幼馴染が無双するそうなので便乗したいと思います。 作:馬刺し
助けてもらった駄賃代わりに、ドラグが保持していた銀のメダルをミィ達に押しつけ、問答無用で別れてきてから数十分。
俺は、メイプルとサリーに置きざりにされていたことを思い出していた。
地上に戻ってくれば、勝手に連絡してくるだろう、という楽観的な考えでそろそろオアシスを離れることにする。
これ以上ここに留まると、更なる厄介ごとに巻き込まれそうな、嫌な予感がしたのだ。
砂漠からあまり離れ過ぎないように、ということだけを意識しながら、辺りを探索していく。
途中、何度か雑魚モンスターとの戦闘があったのだが、今日戦った相手がアレ過ぎるので、正直負ける気がしない。
砂漠へ出てきた際に通った森林地帯とは、また別の森林地帯を見つけたため、警戒を強めながら森に入っていく。
暫くの間ダンジョンの入り口やら、怪しそうな場所やらを探してみるが、やはりそう簡単に見つかるものではなかった。
「……何かあったとしても、今日はもう戦いたくはないんだけど」
魔人にドラグとフレデリカ、ペインと戦った後にミィ達との邂逅だ。
疲労はそれなりに溜まっている。
そんな今の呟きがフラグになったのか、ガチャ、ガチャという金属音が俺の耳に届いた。
気配を消し、木陰へと移動。
「【潜影】」
影に身を潜めてやり過ごすことにする。
俺がいることに気が付いていない三人組のプレイヤー達が、俺が潜む影のすぐ側を歩いていく。
別に息を殺す必要はないのだが、影の中にて、ついつい動きを止めてしまうのは仕方ないことだ。
「……しいぜ」
「さっきのプレイヤー達から聞いた話か?そんなのデマに決まってんだろ」
「そうそう【神速】がサシで負けるわけねぇって」
「やっぱそう?でもよ…………」
こちらに気付かないまま、会話を続けていく彼らだったのだが、その中に聞き逃せない情報が混じっていた。
潜影を解除して彼らの背後に立つ。
足音を立てずに、接近。それと同時に『蒼刃』を抜刀して……一番後ろにいた一人のプレイヤーを左手で拘束し、右手に持つ『蒼刃』をその首に突きつける。
「なぁ、その話。詳しく聞かせてくれないか?話し合いに応じてくれるなら【料理Ⅴ】スキルで歓迎してやるんだがどうする?」
男三人むさ苦しい旅を行なっていた彼らにとって、女性の手料理を味わえるのであれば情報提供することなど軽々しいものだった。
例えそれが、殆ど暗殺者からの脅迫のようなものだったとしてもである。
「「「ゴチになります!!!」」」
「いや、アンタら生粋のアホだろ」
……脅迫されてるやつまで、喜んでるんじゃない。
◇◆◇
「【神速】……前回イベント第二位がタイマンで負ける、か。割と信じられない情報だが……火の無い所にに煙は立たぬって言うしな。もう一つか二つ情報が欲しい所だけど……」
ヘッポコ三人組と別れ(夜は鍋にした)再び探索を再開する。
メイプル達からの連絡はまだ無いため、かなり広いダンジョンに飛ばされているのかもしれない。
手に入れた情報を口にしながら、脳内で整理していく。
噂というものは恐ろしいもので、俺も【神速】殺しの容疑者として候補に挙げられていたらしい。
本当に【神速】が敗れたのか、ということさえわからないのに、随分と勝手に言いたい放題やられてるものだ。
「……といっても、俺内最有力候補のサリーは俺達と一緒にいたからな……ま、降りかかる火の粉は振り払うだけで、関係のない炎はスルーするのが一番。他人事じゃなくなったら、考えるか」
取り敢えず保留。
何はともあれ情報が少なすぎるのである。
思考回路を回し続けていると、時間の経過を忘れてしまう。ハッと気付いた時には、辺りは暗くなり、そろそろ完全に日が沈む頃合いだった。
