幼馴染が無双するそうなので便乗したいと思います。   作:馬刺し

4 / 31
2話 幼馴染と初戦闘。

 目を開くと、そこには……別せーーーん?

 暗い、というかなんも見えねぇ。

 俺今、目蓋あげてるよな?なんて考えること約1秒ほど。

 見えなくても背後から感じる、彼女の気配によって、自分が目隠しされている現状に気がついた。

 ……一瞬、本当に機械の不調を疑ってしまったのが恥ずかしい。

 

「……そろそろ、外の景色を見たいんですけどね、メイプルさん」

 

 確かな理由など何もないが、俺が彼女らを間違えることなどあり得ない。

 

「おお〜!流石、あっくん。よく私だってわかったね!」

 

 そんな声と共に、俺の目を塞いでいた小さな手が外された。

 視界に映ったのは、穏やかな異世界の風景だった。

 

 CMなどの多くの映像で、どのような風景なのかは知っていたのだが、実際に目の当たりにすると、やはり感動を覚える。

 

「……こりゃ、メイプルが気にいる訳だ」

 

 バトル要素がなくても、このクオリティならば、売れてもおかしくないと思う、そう感じさせるほどの魅力が、確かにここには広がっていた。

 

「……それで、あっくん。名前は、どうしたの?」

 

 しばらく景色に見惚れている俺を、放置してくれていたメイプルだったのだが、そろそろ我慢の限界だったらしい。

 俺の脇腹をツンツンとつつきながら、そんなことを聞いてくる。

 

 俺はここで、初めてメイプルに視線を向けた。

 そして、次は彼女の姿に感動を覚えた。

 黒き鎧に、身を包んだ彼女は、もう既に、この世界の住人だったのだ。

 

「似合ってるよ、その装備」

 

「えへへ〜、それほどでも〜」

 

 一応、そう言っておくと彼女は表情を崩して、いつも通りのゆるゆるな笑顔を浮かべた……うん、変わらない安心感って大事だな。すごい落ち着いた気がする。

 

「それで、名前は?」

 

「そうだった。名前はアサギ、ご要望通りに"あ"から始まるようにしたぞ」

 

 知り合いに対して、アサギとして自己紹介するのは、少し不思議な感じがするな。

 

「アサギ、アサギくんか〜!いいじゃん、あっくん!」

 

 結局、あっくんなのね。

 

「……それはそうと、りーーアイツはまだ来てないのか?」

 

「え、あぁ!()()()()もう直ぐ来るって連絡きてたから、時間はかからないと思うよ」

 

「バカやろう」

 

 こっちが、ギリギリで気づいてわざと名前を伏せたのに、コイツ簡単にリアルネーム言っちゃったよ。

 軽ーくチョップをすると、この子がVIT極振りなのがよくわかる。手が痛え。

 

「へ?」

 

 そして、この本当になんで怒られたのか、わからない顔ときた。これが、三位って冷静に考えるとヤバいな。

 

「リアルバレ、っていうのがあってだな。とにかく、こっちではリアルの名前は使わない方がいいんだよ。トラブルの元になるから……というか、分かってて、"あ"から始まる名前にしてって、言った訳じゃないんだな」

 

「え、うん。呼び方変えるのが、難しそうだから」

 

 それから、簡単なマナー違反についての話や、用語などをメイプルに教え続けること5分程、漸く最後の一人がやってきた。

 

 

「お待たせ〜、ちょっと時間かかっちゃったよ……メイプルと……名前何にしたの、結局?」

 

「アサギだよ、そっちはいつも通りか?」

 

 やはり、自己紹介に慣れない。

 もしかしたら、コミュ障の才能があるのかもしれない……そんな才能、要らないな。

 

「うん、サリーで変わり無し。名前変えられると、こっちが面倒なんだけどね?」

 

 毎度毎度、名前を変える俺に対して、ジト目を向けながら彼女は言う。

 

