幼馴染が無双するそうなので便乗したいと思います。   作:馬刺し

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今話からオリキャラ注意報です。



26話 幼馴染と奇襲。

 辺りに響き渡る叫び声、巻き起こる爆発。

 そんな騒ぎが至るところで起こっていた。

 

 千里眼を使えば、騒ぎの中心にはいつも一人の少女の姿が存在することがわかる。

 

 

「流石、サリー。派手にやってるね〜」

 

 一人の少女(いい加減にしろよ、地の文てめぇ)が岩山の頂上にて、辺りを見物し、そう呟いた。

 

 

 その姿が目立たないはずがなく、背後からは、気配を消したプレイヤーが三人近づいてきている。

 武装は弓と剣、そして盾という比較的バランスの取れた男達である。

 

 

 少女との距離が残り10メートルを切った時に、弓使いが動く。

 100m程の距離までなら、ある程度動く的でも当てられる……そんな自信を持っていたプレイヤーが、その位置から攻撃を外すわけがなかった。

 

「……●ねぇ!」

「ぶっ●してやる!!」

「やっちまえ!」

 

 弓使いが矢を放つ、と同時に二人の男性プレイヤーは距離を詰め始めた。

 万が一、相手の体力が削りきれなかった場合はトドメを刺すつもりだったのだ。

 

 ここまで、絶対的優位な状況にいても、盗賊団の下っ端のような掛け声と共に、向かってくるプレイヤーたちに油断はなかった。

 なぜなら、彼らは前回イベントでメイプルにコテンパンにされた者たちの一部だったから……である。

 

 頭に向かっていった矢は、直前に少女が首を傾けることで避けられた。

 後ろを向きながらの異常回避に、彼らは内心驚きながらも動きを止めない。

 

「メイプルほどじゃ、ないんだろ!」

 

 剣使いが突っ込んでいくと、()()()()姿()()()()はようやく体をそちらへ向ける。

 そして……

 

「……バイバイっ」

 

 素敵な笑顔を浮かべた。

 それを見た男性プレイヤーたちは……

 

「【炎帝】」

 

 あっさりと、灼熱の炎に飲み込まれていった。

 

「これで、四回目っと。メダルはなしか……お疲れ、ミィ」

「うん。全然大丈夫!なんか……囮慣れしてる?」

「あんま、嫌なこと思い出させないでくれ……」

 

 岩山に存在した窪みに、姿を隠していた【炎帝】ことミィに少女……アサギは雑談を続ける。

 

 六日目 14:00

 

 俺とミィは二人で仲良く、プレイヤー狩りに勤しんでいた。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 数時間前

 

 

 

「じゃ、メイプル……メダルは頼んだぞ?」

「夜までには帰ってくるよ」

 

 俺とサリーはメイプルを洞窟に押し込んで、プレイヤー狩りに出かける。

 

 メイプルを置いていく理由は、有名人すぎて相手が逃げてしまうから……そして、メダルを守る番人に最も相応しかったから、である。

 一応、パーティーメンバーの全員が死んだことはないのだが、一番信頼できるのは彼女だろう……ダメージを受けていないサリーの方も大概だが……一発当たると死ぬ、と考えてしまうと心臓に悪い。(当たらないのは知ってるけど)

 

 何より、メイプルは勝負を挑まれにくいのだ。

 彼女にメダルを託しておけば、問題ないだろう……ペインとかと遭遇しないと良いのだが。

 

 

「さてと、別れるか?」

 

 隣のサリーにそう聞くと、少し考えてから彼女は答える。

 その顔には獰猛な笑みが浮かんでいて、好戦的な様子が隠しきれていなかった。

 

「そうしよう……私は、森林地帯を攻めるよ」

「んじゃ、俺は向こうの山制圧してくる」

「了解、死なないようにね!」

 

 戦闘区域が重ならないように相談した後、彼女はそう言い残して森へと姿を消していく。

 ……怖いなぁ、あの子。

 戦わないようにしよう。

 

 金髪の誰かさんにも目をつけられている気がするので、これ以上の戦闘狂は避けたいものである。

 

「……さてと、俺も行くとするか」

 

 ファイアボール、と呟いて炎刃を生成しながら歩き始める。

 どうやら人のことを言えない程度には、俺も戦闘を好んでいるようだった。

 

 

 

 

 

 

 岩山の麓を悠々と歩いていると、視線を感じる。巫女装備の俺は、メイプルのパーティーメンバー以外の情報はない。

 その、いい感じの有名具合の効果かわからないが、一人で歩いていると、結構喧嘩を売られることが多かった。

 

 軽く三回ほど戦闘を行った後、正面から視線を感じた。

 

「……ソロか?」

 

 奇襲してくる様子はないので、武器には手をかけるだけにしておく。

 

「【巫女】!?……あ、戦闘前にちょっと、握手してくれます?もちろん、武器は外すんで!」

「アホか……というか、男は好まないんだが」

 

 意気揚々と近づいてきたのは、チャラチャラしてそうな男性プレイヤー。

 俺が女性だったら、気持ち悪い以外の感想はないのではないか?

