幼馴染が無双するそうなので便乗したいと思います。   作:馬刺し

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23話 幼馴染と海皇決戦。

 目を開く。

 

 先程と同じように、海の底に空気ごと閉じ込められている状況……敵の姿は確認できないが、本能が警鐘を鳴らし続けている。

 

 三人で背中を合わせ、全方位を警戒しているとサリーが()()の接近に気付いた。

 

「……っ、来た!アサギ、飛んで!」

 

 視線を向ける余裕はなく、サリーの指示に従って地面を蹴る。

 俺とサリーが空中へ退避した瞬間、先程まで俺たちがいた地上をなぎ払うように、かなりの速度で何かが通り過ぎていった。

 途中でメイプルを弾き飛ばしていったそれは漸く動きを止め、正体を明かした。

 

「……触手?ってことは!」

「カナデが言ってた祠のボス!」

 

 吹き飛んで行ったメイプルはどうせ無傷であるため、サリーと俺は冷静に分析を開始する。

 ……回避の指示が俺に向けたものしかなかった理由も同様だろう。

 

 

「……でも、海中じゃないよな?」

「さっきの謎解きが、弱体化のギミックだったのかも?【古ノ心臓】を破壊したことが原因とか?」

「納得……となると、怪鳥クラスじゃない……と、嬉しい」

「断言できないのが、悲しいね……っと、来るよ!」

「わかってる」

 

 次は二本の触手が叩き潰すように、こちらへと向かってくる。

 サリーはその一撃を回避しながら、触手への攻撃を開始した。

 そんな曲芸師のような動きはできないので、俺は回避するだけに留めてボスの観察を行う。

 触手の根本へ……つまり、ボスの正体へと半ば確信を持ちながら視線を向けた。

 そこにあったのは、巨大なイカの姿。

 

「……タコじゃなくてよかった」

 

 先程、タコ焼きを作ったばかりなので、怨念とか込められてたら嫌だったのだ。

 なんてことを考えていると、背後から空を切るヒュン、という音が聞こえた。

 

「……メイプル!」

「任せて!……【カバームーブ】!【悪食】」!」

 

 反射的に最も頼れる防御役へと声を飛ばすと、元気の良い返事が返ってくる。

 一瞬で移動し、三本目の触手による奇襲を受け止めた彼女は、勢いそのままに大楯で触手を飲み込んでいく。

 それを見て、サリーが驚愕の声を上げた。

 

「……アイツ、HPが減ってない!」

「……マジで?本体殴らないとダメな奴?」

 

「「「………………」」」

 

 

 俺たちは顔を見合わせて、たっぷりと5秒ほど沈黙してから

 

 

「「泳げるのサリーだけじゃん!?」」

「泳げるの私だけじゃん!?」

 

 これぞ幼馴染、といえる見事なシンクロを見せながら、叫んだ。

 簡単に倒されそうな気はしないが、なかなか倒せそうな気もしない。

 今回の戦い……泥仕合になることは間違いなかった。

 

 

 

◇◆◇

 

 少しして

 

 ボス戦闘用のフィールド中心地点

 

 

「……どうしたものかなー」

 

「……どうしたもんかね〜」

 

 サリーの伸び切った声に、同じく一切締まらない俺の声が返される。

 

 俺はかれこれ五分間ほど、サリーと一緒にスルメを咥えながら、触手によって宙を舞い続けているメイプルを眺め続けていた。

 

「あ、お茶飲む?」

 

「うん。もらう……紅茶?」

 

「いや、緑茶……この前、砂漠でお茶会やったからどっちもあるけどね」

 

「……砂漠で、お茶会……ま、まあ、そんなこともあるか……あるよね?」

 

 俺の言った言葉にブツブツと首を傾げているサリーへ緑茶を渡しながら、そろそろ現実を見ることにする。

 

 

「……で、どうする?」

「ほんと……どうしよっか?」

 

 

 信じられないが、現在進行形でボス戦の真っ只中である。

 恐らく、過去最高にまったりしているボス戦と言っても過言ではないだろう。

 メイプルが毒竜を倒した際も、かなりのスローペースだったらしいのだが、今回は未だにどちらのHPが減少すらしていない。

 

「魔法は本体に届かないし……サリーしか水中戦はできない……か」

 

「アサギなら攻撃は届くけど……うん、あんまり海に近づけたくないかな」

 

「この……過保護め」

 

「自覚はしてる……向こうに、自覚無しの子が一人いるけどね」

 

 二人してメイプルに視線を向けると、彼女はイカに、お手玉にされていた。

 

「「うわぁ、楽しそうな顔してる」」

 

「サリー、あっくん!どうするか、決めた〜?」

 

