幼馴染が無双するそうなので便乗したいと思います。   作:馬刺し

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18話 幼馴染と聖剣。

「昨日ぶりだね【巫女】さん?」

 

 

 向けられた長剣。

 金色の髪に青い瞳、その顔立ちは憎たらしいほどに整っている。

 聖騎士を思わせる白の鎧に身を包み、その青年は爽やかな笑みを浮かべながら、そう言った。

 

「……なんで、いんだよ」

「フレデリカから、SOSを貰ってね」

「あの野郎!?」

 

 正確に言えば、野郎ではないのだが。

 ……【凍結封印】後に放置しすぎたかもしれない。

 

「まさか……本当にあの二人が撃破されるとは、思っていなかったんだが……間に合ったようで何よりだ」

 

 残量MPは"壺"を含めて2000ほど。

 

 【地割り】に3000近く持っていかれたようで、万全とは言えない状況。

 何より、先の戦いによる精神的な疲労が少なくなかった。

 

 

 まずい。

 まずった。これは、初死亡を覚悟した方がいいかもしれない。

 

 今一度状況確認をして、出てきた結論は『やっぱりまずい』だった。

 

 ……仕方ない。

 逃げ切れるとも思えないのだ。

 

「あははは……そうだな……できることなら、会いたくなかったよ」

 

 乾いた笑い声をあげると、ペインも同じように笑みを浮かべて

 

「はは……釣れない、な!」

 

 横一閃、薙ぎ払われたその剣を、上半身を全力で後方へ逸らすことで回避する。

 ペインも本気で当てるつもりは無かったのだろう。

 至近距離でコイツが本気を出せば、俺は恐らく五秒と持たない。

 

 回避する際、バク転しながら左足をペインの顔面を蹴り上げようと伸ばす。

 いや、伸ばそうとした。

 

 攻撃に転じようとした瞬間、背筋に悪寒が走る。

 その直感を信じて、無理に攻撃へと移行せず、左足を引っ込めてペインから距離を取る。

 すると、そんな俺の様子を見たペインが、獰猛な笑みを浮かべた。

 恐らく、蹴りが飛んで来たらその足を切り落とそうと考えていたのだろう。

 

「……流石、メイプルのパーティーメンバーだな。ドレッドと同じタイプか……俺も、本気を出すことにするよ」

 

 その言葉通り、一瞬で彼の纏った雰囲気が変質する。

 向けられる眼光に、昨日見た人当たりの良さそうな優男風なんてモノは存在しない。

 

「この戦闘中毒者が……話し合う余地とかない?本能も理性も勝ち目無しって判断してんだけど?」

 

 半分時間稼ぎのようなものだが、ダメ元でそう聞いてみる。

 

「悪いが、君が先程倒した二人のプレイヤーとは縁があってね……彼らは、これから追加されるであろうギルドシステム……俺が作るギルドの団員予定でね、しっかりと敵討ちをする……という建前がある」

「そりゃ、逃すわけにはいかないよな……って、建前って言い切ってんじゃねぇか!?お前、やっぱり戦いたいだけだろ!?」

 

 恐らく、コイツはサリー並に好戦的。

 そう考えながらもツッコミを入れる。

 

「君も団員になるというなら、見逃してあげてもいいんだが……やはり、そうか」

 

 会話を進めていくうちに、覚悟を決めた。

 せめて、即死は逃れようと……いや、頑張って負け確の考え方やめよう。

 

「察しが良くて助かるよ……ご予想通り、生憎と……仕える主人は二人だけって決めてんだ!」

 

 ゲーム内なら、格好つけた台詞も恥ずかしくないのが不思議である。

 ……散々、魔法名とか叫んでるから、羞恥感が薄いのかもしれない。

 

「【ペネトレーター】!【ファイアボール】!」

 

 右手で『蒼刃』を飛ばし、左手から炎弾を放つ。

 【凍結封印】は時間制限で二時間間隔を置かなければ使えない。

 使ったところで"素が強い"系のプレイヤーであろうペインには、対して効果は無いのだろうが。

 

