幼馴染が無双するそうなので便乗したいと思います。   作:馬刺し

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19話 幼馴染と炎帝。

 

「【炎帝】」

 

 

 死角から放たれたその一撃は、ペインが回避行動を取った姿を見て、回避を行なった俺の髪をかすめるようにして飛来、着弾後に即爆発した。

 

 目の前で巻き起こった爆発による風圧で、体が宙を舞う。

 一体全体、神様は今日一日で何度俺を砂漠に叩きつければ気が済むのだろうか?

 

 流石のペインも【ファイアボール】と比べるまでもない超火力攻撃には、注意を向けるようで、一瞬だけ視線がこちらから外れた。

 

「……っ、援軍……いや、乱入か?」

 

 その隙を現状打つ手無しで、一矢報いるチャンスに飢えていた俺が見逃すわけがない。

 

「【ペネトレーター】!」

 

 これがコイツの最後の一撃となること。

 それを覚悟し、少しばかりの謝罪とたっぷりの感謝を込めながら右手の剣を撃ち放つ。

 宙を駆けた斬撃にペインは直前で気付くも、回避するには遅すぎた。

 逃げ遅れた彼の肩へと直撃した『ゴブリンキングサーベル』が消滅していく。

 

「くっ……まずは、君からか!」

 

 俺の体力は先程右腕にもらった攻撃で、既に半分を下回っていた。

 仕留めるうちに仕留めて、敵対している相手の数を減らそうと考えたのだろう。

 ペインが速度を上げ、こちらに向かってくる。

 そして、ペインに接敵される()()()()()()に危機感知センサーが働いた。

 反射的に後ろへと、バックステップを踏んだ瞬間、先程まで俺が踏んでいた地面が爆ぜる。

 

「【遠隔設置・爆撃】!……なんで、避けれるんだろう?」

「……っ、マルクス!狙うのはペインだけでいい!」

 

 今の爆撃で、再びペインとの距離が広がった。

 少し余裕が出てきたので、俺もそろそろ乱入者兼救世主の方向へと視線を向けることにする。

 

 そこにあったのは、緋色の髪を持つ少女の姿。

 

「あ……人酔い疑惑の子!」

「そ、そんな疑惑をかけるな!」

 

 思わず声を上げてしまったが、ツッコミを入れてくれるあたりノリがいい子なのかもしれない。

 

「【炎帝】に【トラッパー】か……となると【聖女】もいると見た方がいいか」

「察しがいいな【聖剣】のペイン……四対一だ。そう簡単に、勝てると思わない方がいいぞ」

 

 ペインが動きを止め、何か言っているが、二つ名持ちのプレイヤーなんて知らない。

 【巫女】を認めてしまえば、俺も二つ名持ちの仲間入りだが、認めたつもりは一切ないのである。

 

 要するに有名なプレイヤー達が集まっている、と言う認識だけでいいか。

 

 ……ん?四対一?

 

「あ、何。乱入じゃなくて、援軍?……助けてくれんの?」

「……ま、まあ……少し思うところがあってな」

 

 俺の質問に、目を逸らしながら【炎帝】とやらが答える。

 

 へ〜、そっかぁ〜。援軍か〜。

 

 じゃ、今は"敵意なし"ってことで、いいよね?

 

 

「おい【炎帝】とやら。最大火力の攻撃、俺によこせ!」

「はい?え、あ……は?」

「……っ!?……させるか!」

 

 【炎帝】が固まり、ペインが動く。

 ドラグ達が敗北していることを知っていたからこその、危機察知能力だろう。

 そのペインを……【炎帝】と俺の対角線上に誘導するように、俺は後退する。

 それと同時に、叫ぶ。

 

「頼む!早く撃って!」

「遅い!」

 

 ……間に合わないか!

