盲目のヒーローアカデミア   作:酸度

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雄英体育祭
退院と新たなる闘い


 皆が帰った夜、今度は相澤先生がお見舞いに来た。

 珍しく髭を剃って、スーツを着ていた。

「背中は、大丈夫だったか?」

「はい、先生こそ」

「お前に庇われたおかげで、俺は生きてる。立場があべこべだし、本当は叱らなきゃいけないんだが。ありがとよ」

「はい、僕はオールマイトだって救けられる位のヒーローになります。それが幼い日からの夢ですから」

「そうか、……ヒーローとして長くやっていると自分のことで精一杯の奴が大勢いる。そんな中で、お前は俺を助けるために力を使った。

 その夢大事にしろよ」

 そう言って相澤先生は肩を叩く。

「……はい!」

「だが、無理と怪我だけはすんな。非常事態以外でその100%とやらを使うのは今後禁ずる。いいな」

 それは当然だろう。僕は肯く。

「はい。今の許容上限は70%程度で、まだまだです。」

「百里を行くものは九十里を半ばとする。単純には言えんが、あまり焦るなよ。お前が一番分かってるだろうがな」

「はい! あ、母さんだ」

「あら、先生。早めに来ていたんですね」

 母さんが入ってくると、相澤先生は向き直る。

「お母さん、イズク君には助けられました。本来は私が助けなければならない所をです。お叱りは甘んじてうけます」

 そう言うと、先生は深々と頭を下げた。

 母さんはハッとするが、すぐに先生の肩に手を置く。

「出久から聞いているでしょうが、出久は貴方のファンでした。戦闘向けの個性でないのに肉弾戦を得意とするヒーロー。

 4歳の頃無個性と診断され、6歳の頃光を失ったこの子が8歳になったある日、突然、ボクシングジムと柔道場に通わせてくれと言い出したんです。

 それもあなたの影響です。あなたの影響で、出久は体を鍛え始めた」

 母さんはそこで言葉を区切る。

「だから、今この子の個性に体がついていけているのはあなたのおかげでもあるんです。だから、どうか、顔を上げて、この子の夢を、叶えてください」

「……全力を尽くします」

 そう言うと、僕の頭を撫でて、先生は病室を出て行った。

 

 他にも、葉隠さんが僕に絵を描いてもらいにきた。

 葉隠さんは、僕の絵を見て、これが自分の姿なのかと不思議そうだったが、何度も何度もお礼を言われた。

「葉隠さん、ブルズアイに叩きつけられてなかったっけ? 大丈夫だった?」

「平気平気傷も跡になってないし」

 透明人間ジョークなのだろうか。

 けど、僕はその傷の匂いがわかる。

「いや、打ち身になってるでしょ、リカバリーガールに見てもらった方がいいよ」

「……緑谷君には、かなわないなあ。

 きっと、私がどんなに隠れても、隠しても、容易く見つけちゃうんだね」

 葉隠さんはそう言うと、朗らかに笑って帰っていった。

 僕は何となくもう一枚、葉隠さんの絵を描いた。

 

 

 その後僕は復学した。

 

 その初めてのホームルーム。

「雄英体育祭があります」

「「「学校ぽいのキター!!」」」

「本当は開催するべきでないとの声もあった。お前ら何人もケガしたしな。けれど、だからこそ開催し雄英の管理体制が盤石であることを示す必要があるとの結論に達した」

「英断ですね先生!」

「うおー! 燃えてきた!」

 僕もまた、覚悟を決め、ブレスレットを撫でる。

「緑谷、気合入ってるな」

「うん、メリッサさんも見てくれてるからね、僕が活躍するところ見せないと」

 その時、ドクンと麗日さんの心臓が音を立てる。

 ? なんだろう。

「麗日さんどうしたの? 不整脈?」

「へ!? ううん! 何でもない!」

 気のせいだろうか。

「おい、話の途中」

 その途端しーんと静まる一同。

 統率力あるなあ流石イレイザーヘッド。

 その後は体育祭の概要説明があった。

 サポートアイテムは必要最小限のものしか持ち込めないので、ビリー・クラブもガントレットも持っていけない。訓練しないとな。

「あと、緑谷は選手宣誓があるからな」

「そっか、入試1位だもんな」

「頑張れよー!」

「ケ!」

 僕は、文言を休み時間中に考えながら、午前の授業を乗り切った。

 

