幼馴染が無双するそうなので便乗したいと思います。 作:馬刺し
氷龍の見た目を簡単に説明するとして、一番似ているのは、モン○ンの○オレウス・希少種だろうか?
銀色の翼を、大きく羽ばたかせるだけで、状態が大きく崩れる。
それでも、ギリギリでスタン状態に陥らないのは、デバフ無効のバフによる恩恵がデカかった。
「まず……一発持ってけ!」
初手から、左手に装備していた初心者の短剣をぶっ放していく。
巫女バフ盛り盛りである今、俺のステータスは過去最高の状態である。
心臓部の方が、ダメージは入るのかもしれないが、圧倒的な火力を持つであろう氷龍に対して、優先的に行うべき行動は弱体化。
よって、目や脳などの重要器官が目一杯詰まった頭部に目標を定めた。
飛来した刃は、クリーンヒットしたように見えたが、氷龍のHPは0.5%減ったかどうか、というレベルである。
あと200回か……嗚呼、心折れそう。
いや、がんばるけどね?
【一極集中】を込みで考えれば、もう少し大変では楽になるかもしれないが、何はともあれ、ここから火力を上げていかなければならない。
「【超速交換】!」
先程俺に投げられ、氷龍の頭部に命中するも、そのまま落下していった短剣が、空中で姿を消した。
それと同時に、先ほどとは違う短剣が、ストレージから取り出される。
一秒かからずに、重みが左手に戻ってきたことに対して、内心驚きながらも、嬉しい誤算と判断する。
これで、ストレージ操作を行う隙がなくなる。
二発目を撃ち出そうと、一歩右足を踏み込もうとした瞬間……氷龍の動きが、ほんの一瞬だけ止まったような気がした。
下手すれば、ラグか何かかと勘違いするレベルであり、戦闘中でなければ気づきもしなさそうな……そんな気がしたレベルの違和感。
それでも、全速力で体を横に転がらせたのは、勘以外の何物でもない。
轟音
俺が先ほどまで立っていた地面から、刺さったら痛そうな氷が、突き出ており、慌てて距離を取ったにもかかわらず、膝をついてしまいそうになる程、振動が伝わってきた。
「……あれ、食らったら即死だな。めっちゃ、痛そう」
起き上がるついでに、手首を高速で動かして、短剣を放った。
手首の力だけで投げられた、その短剣はコツリ、と本当に当たっただけで、氷龍の頭部に弾き返されてしまう。
だが……今はそれで構わない。
一発目を当てて、わかった。
勝負になるのは……【一極集中】スキルが、完全発動してからだと言うことを。
「【超速交換】!」
叫んだと同時に、氷龍が飛びかかりを仕掛けてくる。
すれ違いざまに、左手に持った短剣を扱い、勢いを流すようにして受け流すことで、被ダメを防いだ。
別に、VRゲームでの前衛が、未経験というわけではないため、防御はメイプルよりも巧いのである。
小回りが効く、という点だけは相手に優っている為……すれ違い、互いに背を向けた状態からの接近戦を制したのは、俺の方だった。
すれ違ったのを確認した瞬間、左足の膝をつき、右足は慣性に逆らう方向……つまり、今氷龍がいる後方へと踏み出す。
VRならではの、イメージできる動きは実際にやることが出来る。
その特徴を活かした俺なりの最速の動きで、巨大な氷龍の背中を駆け上がり……持っていた短剣を、その背中に突き立てた。
瞬間……至近距離で放たれた咆哮という名の、音爆弾が俺を襲った。
ダメージは入っていないが、聴覚がおかしくなっている。
窮地に追い込まれた、そう判断した瞬間、一気に集中力を高める。
状況……把握
敵行動予測……首だけを後方へ振り向かせる可能性、7割!
予想が外れれば、相手の目の前に隙だらけの背中を晒すことになる。
それを覚悟の上で、背中を足場に体を宙に踊らせた。
今はまだ、その先は、何も存在しない雪原であったのだが……氷龍は、予測通りに後ろへと首を向け、背中に居る外敵を排除しようとしてきた。
そう、俺は、賭けに勝ったのである。
新しく出来た
『スキル【跳躍】を取得しました』
「今かよ!?」
どんな時でも、ツッコミを入れる自分を褒めてやりたくなった瞬間だった。
ツッコミ云々は置いておいて、左手に握られている短剣に意識を持っていき、感覚で氷龍との距離が5メートル以上だと判断した瞬間、三発目を撃ち出した。
多少、無茶な体勢からの攻撃だったが、そこは流石【投剣Ⅴ】と言ったところか……しっかりと頭部に命中する、
集中を元のレベルに落とした。
ーーーっ、一気に頭が重くなった気がするが、多少無理をしなければ、勝てない相手であることは間違いない。
疲れなんて、忘れろ。
サリーのように、常に未来予知クラスの回避が出来るほど、俺に集中力はない。
出来るとしても、精度はサリーより低く……継続時間は数秒で、反動も大きい。
ただ、今使わなければ、間違いなく一撃もらっていた。
瞬間的にサリーと同様の方法で回避を行う、という奥の手を切った甲斐もあって、氷龍の体力は既に3%も減っている。
このままいけば…………って、タフだなぁ、コイツ。
3%"も"じゃねぇよ!って話だ。
だが……HPが減る以上、勝てない相手ではない。
ブツブツ独り言、泣き言、恨み言を溢し続けて構わない。
わざわざ、女装までしているのだ……正直もう負けなければ、なんでもいい。
「第二ラウンド、行くぞ!」
