幼馴染が無双するそうなので便乗したいと思います。 作:馬刺し
「……………体育とかまじ、むり。ほんと、しんじゃう」
昼休み……前の授業が体育であり、運動を余儀なくされた俺は現在、体育に対して怨嗟の声を垂れ流しながら、机に突っ伏していた。
「あははは……あっくん、今日は朝からずっとこの調子だね」
「ま、私と同じ速度でユニークシリーズを取れたぐらいだし、相当無理したんでしょ」
「ごめーとー……はぁ、やる気でねぇ」
昨日、氷龍と戦った時に使った、擬似サリー回避の反動は想定よりも酷かった。
頭が重いわ、体も怠いわ、何より超がつくほどの無気力状態に、陥ってしまったのである。
「しばらくNWOはやらなくて、いいかもしれない」
ポツリと呟いた俺の言葉に、理沙が苦笑いを浮かべて、ツッコミを入れる。
「やり込むために、ユニークシリーズ取ったのに……本末転倒してない?」
なんで、お前そんなにピンピンしてんだよ……スタミナお化けじゃねぇか。
理沙に対してジト目を向けていると、正面に回り込んだ楓が、半分泣き目で言ってくるのだった。
「あっくん……もう……飽きちゃったの?」
天然天使の楓によって放たれた言葉は、教室中に広まっていき……
「ねぇ、ちょっと宮戸くん、ひどくない?」
「アイツ、飽きたって」
「そりゃ、ないわ……男として最低だな」
「飽きるほど、モテてるってか?けっ!」
「ちょっと待てぇぇぇ!?」
飽きた女を捨てる、最悪の男……という最悪の風評被害に遭いそうになったところを、理沙に誤解を解いて、助けてもらう羽目になった。
誤解というより、お前ら、わかってて楽しんでるだけだろうが……
◇◆◇
「というわけで、やってきました。NWO!」
「あっくん、結局ログインしたんだね……」
「頼んだのは、お前だろ……半分、やけくそみたいなもんだ。それより、サリーは?」
ログインして、自分の服装が踊り子状態だったこと以外に、発生した問題は特になかった……心が痛い。
あまりのショックに、無気力状態から、通常運転に戻ったことだけが、救いだった。
ユニークシリーズについては、3人で揃った時に見ることにしていたため、今は初期装備に変更した状態である。
「お〜い、2人とも!ごめんね、ちょっとお母さんと話してて!」
サリーの声が聞こえた方向へと、視線を向けると、そこには随分とオシャレさんになった上機嫌そうなサリーがいた。
全体的に青を基調とした装備となっていて、泡をイメージしてデザインされたであろうマフラーを、嬉しそうな表情で弄っているのを見ると……何やら微笑ましいものを見ている気分になってくる。
こういう、女の子らしいサリーの姿を見られるのは珍しいため、キチンと心のメモリに、その光景を保存するのを、忘れないようにしておく。
……サリーの様子を見ていると、俺も自分のユニークシリーズがどのような物なのか、少し気になってきた。
スキルなどにも関わってくる情報なので、人通りが多い街中ではなく、宿屋に移動してお披露目、ということになった。
サリーが、見た目も性能も、手に入れたプレイヤーに合った装備になるのでは?という予測を立てていたが、まさかな?
……大丈夫だよな?
「あ、これ、大丈夫じゃないかも……」
入手したての装備なので、見つけるのには時間がかからなかった。
俺が、大丈夫じゃないかも……と呟いた理由は、頭防具の名前からして、そっち系の物だと判断したからである。
「それじゃ……装備変更」
頭 『蒼ノ髪飾』 【AGI+10 】【DEX+10】【破壊不可】
体・足 『雪空ノ使者』 【DEX+20】【HP+20】【破壊不可】
スキルスロット空欄
左手 『氷龍ノ咆哮』【STR+20】【MP+20】【破壊不可】
スキル【刃状変化・氷】
右手 『凍刃・凛』【STR+45】【破壊不可】
スキル【凍結封印】
靴 『雪精霊の加護』 【AGI+10】【INT+10】【破壊不可】
スキル【冬の呼び声】
装飾品
空欄
空欄
空欄
スキル【刃状変化・氷】
MPを消費して、手に取ったありとあらゆる非生命体を、剣として認識することが出来る。
MPを消費して液体又は実体のない物質を短剣の形へと変化、固定させ、武器として扱うことが出来る。
【投剣】による全ての攻撃に、氷属性を追加する。
スキル【凍結封印】
物体貫通時に任意発動できる。
貫通箇所から同心円状に、1分間、触れたもののスキルを無効化する冷気を、広範囲に発生させる。(パッシブスキルは別)
自分のみ、その効果から逃れる。
2時間後、再使用可。1日に3回まで使用できる。
スキル【冬の呼び声】
30秒間、半径50メートルの天候を吹雪へと変化。
自分のAGIを30%増加。
半日後、再使用可。
【破壊不可】
この装備は破壊されない。
スキルスロット
自分の持つスキルを捨て、装備に付与できる。
付与したスキルは二度と取り戻すことができず、1日5回だけ、MP消費0で発動することができる。
それ以降は通常通りMPを使用することで、スキルを使用できる。
スキルスロットは15レベル毎に、一つ解放される。
まあ、性能に関してはこの際なんでもいい。後で考えることにしよう。
それよりも、姿の話をしようか?