「……なんでもいいだろ、とりあえず今からどうするか決めようぜ。メイプル、最初にやるべきことってあるのか?」

 

 そんな彼女の視線から逃げるようにして、俺はメイプルに話題を振った。

 そして後悔した。

 

「え、えっと……虫を、食ーー」

 

「「食べないからね!?」」

 

 問題発言に対し、二人してツッコミを入れる。先ほどの反省を活かし、チョップは当てない。

 

 『流石、VIT極振り』と先ほどの俺と同様に、腕をさすりながら、呟いているサリーを横目に、今更ながら気づいた。

 

 そうだ、初心者としての過程をすっ飛ばしてる天然娘(メイプル)に聞いたところで、正答が返ってくる訳ないのである。

 

 結局、ゲーム経験豊富なサリーの指示の元、お互いのステータスやスキルなどを見せ合うことで、今後の方針を決めていくことに決定した。

 

 

◇◆◇

 

 

「……二人とも、待ってよ〜」

 

「あ、コレでも速かったか……どうしようかな〜」

 

「AGI 0ってのも難儀なもんだな……がんばれ〜」

 

 一人の少女の声と、完全に他人事扱いをしている少年のだらけ切った声が、草原に響いていた。

 

 

 宿屋を使い、簡単な確認を行った後……普段使っている黒い盾、闇夜ノ写とは別の大楯を作ろうとしている、というメイプルの言葉により、俺たちの行き先は決まっていた。

 なんでも、今の盾では攻撃を受け止めると、相手を倒してしまうので、攻撃を受けることが取得条件となるスキルが、手に入れられないため、普通の盾が欲しいらしい。

 ……何その盾、怖い。

 

 目指すは、草原を抜けた先。

 始まりの街の南に位置する、地底湖……そこに生息している白い魚を狩る予定だ。

 

 

 極振りのデメリットにより、移動速度が低すぎる彼女の姿を見ながら、考えを巡らせる。

 

 

 メイプルは当然、VIT極振りの大楯スタイル……毒系統の強攻撃や麻痺毒を使うことができるらしいので、アタッカーとしても活躍可能。

 サリーはAGIメインの回避盾スタイル。

 ただ、タンクは既に一級品の方がいるので、広くスキルをとっていって臨機応変に戦えるようになりたいのだと。

 

 ログイン前に言っていたことと、あまり変わりはしない……メイプルに攻撃手段があるのは意外だったが。

 対して俺は……やはり、やりたいスタイルが定まっていない。

 

 たが、一つだけ言えることがある。

 メイプルが装備しているのは、そのすべてがユニークアイテム、つまり他のプレイヤーが持つことのない、唯一無二の装備。

 そして、メイプルから聞いたところによると、入手方法は、プレイヤーで初めて、単独でボスを初見撃破、という鬼畜難度のものだった。

 彼女らに付いていくには、俺もその偉業を達成しなければならない時が来るだろう……恐らく、かなり早い段階で。

 

 よって、ある程度の単機性能は持っていないといけないのだ。

 

 彼女らに足りていない物を補うことと、彼女らが掲げている目標……それらを合わせて考えると、段々自分が取るべきスタイルが見えて来た気がする。

 

 考えを纏めているうちに、メイプルがこちらに追いついて来た。

 

「…………仕方ない、おんぶか俵運びかどっちがいい?」

 

 俺よりもAGIが高いサリーにおぶらせた方が、スピードは出るのだろうが、俺が追いつけなくなる。

 一応、男子でもあるため、俺が彼女に力を貸すのが妥当だろう……一応とか言うなよ、俺。

 

「お姫様抱っこで!」

 

「ッ!……却下」

 

 満面の笑みで、こちらを見てくるメイプルに一瞬、心が揺らぎかけたがサリーに脇腹を抓られて、冷静になる。

 サリーさん、痛いです。

 

