緑谷出久:オリジン
全人口の8割が個性とよばれる超能力を持つ社会。
世界では一つの職業が脚光を浴びていた。
それはヒーロー。
ヴィランと呼ばれる個性犯罪者に対し、資格を元にそれを捕らえたりする。
その他治安維持や災害救助などにも個性を使い活躍する人気職だ。
僕、緑谷出久も他の子どもと同じようにヒーローを夢見ていた。
4歳になった時、無個性と診断されるまでは。
その時は、泣いて、それでも、僕はヒーローになる夢を捨てきれなかった。
そんな僕に、第2の試練が待っていた。
それは6歳の頃だった。
いつものように幼馴染のかっちゃん達に無個性であることを理由にいじめられていた僕は、海浜公園に逃げ込んでいた。
この海浜公園というのは、潮流の関係でゴミが集まりやすくそれに伴って不法投棄が相次いでいた場所だった。
ゴミ山に逃げ込むと、かっちゃん達も追いかけてきた。
その時、ゴミ山がかっちゃんの爆破の個性の衝撃で揺らぎ、頂上にあったドラム缶がバランスを崩した。
それがかっちゃんに当たると思った時には、僕は駆け出していた。
夢中でかっちゃんを突き飛ばし、僕は、ドラム缶に入っていた液体が目にかかった。
それが、僕の見た最後の光景だった。
覚えているのはとんでもない激痛と、目もくらむほどの暗闇だった。
灼熱にのたうち回り、声にならない声を上げ、うずくまる僕を見て、いじめっ子達は逃げ出したらしい。
らしいというのは、僕はそれを見ることができなかったからだ。
唯一かっちゃんだけは、僕の手を握って、どうにか大人のところまで案内してくれたのだ。
ドラム缶に入っていたのは、何でも近くの薬品工場で取り扱っていた研究開発中、しかも放射性物質の劇物だったらしい。
とある個性犯罪者がそれを盗みだし、海浜公園に隠していたそうだ。
僕は激痛に苦しむこと数週間、やっと容体の安定した僕と母に、医者は申し訳なさそうな声色でこう切り出した。
「息子さんの瞳が、見えることは、二度とないでしょう」
その時は、一瞬何を言っているかわからなかった。
ただ、お母さんのすすり泣く声だけが耳に響いていた。
そう、僕の目は見えなくなってしまったのだ。
母さんにかっちゃんの母さんが泣きながら謝っていたのが記憶に残っている。
かっちゃんも泣いてた。俺のせいでごめんって、泣きながらかっちゃんは謝った。
僕はその時、笑って二人に言った。
「大丈夫だよ。どうにかなるよ」
正直何が大丈夫なのか自分でもわからなかったけど、その時は二人に泣いてほしくなくてそう言ったんだ。
それからはリハビリの日々だった。点字を覚えて、歩く訓練をして。
その時に、僕は違和感を覚えた。
音がとても大きく聞こえるのだ。
最初は何の音かもわからなかったドクンドクンという音。
これが他人の発する心音だと気付くのに少しの時間が必要だった。
他人の放つ心音を聞き分けるだけで、僕はだれかとぶつかることはなくなっていた。
それだけではない。
嗅覚も鋭くなった。
他人を匂いで判別することができるようになった。
母さんやかっちゃん、かっちゃんの母さん、主治医さんだけでなく、入院患者の一人一人に至るまではっきりと分かるようになった。
退院後はさらに顕著になった。
僕は普通にクラスメイトとサッカーや野球ができるほどまで位置が把握できるようになった。
エコーロケーションという技術だった。
自分が出した音を、物体が反射する。
回りの音の反響。
そういったものを感じ動くものを捉えることができるようになった。
そうして、一年ほどして、目が見えていた時以上に視えるようになった時、もう一度転機となる出来事があった。
いつものようにかっちゃんと遊んでいた時だった。
「デクぁ!! 俺の前を歩くんじゃねえ! 杖も使えや!」
「別に大丈夫だって、コケたりしないよ」
あの日以来かっちゃんがいじめてくることはなくなり、口は悪いけどこちらを気遣うことが多くなった。
大通りを歩いていると、僕の耳に泣いている声が入ってきた。
「ん? どうしたデク」
「誰か泣いてる」
僕は走って裏通りに入った。そこでは、僕らと同じくらいの女の子が男に後ろから羽交い絞めにされていた。
「かっちゃん! 警察呼んで!」
「! お、おう!」
「んだこのガキ!」
男が激高し、女の子が叫ぶ。
「助けて!」
「その子を離せ! すぐにヒーローが来るぞ!」
そう言って、男を説得しようとするが、男は聞く様子がない。
「くそ、ガキを浚うだけの仕事だったのに、めくらのガキが邪魔しやがって!」
そう叫んで男が殴りかかってくる。
右のストレートだって、事前に分かった僕は右に躱す。
僕の目が見えないからと侮った男は僕の動きが予想外だったのか、パンチを外してバランスを崩す。
僕はさらに男にバランスを崩したほうに向かって思いっきり押した。
堪らず男は転倒する。
「走って逃げて!」
「! う、うん!」
そう言って女の子と、僕、かっちゃんは一目散に逃げ出した。
その後、駆け付けた警察とヒーローにヴィランは取り押さえられ、僕とかっちゃんは女の子の両親に凄い褒められた。
その後の帰り道、僕はかっちゃんに言った。
「かっちゃん、僕、ヒーローになりたい」
「デク、お前……。本気なんか」
かっちゃんの声が戸惑ったような、驚いたような声になる。
「目の見えねえ上に無個性のお前がなれるほど、生温い職業じゃねえぞ」