「「お〜!巫女さんだ!」」
「お〜!じゃねぇよ!」
そう、やはりというか、この装備……女装した状態で手に入れたからか、巫女装束をイメージしたようなものだったのだ。
袴の色が、名前の通り『浅葱』色であることが、最大の違いだろう。
デザインも、小太刀を脇差しのような位置に、装備出来るようになっており、丈も見栄えを悪くすることなく、運動の邪魔にならない絶妙な位置にセットされるよう、改造されていた。
本来、白衣と呼ばれる部分……上半身は、雪のような純白を基調としているため、大きな変化は見られない。
ただ、所々に少し深い青色を使われており、アクセントがつけてられているため、シンプルすぎないところに好感を持った。
髪飾りに至っては、プレイヤーが触っても固定されたままなのか、いじることも出来ないという仕様。
今わかるのはただ一つ……このユニークシリーズ、俺にガチの女装をさせにきている。
最悪……本当に、最悪の場合だが、女装だけならば、別に許せるのだ。
恐らく、本気でやれば簡単に見分けがつかない程度には、誤魔化せると思われるし。
だが、ほっといてもいっか……ですまない装備が一つ存在した。
その装備の名は、氷龍ノ咆哮。
名前のゴツさとは違い、水色をさらに白色よりに近づけた、オペラグローブのようなものだった。
オペラグローブ、というのはものすごく簡単に言うと、長い手袋である。
よって、左腕が装備の統一感を台無しにしているところがある。
まあ、デザインも問題なのだが、なにより、装備としてもかなり特殊なお方だったのだ。
まず1つ目
そもそも扱いが武器な件について。
コイツ、手袋の分際で左手の武器枠を消費することでしか装備できないので、投げる武器を装備できないのである。
おそらく、スキル【刃状変化】を利用しろ、とのことなのだろう。
そして2つ目。
使う価値は十分にあるのだが、スキル【超速交換】や大量に買い占めた短剣君たちの存在価値が消える。
最後に3つ目。
MP上げやINT上げをやらなければならない、と大幅にステータスポイント振り分けの方針が狂ったのである。
まあ、随分と癖の強い装備に出会った気はするが、メイプルのスキルよりはマシだと思うので、気にするのはやめた。
追記
女装に関しては……諦めることにした。
案外着てみれば、男か女かわからないだけで、悲しいことに違和感はなかったからである。
(随分昔に、プライドを捨ててきた男)
◇◆◇
「【悪食】」
猪が散る。
「【悪食】!」
熊が散る。
「【悪食】!」
歯向かうものすべてを、吸い込み、MPタンクへと変えてしまう大楯を、躊躇なく使い続ける少女は、ダンジョンを前進し続ける。
「〜〜♪っと、いやぁ〜、悪食は便利だなぁ!」
無邪気に進軍を続けていく、メイプルの後ろ姿を眺めながら……
「弱体化のスキル修正が入るに、コーラ1本」
「私も」
成り立たない賭けを行う、保護者が2人。
何気に、メイプルがまともに戦うのを見るのが初めてだった俺は、その異様な戦闘風景に、少し恐怖を覚えていた。
戦闘……蹂躙の間違いじゃないか?