「……アイツら流石に遅過ぎない?放置プレイの趣味に目覚めちゃったのかな?」
ブツブツと独り愚痴りながら歩いていると、再び聴覚が金属音を捉えた。
また、やり過ごすか……なんて呑気に思った俺だったのだが……
「お?また、あったな【巫女】さんよ」
「うわぁ……何でまだこんな所にいるのよ」
「……俺もう戦いたくないから、休戦にしない?」
仲良しこよしのドラグ、フレデリカコンビに再び邂逅したのだった。
「……料理しかしてねぇ気がする」
今日の自分を振り返った感想がコレ。
キツイ戦闘と同回数ぐらい料理をしている気がするのだ。
「いいじゃねぇか。ペインも褒めてたぜ、焼き芋だかご馳走したらしいじゃねぇか」
「……なんか、負けた気分。本当に男性なの?」
しかも、こいつら相手に……である。
「男ですが?というか女狐、よくもSOSなんて送ってくれたじゃねぇか」
「女狐!?」
「ふははは!間違ってねぇな!」
「ちょ、ドラグ!」
対ペイン戦の原因となったフレデリカへと恨みは地味に重い。
今作っているカレー、軽く弄っておこう。
「……ほれ、完成。俺はもう夕食取ってるから、少ししか食わない。お前らがたくさん食って残さず食え」
「紅くない!?私の奴だけ明らかに紅くない!?」
「目の錯覚だ」
半分ヤケになったフレデリカが涙目で真紅に染まったカレーを口にする。
目を見開き、こちらを睨みつけて言った。
「何で、無駄に美味しいの」
「そりゃ、その色は殆ど着色料の力ですから。食べ物で遊ぶわけないだろ」
「遊ばれてるじゃねぇか、フレデリカ。にしても……本当に料理を作れるとは……俺も貰うぜ」
ドラグがフレデリカの様子を見て笑い声を上げる。
というか、お前。
俺が料理できるのそんなに信用してなかったのかよ。
もちろんそんなドラグにも恨みがないわけではない。彼がカレーを口にした瞬間、俺は真実を口にした。
「因みに辛いのはドラグの方だ」
「がらぁぁああ!?あがっ、み、水!」
大男の絶叫が森に響き渡る。
断末魔のような声を上げるドラグとは対照的に、その様子を見たフレデリカは爆笑していた。しょうがないのでリクエスト通りに水を取り出し、ドラグへと差し出す。
「飲め飲め、お水だ」
「お、おう、助かったぜ」
それを飲み終えた彼に一言。
「辛いもの食べる時は、水飲むと辛さが広がるだけだから、牛乳飲んだ方が良いらしいけどな」
「知ってるなら、牛乳よこせ!?」
「水って言ったから、仕方なく水を渡したんだよ。俺は牛乳渡したかったのに」
「あんた食べ物使って遊んでない?」
「いや、俺はドラグで遊んでるだけだぞ?」
「ここぞとばかりにボケ倒すんじゃねえ!?」
暫くの間そんな調子でコミュニケーションを取った後、俺は本題を切り出した。
「そういえば、ちょっと気になる噂を耳にしたんだが……【神速】がやられたってのは、本当なのか?」
その言葉にドラグとフレデリカが目を合わせる。
その様子から何かあったことは間違いない、ということを理解する。
「別に言いたくないなら、言わなくてもいいぞ?ちょっと自衛のために知りたかっただけだから」
暫くの間沈黙していた彼らだったが、ドラグが意を決したように動いた。
「飯の恩もあるしな、簡単に教えてやるよ。ただ、質問はするなよ。誘導尋問とか得意そうな顔してるからな」
「……どんな顔だよ」
「美人局とかできそう?」
「胸が足りてねぇし、穴もない……って何言わせんだアホ!」
「勝手に言ったのそっちじゃん!?」
「……女顔の部分は否定しないんだな」
「あ゛?」
「でも、着飾ったら本当に美人になりそうだよね〜、今度買い物でもする?」
