幼馴染が無双するそうなので便乗したいと思います。 作:馬刺し
ゆっくり読んでくれれば、と思います。
「あっくん、サリー達もう少し右の方に逃げた筈だよ!」
「りょーかい。しっかり掴んでろ、飛ばすからな!」
背負ったメイプルの指示を聞き、砂丘を全速力で駆けていく。
着物姿の美人さんとサリーが使っていた【超加速】は、AGIが75を超えていなければ習得できないスキルだ。
メイプルを背負った俺が簡単に追いつけるほどの距離からは、既に離れているだろう。
「サリー、大丈夫だよね?」
そんな心配そうな声を上げたメイプルに向かって、ニヤリと笑みを浮かべて
「当たり前だろ」
俺はそう断言した。
そして3分ほど全力疾走した後、俺とメイプルが見た光景はサリーと、その女性が向き合っている光景。
女性の姿は髪を白へ、瞳を緋色へと変色させており、その目には強い意志が感じられた。
明らかに相手が決め技を打とうとしているのに対して、サリーは冷静に集中力を高めていく。
「サリー!【ひどーーむぐぅ」
俺の背から降り、助けに入ろうとするメイプルを引き留めた。
首根っこを掴んで止めたので、少し苦しそうにしているが大丈夫だろう。VIT極振りだからな。
「落ち着けって……多分いいもん見れるぞ?」
「え、でも……サリーが!」
そうやってブツブツと言い合いをしながらも、メイプルを落ち着かせる。
漸く大人しくなったメイプルが、サリー達の方向へと視線を向けた瞬間、遂に女性が仕掛けた。
素早い踏込み、滑らかに撃ち放たれた斬撃の姿が消える。
奥の手……恐らくかなりのデバフを覚悟してのスキル発動だったのだろう。
確実に仕留められる……それを疑っていなかった表情が、二度、三度と繰り出されていく連撃をスルスルと、避けていくサリーによって驚愕の色へと染まっていく。
次第に、驚きは当たることを願うかのような表情に変わっていき、女性は遂にその連撃スキルを撃ち終えた。
不可視の斬撃、数えること十二連撃。
その全ての斬撃を、経験や感覚による攻撃予測のみで躱し切ったサリーに対して、その女性は何処か満足げだった。
「私の負けだ。一思いにやってくれ」
もう抵抗する体力もない、と呟きながら女性は地面へと大の字に寝っ転がる。
サリーが彼女へとトドメを刺そうとした時、俺は先ほどまですぐ隣に感じていた気配がなくなっていることに気付いた。
「サリー!と、止めてぇぇ!」
「何してんだ、お前ぇぇ!?」
少し目を離していただけなのに、彼女はサリーの方向へと砂丘を転がり落ちていった。
ダメージは入らないから、問題はないのだが……なんて、思ったのがフラグだったのかもしれない。
「メイプル!?」
「おっと!?」
「うわぁぁ!?」
二人の元へとメイプルが直撃、そして……流砂へと沈み込んでいってしまったのだ。
……俺一人だけを置いてきぼりにして。
「え……そんなこと、ある?」
砂漠にて独りきりとなった俺の呟きに、答える相手は勿論いなかった。
「……まあ、適当に暇つぶしでもするか」
たっぷり数分呆然としてから、暇つぶしの機会が最近増えてるな、と感じながら移動を開始した。
オアシスに湖があった筈なので、いつも通り釣りでもするか。
メイプルと話していたサボテン料理なるものにも興味があったため、それらで時間を潰すことにする。
予定を立てているうちに、意外と有意義な暇つぶしになるのでは、と少しばかり気持ちが明るくなってきた時だった。
「……ん?お前……噂の【巫女】か?」
「嘘でしょ……メイプルのチーム!?」
「うへぇ……弱くなさそう」
戻ってきたオアシスにて、俺とそいつらが出会ってしまったのは……
◇◆◇
「よぉ、お仲間はどうした?」
ガタイの良い……良すぎる兄貴感が強い青年が、そう声をかけてきた。
戦斧を背負っており、見た目からはVITとSTRに振っているタイプだろう。
「さぁ?そこら辺に居るんじゃないか?」
嘘はついてない。
居るとしたら高さの軸がズレてるだろうけど……
正直言って、今日の内にやり合うつもりはなかったのだが……いざとなったら、戦闘も仕方ないか。
「……?索敵スキルには、反応無し。本当に一人きりなのかもしれないね……何かのイベントで、逸れた……とか?」
もう一人は金髪の少女。