 昼休み、食休みしてる時に、僕は思い切って麗日さんに尋ねた。

「で、麗日さんは、何か悩んでるの?」

「へ! 何で!」

「いや、何となく、さっきから様子がおかしいし」

「ううん、実はね。体育祭なんだけど」

 僕達は、麗日さんの家が建設会社をやっていること、経営が苦しいこと、父母に楽をさせたいためにヒーローを目指していることを告げられた。

「立派な目標じゃないか」

「そうだぞ麗日君、何を悩む必要がある?」

「けど、USJでね、危ない目にあって私思ったんだ。ヒーローになるって恰好いいだけじゃなくて大変なんだって。

私、こんな不純な目標で続けていいんかなって。だって最終的にはお金だし」

 その問に、僕は麗日さんの肩を掴む。

「麗日さん、僕も一緒だよ。お母さんを楽させたい。そのためには心配させないようなヒーローにならなきゃ駄目だって。

 だから体育祭で優秀な成績を示して、皆にこう言うんだ。僕は大丈夫って」

「デク君……」

「それに、ヒーローにだって大切な人や、特別な人がいたっていいじゃないか。

 それが家族ならなおさらさ。むしろそういう人を大切にしない人間に、誰かを思いやるなんてことできるはずがない」

 今回母さんに心配されて、母さんと相澤先生の話を聞いて思ったことだ。

 僕は母さんが大切だ。

 だから、母さんに、もう二度と心配させない。

「せやね……私、頑張るよ。母ちゃんと父ちゃんに見せてやるんや、立派なとこ!」

「その意気だ! 麗日君!」

「デク君も飯田君もライバルだからね! 負けへんで!」

「うん! のぞむ所だよ!」

 そう言いあって、僕達は笑いあった。

 

 

 

「ふむ、緑谷少年に発破をかけようと思ったが、いらない心配だったようだな」

 その巨漢は、緑谷を見据えていた。

「何してるんですかオールマイト」

「あ、相澤君。何か」

 オールマイトに相澤がするりと近づく。

「あんまり緑谷を贔屓しないでくださいよ? 他の生徒がいらん気を回しかねない。ただでさえアンタの弟子ってこととあの成績だ」

「ふむ、いらん嫉妬を起こしかねないという訳だ」

「分かってるならいいです。緑谷のこと、ちゃんと信頼してやってください」

 そう言い残し、相澤は教室に行く。

「はは、信頼か。確かにな」

 オールマイトは苦笑した。

 

 

 放課後。

「うおー、何事だー?」

 たくさんの生徒が、僕らの教室を見渡していた。

「出れねーじゃん何しに来たんだよ」

「敵情視察だろタコ」

「緑谷ー! お前の幼馴染どういう教育受けてんの?!」

 峰田君が僕に向かって叫ぶ。

「お母さんは結構厳しい人だけどねえ」

「余計なこと言うなデク! ヴィランの襲撃を勝ち抜いたクラスだもんなあ。本番前に見ときてえんだろ

 意味ねーからどけモブども」

 かっちゃんー!!

「ごめんなさい! ウチの子が本当にもう!」

「デクどけえ! 意味ねーもん意味ねーって言って何が悪いんだ!」

「僕が言いたいのはそこじゃなくてモブの方だから!」

「こういうの見ちゃうと、幻滅するなあ。普通科にはヒーロー科落ちた人間も結構在籍してるんだ」

 ずいっと男子生徒が近づいてくる。

 身長は177センチ程度かな、そしておそらく格闘技経験はないが体は鍛えている生徒だ。

「知ってるかい!? 体育祭のリザルトによっちゃあヒーロー科編入も検討してくれるんだって。

 俺は偵察じゃない。調子のってると足元ゴッソリ掬っちゃおうっていう宣戦布告に来たつもりだ」

 この人も不敵な人だな。

「おい! 隣のB組のもんだけどよ! 敵と戦ったっつうから話聞きにきたんだがよう偉く調子づいてるなあ!本番で恥ずかしいことになるぞ」

 また不敵な人来た。まあとりあえず敵の話は丁重にお断りする。

「あーすいません。警察から緘口令が敷かれているので」

「あーそうなのか! ごめんな!」

「……て、かっちゃん何帰ろうとしてんの! せめてなんか言ってから帰って!?」

「関係ねえんだよ」

 かっちゃんは言う。

「上に上がりゃあ関係ねえ」

『ああ、何もねえよ。デクに個性があろうがなかろうが関係ねえ。俺は俺で上に行く。そんだけだ』

 かっちゃん……!