 メイプルには、その罰ということで俵さん運びスタイルを実行。

 利き手である左手をフリーにするため、彼女を右肩に乗せて準備完了。

 俺たちは地底湖へと再出発を切ったのだった。

 

 

◇◆◇

 

 

 『スキル【釣り】を取得しました』

 

 洞窟を抜けた先に存在した深い青色の地底湖には、そんなアナウンスを聞いて、小さくため息を吐く俺の姿が映されていた。

 

 

 

 あれから十数分かけて、地底湖に辿り着いたのだが、俺は未だ戦闘に参加してはいない。

 というのも、メイプルを担いでいる俺が相手をする前に、少し距離を開けて先行していたサリーが、立ち塞がる雑魚キャラを尽く掃除してしまったのである。

 

 よって、初めて手に入れたスキルは、戦闘関連のものではなく【釣り】である。

 

 先程ため息を吐いたのも、それが原因だ。

 これ、捕食ゲームでも釣りゲームでもないはずなんだけどなぁ。

 ……まあ、ゲーム開始前に料理をしようと意気込んでいた俺が言うのもなんだが、って感じはするが。

 

 暫くの間、無心で釣竿を振り続けること30分程。

 三人で、互いの成果を見せ合ってみると、意外にも俺が一番多くの魚を釣り上げていたことが判明した。

 意外、と言うほどでもないか……恐らく、DEXの値によって釣りやすさが変わってくるのだろう。DEXの値が0であるメイプルは、俺の半分以下の匹数だったしな。

 

 

「私、ちょっと泳いでくるね。その方が、多く倒せそう」

 

 サリーがそう言って、湖の中へと消えてしまったので、今は俺とメイプルの二人で釣竿を振っている状況だ。

 ……泳げないんだよな、俺。

 カナヅチ、とよく言われるが、何故泳げないのか理由はわからない。

 変な実を食って、海に嫌われている訳ではないと思うのだが……苦手なものは苦手なのである。

 

 隣にいるメイプルは、リアルで泳ぐことは出来るのだが、ステータスと装備の問題で溺れてしまうらしい。

 

 よって、竿を振り続けることしか俺にはできないのだが……案外、釣った魚を倒すことで経験値稼ぎになるため、ありがたい。

 

 先程から釣っては倒すを繰り返すことで、Lv5までは上がって来ている。

 プレイヤー2000人斬りのメイプルがLv20であるらしいので、釣りだけでレベリングをしている割には、経験値効率は悪くない。

 

 そんな感じに、穏やかな時間を過ごしていた時だった。

 

 後方からしたヒュンッ……という、空気を切るような音を、俺は聞き逃さなかった。

 サリー程の集中力がある訳ではないため、索敵能力は彼女に劣るだろうが、油断をしているつもりはなかったため、何かが音がした方向にいるのは、判断できた。

 

「メイプル……何かが、後ろからーーメイプル?」

 

 で、困ったのはここからだ。

 こいつ……眠っている。

 

 すやすやと気持ちよさそうに、お眠りなさっている。

 寝顔可愛いなぁ……じゃねぇんだよ!? 

 

「おい、メーーーー!」

 

 急いで、彼女を起こそうとした瞬間、目の前の空間が歪んだと思えば……

 

 

 体力が、四割程、消し飛んだ。

 

 

 は?

 

 

「…………ッ!?」

 

 ダメージを受けたのはまだいい。

 ただ、それよりも重症なのは声が出なくなったことだ。

 

 視界に映るHPバーの隣に、見慣れないアイコンが追加されている。

 人の首から上を横から見たシルエットのようなものだった。

 そのノドの部分に、切れ目が入っていることから、声を出せない状態を表していると見て、間違い無いだろう。

 

 思考回路を、全速力で回し続ける。

 次に確認すべきことは、相手の位置の把握、そしてその外見から何をされたのか予測すること。

 今までのゲーム経験から察するに、恐らく相手は……ビンゴ、蝙蝠タイプですよね〜。

 