杖を持っていて装備も軽装であるため、後衛職……恐らく魔法攻撃の専門だろう。
……目が大人しそうじゃないからだ。
俺が完全に一人のハグレだということを確認した彼女は、こちらの真意を見定めるようにして、こちらをジッと見つめてくる。
「……そんなに見られると、照れちゃうんだけど?」
「え、あっ、ごめん……じゃない!?」
こちらの弄りに対して素直に謝ってしまってるのを見る限り、そこまで悪い子じゃなさそうだが、逃してくれるかは別問題だろう。
「おい、フレデリカ!いいよな?」
「ちょっと、ドラグ……まあ、いっか。恨みはないけど……逃す理由もないしね」
何やら向こうでごちゃごちゃ言ってるが、今のうちに逃れたりしないかな〜。
メダルは持ってないけど、ここで死ぬとリスポン後が面倒だ。
そう思いながら、一歩後ろへと足を退けた俺に対して……
「なぁ、嬢ちゃん?一戦やってかねぇか?」
筋肉ゴリラことドラグさんが声をかける。
「え、そういう気分じゃないんですが?」
「まあ、逃すつもりもないんだけどね!大人しく死んどく?」
せめてもの抵抗で、そう返答するも、魔法使いことフレデリカ?(多分……あんまり聞こえなかった)とやらに退路を塞がれてしまった。
仕方ない、そうきっぱりと割り切ることにする。迷いは思考を鈍らせる。
戦闘は避けられないと判断し、左手の装備を『氷龍ノ咆哮』から『飛天』へと交換しておく。出来れば、戦闘のスタイルを見せつけたくない。
「……一日早いんだよなぁ……それと、俺は……男だ!」
最後に愚痴を溢し、それから何よりも訂正しておきたかったことを叫び、抜刀。
一気にトップスピードへと切り替え、飛び出した。
「……ほぅ?丁度いい!それなら、よっぽど戦りやすい!」
ぶつかり合う戦斧と二刀。
俺は後ろへと跳ね飛ばされるも、地面が砂であることや飛ばされることを予測していたこともあり、受け身を取ることでダメージは防ぐ。
一瞬の交錯だったが、たしかに俺とドラグの目が合った。
恐らく互いの顔には同じような笑みが浮かんでいるのだろう。
なんだかんだ言って、ゲーマーたるもの対人戦が楽しくない訳がないのである。
「【多重炎弾】!」
その声を耳にした瞬間、視線を声の方向へ向けると同時に体を転がし、その場から逃げ出す。
スキル名から予測できる通りの広範囲攻撃が、俺が先程までいた空間へ飛翔していく。
放たれた大量の炎弾がすぐ後ろで爆発していくのを肌で感じながらも、俺はそちらへ視線を向けるほどの余裕を、持ち合わせていなかった。
「【バーンアックス】!」
「……の、やろ!」
回避した先で振り下ろされた戦斧を、耐久値の心配をする必要のない『蒼刃』で受け流す。
戦斧に纏われた炎により、少しHPが削られていくが気にする余裕はない。
スキル発動後の隙を狙うため、わざと使わなかった左手で『飛天』を飛ばす。
戦斧を振り切っているドラグならば、この距離からの攻撃は躱せない。
「【ペネトレーター】」
至近距離から放たれるその攻撃は、まさにレーザーの如く、容赦なく顔面目掛けてその一撃は放たれた。
しかし【投剣】使いと知られていなければ、十分初見殺しであるその攻撃は、突如現れた見えない壁へヒビを入れるだけに留まった。
「【障壁】!……ふぅ、危なかった」
「助かったぜ、フレデリカ!」
一旦距離を取り、息を整える。
仕留めたと思ったのだが……やはり、手強い。
スタイルを知られる前に、デカブツだけでも倒しておこうと思ったのだが、上手くいかないものだ。
「なにそれ、ずるい」
「ずるくないです〜!」
フレデリカ(名前合ってた、よかった)にそう文句をつけるが、鼻から一対二の戦闘であるためフェアもアンフェアもあったもんではない。
「【超速交換】……あら、『氷龍ノ咆哮』が出てきちゃったか」
左手に装備されたグローブを眺めて、少し考える。
……そこまで出し惜しみして、勝てる相手ではなさそうだった。
「……フレデリカさん、だっけ?」
「……!うん……そうだけど?」
俺が突然話しかけたからだろう、フレデリカは警戒を一気に引き上げて、こちらを真っ直ぐと見据えている。
「……ちょっと、大人しくしてね?」
「……ッ!?ドラーーへ?」
ドラグへと自分の護衛を指示しようとしたのだろう、そんなフレデリカが少し間抜けな声を出した理由。