現在、俺たちは、第二回イベントにて、参加資格が与えられるのは、第二層に到達しているプレイヤーのみ、という情報を聞いたため、二層へ向かう専用ダンジョンを攻略中であった。
「……じゃ、ちょっと私もスキルの試しに行ってるかな〜♪」
しばらくの間、メイプルの蹂躙劇を眺めていた俺たちだったのだが……早く自分の装備を試したいのか、サリーが我慢できずに、メイプルの元へと走っていってしまう。
「……俺もスキルを確認しとくか」
今更ながら、青いパネルを開き、ステータス画面をチェックしていく……なんか、サリーがメイプルの大楯を消していたが、スルーしておこう。
氷龍戦の後、新たに取得していたスキルは3つ。
因みに、レベルは2上がり16。
魚ばかりを切り倒していた、というサリーが15レベルだったので、ボチボチと言ったところだろう。
ステータスポイントはまだ振らないことにしておく。
【移動砲台】
移動中【投剣】【投擲】スキル発動時のSTRが増加。
移動中の攻撃に補正がかかる。
AGIによってその増加量は変化する。
(最大で50%)
取得条件
AGI 30と認識される速度で走行している間に【投剣】又は【投擲】スキルで、 50回連続で攻撃を当てる。
条件 AGI30以上、DEX50以上
【雪隠れ】
天候・雪系統の悪影響を完全無効化する。
地形・雪系統で、索敵系スキルの影響を受けなくなる。
取得条件
雪原地帯にて、スキル【潜影】を使用する。
【大物喰らい】
HP、MP以外のステータスのうち四つ以上が戦闘相手よりも低い値と時にHP、MP以外のステータスが二倍になる。
取得条件
HP、MP以外のステータスのうち、四つ以上が戦闘相手であるモンスターの半分以下のプレイヤーが、単独で対象のモンスターを討伐すること。
躊躇いなく三つ目のスキルを廃棄した。
バカなのか?
このスキルまともに起用できるやつなんて、極振りぐら、い……しか…………
使い勝手悪すぎる極端なスキルに対して、文句をつけようとしたのだが……目の前で、有効活用している幼馴染が居たため、やめておいた。
最後の一つは、スルーするとしても……前半の2つがかなりの強スキルである。
今のサリーがどれだけAGIに振っているかは、わからないのだが【冬の呼び声】を使用した時に限れば、サリーと遜色のない接近戦を仕掛けられるかもしれない。
ダンジョン攻略の最中であるのにも関わらず、脳内で、最近手に入れたスキルや装備について考え続けていると、先行していたメイプル達から声をかけられた。
「お〜い、あっくん!早くしないと置いてっちゃうよ〜!」
お前のステータスじゃ、無理だろ……苦笑しながらも、そんな無粋な発言をせずに、俺が彼女らの元へと駆けて行ったことは、言うまでもない。
◇◆◇
「……結局、何もしないまま、ボス部屋到達か……そろそろ、働いた方がいい?」
その後も、攻略……いや、侵略の様子は変わることなく……時折サリーの実験台になるモンスターが現れるも、基本メイプルの悪食によって、モンスターは撃退及び、蹂躙されていった。
俺が2人のスキルを何となく、把握した頃には、二層に進むために、倒さなければならないボスがいるボス部屋前まで来てしまったのである。
「確かに……そろそろあっくんが戦うところも見たいかも」
「というか、私まだ、アサギがどういうプレイスタイルを取るのか、しっかり説明されていない気がする」
そりゃ、一緒に戦ってませんからね。
メイプルに至って言えば、最初の蝙蝠戦では眠っていたため【投剣】を使うことすら、知らないのでは?
「んじゃ、ボス戦でお披露目ってことで、行きますか?」
「「りょーかい!!」」
緊張感なく、ボス部屋の扉が開かれた。
程なくして……中央に存在していた大樹が、巨大な鹿型のモンスターの姿へとその姿を変化させる。
「んじゃ、手始めに……サリー【ウインドカッター】くれ!」
この実験が成功した瞬間、俺のプレイスタイルは確定する。
「え?あ、うん。【ウインドカッター】」
戸惑いながら、こちらに向かって放たれた風の刃を……
「【刃状変化】!」
長剣の形へと変化。
その柄を左手で、掴み取り……撃ち放つ。
その攻撃は、ボスのギミックによる結界に阻まれてしまったが、普通の【ウインドカッター】と威力と速度は目に見えて違う。
当然だ、魔法本来の威力に加えて、俺のSTRや【投剣Ⅴ】の恩恵を受けているのだから……その火力は倍以上だろう。
「俺の、アサギのスタイルは、魔法に液体、武器や防具、その他諸々。全非生命体を投げ飛ばす……そんな投剣スタイルだ!」
「それもう【投剣】じゃないから!?」
目を離してはいけなかったのは、こっちも同じだったか……そんなことを考えながら、サリーは勢いよく、アサギにツッコミを入れるのだった。