「ふっ!はっ!」

 

 二度、ペインが長剣を振るだけで、俺の攻撃は無力化されてしまう。

 

「簡単に、弾いてくれるなぁ!【ファイアボール】【刃状変化】!ついでに【超速交換】!」

「それが、君の切り札か!」

 

 左手に炎刃。

 右手に『ゴブリンキングサーベル』を装備。

 感覚でわかるが、そろそろ右手の方は折れ時だろう。

 出来れば持ち帰り、イズさんにでも修復を頼もうと思っていたのだが、仕方ない。

 

 二刀を補給した俺に対して、ペインがどこか嬉しそうに攻撃を仕掛けてくる。

 

「はぁ!」

「……っ!……接近戦は、本職じゃねえっての!」

 

 交差させた二刀で、ペインの攻撃を受け止め……切れずに、俺は攻撃の重みに負けるようにズルズルと押し込まれていく。

 足場の悪い砂地であることも影響しているのだろうが、それはペインも同様である。

 万全の踏み込みによる攻撃ならば、剣丸ごと叩っ斬られていたはずだ。

 

 パキリ、パキリと右手の剣から音がし始める。

 押し込まれながらもなんとか保っていた均衡は、この剣が折れた瞬間に崩れ去るだろう。

 

「……やったこと、ないけど!」

 

 状況打破の策を考え続けだ結果、出来るか分からん奇策を思いつく。

 

「【刃状変化】解除!!」

 

 瞬間、左手が爆発。

 

「……!?」

 

 俺は爆風により、後方へと吹き飛んだ。

 爆発そのもののダメージは入らないのだが、吹き飛ばされた際に無理な着地をした、とシステムに判断され、少々体力が削られている。

 

「これは……使えるな」

 

 実験が予想通りに成功し、いくつか新しい戦法を思いついたのだが、それを考えるべきは今ではない。

 

「……気を緩めたか!」

「やべっ!」

 

 砂埃立ち込める中、急接近してきたペインの姿を視界に捉えた。

 そして、同時に迎撃が間に合わないことも悟る。

 対ドラグで見せた【刃状変化】による絶対防御も物理攻撃には関係ない。

 

「……!【サンドカッター】」

 

 瞬間的判断で、右腕を盾にしながら前方へと滑り込む。

 その際に、目潰し代わりにペインの顔面方向へと砂の斬撃を飛ばしておいた。

 

 衝撃、そして右腕に不快な感覚が走る。

 

「……ここ、までか」

 

 滑り込み、現在の俺は体勢を大きく崩している。

 右腕を犠牲にしたことで、奇跡的に生きてはいるが、攻撃が出来る体勢ではない。

 『肉を切らせて』だけで完結してしまっている。『骨を断つ』ことが出来なければ、肉の切られ損だというのに。

 

「これで……終わりだ!」

 

 ま、相性最悪の割には抵抗できたか……なんて、自分に言い聞かせるような俺に長剣が振り下ろされようとした瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「【炎帝】」

 

 

 

 

 

 

 この砂漠に……混沌極まるオアシスに、最後の客達が到来したのは。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 その日、【炎帝】ことミィは遂に己の精神限界を迎えていた。

 

 以下、彼女の心の内である。

 

『ああ!?本当に、無理!もう、無理だってぇ!こんな大事になるなんて、思わないじゃん!ギルドシステムができてない内からこんなに慕われてるって……嬉しいけど、嬉しいけど〜!無理なものは無理なのに……ああ、あの人も同じ感じだったのかな〜。"男性"に見えてるのは、私だけみたいだし……本当に女性なのかな?いや、でも……やっぱり女装してる男性にしか見えなかったし……周りの女の子たち……メイプルにも振り回されてるらしいし【巫女】姿だし。疲れてそうだったな。偽ってるのが私だけじゃないのは、安心したけど〜!あぁ、気になる……流されるまま、女性扱いされてるのかな?そしたら、仲良くなれそうだけど!いや、でも男の人だったらそれはそれで、話しかけづらいわけで……そもそも、話する機会なんてない訳なんだし、深く考える必要もなくて……いい加減、現実逃避をやめた方がいいんだろうけど、大勢の人前で話すのはいつになってもなれないんだよ〜!もう、いいじゃん!折角の探索イベントなんだから、みんなバラバラで楽しもうよ〜!というか、本当に"様"付けしてくる人は、やめていただきたい。ムズムズして仕方ないんだよ!最近なんて私は………………』以下愚痴省略。