 心の内で悪態をつくと同時に、ペイン迎撃のために右手へ武器を装填する。

 

 激突の一歩手前。

 

「【障壁】!」

「……!……やられた」

 

 おっ……コホン。

 母性感溢れる優しげな女性が、俺とペインの間に防御壁を張ってくれた。

 恐らくフレデリカが張ったものよりも、圧倒的に強固な防御壁……これが【聖女】か。

 

 その隙に【炎帝】が動く。

 

「よく、わからないが……後悔するなよ!【炎帝】!」

 

 障壁が消える。

 だが……俺へ飛ばされる爆炎の通過点にいたペインは、攻撃を続行せずにその爆炎を避けなくてはいけない。

 背後からの攻撃を回避した聖騎士には、もう俺の行動を止める時間などなかった。

 

「【刃状変化】!!!」

 

 【地割り】以上の重さに、顔を顰めながらもその全ての衝撃を、剣を形作るように押し込んでいく。

 

「お、さまれぇぇぇ!!」

 

 声を張り上げ、気合を入れ直す。

 左腕を半分吹き飛ばされながらも、衝撃を逃さずに受け止め切る。

 

 全プレイヤー中、遠距離攻撃に関して言えば最強ともいえる【炎帝】の最大火力を凝縮させた炎の剣。

 俺の左手には下手をすれば、メイプルにも届き得るほどの炎刃が生成されていた。

 

「流石のお前も……これなら、仕留められるよな?」

 

 その剣を、俺は投げなかった。

 投げる必要がなかったからである。

 俺は、こちらへ向かってきたペインを迎撃するだけでいいのだ。

 

「……ふっ、成る程。これで、ドラグ達は負けたのか……確かに分が悪いようだ。また、出直すよ」

 

 遂に、ペインは剣を収めて自らの劣勢を認める。

 だが、彼の放った言葉に俺は絶句しかけた。

 

「……え、何。お前……ここから、逃げきれんの?」

 

 素で気になった疑問である。

 ペインを叩きのめして終了だとばかり思っていた俺に、ペインは爽やかな笑みを浮かべて別れの挨拶をした。

 

「もちろん。中々楽しかったよ……今度は一対一でやろうか?」

「絶対やらねぇよ!?というか、もちろんって……マジで言ってる?」

 

「それじゃ、また。次は勝つ……メイプルにもよろしく言っておいてくれ。【超加速】!」

 

 そう言うの同時に、加速したペインはあっさりと姿を眩ませてしまう。

 

「【超加速】って……アイツ、まだ手加減してたのかよ」

 

 こちらへ圧倒的な敗北感だけを刻みつけて、最強と名高い【聖剣】は砂漠での戦いから退場して行ったのである。

 

 

 

 驚く程アッサリと戦いは終わった。

 

 だが、俺に休む暇などない。

 

「それで【炎帝】ちゃん、何が目当てかな?」

「【炎帝】ちゃんはやめてくれ……」

「ミィを、弄るなんて……命知らずな……」

 

 ヘタを打てば、一瞬で体力を溶かされてしまうであろう状況は、変わっていないのだから。

 

◇◆◇

 

 

「よっ、と……全員、甘いもの大丈夫だよな?軽くおやつ作ったから、適当に食べちゃってね〜」

 

 取り出されたテーブルの上に、種類様々、作り立てホヤホヤのおやつが大量置かれている。

 

「……え、おや……つ?……マカロンにケーキ、和菓子にポテチって……」

「美味しくいただきますね」

「ミザリー!?」

 

 【トラッパー】ことマルクスと【聖女】ことミザリーがそれらを目の前にして、賑やかに会話を進めている。

 その後ろ姿を満足げに眺めながら、俺は【炎帝】ことミィと会話を進めていた。

 

「緑茶か、紅茶か……ミィちゃん、どっちがいい?」

「緑茶を頼む……だから、ちゃん付けはやめてくれ……」

「まあまあ、気にしない。気にしない」

「……はぁ、ん。ありがとう」

 

 ため息を吐きながらも、緑茶を渡すと謝礼を返すあたり律儀な人だと思う。

 

「……全く、コミュニケーション能力が高い、というべきか?警戒心は薄い方じゃない筈なんだけどなぁ」

 

 楽しそうな様子を見せる仲間達の姿を見ながら、嬉しそうにミィは言葉を溢した。

 そんな彼女の姿を見て、どこか安心している自分がいることに気付く。

 

「……ま、作り手としては喜ばしいことこの上ないんだが。ミィも食べてくるといいよ」

「いや、食べたい気持ちもあるのだが……私は遠慮しておく」

 

 未練がましい、と言った目付きで俺の作った菓子を眺めているのにも関わらず、そんな言葉を返してきた彼女が、何を気にしているのか考える。

 そして……

 

「あぁ……お前、キャラ作ってんのな」

「……は?」

 

 あっさりと真実に辿り着いた。

 

「ミィも一緒にどうですか?このお饅頭、凄く美味しいですよ」

「ミィも来なよ……ほんと、美味しい」

「え、あ……その、わ、私は」

 

 動揺しているミィにミザリー達から声がかかる。これだけお膳立てされても、素直に菓子の一つも食べれないとは、今までどんなキャラを作ってきたのだろうか?