 握手会とかやってるアイドルの方々を尊敬します……いや、ファンと見知らぬ男は違うか。

 

「えっ、まさかそっちの!……いいですなぁ」

「よし、燃やす。3秒待ってやる」

「喜んで!」

「お前、面白いな!?」

 

 そんなやりとりもあったのだが、宣言通り燃やした。

 普通にお礼を言いながら死んでいったが、知らん……銀のメダル一枚落としていったけど、知らん。

 ……アイツ、アホだろ。

 

 それから一時間ほど歩いていた頃だった。

 

 

「おい、お前ら!絶対逃すなよ!せっかくの大物だ!」

「くっ……しつこい奴らだ!」

 

 

 目の前で、二十人を超えそうな屈強な男性プレイヤーたちに、彼女……ミィが追いかけられていたのは。

 

「おい、コラ!絵面が犯罪じゃ、ボケ!」

 

 叫びながら躊躇なく、俺はその集団へと襲いかかった。

 

 

◇◆◇

 

 ミスだった。

 まさか……私一人で迷子になるなんて、考えていなかったのだ。

 森の中を歩き続けること数分……確信する。

 私は完全に一人きりになっていた。

 

「……どうしよう。皆どこ行っちゃったの?」

 

 正直に言えば、大声でミザリーと叫んで助けを呼びたいところだ。

 一人は気楽なのは良いのだが、いつどこからプレイヤーが現れるか気をつけなければならない状況で、一人になれても嬉しくない。

 

 そんな時に、少し遠くにいた一人のプレイヤーとバッチリ目があった。

 

「「あっ……」」

 

 そして……

 

「【炎帝】だぁぁ!!むぐっ」

「【噴火】!……やらかした、やらかした、やらかした!私のバカ!」

 

 最速で仕留めたが、相手に大声を出させてしまった。

 警戒を怠った自分に罵声を浴びせながら、森を走り抜けていく。

 

 視界の悪いこの場所よりも、少し開けた場所の方が大人数を相手取りやすいと考えて、進行方向を変えた。

 

「「【超加速】!」」

 

 比較的高レベルのプレイヤー集団だったようで、二人のAGI振りと思われるプレイヤーが速度を上げて近づいてくる。

 

「っ!【フレアアクセル】!」

 

 足元を爆発させるようにして、速度を上げた。少し広い場所へと出たため、振り向いて杖を抜く。

 

「【炎帝】!」

 

 速度高めのプレイヤーを始末した後、重要なことに気付いた。

 

「……嘘?まさ、か……MPポーションがもう」

 

 自覚しているが、私は燃費の悪いプレイヤーである。

 普段はミザリーや仲間のお陰で、MPを回復できるが……今はイベントも後半、六日目に突入した状況。

 

 私の手元に、MPポーションは存在しなかったのである。

 

 

 

 そんな事情なんてお構いなく、プレイヤーたちは続々と現れる。

 

(ああ、もう……!本当に、ついてない!)

 

 全力で悪態を吐きながら、メンツを保つために私は杖を振るのだった。

 

 

 爆発。

 

 爆炎。

 

 最低火力だが、直撃させればプレイヤーの一人や二人吹き飛ばせる攻撃を続けている。

 

 だが、理解できていた。

 ……今はしのげても、まだまだ私を狙うプレイヤーは存在する……ん?

 存在、して……るよね?

