幼馴染が無双するそうなので便乗したいと思います。   作:馬刺し

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1話 幼馴染とプレイスタイル。

 毎日のことながら、登校するのが億劫でたまらない。

 そんな精神状態の俺にとって……これを見させられるのは罰ゲームに近いものがあった。

 

 鼻歌は歌うは、スキップとまではいかないが、普段よりも明らかに足取りは軽く、その表情には、満面の笑みが浮かべられている。

 漫画で表すならば、コマの背景に小さなお花がいくつも咲いているような状態、といえば伝わる人には伝わるのだろうか。

 

 そんな、上機嫌な彼女と、朝起きることすら、面倒な俺の間に、テンションの差が大きく存在するのは、明白なことである。

 

 つまり、アレだ。

 

 腹一杯の時に、飯食いまくってる人を見ると気持ち悪くなってくる時のようなものに似ている感じだ。

 

 結論、もう帰りたい。

 

「何か今、物凄いくだらないこと考えてたでしょ?」

 

 背後から足音がしたと思えば、そう一言声かけられた。

 

「…………なに、読心術取得でもしてんの、理沙?おはようさん」

 

 あまりにも聞き慣れたその声に、特に視線を向けることもなく言い返す。

 

「ああ、うん。おはよ……顔に、帰りたいって書いてあったよ」

  

 ああ、うん。

 本心だからしょうがない。

 

「……分かりやすいって言っても、アレよりは、マシだろ。正直見てて疲れるんだが」

 

 視線だけで楓の方を見ろ、と伝えると理沙がどこか納得したような表情を浮かべた。

 きっと俺が今日、初めて彼女を見た時と同じような感想を抱いたのだろう。

 

「あははは…………楓は随分、NWOにハマっちゃったみたいだね……私も、早くやりたいなぁ」

 

 楓の放つ幸せオーラが感染したのか、理沙までもがソワソワと落ち着かなくなっている。いや、これただテスト終了が待ち切れないだけか。

 俺も、少しやりたくなってるから、人のこと言えないんだけどさ……

 

「…………じゃあ、しっかり勉強するんだな」

 

「うん、そうする!……ということで、今日も、ちょっとテスト勉に付き合って欲しいんだけど……いい?」

 

「……ま、仕方ない。楓にも、声かけてこいよ。後で拗ねられたら、たまったもんじゃないからな」

 

「了解で〜す!」

 

 相変わらず、ポワポワとした雰囲気を放ちながら歩いている楓に、理沙が後ろから抱きついていくのを眺めながら気付く。

 

 NWOか……楓がゲームにハマるのは、珍しいな……

 

 それを思うと、我らが誇る天然娘が、どのようなプレイヤーになっているのか?なんて考えるのも、面白い。

 彼女が惹かれている、そんな理由から俺もNWOに少し、興味が湧いて来た気がした。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 さてさて、時は巡って一週間弱。

 しっかりと、理沙を勉強漬けにすること三日、持ち前の根気強さでなんとか着いてきた彼女は、見事、母親から出された目標テスト点を、乗り越えた。

 楓は、少し点数が落ちたようだが、根が真面目な子だ。

 元来のゲーマーである理沙に比べれば、その点数減少など可愛いもんだ。

 …………理沙も、やればできるんだけどなあ。

 

 俺は俺で、順位を落とす可能性はあるのだが……手応え的には、学年10番以内を逃すことはなさそうなので、問題はない。

 ……得意なことの一つなんだよ、勉強は。

 

 

 そして遂に、待ちに待ったゲーム解禁日が本日である。

 理沙は勿論、俺も毎日のように楓から楽しそうな情報を聞かされていたため、ワクワクドキドキ、当然ソワソワしている……とそうなる予定だったのだがーーー

 

 

 その教室には、動かぬ石像と化した二人の高校生が存在した。

 

 いやね、あのさ……たしかに楓がどんなプレイヤーになるのか楽しみとは言ったよ?

 でも…… 流石にここまで天然を拗らせるとは思ってなかったんだよなぁ。

 

「虫を食べた?」

 

 蟀谷(こめかみ)に手を当てながら、俺が尋ねる。

 

「う、うん」

 

 楓は、どうしたの?とでも言いたげな表情で、その確認を肯定する。

 

「VIT極振り?」

 

 理沙が片頬をピクつかせながら、尋ねる。

 

「う、うん」

 

 楓は、何故そんなことを?とでも言いたげな表情で、その確認を肯定する。

 

「「イベント三位?」」

 

 二人の声が揃う。

 

「うん!」

 

 楓は嬉しそうに、力強くそう答えた。

 

 ………………沈黙。

 

 そして、

 

「「ちょっと待て、タイム!!」」

 

 脳内の情報処理が追いつかなくなったため、遂に俺と理沙が声を揃えてそう言った。

 

 

「おい、NWOって捕食ゲームだったのか?聞いてないぞ、俺」

 

「そんなわけはない……はず……なんだけどね?」

 

 キョトンとしている楓を放ったらかしにして、俺と理沙が小声で会話を続ける。

 理沙のゲーム経歴は、もはやプロと言っても過言ではないレベルであるため、疑いようはないのだが、俺もある程度はゲームに触れて来た人種だ。

 それ故に、知っている。

 

 楓が簡単に言ってのけた、三位という大記録の異常さを。

 

 理沙がいくつか楓に質問していくのを横目に、俺はスマホを使い、幾つか簡単に情報を打ち込んでいった。

 

