幼馴染が無双するそうなので便乗したいと思います。 作:馬刺し
現実編開幕
誤字脱字報告ありがたいです。
感想 評価 いつでもお待ちしてます!
29話 幼馴染とゲーム封印週間。
朝、カーテンの隙間から溢れた爽やかな朝の光が、少年の頬を照らす。
ほんの少しだけ眉をひそめた彼は、小さく寝返りを打ち、その朝日から器用に身を逃した。
さらさらと風が、小鳥のさえずりを運ぶようにして吹き込み、漸く彼はその瞼を上げようとして……
……その日
「あっくん、おはよーー!!!」
「……っ!?」
超弩級の大声と、外部から加えられたヘッドダイビングという衝撃により、宮戸彩華は目を覚ました。
「……あぁ、くそぅ。脇腹痛ぇ……加減しろ、加減」
楓によって叩き起こされてから五分ほど、既に制服姿であった彼女を、二階にある俺の自室の外へ追い出し、制服へ着替えてから下のリビングへと向かう。
どうやってここに入ったか、など合鍵を互いに保持している時点で、考えるだけ無駄というものだ。
「あははは……ごめんごめん……でも!あっくんが中々起きてこないのも悪いと思うよ!」
リビングのソファに腰掛けていた彼女へと、恨みがましい顔つきでぼやくと、楓は素晴らしい笑顔で、非をこちらへ押し付けてきた。
可愛い顔して、恐ろしい子!……ま、許すんですけど。
「だからって、勢いよくベッドに飛び乗って来ないでください……もう子供って歳でもないだろうに」
「……む、それは、私が太ってきたって言いたいのかなぁ?」
「いえいえ、滅相もございません。出るとこ出てきていいんじゃない?」
「……あっくん、セクハラ」
うーん、ジト目……結構、この顔好きなんだよね。口にしたら、拗ねられると思うから言わないけど、実は理沙に対しても同じことを思っていたりする。
簡単な朝のコミュニケーションを済ませてから、突然の来訪について聞いてみる。
「今のは、俺が悪かったよ……で、どうしてまた急に、モーニングコール(物理)?」
「
「…………バレてたか」
桃花さん、とはもしかしなくても俺の母親の名前である。
悪戯心を何歳になっても失いそうにない、茶目っ気成分多めの母君様には、俺のサボり癖はお見通しらしい…………あの人、仕事の時は朝早くに家出てくから、サボってもバレない筈なんだけど……中々、サボらせてくれないなぁ。
それから、顔を洗って、朝食を軽く取れば、出発の時刻ピッタリに準備が完了する。
その間にも、本日のモーニングコールをどちらが担当するかで、理沙とジャンケンをしただの、なんだの、楓との雑談の話題には事欠かない。
少々、疲労で頭が重たい気もするが、本日も頑張るとしましょう。
軽く気合を入れてから、ニコニコと笑顔を浮かべている楓と共に自宅を後にし、俺たちは学校へと向かうのだった。
「「行ってきます」」
「…………おはよ」
「おはよう、理沙!」
「おはようさん」
高校へと向かう道中で、理沙に出会った。
出会った、というよりは待ち伏せされていた、というのが正しい気もするが、わりかしいつも通りの出来事であるため、気にしない。
ジャンケンで敗北したことを根に持っているそうで、微妙に拗ねている理沙に対して楓が抱きつきながら謝っていく。うん、あれは数分も経たない内に堕ちるな。