 ポンポン弾かれながら、笑顔でそう聞いてくる彼女に引きつった笑みを浮かべた後、サリーは気持ちを切り替えたように、パンっと両手で顔を叩いた。

 その表情は先程から一転し、眼光鋭くその姿から隙は一切見られなくなる。

 

「アサギは待機……私がちょっと近くまで見てくる……この距離から援護できるなら、やってみて」

「……キツそうだったら、そっち行くからな?」

 

 彼女は俺の言葉に、片頬を上げて返事する。

 自信たっぷりな彼女だが、それを否定することはできない。何せ、ここまでノーダメージでやってきているのだ。

 

 彼女は無駄のない動きで、水中へと飛び出すと加速。

 そのまま、巨大イカへと接近していく。

 防衛用に残されていた数本の触手が、彼女へと襲いかかる。

 しかし、水中戦であろうと彼女の回避力には底知れないものがある。

 それらの触手を意にも介せず、イカの正面へ躍り出た彼女は二度三度と双刃を振るい、切り傷をつけていく。

 その様子を暫く眺めてから、心配する必要がなかったことを確認……俺は俺で、そろそろ仕事をすることにした。

 

 

「【超速交換】……よし、『飛天』確保。距離は大体、100メートルと少し……ってところかな?」

 

 言われた通り、援護をすることにしたのだ。

 思えば、俺の覚えている【投剣】スキルには、遠距離攻撃が殆どない。

 おそらく【シングルシュート】が最も安定した攻撃だが、長くても50メートル程の距離でしか使ったことはないのだ。

 

 これを機に、狙撃能力の向上を図る。

 

 折角【潜影】を覚えているのだ。遠距離からの奇襲ぐらい出来なきゃ、話にならない。

 

 攻撃対象のイカがいる海に近づくな、と言われた俺の狙いはそれだけだった。

 

 

◇◆◇

 

 

 

side サリー

 

 

(……いける。思ったよりも、本体の体力は少ないのかも……カナデが言ってた、海水にかけられてた速度減少のデバフもない。ギミック解除の影響は、大きかったのかな)

 

 【水泳Ⅹ】と【潜水Ⅹ】を習得している私にとっては、水中戦は苦手な部類に入らない。

 ユニークシリーズを手に入れるための戦いも、同じく水中での戦いだったのだ……問題はない。

 

 何度も薙ぎ払いを行う触手を避けながら、イカへ接近するタイミングを伺う。

 恐らく一撃受ければ、殆どの体力が一瞬で吹っ飛ぶだろう……当たりどころによっては、一撃死も十分あり得る。

 何より……窮地に陥れば、彼が戦線へと出てきてしまう。

 

 それだけは……させない。

 

 本人は気付いていなかったが、彼を思うその考えにより、彼女の集中力はかつてないほどに高められていた。

 そして、何より……このイベント内で手に入れた新たな回避能力が、彼女に大きな影響を及ぼしていたのである。

 

(うん……右方向。やっぱり何か、嫌な感じがする。【超加速】!)

 

 それは……アサギが好んで使用している、感覚による危険察知。

 その存在を知り、少しずつ練習を行い続けていたことで、サリーの回避能力はさらに一段、高みへと近づいていたのだ。

 

 速度を上げた私の後ろを、どこから湧いたか分からない魚が、かなりの速度で通り抜けて行った。

 

(……雑魚敵が湧いてたのか。少し、面倒かな)

 

「【ウインドカーー」

 

 速度を落とさず、体の向きだけを変えて風の刃で迎撃する。

 いや、その直前に銀の光が魚の姿を貫いていった。

 

(嘘……でしょ?)

 

 

 彼ならば、いつかやる……そう信じていたが、いくらなんでも()()()()

 

 

 一瞬、視線をその方向へと向けそうになるが、その気持ちを抑えて、左と正面から接近していた触手へ気を向ける。

 

 現在進行系で触手による攻撃を避け続けているのだ……絶好調である今だから、ここまで思考回路を働かせながら、戦闘を行えている。

 

(……今、集中力を切らすわけにはいかない。イカだけに集中!)

 

 そう心に決めた私は、もう一つギアを上げるイメージをしてから……

 

「【ダブルスラッシュ】!【ウインドカッター】!【パワーアタック】!」

 

 触手を掻い潜り、接近。

 スキルラッシュを開幕した。

 

 

 

 

side メイプル

 

 

「もう少し左上……っと!」

 

 私は、水中へと消えて行ってしまった銀の輝きを眺めながら、後方にいるはずのあっくんに指示を送っていた。

 ポンポン、とお手玉状態にされたままだけど、ノーダメージだから問題なし!