 確認できたのは、結構大きめな蝙蝠の姿。

 所々から、黒いモヤのようなモノを発生させているのをみる限り、特殊能力持ちと見て間違いないだろう。

 

 視線は蝙蝠から外さずに、一歩下がる。

 そして、手に持っていた釣竿を地底湖に落とした。

 サリーが早めに気付いてくれることを、祈る。

 今更ながら、短刀を選んだことを少し、後悔している自分がいた。

 

 対空戦には、余りにもリーチが短すぎるのである。

 

 デバフ解除を待っている時間はなさそうなので、いい加減覚悟を決めた。

 左手に短刀を装備。

 右手にはメイプルが腰に装備していた"新月"を借りることにする。

 

 自分のもので無いため、スキル発動は出来ないのだが……無いよりはマシだ。

 

 それまで、羽ばたき続けていた蝙蝠が一瞬だけ、タメのようなものを作った。

 その瞬間を見逃さずに、体勢を屈めて地面を踏み抜く。

 0から100へとスイッチを入れ、可能な限りの速度で蝙蝠の元へと接近する。

 途中、髪の毛を何かが掠めた気がしたのは、恐らく、先程俺が受けた攻撃と同種のものが放たれたからだろう。

 空中を切る攻撃、かまいたち(仮)とでも仮称しておくか。

 サリーほどではないにしろ、AGIにもポイントを振ってあったからか、次の攻撃が来る前に、蝙蝠に接近することができた。

 飛びかかれば、届く距離なのだろうが、リーチが短く、余り使い慣れていない短刀では恐らく仕留めきれずに、空中で反撃を受けてしまうだろう。

 

 よって……俺が取るべき行動は決まってくる。

 

 蝙蝠の正面までやってきた俺は、そのまま飛びかかる……フェイクを入れて、蝙蝠の下へと滑り込んだ。

 迎撃の態勢を取っていた蝙蝠による、かまいたちを、その真下でやり過ごした俺は、右手に持つ新月によって強襲を行う。

 下から上へとダメージエフェクトが入るように、かまいたち発動後の硬直状態にあった蝙蝠を切り裂いた。

 

 そのHPは勢いよく減っていき……レッドゾーンでストップする。

 つまり、蝙蝠は残り1割ほどを残して耐え切ったのだ。

 

「……ッ!…………!」

 

 単純にレベル不足が出たのだろう。

 いくら新月を使おうと、元々攻撃特化の武器では無い短刀……火力が少し、足りなかったのだ。

 

 ならば、もう一度……そう思い蝙蝠の方向を見れば、洞窟内に存在する影が濃くなっている箇所と、逃げるように飛んで行っていた。

 

 何故、そのようなところへ……そんな考えが浮かぶと同時に、先程、蝙蝠が纏っていたオーラの存在を思い出す。

 

「……がすかよっ!」

 

 ようやくデバフが解除されたらしく、俺の声が洞窟内へと響いた。

 今頃解除とか、超遅え!

 

 走っても追いつかないと、見切りをつけた俺は、左手に持っていた短刀を……その蝙蝠目掛けて、投げつけた。

 

 スパッと、気持ちの良い音を立てて真っ直ぐと飛んだその短剣は、ギリギリのところで避けられてしまう。

 蝙蝠が、そのまま直進したのならば、二投目を投げる時間はなかっただろう。

 

「ウインドカッター!」

 

 ()()()()、牽制用に放たれたその風の刃は、確かにその役割を果たした。

 蝙蝠は小さく周るようにして、その攻撃を躱しきり、ついに影が濃くなっている場所へと辿り着いた。

 そのまま、予想通りにズブズブと影の中へと戻っていこうとする蝙蝠の元へ……

 

 

「間に、合えぇぇ!」

 

 

『スキル【投剣Ⅰ】を取得しました』

 

 そんなアナウンスなど聞こえていない程、集中が高まっている少年の、渾身の一撃が突き刺さった。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。