 

 そして、信じられないものを見た。

 

 既に攻撃手段を杖(物理)以外失った私は、その光景を茫然と眺めていた。

 追いかけてきていたプレイヤーの数が、ゴッソリと減っていた……というより、減り続けている。

 

 人が吹き飛ぶわ、燃やしてるわ、凍りつくわ……背後から奇襲していることで、随分好き放題やっているようだ。

 

 そして……

 

「ったく。いい年した野郎集団が、大人数で女性追いかけるなよ……ペインのとこ行け、ペインのとこ」

 

「……え、なんで?」

 

「ハロー、ミィちゃん。元気してる?」

 

「ちゃん付けはやめてよ……アサギ」

 

 巫女装束の彼がそこに立っていた。

 

 

◇◆◇

 

 

「……三人で20枚かぁ。流石って感じかな〜、たくさん話聞かせてよ?砂漠の時も、本当はもっと話聞きたかったんだから!」

 

「へいへい、ミィお嬢様の御命令通り」

 

「うむ、よろしい……じゃなくて!」

 

 ミィと手を繋ぎながら、休めそうな場所を探している……別に浮気ではない、事情があるのだ。誰とも付き合ってもないし!

 

「にしても【魔力譲渡】なんて便利スキルの書……貰って良かったの?」

「うん。元々、ギルドの皆でそうしようって決めてたんだよ……ウチの団員から好感度上がりまくってるよ……銀メダル大量付与者として」

「……あぁ、それがあったな。なんか納得」

 

 そう、手を繋いでいる理由がコレだ。

 

 

【魔力譲渡】

 

 触れた相手へとMPを譲渡する。

 MPは毎秒5ずつ譲渡される。

 

 取得方法

 

 スキルの書を使用する。

 

 

 歩くMPタンクとも言えるレベルのMP内臓量を持つ俺にとってはかなり嬉しいスキルである。

 そのままゆっくりと雑談を進めながら、共闘する方針を決める。

 休める場所がないならば、少し頑張って作ってしまおう……という軽いノリで、二人で山を制圧することにした。

 

「【炎帝】」

「【刃状変化】」

 

 炎帝剣を片手に、悠々と歩いて行き……

 

「焼き払うか」

「流石に無理だよ!?」

 

 山へとそのまま放り投げようとして、止められた……頑張れば出来ると思うんだけどなぁ。

 

 

 

 そして、早一時間。

 苦戦せず、山の完全制圧を達成した俺たちは、山の頂上でラーメンを啜っている。

 料理スキルは【料理Ⅵ】へと進化を遂げ、ミィはそのことに呆れながらも、笑顔を浮かべていた。

 ミィが躊躇いなく豚骨ラーメンを選んだあたり好感度高い。因みに俺は辛味噌である。

 

 やっぱ料理はいい。

 いつでも作れるし、頑張ればもっと旨いモノも作れるのかもしれない……しかし

 

「ふふっ、美味しいよ。本当に!……また、食べたいな」

「ん、そりゃ何より。料理人冥利につきるってもんだ……暇ならいつでも作ってやるから安心しろ」

 

 こうして誰かの笑顔を見る。

 そのことだけは、今しかできない最高のことだ。

 俺の言葉を聞いて、笑顔を浮かべた彼女は本当に美味しそうに最後の一口を飲み込んだ。

 

 

 

 

 

 …………と、そんな出来事があって俺たちは一緒にいるわけなのだが。

 

 

 

 

「……ん、えっ!」

 

 何やら届いたメッセージが読んでいたミィが、目を見開いて驚きの声を上げた。

 

「いきなりどうした?」

 

 彼女を落ち着かせるように、ゆったりとそう聞き返す。

 そして……その言葉を聞いて絶句した。

 

「……シンとミザリーが死んだって」

 

 二つ名【崩剣】 前回イベント第七位

 

 実力者であるはずのシンというプレイヤーと【聖女】ミザリーが同時に死ぬ。

 ……何かしらの事故があったと見て間違い無いはずだ。

 

「……場所は?状況は?相手は?」

「え、ええと……嘘でしょ」

 

 矢継ぎ早に質問をすると、慌ててミィがメッセージを読み進める。

 そして、黙ってしまった。

 こちらへとその画面を見せてきたので、断りを入れてからその文章に目を通す。

 

 そこに書かれていたのは……

 

 姿不明のプレイヤー単騎に、二人揃ってやられたとのこと。

 

 そして……

 

 狙いは【炎帝】だったという警告の言葉。

 

 瞬間、ピリッとした何かを感じとった。

 ミィを抱えて岩山から飛び降りる。

 

「きゃっ」

「……っ!受け身準備!」

 

 可愛らしい悲鳴を弄る余裕もなく、彼女を庇えるように落下中に体を回す。

 岩山を転がり落ちていく……その直前に、視界の隅にそれの姿を捉えた。

 

「……円刃(チャクラム)使い!?」

 

 

 どうやら、六日目も神様は休ませてくれる気配はなさそうだった。


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