幼馴染が無双するそうなので便乗したいと思います。 作:馬刺し
プロローグ 〜未来の人外たちと幼馴染〜
「肝心の理沙が出来ないのに……ゲームなんて、やったことないんだけどなぁ……どうしようかなぁ?」
ベットの上にて、黒髪黒眼の少女はポツリと一言呟いた。
客観視すれば、まず間違いなく美少女と言っていいだろう彼女は暫くベット上で寝転がる。時折、迷いを表すかのようにアホ毛がピクピクと動くのは、きっと気のせいなのだろう。
「まぁ……いっか!」
ある程度の時間をかけて導き出された結論は、思考放棄だった。
そして、先程まで親友こと
何気ない会話でも、緊急時の連絡でも、何回もお世話になっている幼馴染の彼の元へと、連絡を入れる為に……
◇◆◇
いつもより少し、早いな……なんて考えながら、本条楓と表示されている画面を確認しながら、震え続けているスマホを手に取った。
昔、風呂に入っている最中に、テレビ通話を食らったことがあり、それ以来、彼女は俺に、電話をかけるようになっていた。
『あっくん!困ったよ、どうしよう!?
瞬間、耳元に放たれるSOSの大声。
クッソうるさいな、コイツ。
最近は、近況報告ばかりで少し油断していたのかもしれない。彼女、本条楓は基本的に真面目だが、少々いや、大分天然の色が強い。
今のやりとりにしろ彼女に悪気は一切ないのだ。
『……うるさいよ、いきなり……というか、お前な……いい加減、唐突に電話してきて、愚痴り始める癖を治してくれ……これ、凄い昔から言ってるよな?』
『いい加減、諦めた方がいいと思うんだけどなぁ〜』
知ってる。
というか、いつも一言、形だけ注意しているだけで、俺も彼女の癖に順応し始めている。具体的に言えば、夜7時から先は携帯を手元に置いておくことにしている。
先程、いつもより少し早い、とい感じたのも、彼女が毎日連絡を入れてくる以外の理由はない。
『……お前が言うなよ…………それで、何のようだ?』
『またまた〜あっくんなら、私が何を言いたいかぐらいわかってる癖に〜』
うぜぇ……ただ、彼女が言う通り、何を言いたいのかがわかってしまう為、少しだけ嬉しく感じてしまう。
そして、それと同時にこちらの考えが見透かされているようで悔しい。
『……はぁ、確かに俺も持ってるぞ。NWOのソフトに、VR用のゲーム機本体も、少し前に買ったからな』
『やっぱり!……じゃあ、今から一緒にやらない?理沙に言われて買ってはみたんだけど……あんまりこう言うのやったことなくて』
『……なのに、肝心の理沙は、勉強中ってことか』
先程の意趣返しではないが、彼女が誘い主を頼るのではなく、俺を頼ろうとした理由を先回りで当ててみる。
『そうそう!ってあれ?何であっくんがそのこと知ってるの?』
『そりゃ、少し前まで理沙の勉強見てたからな、愚痴ぐらい聞いてるよ……大体、人使いが荒すぎるんだよ、アイツ』
『へ〜、二人だけで、仲良くしてたんだ?』
『…………』
どうやら、地雷を踏んだらしい。
『さっき理沙に、キラキラした目でプレイするだけしてみてって、頼まれちゃったんだよね』
『…………残念だけど、俺は理沙に私より"先にやるのはズルいからまだやるな"って言われてるんだよ』
『理沙の頼み事は聞いて、私の頼み事は聞いてくれないんだ〜』
どうやら、地雷が誘爆したらしい。
文字にするとわからないが、コイツ無感情な声だせんのかよ!っと余裕があればツッコミを入れたいレベルで怖い。
それは、怖がっているのか?というツッコミは受け付けてない。
『勘弁してくれ……駅前のカフェ、デザートおごり一回でどう?』
『デザートだけ?』
『……わかったよ。好きなだけ食っていいから、許してください、楓様』