そんなゆる百合とした光景を横目に、欠伸を噛み殺していると、後方から誰かに見られているような感覚を抱いた。
ほんの少しだけ思考した後、理沙と楓に靴紐を結ぶから、という理由で先を歩いてもらうことにした。
ゲームのやりすぎで周囲の気配に敏感になっているだけなのかもしれないが、確認するだけ確認しておこう、ということで後ろへ振り返ってみる。
そして……
「うへぇ……」
背後に立っていたその人物を見て、俺は苦虫を噛み潰したような声をあげた。
◇◆◇
「…………あぁぁ……今日を、なかったことにしたいぃぃ……!」
「あはははは……大丈夫だよ、楓。そんなに落ち込まないで?授業中に居眠りから飛び起きて、見張り交代しないと!なんて叫んだり、すれ違った生徒の気配で戦闘態勢に移行しちゃったり、ドッヂボール中に【カバームーブ】!って叫びながら顔面にボールを受けてたり……よくあることじゃん!」
「ないよ!?ない!?羅列しなくていいからぁぁ!」
「あと、あれだな。移動教室のたびに、おんぶしてもらおうと近づいてきてたり、お昼頃になったら俺に料理作って貰おうとしてたりもしてたな……流石に、口に出す前に気づいてたみたいだけど」
「ばれてた!?」
以上が本日、本条楓の犯した失態である。なんでも、体感では一週間程ぶっ通しでゲームの世界にいたことになる
下校中、朝の恨みか、ニヤニヤしながら楓をいじくる理沙を楽しそうだなぁ、なんて思いながら眺めていると楓は何やら決心を固めたような顔で俺たちに言ってきたのだ。
「わ、私……今日から一週間、NWOを封印しようと思います!」
「ああ、うん。その方がいいんじゃない?」
「流石に、今日は飛ばし過ぎてたしね……」
意気込む楓に、揃って苦笑いを浮かべる俺と理沙。
ちょうどいい機会だ、なんて思いつつ俺も今朝出会った彼女からの頼み事を完遂するために、その言葉を楓達に伝えた。
「俺も明日から暫くゲームはパス……それともう一つ頼み事があるんだけ——」
「「いいよ!で、何?」」
食い気味に話に割り込んできた二人の勢いが少し怖いです。
「早い早い、超早い……もうちょい人の話は聞こうね?俺が悪人だったら簡単にお前ら騙されるぞ?」
「あっくん以外に、そんなことしないもん」
「彩華以外にこんな態度取るわけないでしょ」
ドヤ顔の彼女らに対して、呆れると同時に嬉しいという感情も湧いてくるのが少し悔しい。
そんな複雑な感情を抱きながら、割とギリギリなその頼み事を口にする。
「二人に、予備の制服と……理沙には、加えて何枚か着てない私服を借して欲しいです」
「「はい?」」
虚をつかれ間の抜けた声を出した彼女達の様子に、思わず笑ってしまう。
一拍置いて、先に放心状態から戻ってきたのは楓の方だった。
「え、ちょ、待っ……へ?えっ、あっくん!?なんで!私服は理沙だけでいいの!?」
「そっちかーい……そこじゃねぇだろ。気になるところ!」
「だ、だだ、だって、あっくんが!あっくんが……!」
そのまま、再びショートした楓の思考回路を覗いてみたい気もするが、もう一人の方が弄りがいがありそうだ。
「あ、彩華が……わ、私の服で……服でぇぇ…………」
顔を真っ赤に染め、両の手で覆い、ニヤけ顔を抑えようとしている理沙さん。君のことですよ?