「誰がするか、アホ」
「いいじゃねぇか、写真撮ってやるよ!」
「断固拒否する!」
「簡単に言えば、暗殺されたんだよ。ドレッドの奴」
「暗殺?」
「質問すんなって言ったろ。そう、暗殺だ」
「……確認ぐらい、いいだろうに」
「アイツは直感を信じるタイプでな、奇襲とかには滅法強い……そこに関しては、ペインよりも上だ。そんなドレッドが……いや、
「……?」
「顔で質問すんな。話を続けるぞ……暗殺が行われたのは二日目の朝。それまでは俺とペイン、フレデリカにドレッドの四人で行動してたんだが……突然、ドレッドだけが回避行動を取ってな……回避した先に罠が仕掛けられてて、アッサリと死んだ」
「……は?」
「いやいや、こっちに視線送らないでよ。まあ、ドラグの頭が心配になるのはわかるんだけどね〜。残念ながら、私も同じ説明しかできないかな」
「俺たちも分からねぇんだ、何でドレッドが回避行動とったのかもわからねぇ……ただ、白い花がどうのってドレッドが言ってたぐらいで、後は知らん。頭使うのに慣れてねぇんだよ」
「見りゃわかる」
「あ゛?」
「まあまあ、落ち着いて」
「ドレッドが暗殺された後、アイツがリベンジしないと気が済まないって言ってな。それで、別行動を取ってたんだ。フレデリカは知っての通り後衛だからな、俺と一緒に組んで、ペインは……言わなくてもわかるだろ」
ここまで話し終えると、ドラグはため息をついてもう話すことはない、と首を振った。
話を聞いていただけなのに、やけに疲れた気がする。
……直感回避型の天敵か。会いたくないなぁ。
「食後のコーヒーでも入れるか……砂糖は?」
「「自分で入れる」」
「あ、はい……信用ねぇな、俺」
会話の話題は尽きなかった。
中でも、ペインを撃退した方法を聞かれた際に『炎帝の国』が乱入してきていたことを知らなかったようで【地割り】の反撃を思い出した彼らは、苦笑いを浮かべていた。
ふと、もう一つ疑問に思ったことを聞いてみる。
「そういや、ドラグは金のメダルどこで手に入れたんだ?もしかして、フレデリカも十位内だったとか?」
「……奪った張本人に聞かれると、少し複雑な気分になるんだが」
そこは、ほら。
水に流す、ってことでいいでしょうが。
「……喧嘩売ってきたのはそっちだろ。で、質問の回答は?」
「私は、前回イベントで上位入賞はしてないよ……だから、もう一枚はドラグが勝手にゲットしたもの」
「へぇ、誰とドンパチやったんだよ?」
「……ドンパチというか、単純に相性だけどな。相手がタンクでこっちがアタッカー。かなり粘られたが、一対一の勝負にならジリ貧で勝てたってだけだ……正直、勝ちだとは思いたくねぇ」
「……タンクでイベント上位って、メイプル以外にいたのか」
「俺は、アイツをタンクとして認めた記憶はないんだけどな」
「安心しろ。俺も、本気でタンクだとは思ってない」
それからは会話が、うちのメイプルがちょっと狂ってる件について。
というものになり、勿論こちらも大いに盛り上がった。
暫く話し込んだ後、お互いにフレンド登録をする。
そろそろ別れようか、という雰囲気になってきた頃に、漸く彼女たちから連絡が届いた。
『帰ってきたよ〜!置いてっちゃってゴメンね!カタツムリが沢山いて大変だったよ!』
『戻ってきたよ、座標送るから来れる?』
サリーから送られてきた位置情報は、結構近い場所にある。
走れば十分とかからないだろう。
「ほぅ、なんだか嬉しそうだな」
「うんうん、いいことでもあった?」
「うっさい!」
一言そう言い返して、走り出した、
さっさと再会して、今はもう癒されたい気持ちでいっぱいだった。