気合入れを兼ねて、そう叫んだ俺は、四発目、五発目を間髪入れずに打ち込んでから、再び氷龍の懐へと飛び込んだ。
◇◆◇
そこからは、文字通りの死闘。
翼による吹き飛ばしは、地面が雪に覆われていたため、しっかりと受け身を取ればノーダメージで凌ぐことができた。
地面からの氷による攻撃は、気のせいレベルではあるが、なんとか攻撃のタイミングを見極めて回避して凌ぐ。
体力が8割を切ってからは、巨大な氷柱を真上から降らされたりしたのだが【潜影】スキルを回避に使い、影へと避難。
影が消えた瞬間、地上に放り出されたことには少し驚いたが、広範囲攻撃を無効化できたのは大きかった。
体力が5割、3割と削られていくにつれて、それぞれ、攻撃パターンの変更が存在したのだが、初見時のみ擬似サリー回避を使用し、どうにか危機を凌ぎ続けている。
だが、その二回の奥の手使用による代償が大きすぎたのだ。
2時間かけて、相手の体力が残り1割とほんの少しという所まで来たのだが、本能も理性も主張し続けている。
ラストのパターン変更時には、集中力が残っていない、ということを。
正直、既に意識は朦朧としてきているのだ。
繰り返してきたパターンをそのままなぞっているだけで、気力などはとうに尽きている。
絶望的な状況は、更に重なる。
偶々、このタイミングで十二時を回ってしまった結果……天候が、大きく変化したのである。
吹き荒れる風に、視界は雪によってかなり悪くなってしまった。
最も、影響が大きかったのは、氷龍が天候が発動条件であろうパッシブスキル【保護色】を使用してきたことであった。
「……………………」
もう十分だろ、俺にしてはよくやった。
おかしいのは、アイツらの方だ。
別に弱くても、アイツらは俺を見捨てない。
うん、確かにそうだよな。
きっと、ここで負けてもアイツらと、楽しくゲームはできる。
だから、無理をする必要はない。
……で、どうする?
決まってる。
「……ぶっ倒す」
たった一言、そう口にする。
確かに次にパターン変更がきたら、そこで負けるのは目に見えてる。
よって……
「残り1割ちょい……一撃で、仕留める」
彼は、そう言ってのけた。
ホームラン宣言をする最終打者のように。
コインを弾く御坂○琴のように。
構えをとる猿人野菜戦闘民族のように。
相手を真っ直ぐに見据え、投剣の構えを取り、左手に武器を装備する。
【一極集中】の効果は最大上限分発動している。巫女バフも消えていない。
この状況で攻撃を当てれば、1%程は体力を削ることができるだろう。
ただ、それじゃ足りない。
そんなチンケな火力では、全く足りていない。
それが、これまでの最大火力だった。
氷龍は、それが少年の最大火力であることを、疑っていなかったのだ。
そう……モノの見事に、氷龍は
「【ペネトレーター】!」
このタイミングまで、温存されていた初の攻撃スキルが放たれる。
加えて、今回の弾は……
【小太刀:飛天・竜殺し】
ちょっと侮れない、龍特攻持ちの武器。
残る気力も僅かであるアサギによって、放たれたその一撃は、驚くほど簡単に、氷龍の命を断絶させた。
「さく、せん……どーり」
そう、一言だけ残して、ボフッと雪原の上に寝転がる。
奇しくも、全く同じタイミングでサリーが地底湖のダンジョン奥で寝そべっていたわけだが、もちろんそんなことを知る術はなかったのだが……
「ほんっと、もう……むり。しぬ……つかれた」
気付けば、泣き言を言っている俺の隣に、宝箱が置かれていた。
とりあえず、開くだけ開こう。
そんで……寝よ。
本当に限界だったようで、戦闘終了後のレベルアップは勿論、いくつか取得したスキルにすら興味は向かず……宝箱の中身だけは取得して、即ログアウト。
その後、何も考えずに眠り続けた。
振り返ってみると、勝因は……偶々、洞窟内で竜殺しの武器を見つけたこと……ではない。
それも、勝利に必要な要素で間違ってはいないのだが、一番の勝因は、あえて……火力が低い短剣のみで、残り体力1割ちょいまで、削り切ったことである。
氷龍には保護色があった、ステータスを考えると、俺の攻撃速度程度、軽々と躱すことも、迎撃することも可能だったはずだ。
しかし、氷龍は絶対に受けてはならない攻撃を受けてしまった。
優に100を超える布石によって、避けなくても問題ない……という考えが刷り込まれていたことが氷龍の敗因だったのだろう。
◇◆◇
とある管理者たちの会話
「おい!遂に【氷龍】が単騎相手で落とされたぞ!」
「おい!【地底湖の底の水中洞窟】が、単騎攻略されたぞ!」
「「「は?」」」
それは、全くの同タイミングに起こった。
ある意味、奇跡の瞬間だった。
「おい待て、まず【地底湖】の方だ!攻略者は、誰だ?」
「め、メイプルのパーティーメンバーのサリーというプレイヤーです」
「また、メイプル関係者か!?」
「【氷龍】も、同様!この前の図書館野郎のアサギで間違いない!」
…………………………沈黙
そして、爆発。
「め、メイプルは俺たちに怨みでもあるのか!?」
「クッソー、メイプルめ……」
「極振りが〜!」
仮にこの光景をメイプルが見ていたとしたら、こうツッコミを入れずにはいられないだろう。
私、関係ないんだけど!? と。