 僕達を置いて、かっちゃんは去っていこうとする。

 その目の前に一人の女の子が立っていた。

 かっちゃんはその子をみて、驚いた様子だ。

「……てめえは」

 その子はかっちゃんに軽く会釈すると、僕の目の前に立つ。

 その髪の毛は反響音から、茨のようになっていることが分かる。

 背は僕の方が気持ち高い位だろう

「ええと、君は、どなたかな」

「B組の塩崎茨と申します」

「あ、どうも、A組の緑谷出久です」

 お互いに深々とお辞儀をする。

「……ずっと、お会いしたかった」

 そう言うと、塩崎さんは、僕に抱き着いた。

 

 

 ……へ?

 

 

 

 時間が静止していた。

 僕はとりあえず先ほどのB組の人に顔を向ける。

 ぶんぶんと首を振る。

 次に普通科の男子に顔を向ける。

 ぶんぶんと首を振る。

 A組の皆に顔を向ける。

 ぶんぶんと首を振る。

 僕は目の前の顔と顔を合わせる。

 彼女は僕の首元に近づき頬と頬を合わせる。

 所謂チークキスだ。

 むっちゃくちゃいい匂いした。

 そこまでされて、ようやく処理が追いついた、顔面に血が集まって来る。

 僕はとりあえず彼女から離れた。そして尻餅をつく。

「あ、え、あの、お知り合いでしたっけ?」

「……やっぱり、あなたは私を覚えていませんね。ですが、私はあなたを覚えています」

「は、はあ。ええと、どういうこと?」

「ここに来ればあなたに会えると思って、私は雄英に入学しました」

「はあ」

「ですので、私は宣言します」

 

「私は体育祭で優勝し、必ずあなたを手に入れると」

 ビシリと僕を指さし彼女は告げる。

 

「それではA組のみなさまご機嫌よう。雄英体育祭では、全力で戦いましょう」

 

 そう宣言した後、スカートをつまんでお辞儀をし、彼女は去っていった。

 

「……俺ら何見せられたの?」

 普通科の男子に言われる。

 いや、僕に言われても。

「緑谷ー!! どういうことだ!? どんな感触だった!? あの子に何したてめえ! メリッサさんだけでもギルティなのにてめえよー!!」

「峰田君落ち着いて! 僕も訳わかんないんだよ!」

「何あれ! 恋愛の気配! どういうことー!?」

「芦戸さんも落ち着いて! 僕に言われても!」

「体育祭にそういうシステムあったんだな」

「ですわね」

「轟、八百万、おそらく違うぞ。あの娘が勝手に言ってるだけだ」

 障子君の突っ込みが助かる。

「ケロ、峰田ちゃんの妄想みたいな展開ね」

「俺の妄想なら俺に訪れるべきだろー!?」

 ダメだ埒が明かない、僕はかっちゃんを呼び止める。

「かっちゃん! かっちゃん!」

「ああ!? 優勝するのは俺だわ!」

「そうじゃなくて! あの女の子と僕って知り合いなの!? どういうこと!?」

「……ああ、お前覚えてないんか」

 てことは知り合いなんだ。

「え、教えて」

「……んなもんお前が自力で思い出すか相手から聞き出すのが筋だろ」

 かっちゃんて割と筋を通すよなあ。

「あと寝れなくなって体調崩せ、そして死ね」

 ぶれないなあ。

「ええ、母さんなら覚えてるかな」

「んなことせずに直接聞くか思い出してやれや」

「……かっちゃん」

 確かに、誰かに聞くというのも少し塩崎さんに失礼かもしれない。

「わかった、何とか思い出すよ。それか本人に謝って聞く」

「そうしろや。俺は帰る」

「じゃあ、ぼくも、麗日さん飯田君帰ろう……麗日さん?」

 しばらく静止していた麗日さんが再起動する。

「う、うんそうやね、帰ろう」

 気配から明らかにしょげてる。

「麗日さん、元気ないね」

「うむ、どうかしたか?」

「! 何でもない! 何でもないから……」

 結局その日一日、麗日さんはどこか変だった。

 




4人目のヒロインはそう……相澤先生でした(違)
体育祭は塩崎さんとかっちゃんと轟回です。一応ヒロインはあと一人考えております。


何で塩崎さんって原作見返してたら可愛かったからや。
ヒロインをあまりみだりに増やすべきでないのは分かる。
でも書きたいもの書くべきジャン。

あと、感想欄での展開予想はお控えください。
何で塩崎さん出久に惚れてるんってことは体育祭終わるまでには分かるので。

10万UA記念の短編アンケートです。

  • もしかっちゃんが女の子だったら
  • もしOFAを受け継がなかったら
  • もし緑谷出久がB組だったら

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