 NWO VIT 極振り 大楯

 

 この単語で浮かび上がったプレイヤー名を見て、深くため息をついた。

 理沙に加えて、楓もか……これは、頑張らないと振り落とされる。

 

 いくら、NWOがサービス開始から、一ヶ月ほどしか経っていない、若いゲームだとしても、MMOにおいて、名が知られるには、相当な偉業を成し遂げなければならないことを、少しゲームに触れたことのある人ならば分かるはずだ。

 例えば……ノーダメージで、バトルロワイヤルを無双する、とか。

 

 浮かび上がった名前はーーーー

 

「私は、メイプルって名前でプレイしてるんだ!理沙は、どうするの?」

 

 彼女のプレイヤーネームで間違いなかった。

 

 

◇◆◇

 

 

「初期設定に時間かけたいからな……早めに始めるか……」

 

 食事に、水分補給に、風呂も入った。

 両親にもVRゲームをやるから、急用が出来たら、端末の方にメッセージとして送ってくれ、と伝えてある。

 楓と理沙と遊ぶことは、言わなくても伝わっているようでニヤニヤされたことが、少し気にくわないのだが、仕方がない。

 ちょくちょく、というか一週間に一回ずつぐらいは通い妻のように、俺が彼女らの家へと飯を作りに行っているため、仕方がないのだが。

 ……普通逆だよな?

 一番の特技、というか誇れることが料理なのが、男子として悲しい。

 絶対に、ゲーム内でも、料理は()()()()()()()……だって楽しいし。

 

「それじゃ、リンク・スタート、なんてな」

 

 縁起の悪い冗談を一言呟いた後、俺はそのゲームにログインした。

 

 

 

 

 

 目を開くと、そこは眩い蒼の世界だった。

 

 周りには、ガラスのような素材から出来た何種類もの武器が浮かんでおり、目の前にはメニュー画面が開かれていた。

 

 プレイヤーネームか……いくつもゲームをやってきたが、固定させたことはなかったんだよなぁ。

 よって、変な名前でなければなんでもよかったのだが、楓から注文が入っていた。

 なんでも、最初の文字は"あ"にして欲しいのだと。

 理由は簡単、あっくんと呼んでも問題ないから、である。

 別にいいのだが、高校生にまでなって、あっくん呼びは、少し気恥ずかしいものがないと言えば、嘘になる。

 

 ……話題が逸れたな。

 とりあえず名前を、決めよう。

 基本的に俺はプレイヤーネームを色関連から取ってきている。

 なんとなく、テーマ色を決めておくと選択を迫られた時に"漠然としたイメージ"での決断がしやすくなるからだ。

 だが、今回は名前が"あ"から始まるように言われてるんだよなぁ。

 

 あか、とか、あお、とかはなんだが気に入る名前が浮かぶ気がしない。

 折角ならば気に入った名前にしたいため、久しぶりに脳内回転を上げる。

 

 ここから先は連想ゲームだ。

 好きな色、好きなものから適当に捻り出す。

 好きな色といえば……この空間の澄んだ青とかは、結構好ましい。元々赤系統の色よりは、青系統の色の方が好きなのだ。

 

 丁度、少し青色が薄くなったこのぐらいの色合いが……なんて考えを回していると、その名前の存在を思い出した。

 

 

 浅葱色

 

 

 イメージしやすいのは新撰組の羽織りだろうか。

 

 思いついてからは迷いなどなかった。

 躊躇いなく名前を打ち込む画面に"アサギ"と打ち込む。

 

 次に表示されたのは、使いたい武器。

 先程からクルクルと俺の周りを漂っている武器たちの中から一種類選べ、とのことなのだろう。

 

 予め、二人のプレイスタイルは聞いてある。

 曰く、誰にも貫通できない硬い守りとなる。

 曰く、誰にも当てられない無傷の(硬い)守りとなる。

 目指せ、ノーダメージ勝利とか騒いでいた記憶がある。

 流石に、ノーダメージ勝利は冗談だろうが、一度も死なずに……ぐらいは目標にしてもいいのかもしれない。

 

 二人のタンクがいるのならば、タメが長いであろう魔法使いや、遠距離攻撃可能な弓使い、更に守りを固くする付与術使い、回復使いなどが定番となるのだろうが……定番なんて知らん。

 というか、プレイスタイルを定めるのは良いが、別に武器を今決める必要はないと思うのだ……極振りは別として。

 

 ということで、最寄りにあった短剣を掴み取る。

 

 次に決めるのはステータスポイントの割り振り……大事なのはここだろう。

 ただ、まあここも自分が好きなようにやろうと思っていたのだ。

 

 相手は理沙と楓、気を使ってサポートのしやすいステータス構成にする必要など一切ない。

 多少組み難くても、見捨てられることがないのはわかっているのだ。

 

 そして、割り振った結果が次の通りである。

 

 STR 20

 VIT 0

 AGI 40

 Dex 40

 INT 0

 

 

 現実で不器用であること、足があまり速くないこと、なんて全然関係ないんだからね!(ツンデレ風)

 

 

 冗談もそこらへんにしておいて、周りを見ると、メニュー画面には、転送まで残り13秒という文字。

 どうやら今のが最終チェックだったようだ。

 

「……たしか、集合は噴水前……転送場所と同じか。あいつら、先に着いてたら軽く文句つけられそうだよなぁ」

 

 小声で、泣き言を呟いていると、カウントが0にかわり、俺の体は蒼白い光に包まれていった。

 

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