「わかってる。けど、今日のことで、僕も、誰かの声が聴けるヒーローになれるっておもったんだ。
助けを求める人の声を聴くヒーローに。だから、君に何と言われても、僕はヒーローになるよ」
「……そうかよ」
かっちゃんはそう言って、僕に背を向ける。
「やるからにゃあ本気でやれや。ナメた真似しやがったら今度は鼓膜ぶち抜くぞ!」
「! はは……。頑張るよ!」
「あとなあ、俺はただのヒーローじゃねえ! オールマイトをも超える最強のヒーローになるからな!」
「じゃあ僕は、オールマイトも助けちゃうくらい最強のヒーローになるよ」
そう言って二人で見つめあい、どちらともなく笑った。
それからは勉強の毎日だった。
図書館の点字本やインターネットの音声朗読で理化学や物理学の知識を身に着けていく。
それと同時に体も鍛えた。
栄養学の本を読み漁り、お母さんの協力のもと、体つくりをしていった。
嗅覚や聴覚の訓練も欠かさなかった。
お母さんに頼んで、近所のボクシングジムと柔道場にも通わせてもらった。
お母さんは危ないんじゃないかとすごく渋っていたけど、根負けしたようだった。
ボクシングと柔道のない日は、あの海浜公園で清掃のボランティアをしていた。
これは奉仕精神を養うと同時に、あんな危ない目にあう人を一人でも減らしたいと思ったからだ。
そして、僕は中学三年生に進級した。
「みんな進路希望のアンケート出したか? まあみんな大体ヒーロー科だよね」
担任がそういうと、クラスメイト達はめいめい個性を発動し大盛り上がりになる。
こうして視ると、みんな結構いい個性だよなあ。
「ああ、お前ら、言っておくが学校での個性利用は禁止な」
担任はそれとなく注意する。
そして、思い出したように口にする。
「そういえば、爆豪と緑谷は雄英志望だったな」
そのとたん、周りはざわざわとする。
「雄英! 偏差値79の名門校だぞ!」
「そりゃ爆豪はともかく、緑谷は」
「は! そのざわざわがモブたる所以だ! 俺は雄英に主席で入学し! オールマイトをも超えるナンバーワンヒーローになり! 高額納税者ランキングでナンバーワンとなるのだ!」
そう言い切ったあと、かっちゃんは僕の方を向く。
僕は盲人用の杖を片手に、目に巻いたバンダナ越しに顔を合わせる。
「デク! お前も俺の道を塞ぐようなら容赦はしねえぞ!」
「別に」
僕はかっちゃんに気圧されず、水筒にはいったハチミツとガムシロップのカクテルを飲みながら言う。
「僕はヒーローになって、あのオールマイトですら助けるようなヒーローになるんだ。
邪魔をする気もないけど、負ける気もないよ」
「は! そうかよ! せいぜい気張れや!」
そう言ってかっちゃんは少し笑ったあと、席に着き直る。
「けど緑谷はなあ、無個性だろ」
「けどあいつ無茶苦茶ケンカつええぞ」
「ムキムキだしな」
そう、僕は長年の訓練の成果か体脂肪率5%以下の肉体になっていた。
世の中には戦闘向けの個性でないのに、優れた戦闘力を持っている人がいる。
有名どころではプッシーキャッツのマンダレイや、アングラ系では抹消ヒーローイレイザーヘッドがいる。
それにならい、僕も鍛えて、格闘技術を身に着けていた。
それもこれも、全て幼いころの誓いを守るためだ。
助けを求める声を聴きとどけるヒーローになるために。
僕は帰り道、いつも通り走って帰る。
今日はボクシングジムも柔道場も休みなので、海浜公園まで行き清掃活動をする。
そのために、こうして急いでいるのだが、その時、ふと気配を感じる。
エコーロケーション、僕の背後から近づく液状のものを発見。
横っ飛びで回避する。
(液体……。異形系か)
さらに注意深く視る。
液体の中に二つの玉のようなものを発見する。
(目玉か)
「Mサイズの隠れミノ!」
液体が僕を襲おうとするが、その前に盲人用の杖で目玉を貫く。
ピギャっという音とともに飛びのく液体。
僕は距離を取りながら、携帯で警察を呼ぼうとする。
そこで、さらに接近してくる音がする。
身長220センチ程度?
デカい。
その男は拳から放つ風圧で僕の目の前の液体を吹き飛ばした。
「少年! よく耐えた。私が来た!」
その声に僕は息を呑む。
「お、オールマイト!?」
僕は、思わず声を上げてしまった。
「いやあ、君のおかげで、ヴィランを退治できたよ。ありがとう!」
「は、はい、あ、あの、本当にオールマイトですか?」
「うん、本物だ! いやああのヴィラン相手に食い下がるとは、素晴らしい戦闘センスだ」
そこで、僕はオールマイトに近づく。
身長220センチ、体重は靴擦れの音から250キロ前後。
そして……。
「君、その恰好はもしや、目が見えないのか? では家まで送ろうか……」
「いえ、僕は大丈夫。それよりオールマイト」
「……大丈夫ですか」
僕は堪らず口にする。
「何」
「だって……。その呼吸音から呼吸器系にダメージが入ってますし、内臓の様子から胃に当たる部分が丸っとなくなってる。それに……」
「ストップストップ。なぜそんなことが。君の個性か?」
「いえ、僕は無個性です。訳あって常人以上に視えているので」
「……無個性」
オールマイトは少し考えたように沈黙したかと思うと、
萎んだ。
「……へ?」
盲目キャラってカッコいいよね。
デアデビルとかムテバさんとかクライベイビーサクラとか