それで許されるなら、安いものだ。
…………今月は、無駄遣いできないなぁ。
『よろしい、にしても……本当に、あっくんは理沙の尻に敷かれてるよね。逆らえないんだ?』
『……その理論でいくと、お前も俺を尻に引いてることになるけどな?』
『あははは……うん、じゃあ仕方ない。今日は私一人でやってくるよ』
『おい、そこは否定しろ!?』
いきなり、話題を切り上げそう言った彼女に、食い気味にツッコミを入れるも
『じゃ、カフェデート楽しみにしてるよ〜!』
プツリ、と通話は切られてしまった。
…………はぁ、デートじゃねぇっての。
◇◆◇
本日の下校時刻は、4時。
現在の時刻は、4時半。
俺の両手には、掃除用具。いや、おかしいだろ。
「………さてさて、それで……話を聞こうか?課題提出ギリギリで、やってないことに気がついて、俺のレポートを掠め取ってた白峰理沙さん」
原因は、もしかしなくてもコイツである。
栗色の長髪をポニーテールで纏めている、誇張しなくても確実に美少女と言えるであろう幼馴染の白峰理沙さんだ。
「いや、あの……その…………ごめんなさい」
昨日、楓に散々、尻に敷かれてるだ、なんだと言われたのだが、事情が有ればそんな上下関係などアッサリと逆転してしまう。
いや、上下関係を認めたわけじゃないんだけどね?
「一応、真面目なお前のことだ、大方、課題の存在自体を忘れてだんだろうがな……人のレポート丸パクリはダメだろ……」
それが、俺たちがここにいる理由。
つまり、理沙が課題のレポートを忘れていたことに気がつき、なんの捻りもなく俺の物を丸パクリして提出したところ、バレて罰掃除を食らっているのだ。
「うぐっ、その………つい、出来心で。バレないかなぁ、なんて思ったんだけど」
「バレるわ、アホ!」
実験などをまとめる物ならともかく、作文系のレポートをパクれば、バレるに決まってるだろうに。
「ご、ごめん」
普段は、割と雑に扱ってくるくせに、こういう時にだけしおらしくなるのは、少しズルいと思う。
俺に迷惑しか、かかっていないことに罪悪感を抱いているのか、少し俯いてしまった彼女の頭に、右手を乗せる。
「……?」
そして、わしゃわしゃっとその撫で心地のよろしい頭を乱雑に撫でまくる。
「……え、あ、ちょっと!やめ、やめてって!髪、くずれるじゃん!」
少しの間そうしていると、彼女は右腕を掴みこちらにジト目を向けて来た。
「ほんとに、無駄なとこで気が効くんだよね」
「……なんか言ったか?」
難聴系主人公に成り下がった覚えはないのだが…………いや、成り上がったなのだろうか?大抵、そういう主人公ってモテてるし。
「もういいわよ、それより早く掃除終わらせちゃうよ。さっさと帰って勉強して、そんで、絶対にゲームやるんだから!」
「その調子、その調子………まぁ、お前先に帰ってていいんだけどな?」
「へ?」
俺の言葉に、彼女はこれでもかというぐらいの間の抜けた声を出す。
何その顔、ちょっと可愛い。
「いや、だって先生に俺がパクリましたって言ってあるから、お前が罰掃除してなくても、怒られないと思うぞ。せっかくのテスト期間なんだし、無駄なことしてないで勉強しとけ」
落ち込んでいる彼女を、元気付けるためだけに、わざわざ彼女と話をしていたのだ。
普段の彼女に戻ったのならば、無理に罰を受けてもらう必要などない。
たかが、掃除である。
このぐらいなら、俺が一人でやっても問題ない。
「…………いい、私もやる」
「……?なんで?」
「…………今ここで、彩華に任せて帰ったら人として、ダメな気がするからだよ!!」
ああ、申し遅れたな。
俺は
彼女の……いや、彼女たちの幼馴染である。