それは……俺が右手で、武器をふんわり投げたから、である。
フレデリカの足元へ、サクりと刺さったその剣の効果を彼女は知らない。
これこそ、もう一つの初見殺しにして、対スキル使い必勝法の一つ。
「【凍結封印】」
「ッ!何を!……【多重炎弾】!」
俺がスキルを口にした瞬間、彼女が魔法攻撃を使おうとするが、少し遅い。
『蒼刃』から漏れだす冷気に触れてしまった彼女は、これから一分間ありとあらゆるスキルを使えない。
「なんで、魔法が!?【多重炎弾】!【多重炎弾】!」
「残念だけど……君は、これから
慌てふためき、何度も魔法を使おうと足掻くフレデリカだが、その魔法は発動しない。
だが、スキル封じは一分しか効き目がない。
それに気づかれないかは、フレデリカ次第だ。
「んじゃ、ドラグ……そろそろやろうぜ?」
「いいな、お前!そんな女々しい格好してる割には、男じゃねぇか!」
「うっさい。こんな格好だが、歴とした男だよ、俺は!」
ドラグの言葉に全力でツッコミを入れながら、俺は攻撃を仕掛け始める。
「【ファイアボール】んで【刃状変化】!」
左手に炎剣を用意する間に、ドラグはこちらへと距離を詰めてくる。一瞬だけ、剣状へと変化した炎弾に驚きを見せたが、迷うことなくスキルを発動してきた。
「【重突進】!」
大方、近距離戦以外では不利になると考えたのだろう。
ドラグが加速、こちらを踏み潰すような迫力で突撃してくる。
正面から受ければ、かなりの被害を受けるのは間違い無い。
「【ウインドカッター】!」
正面から風の刃を放つ。
だが、しっかりとVITにポイントを振っているからだろうか?
そのダメージ量は微々たるものだ。
だが、それでいい……この攻撃が後々効いてくる。
タイミングを図る。
そして、しっかりと俺は地を踏みしめた。
左右に避けようが、必ず仕留める。
【重突進】を使用した俺ことドラグが、そう心に決めた時には……
「【跳躍】!【ペネトレーター】!」
相対していた【巫女】の姿は上空にあった。
してやったり、というような顔があまりにも楽しそうで……こちらのテンションも上がってくる。
「チッ、ちょこまかと!!」
飛来する長剣を象った炎を戦斧で迎え撃つ。この程度、弾き返せる。そう思ったからの応戦だった。
しかし、その剣は戦斧に触れると同時に爆発、そして腕には凍傷判定が入った。
先程の風魔法と合わせて、既に二割程のダメージを負っている。
「凍傷……氷属性だと!?」
考察をするまもなく、相手の攻撃は回転を上げ始める。
魔法、そして魔法剣による攻撃。
時折、接近戦を仕掛けてきたり、実体を持つ剣が飛んできたりするあたり【巫女】とやらは随分と性格が悪いらしい。
「俺が押されてる、か。ペインでもドレッドでもない男相手に……いいな!気に入ったぜ、お前!」
いつしか戦いの目的を忘れた。
それほどまでに……ただ、楽しかったのだ。
何度も斬り結び、何度も跳ね飛ばし、そして何度も爆発やら何やらを喰らい続けた。
相手の体力は未だ八割近く残っていて、俺は今、半分を切ったところだった。
その殆どが、避けきれなかった魔法剣による攻撃で起こる、凍傷によるダメージだ。
直撃を避けようとも、その追加ダメージだけは防ぐことはできないのである。
そんなことを考えていたが、こちらも負けるつもりは毛頭ない。
俺は中途半端に距離が開いた瞬間を、見逃さなかった。
「とっておきだ!【地割り】!」
戦斧を地面へ叩きつける。
それまで近距離での攻撃しかしていなかった俺の行動に【巫女】は対応できていない。
地を割ったその衝撃が、漸く【巫女】の体を吹き飛ばした。
「……ふぅ。死ぬかと、思ったわ。お陰様で、体力は赤ゲージ……何今の?」
スタッと立ち上がった【巫女】からは『体力がない』なんて言う割に、全く焦りを感じられない。
飄々とした態度で、呑気に話を持ちかけてくる。
「……余裕だな?」
思わずそう口に出してしまった。
それに対する返答はない。
【巫女】は目を閉じ、集中力を高めようとしているように見えた。
ならば、それを待ってやる義理などない。
「まぁ、いい……結構、楽しかったぜ!終わりだ!【地割り】!!!」
再び生まれたその衝撃波が【巫女】へと向かう。