 往生際悪く、仲間の誘いを断ろうとしている彼女の背中を思いっきり押す。

 

「ほれっ!サッサと食う!んで、感想教えろ……ギルドリーダーになるなら、そんぐらいの礼儀は弁えとけよー」

「……ま、まあ、折角の機会だ。頂くとするよ」

 

 建前をつけたことでやっと彼女は動き出した。

 一つ、二つとほんの少し目を輝かせて、お菓子を食べていく彼女の様子を見て、俺が笑いを堪えきれなくなったのは、仕方のないことだろう。

 

「……ふっ」

「どうかしたのですか?」

「い、いや……なんでもない」

「……おい【巫女】。ちょっとこっちこい、ケンカは買うぞ」

 

 

 

 仕方のないことなのだが……ミィは見逃してくれないらしかった。

 

 

 ミィに引き摺られていくこと二分ほど。

 適当に時間過ごしてて、とミザリー達に言い残した俺とミィは漸く、二人きりで向かい合っていた。

 

「……んで、美味しかった?」

 

 一方的に引き摺ってきた彼女が、どう話しをするか困ってしまったようなので、取り敢えず会話を始めてみる。

 

「……うん。凄く、美味しかったよ」

 

 少し黙ってから、彼女は満面の笑みでそう俺にお礼を言ってくる。

 そんな笑顔を浮かべられると、こちらも嬉しくなってきてしまう。

 

「そりゃ、何より……話し方、変えたね?」

「うん……こっちが素だから。それで……あなたも、その……素で話しても良いんだよ?」

 

 思ったよりも簡単にキャラを作っていたことを暴露する彼女だが……どうして俺に?と思った時に、彼女から予想外の言葉をかけられた。

 ……ん?

 ちょっと待てよ。

 今の俺は……素じゃない、のか?

 

 

………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………あれ?俺、女装してたっけ?

 

 

 

「ああああ!そうか……そういうことね……その、ミィ?言い難いんだが……」

「わっ!?……びっくりした」

 

 突然大声を上げた俺に、彼女はビクッと肩を震わせた。

 そして、少しオドオドしたようにこちらを見てくる。

 片手を上げ、謝罪を示してから彼女に告げた。

 

「俺は……その、好きで女装してるわけじゃないんだが……基本的に違和感はないと言いますか……はい。その、ちょっとマナー違反だけど、ゲーム内の見た目は、リアルから弄ってないんだよ」

 

「え!?……じゃ、じゃあ……特に、キャラを作ってたりは……?」

 

「うん、してない。女装状態がデフォルト過ぎて、女装してたことすら忘れてたわ」

 

 ここまで会話すると、ミィは顔を両手で覆って蹲ってしまった。

 

「……勘違いって……勘違いってぇ……死ぬ」

「……お前、ほんとに苦労してそうだなぁ」

 

 それから暫くの間【炎帝】を慰め続ける【巫女】の姿が見られたのだとか。

 

 

◇◆◇

 

 

「落ち着いたか?」

「うん……ありがとう」

 

 恥ずか死しかけていた彼女は、最終的に俺がその場生成した菓子を、彼女の口へと押し込むことで再起動し、それから少しの間は雑談を続けていた。

 主に、彼女の愚痴を聞き続けることになったのだが……それはそれで楽しかったので満足である。

 

「取り敢えず、フレンド登録して戻ろうか?また、いつでも愚痴くらいなら聞いてあげるから……」

 

「うん……ありがと……?あれ……私まだ、名前聞いてない!」

 

 大事なことを忘れてた、と勢いよくこちらを見てくる彼女に微笑ましいものを感じ、思わず笑みを浮かべながら、自己紹介をする。

 

「俺はアサギ。【巫女】とか色々言われてるが、歴とした男性だから、そこんとこよろしく!」

「……お菓子も作れるって、男の子の要素本当にないよね」

「うっせぇ!?」

 

 差し出した手を、彼女は笑いながらしっかりと握り締めた。


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