幼馴染が無双するそうなので便乗したいと思います。   作:馬刺し

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繋ぎ話です。
文字少なめとなってます。


22話 幼馴染と海底到達。

「〜〜♪これで5枚目っと!あと、半分。頑張れば間に合うかもっ!」

 

 

 ライトグリーンのパーカーに身を包む()()の後ろ姿が、機嫌の良さを表すかのように揺れている。

 鼻歌まじりにスキップを行い、少しの間隔を置いて手元に持つメダルを見ては、ゆるゆるとその幼げな表情を崩していた。

 

 氷の結晶が象られた淡い水色の髪留めが、しっとりとした質感を持つ黒色の髪によく映えており、左手に同色のグローブをしている彼女は、武器の一つも装備していない。

 

 そして……上機嫌だったその少女が、突然動きを止めた。

 

 

「……悪いが嬢ちゃん、メダルを奪わせてもらうぜ」

 

 目の前に、屈強な男性の姿があったからだ。

 

「……ッ!」

 

「おっと、残念。逃げようとしても無駄だぜ……既にお前は囲まれてるからな」

 

 正面に立っていた男は一人。

 そして、少女の斜め後ろに一人ずつ。

 

 少女は三人の男性に囲まれていたのである。

 

 

 ……逃げ場など、どこにもなかった。

 

 

 

「……ま、こんなとこか」

 

「ん?何か言ったか、嬢ちゃん?」

 

「一人一殺だ!……って言ったんだよ」

 

 

 その男たちには。

 

 

 

 

 

「【毒竜】!」

 

「【超速交換】【ペネトレーター】!」

 

「【ダブルスラッシュ】!」

 

 放たれる毒竜。

 そして、残り二人の男性に凶刃が迫った。

 

 狩られる立場が逆だったことを悟ったと同時に、彼らは消滅していった。

 その場に残っていたのは、三人のプレイヤーのみである。

 

 

「それと……俺は男だ!」

 

 

 相手に声は届かないと分かりながらも訂正せずにはいられなかったのである。

 パーカーを着た少年の声だけが、その空間に響き渡っていく。

 

 ことの発端となる出来事が起きたのは、十分程前のことだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 既に海辺でカナデと別れてから、二時間程が経過している。

 海岸線に沿うようにして歩き続けた俺たちは、そこら中に苔やら何やらがこびりついている、廃墟地帯にやってきていた。

 

 

「どうだ、あの本……何か解読できたか?」

 

「いや、まだ全然だ。水が関係してるのはわかるんだが……ボロボロすぎて、断片的にしか読めねぇよ」

 

「まず【古ノ心臓】の場所がわからないからな……ま、死んだら本は落としちまう仕様だ。慎重に行こうぜ」

 

「分かってるよ」

 

 

 

 俺たちは廃墟の探索を始めてたった数分で、早くもプレイヤーの姿を発見。

 彼らは、かなり警戒をしながらも会話を続け、俺たちの目の前を歩いていく。

 

 彼らの様子を俺たち三人は、影の中で伺っていたのだ。

 

 地道な努力により、今日になって遂に【潜影Ⅴ】へと強化された潜影スキルの内容は、同行できるプレイヤーが一人から二人へ増えたこと、潜影可能時間が五分になったことが追加されたのみだった。

 そのため、相変わらず攻撃不可の制限はかかっているのだが、今回の強化によりパーティーメンバーである三人全員が影へと移動できるようになった。

 かなり楽になったのは間違いない。

 潜影時のMP、HP回復の恩恵も全員に与えられるようで、簡易的な休憩場と思えば、便利なスキルだからだ。

 

 

「……サリー」

「うん。わかってる」

 

 男たちの会話を聞いた後、サリーへと視線を向けると考えていることは同じようだったらしく、頷き返してくれた。

 

「メイプル……あのプレイヤー達は倒したい。でも……多分普通にやったら逃げられると思うから……」

 

 メイプルがプレイヤーを倒すことに賛成したのを見て、サリーが作戦を話し始める。

 それは、メダルを持った俺orサリーが弱めのプレイヤーの振りをして相手を引きつける、という囮作戦だった。

 

「メイプルは姿見られたらアウトだからな……見た目の有名度なら……俺もキツくないか?」

 

 嫌な予感がしたので、自己保身に走る。

 そんな俺の退路を塞ぐように、メイプルが言わなくていいことを口にした。

 

「あっくんは着替え持ってるよね?」

「うぐっ」

 

 気分重視で着替えたのは失敗だったかもしれない。

 そんな俺に対して、サリーがわざとらしさを隠しもせずにこう言った。

 

「……囮は、少し怖いなぁ……誰か代わりにやってくれるアサギはいないかなぁ?」

「個人名言っちゃったよ、この人」

 

 大体、お前がたった三人のプレイヤー相手に怖がるわけが……なんて反論を口にしようとした直前に、サリーがこちらの手を両手で握って言った。

 

「頑張って!」

 

 ……その笑顔は反則ではないでしょうか?