その攻撃を前にして、彼は目を開き言った。
「俺も……楽しかったよ」
そして、彼が左腕を振り払った。
◇◆◇
散々と奥の手だの、なんだの言い続けたからな。
そろそろ、やりたかったことの説明をしようと思う。
最初に確認しておいて欲しいのは【刃状変化・氷】のスキル効果についてだ。
スキル【刃状変化・氷】
MPを消費して、手に取ったありとあらゆる非生命体を、剣として認識することが出来る。
MPを消費して液体又は実体のない物質を短剣の形へと変化、固定させ、武器として扱うことが出来る。
【投剣】による全ての攻撃に、氷属性を追加する。
注目して欲しい点は、消費されるMPは、状況によって変動する、という点だ。
詳しく調べると、基本は消費MP5と明記されていた。
自分の【ファイアボール】に対しては15消費しており、サリーから受け取った時も同様だ。
しかし、一度メイプルの【毒竜】を武器化できないか試した時に必要なMPは505だった。
また、相手が魔法を使うゴブリンだった時のことである。
こちらに放たれた【ファイアボール】を武器にできないか、試したところ必要なMPは105だった。
【ファイアボール】に必要なMPは10であることを考えると、消費MPは十倍に跳ね上がっている。
よって法則を考えた。
恐らく、刃状変化に必要なMP消費量は
基本消費の5+『スキルの格』×『敵意に応じた倍数(最大10倍)』
になるのでは、というものだ。
ま、なんだ。
簡単に言えば……MPさえ有れば実体のない攻撃や魔法攻撃に対して、俺は無敵になれるのでは?
ということである。
イベント開始時、俺のレベルは18だった。
ゴブリン、怪鳥、ウサギそして魔人。
多くの強敵を倒し続けて、今の俺のレベルは24に至っている。
得られたステータスポイント20を全てMPにぶち込んだ俺の現在のMP最大容量は510。
"壺"を入れたら、510+5100である。
さあ、現実に話を戻そう。
【毒竜】レベルのスキルならば5+500×10のMPを消費して【刃状変化】を使用できる。
【地割り】が【毒竜】よりも格下なのは、どう見たって明らかだ。
よって……
目を開いた。
目の前で【地割り】が放たれようとしていた。
「結構楽しかったぜ」
そんな終わりを告げる、声が聞こえた。
「俺も……楽しかったよ」
そう返事を返してから、呼吸を整える。
そして、タイミングを合わせて、左腕を右側から左側へと振り払う。
「【刃状変化】!!!」
絶叫。
向かってくる衝撃を、その全てに対して、お前は俺のモノだと宣言する。
相手の攻撃を、自分の武器に。
そのチート技を不可能とするために、馬鹿みたいなMP消費量が制限としてかけられていた。
運営全員が、その膨大なMPに挑もうとするバカなんて、存在しないと……そう、甘く見ていた。
衝撃が消える。
少年の左手には、一本の剣が握られていた。
「……よしっ!三分!【障壁】!それと【多重炎弾】!」
スキルを放ったばかりのドラグの前に、障壁を張ったフレデリカが立ちはだかる。
放たれた無数の炎弾。
張られた堅固な防御壁。
少年の一撃はその全てを、なぎ払い、吹き飛ばし、そして貫通した。
「【ペネトレーター】!!!」
【地割り】という高威力広範囲攻撃スキルの威力全てを、一振りの剣に詰め込んだのである。
その一撃が、障壁の一枚程度で防がれるはずもなかった。
轟音、そして決着。
砂煙が収まった頃、アサギの前にはプレイヤーの一人も残っておらず、金のメダルが二枚、そして銀のメダルが12枚残っているのみ。
「完全、勝利!!!」
HPポーションにより、体力が全回復していくのを見ながら、右腕を突き上げる。
何よりも、自分が狙い続けできたスタイルへと到達できたことの喜びは大き過ぎた。
「……もう、満足。死ねるかもしれない」
「……いや、そう簡単に死んでもらっては困るな」
だから、気を抜いていた。
「昨日ぶりだね【巫女】さん」
「いや、お前の登場場面で話終えるの二回目なんだけど?」
そこには、見覚えのある聖騎士が剣を向けて立っていた。
もういいよ、お前。
人がいい気分の時に、水を差さないでくれない?
思わず一瞬メタ発言しちゃっただろ。
アサギ第一形態の大枠が完成です。