 

 少し時間をおいてから再び、目の前をスパッと横切って金属の塊が飛来する。

 

「おっ、いい感じ!」

 

 その一撃は、イカの真正面へ向かっていき、その巨体を貫いていく。

 攻撃が命中したことを、あっくんに報告すると『大体分かった』との返答。

 

 そこからは流石の一言である。

 あっくんがいる方向から、何度も剣が飛ばされてくるが、攻撃の精度は一投ごとに上昇していく。

 最終的に、動いている魚という高難度の的にさえ遠距離攻撃が命中するようになっていったのだ。

 

「……全弾命中、あっくん凄い!……今回は私の出番は少なめかな〜。あっ【挑発】。触手さんおいで〜……なんか、サリーとあっくんに申し訳ないなぁ」

 

 相手の体力は少ないようで、既にもう何が何だかわからない動きをしているサリーが、イカの体力を三割程削っている。

 

 側から見れば、5本の触手攻撃をその身に引きつけ続ける、という十分すぎるタンクっぷりを見せているのだが……普段から攻撃での活躍の多いメイプルは、自分が役に立っていることに気がついていなかった。

 

 観測主としてアサギの【投剣】スキルの精度向上に協力し、タンクとして攻撃を受け続けている彼女は呟くのだった。

 

「私、活躍してないなぁ……」

 

 と。

 

 

◇◆◇

 

 side アサギ

 

 

 左手に蒼刃を握り、限界まで後ろへ持っていく。

 投げるのではなく、飛ばす軌道へ乗せる……そんなイメージを持って、その(弾丸)を撃ち放つ。

 

「【アクセルバレット】!」

 

 何度も【シングルシュート】を撃ち続け、届かぬ距離の壁に阻まれ続けた結果、手に入れた攻撃スキル。

 

 発動までに2秒程を要するこのスキルは、完全遠距離戦用のスキルであった。

 放たれた直後はかなり遅い。

 しかし、時間が経つにつれて速度が上昇していき、10秒ほどで視認困難なレベルに至る。

 そして、何かにぶつかるor飛行時間が二十秒経過するまでその加速は止まらない。

 速度変化が起きるのみで、威力の変動はないのだが……このスキルにより、長距離での狙撃が可能になったのだ。

 

 しかし問題は、その加速にあった。

 

 何となくで一発目を撃ってみたのだが、思ったよりも加速開始が早かった。

 そのため、狙いにしていた巨大イカの随分下へと飛来していったのだ。

 ……彼方へと消えていった『蒼刃』を見て【超速交換】がなくても、武器変更をすれば、手元に武器は戻ってくるのだが……少し焦った。

 

 そこからはひたすら練習である。

 

 暇していたメイプル(触手には打たれ続けていた)に観測主を頼んで、撃った剣がどこへ飛んで行ったか正確な位置を教えてもらい、次を撃つ。

 これを繰り返していくこと六回目で、感覚を掴んだ。

 

 慣れてくると楽しいもので、突然湧いてきた魚は良い練習相手になってくれた。

 そのまま遠距離攻撃を続けていると、脳内にアナウンスが響いてきた。

 

『スキル【千里眼】を入手しました』

 

 定番中の定番……どこかの王様のように未来視が可能となる、なんてものではなく視力向上のスキルだ。

 

 

 

【千里眼】

 

 五分間、視力を最大で10倍まで引き上げることができる。

 倍率によって、視界は狭まっていく。

 

 再使用まで三十分。

 

 取得条件

 

 100メートル以上離れた相手に、連続でダメージを十回与える。

 

 

 

「回数制限ないのは有難いな……ま、慣れるまで時間はかかりそうだから、今は放っといていいか」

 

 そう呟いてから、イカへと視線を向ける。

 どうやらその体力は丁度五割を下回ったようで、ボスは海にイカ墨をぶちまけていった。

 同時にサリーが海中から離脱して、メイプルの元へと駆けていく。

 

「うへぇ、そりゃ無理だな……ま、時間経過でどうにかなるだろ」

 

 俺が思わず弱音を吐き、そして同時に楽観的な考えを口にした……正にその時だった。

 

「アサギ!」

「あっくん、後ろ!」

 

 

 ここまで順調すぎたから、油断した。

 

 そうかもしれない。

 

 今まで俺が好調だったから、何かあれば気付けると……勘違いしていた。

 そうかもしれない。

 

 そんなことを考える余裕すらなかった。

 

 彼女達の警告。

 一瞬遅れで背後を見ると……

 

 

「……は?」

 

 

 

 海が、すぐ後ろに迫っていて……

 

 

 

 

 

 あっさりと

 

 

 

 

 

 

 俺の体を飲み込んでいった。


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