「おい、そこ。何、想像してんの?」
「べ、別に!如何わしい妄想なんてしてないもん!」
「んなこと一言も言ってないわ!?」
ダメだ、こいつ。
楓と違い、年齢相応にあっちの知識を身につけてる分、想像力が豊かである。
理沙の場合、ネット環境に幼い頃から触れてきたので余分な知識もそれなりにはあるのだろう。
想像以上の幼馴染のポンコツ的側面を眺めながら、一度ため息を吐く。それから、話を戻すために咳払いをして、俺は言葉を続けた。
「別に、借りた服は本来の使い方しかしないから、変に勘繰る必要はないよ。期限はわからないけど……多分、一週間もかからないから、貸してもらえると助かる」
「……?別にいいけど、誰が着るのかな?」
「私服が私だけでいいってことは、楓よりは大きい子なの?」
快くこちらの頼みを引き受けた彼女らに、笑顔を浮かべてから、俺は口を開き……
「んなもん、きまってんだろ—————」
「へ?」
「は?」
俺の言葉に、たっぷり三秒は思考を凍らせた後、目の前の二人は揃って仲良く絶叫した。
◇◆◇
「お前……どうしたよ?」
「どうした……とは、一体なんの話でしょうか?浅原せんせー」
「話し方まで変えてくんのかい。一応言うが、惚けても無駄だからな?」
「だから、何のことを言っているのか、よくわからないのですが……イライラしてるなら、カルシウムでも摂取したらどうだ?」
「うわっ、急に声の高さ変えんじゃねぇ……声質まで変えてたのかよ、後半怖えわ。しかも、敬語もクソもねぇし……仮にも、今の俺の立場は教師だぞ、一応」
「自分で仮にも、とか、一応とか言っちゃったら末期だと思いますよ?」
「素晴らしい笑顔で、毒吐くんじゃない……」
「素晴らしい笑顔とか、口説いてます?セクハラで訴えますよ」
「うるせぇ、お前、男じゃねえか!?」
齢26歳にして専門 高校数学。
楓、理沙を含む四十人余りの生徒を担任のクラスとして持つ若手教師、
もちろん、周りから好機の視線が集まることには気がついているのだが、そんなことを気にしていられないほど、目の前に立つ生徒は曲者であった。
その名は、宮戸彩華
しっとりした黒髪に、透き通るほど白い肌。色素の薄い茶色の瞳は陽の光を反射し明るく輝き、悪戯に笑うその姿は男女問わず多くの人々を魅了する。
無邪気さを感じさせつつも、どの生徒も少なからずは持っている
学力はトップクラス……いや、真面目に勉強をすれば、間違いなくこの高校のトップに君臨するであろうことは、冬馬の中に確信として存在する事実であるのだが、本人の学習意欲がそこまで高くないため、その順位はトップクラスに収まっている。
恐らく、高校受験の際に、自分の適正レベルから二つ、三つ程落とした高校を選んだのだろう。
運動においても、その
別に、冬馬といえども、それら全てに対して全力を尽くせというつもりなど、全くないのだ。
誰とでもコミュニケーションを取ることができ、周囲の関係は良好。
そのまま何も騒ぎを起こさないのならば、問題など皆無。寧ろ、手のかからない生徒として有難いと感じるまであるのだ。
しかし……
「……お前、次はどうした。本格的に、男を止めにかかる気か?」
「嫌だなぁ、先生。何を馬鹿なこと抜かしてるんですかぁ?」
「うっわ、腹立つ。お前、本当俺のこと舐め腐ってるな……」
「いやいや、尊敬してますって。尊敬、尊敬、一周回ってタメ口使っちゃうぐらいに、尊敬してますから…………ねぇ、冬馬兄様?」
「あっははは……お前、本当今度締めるわ」
「きゃあ、怖い」
「うぜぇな、この従兄弟!?」
そう、この目の前の
いや、ただ面倒なだけならいつもと変わらないため良いのだ。(良くはない)
問題なのは、目の前に立つ本日の彼の格好。
要するに、ブラウスとスカート。
左手首には水色のシュシュを身につけていて、右耳には同色のノンホールピアス。
頬にほんのり赤みがさしているのは、化粧をしているからだろう。
要するに
「お前さ、それは女装にしてもやり過ぎだぞ、アホ」
「監修は理沙だ、文句は向こうに言ってくれ……事後承諾で悪いけど、訳ありで暫くこの格好で過ごすわ。どこで許可取ればいい?」
「……はぁ、校長室行くぞ。学年主任と、生徒指導の先生も捕まえてこい」
「流石、話が早くて助かる」
「敬語使え、敬語……形だけでいいから」
「…………敬うべき相手に対しては、使うようにしていますよ?」
「暗に俺はその対象外だ、とでも言いたいのかこの野郎」
「今は、野郎じゃありませんけど?」
「うっせぇ、黙れ」
「辛辣ぅ!?」
超絶美人の女子高生となった、従兄弟の姿を目の当たりにして、浅原冬馬は朝から頭痛に悩まされていたのだった。