 

 

 

 

 なんて経緯があっての囮作戦だったのだが……

 

 

 

「まあ、何はともあれ、結果よければ全てよし。お目当の本にメダルが5枚!囮作戦、やって正解だったね?」

「だね〜、これで銀のメダルは16枚!後4枚だよ。あっくん、サリー!」

 

 この野郎ども。

 

(正確に言えば野郎ではないのだが←この表現多分二回目)

 

 心の内で文句を言いながらも、嬉しそうな顔でドロップしたメダルを見ている幼馴染達を眺めていると、なんでも許してしまえそうなのが不思議である。

 ……甘すぎる気もするが、厳しくなんてできるわけがない。

 

 

「さてさて……ご開帳っと」

 

 解読その他情報収集なら、得意分野のはずだ。

 俺はそのボロっちい本に手をかけた。

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

「廃墟探索も大体終了。やっぱ匂うのはこの噴水だけか……」

 

 三人でばらけて廃墟探索を行っている際に、俺は噴水の前で立ち止まっていた。

 

 

【古ノ心臓】、湧水ニ導カレ、淡イ光ノ中、ソノ姿ヲ現サン。

 勇敢ナル者ヨ、魔ヲ払イテ、青ク静カナ海ヘ。

 

 ボロボロの本から読み取った文章は、正に謎の集合体だった。

 男らが水関係としかわからない、と言った気持ちもわからないでもない。

 だが、最後のページを見てその殆どを理解することができた。

 

 そこには四つの噴水の隣に一つずつ水瓶が置かれている様子。

 その中心には赤く塗られた何かが浮かんでいた。

 

 そして、今俺が正面に立っていてる噴水の様子だ。

 

 中心に一つ。

 それを三角形で囲むように三つ。

 合計四つの噴水があり、中心の噴水の上には灰色の四角が浮かんでいる。

 

「噴水全部の水を満たすと……赤に染まる、とかか?」

 

 状況が酷似していることから、イベントに関係のある場所だと考えていたのだ。

 仮説を立て、早速行動に移してみる。

 

 

 

「【ウォーターボール】」

 

 

 近くにあった噴水へと水の球体を飛ばすと、水が満たされたと同時にほんの一瞬、その噴水だけが光り輝いた。

 しかし、水は一秒と持たないうちに全て飲み込まれてしまう。

 

 水がなくなり、光を失った噴水の前で立ちすくむ。

 

「同時にやらなきゃ、意味がない……いや、まだ何か見逃してる?」

 

 ポツリと考えを口にするが、どうもイマイチピンと来ない。

 

 取り敢えずは彼女らに相談してみよう、と俺は連絡を飛ばすのだった。

 

 

 

 

 

「あっくん〜!迎えにきてくれても、よかった、のに〜!」

 

「あ……そうだったな」

「あははは……いつもおんぶだったもんね?」

 

 やけにメイプルが遅いな、とサリーと心配していたのだが……俺たちの早歩き程の速度で全力疾走している彼女の姿を見て納得した。

 二人に何かあったか聞いてみるが、やはり目ぼしいものは見あたらなかったらしい。

 

 先程行ったこと、そして今考えていることを二人に話してから、どこか見落としがないか聞いてみる。

 一つ、もしかしたらと思っていた箇所があったのだが、彼女らが目をつけたのもそこだった。

 

 【淡イ光】という単語だ。

 俺が【ウォーターボール】を撃った際の光は、明らかにそれとは別のものだった。

 となると、噴水は何かしらのタイミングで【淡イ光】とやらを放つ仕組みがあるのだろう。

 俺たちはそれを時間によるギミックなのでは?と推測して、五日目を廃墟に使い潰すことを決めた。

 

 既に19時を超えているのだ。

 今更、どうこうしようとは思わない。

 

「……ということで、料理の時間だ!」

「「待ってました!」」

 

 今日の晩ご飯はタコ焼きである。

 

 

◇◆◇

 

 

 

 そして、22時程のことである。

 

 

 噴水全体に……青白い光が灯っていた。

 

 

「……やっぱ時間系のイベントだったかー」

「このタイミングで、全部の噴水に液体を満たすんだよね?」

「多分な」

 

 かなり不安だが、その方法も決めていた。

 

「【ウォーターボール】」

 

「【毒竜】!」

 

 

 俺の放つ水弾が中心の噴水を満たしていく。

 それと同時に、三つ首の毒竜が一首一つずつ噴水に毒液をぶち込んでいく。

 

 そして……中心に浮かんでいた四角の塊が、血のような赤に染まって……砕けた。

 

 

 轟音、足元が揺れあたり一面が光に満ちていく。

 目の前が真っ白に染まっていき、思わず目を閉じた。

 

 

 

 そして、再び目を開けばそこは……

 

 

「……マジか」

 

「うわぁ!ここって……海の中?」

 

「空気はある……?でも、これって……」

 

 

 海底だった。

 

 俺たちは、半球のように空気に覆われた海底エリアへと転送されていたのだった。

 そして、目の前にはこのイベント中に何度か見た魔法陣。

 

 

「【魔ヲ払イテ】……ね」

 

 呟きが漏れる。

 謎解きも終わり、後は拳で語る時間なのだろう。

 

 勿論、後に引くことはできないし、そのつもりもない。

 俺たちは互いに顔を見合わせてから頷いた。

 そして……三人同時に、その魔法陣へと足を踏み入れた。

 

 

 

 


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