 

 

 簡単に言えば

 

 疲れたのであった。

 

 大事なことなのでもう一度。

 

 

 彼女は、四日目にして遂に……

 

 リーダーとしての行動に疲れ切ってしまったのであった。

 

 

 結果、脳内で愚痴り続けた彼女が半分自棄になり、出した命令は……

 

 

「第二回イベントも四日目に突入し、半分を過ぎた……これからはさらなる激戦が考えられる。だか……だからこそこれからの期間を利用し、イベントのため、そしてギルド設立後のために各々の力を蓄えて欲しい。全ては『炎帝の国』としての誇りのため、各自が自分に誇れる強さとなるものを、持ち帰ってこれるよう期待している」

 

 もう無理、ごめん。適当に頑張って。

 

 だった。

 

 

 

 その指示を受けた団員(仮)達が雄叫びを上げ、それぞれ飛び出していったのを見送った訳だが……幹部クラス(仮)のプレイヤーたち。

  

 第一回イベント第7位 二つ名【崩剣】

 

 第一回イベント第8位 二つ名【トラッパー】

 

 第一回イベント第10位 二つ名【聖女】

 

 上からシン、マルクス、ミザリー。

 実力者である彼らは別だった。

 

「俺たちはどうする?自由行動でいいのか?」

 

 シンがそう聞いた。

 普段ミィは、一人で戦うとき以外は、彼らと共に戦いに出ることが殆どだったからだろう。

 人数が減れば、ミィの心にもゆとりもできてくる。ミィは落ち着いて返答する。

 

「好きにしてくれて構わない。私に同行することを断りはしない」

 

 今更、威厳を失うわけにもいかないので、口調や表情には気を張らなければならないのは変わらないのだが。

 

「そういうことなら、俺は一人で行くかな。前回イベントではカスミにしてやられたからな!もっと強くなって、いつかリベンジしてやる」

 

 同日、カスミがサリーに敗北することなど一切知らないシンがそう言って、去っていく。

 その背中にはやる気が満ちていて、これから彼に遭遇するであろうプレイヤーにミィは小さく祈りを捧げた。

 

「私は……ミィに同行してもよろしいでしょうか?一人で戦うのは、本業ではないので」

「僕も、同じかな。ミィがいれば、安心だと思うし」

 

 ミザリーとマルクスがそう言う。

 まあ、この二人ならばそれが当然だろう。

 

 かたや"聖女"とまで言われる回復のスペシャリスト。

 かたや"トラッパー"とまで言われる罠設置のスペシャリスト。

 

 自分の主装備は杖なので、前衛職がいないことが少し不安だったが、ミィは動ける後衛職であるため問題ないと判断した。

 

 

「それでは、我々もそろそろ行こうか」

「はい!」

「……うん」

 

 

 そして……探索すること約8時間後。

 

 

 つまり、現在。

 

 

「【炎帝】」

 

 

 現時点最強プレイヤーとの呼び声高いペインに対して、ミィは攻撃を放っていた。

 

「み、ミィ!?やり過ごそうって言ったのに……!」

「ど、どうしたのです、ミィ?」

 

 喧嘩を売れば、例えこちらが三人だとしても敗北する可能性は十分あった。

 それでも……

 

『なにしてるの、あの人!?』

 

 抱いた好奇心は、【巫女】を見殺しにすることを拒否した。

 

「事情が変わった……乱入するぞ」

「「ええぇ!?」」

 

 

 砂漠での戦いは、遂に最終段階を迎えようとしていた。


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