呟きながらオアシスの方向へと足を向ける。

 コラ、メイプル。

 そんな急かすな、体揺らすな、密着すんな!……密着とか、今更すぎるわ。

 

 近くへ行くと、オアシスは思ったよりも大きめだったようで、隅々まで探索するには、少し時間がかかりそうだ。

 

 オアシスの近くで、メイプルを下ろす。

 

 肩を回して、体をほぐしてからサリーとメイプルの背を追った。

 

 

 そして……三歩目で『蒼刃』を抜き放った。

 

「【シングルシュート】!」

 

「……!ハァッ!」

 

 メイプルの髪をかすめて飛んで行ったその斬撃は、彼女が握る刀により弾かれてしまう。

 

「……随分な、ご挨拶だな?」

 

「ありゃ、女性だったか……悪いな」

 

「……それはお互い様だろう?」

 

 木陰から出てきた女性は、黒い長髪を持ち、桜色を基調とした着物を装備している純和風なプレイヤーで、その見た目は、普段メイプルやサリーと過ごしている俺から見ても、誇張せずに綺麗だと言えるレベルだった。

 

 超速交換、と呟いて右手に『飛天』を装備し直しながら彼女との会話を進める。

 

 サリーは、俺と同タイミングで気付いていたようで、すでに戦闘態勢をとっていた。

 メイプルは先程の俺の攻撃により、びっくりした〜!なんて言っているが、盾を構えていなくても死にはしないだろう。

 

「メイプルとは……私も運が悪いな。見逃してくれはしないのだろう?戦うのならば、一人ぐらいは道連れにして見せるが……」

 

 三対一となるこの状況でも、彼女は毅然とした態度でそう言い放つ。

 先程の攻撃を当然のように、間違っても初心者向けとは言えない、刀という武器で弾いたことからも、実力はあるプレイヤーなのだろう。

 

「別に、逃げてもいいんですよ?」

 

 だが……喧嘩を売った相手が悪かったな。

 

 彼女の言葉を要約すると、メイプルでなければ勝てる、という意味になる。

 たしかに、俺なら十分あり得る話だ。

 だが……もう一人は下手をすればメイプルを上回る化け物だぞ?

 

「【超加速】!」

 

 女性は初動を感じさせない動きでスタートを切り、その場から走り始めた。

 

「【超加速】!」

 

 目にも留まらぬ速さで駆けていく彼女を、サリーが追走する。

 

 取り残されたのは、俺たち。

 

「あっくん、おんぶ!」

「わってるよ!」

 

 俺たちは急いで彼女らを追いかけるのだった……結果は分かっているのだが。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 そんな、今までの道筋を振り返っていた。

 

 

 

 人生というものは、つくづく計算通りにはいかないもので……

 

 

 

「ほい、到着だ」

「毎度毎度、ありがとね?」

「気にすんな」

 

 

 

 そんな会話をしたのがぼちぼち前。

 

 

 

「メイプル!?」

「おっと!?」

「うわぁぁ!?」

 

 

 

 流砂に飲み込まれていった彼女たちを見送ったのが少し前。

 

 

 

「なぁ、嬢ちゃん?一戦やってかねぇか?」

 

「まあ、逃すつもりもないんだけどね!大人しく死んどく?」

 

 

 筋肉ゴリラと金髪魔法使いに喧嘩を売られたのが、十秒前。

 

 

「……一日早いんだよなぁ……それと、俺は……男だ!」

 

「……ほぅ?丁度いい!それなら、よっぽど戦りやすい!」

 

  

 巨大な戦斧と俺の持つ二刀がぶつかり合ったのが、現在だった。


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