萎んだオールマイトを視て、僕は呆けてしまった。
「あの、オールマイト。これは一体」
あのオールマイトが、ナチュラルボーンヒーローが、これほどまでに弱っている。
レーダーセンス越しに分かる。
凄まじく弱っていると。
人間が持つエネルギー、熱量、そう言ったものが常人と比べ明らかに低い。
「中途半端に知られるくらいなら、いっそ全て曝け出そうと思ってね」
オールマイトはそう言うとシャツをめくる。
「君の言う通り、私は5年前ヴィランと対峙して傷を負った。そしてこのザマだ」
「そんな、五年前って言うと、オールマイトが活動を控えていた期間ですか?」
「詳しいな。情報を処理する力にも長けているとみえる。
このことは他言無用に頼むよ」
オールマイトが、咳き込むと、血の匂いがした。喀血したのだ。
「あの、質問いいですか? どうしてそこまでするんです?
もうベッドに安静にしているべきなほどに重傷でしょう」
「それはできない。もし私が倒れればヴィランが活性化し、犯罪率も急上昇するだろう」
オールマイトの覚悟を示すように、その心音に一つも揺らぎが無い。
僕は、何一つ分かっていなかった。
何がオールマイトでさえも助けられるヒーローになるだ。
それでも、僕は。
一体誰が、ヒーローを守れるだろう。
最強の人を誰が守れるだろう。
僕は声なき声を聞く力を得た。
ならば僕のやるべきことは。
何か口を開こうとした時、唐突に爆音が響いた。
そして、僕は気づく。
「オールマイト! あのヴィランは?」
「は!? ホーリーシット! 逃げられたか!」
僕たちは急いで爆心地に近づいた。
いつもなら、どこにでもあるような商店街。
そこには、ヘドロヴィランに纏わりつかれながら、懸命に抵抗を続けるかっちゃんがいた。
いた。わかってしまう。僕のレーダーセンスは。
僕のせいだ。僕のせいだ。僕のせいだ。
かっちゃんの放つ爆炎が建物を吹き飛ばしていく。
野次馬ののんきな声が聞こえる。
ヒーロー達の声が聞こえる。
誰も助けにいこうとしない。
「クソが」
かっちゃんの声が聞こえる、
「クソが……!!」
かっちゃんを助けないと!
この商店街には製麺店があった。そこにダッシュする。
案の状あった、大量の小麦粉をカートに詰め込む。
そして、走ってかっちゃんとヘドロヴィランの所に向かう。
「デクてめえ! 何しにきやが……がぼっ」
「てめえこのガキ───!!」
僕は小麦粉を持ち上げヘドロヴィランに思いっきりたたきつけた。
白い粉が舞う。
思った通り、
そのまま、もう一回小麦粉の入った袋を叩きつける。
ヘドロは抵抗しようとするが、僕は軽々と薙がれた腕を飛び越えた。
そして、もう一度小麦粉を叩きつける。
「て、てめえ!!」
水分を抜かれ個体となったヘドロを思いっきり殴りつける。
怯んだ隙にかっちゃんを引き剥がす。
「てめえ!!」
「かっちゃん、もう一発頼むよ」
「言われるまでもねえ」
ヘドロの怯えた心音が響く。
かっちゃんは多分悪魔みたいな顔をしてるんだろう。
「わかっとるわクソが――!!」
一際大きな爆音が辺りに響き渡った。
その後、僕は、ヒーロー達にこっぴどく叱られた。
「君は何を考えてるんだ!」
「君が危険を冒す必要なんて全くなかったんだ!!」
反対にかっちゃんはヒーロー達に絶賛された。
「すごい個性だ!」
「プロになったらぜひウチのサイドキックに!」
「でもやりすぎだよ」
僕は、とぼとぼと帰り道を歩いていた。
今日のは、自分で自分の始末をしただけだ。
あまりに、情けない。
けれど、これで良かったのかもしれない。
オールマイトにも会えて、プロの厳しい世界を見て、それでも確信する。
僕は、ヒーローになりたい。
誰も彼もを助ける、そんなヒーローに。
そんな僕に、声をかける人がいる。
「なに? かっちゃん」
かっちゃんは僕の方を見据える。
「いいか、俺はお前に助けを求めてなんかいねえ」
「知ってるよ」
「お前がいなくても俺一人でどうとでもなったんだ」
「そうかもね」
けれど。
「僕は、誰も彼も助けるヒーローになるんだ。誰に望まれるでもなく、自分がしたいから」
僕の答えにかっちゃんの心臓が跳ねる。
「そうかよ……! クソナードが」
そう言ってかっちゃんは踵を返す。
その後ろ姿をなんとなく顔だけ向けて、僕もまた家路を急ぐ。
僕のレーダーセンスに、接近してくる人を見つける。
「私が、再び来たー!! ……君ドライだね」
「いや、来るのは音で分かるんで」
僕はオールマイトに向かって頭を下げる。
「すいません。僕が割り込んだせいで、ヴィランを……」
「いや、あれは私のミスが招いたことだ、それより、君に聞きたいことがあってきたんだ」
「僕に?」
「君はあの時、友達を守るために迷うことなく飛び出した。目も見えぬ無個性の君がだ。
それは、なぜだい?」
「それは……」
おかしなことを聞くものだ。
でも、問われたなら答えなければならない。
「だって、僕には声が聞こえたんです。苦しむ声が、だったら、僕は行かなきゃならない」
僕はオールマイトに話した。6歳の頃に光を失ったこと。
それを切っ掛けに得た異常な聴覚のこと。
そして幼き日の誓いを。
「きっとどこかに、声なき声を上げてる人がいる。僕はそんな声を聞けるヒーローになりたい。
それだけです」
オールマイトは少し震えたあと、僕の肩を掴む。
「例え無個性でも、たとえ光が見えなくても、それでも義侠を成そうとする強い意志。
それを持つ少年に一つ問いたい」
「私の後継にならないか」
この出久君はテレビもネットも物理的に見れないのであんまクソナードでないです。
なのでオールマイトに対しても若干原作よりドライめ。
ただ、その生きざまには胸を打たれております。