盲目のヒーローアカデミア   作:酸度

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第一回戦 心操人使

『さあ、始まりました! 雄英体育祭最終種目決勝トーナメント!

早速ルール説明。だが至ってシンプル!

相手を戦闘不能にするか、場外に押し出せば勝利!

リカバリーガールが待機しているから倫理はひとまず捨ておけ!

ただし! あんまりにクソな行為はアンチヒーロー行為として反則失格となるぞ!』

 シンプルすぎない?

 まあ、ヒーローを目指す自分らはそれくらいの縛りでいいのか?

 

『さあ、早速入場だ! 一回戦二回戦と一位になった優秀すぎる雄英版座頭市! このまま有言実行し、完全優勝なるか、緑谷出久!

 VS ここまで目立った活躍なし、ただしその個性は未知数! 本選進出者唯一の普通科の期待を一身に背負い参戦! 心操人使!」

 僕らは睨み合う。

「常闇だっけか? あいつから話を聞いてるだろうが。分かるだろう? これは精神の戦い」

『スタート!!』

「あのト……な!」

 僕はすかさず一直線にダッシュ。そのままボディブローを叩き込む。

 完全に決まった。

 震える手で、僕にすがりつく心操君。

「カハ、あ、てめ」

「……大丈夫?」

 ちょっとやりすぎたかも知れない。大丈夫だろうか。

 その時、ドクンと僕の心臓の音がする。

 これって、洗脳? ……。

 

『おーっと緑谷! 急にアホ面になり機能停止! 一体どうしたー!!』

『心操人使、個性洗脳。だからあの入試は合理的じゃないって言ったんだ。だが、これで緑谷の勝ちはなくなったか……』

 遠くで、先生たちの実況が聞こえる。だが、僕はそれどころではなかった。 

 

 やっと来たな。

 

 僕は数年ぶりの感覚に瞑目する。

 目が見えている。なんだ?

 

 お前が俊典の選んだ後継者か、70パーセントまで使えるとは、俊典には劣るが、それでも凄い才能だ。

 

 見ると、そこにいたのは筋肉質で黒髪の、とても美しいお姉さんだった。

 

(あなたは誰なんです? ここは?) 

 

 時間が無いから簡潔に、私は七代目だ。ここはワンフォーオールの中さ。

 特異点はもう過ぎてる。だから君は備えなくちゃならない。

 大丈夫、君は一人じゃない。

 

 見ると何人もの人達がこちらを見ている。その中にはオールマイトの姿もあった。

 

(ちょっと待って下さい! 何が何やら!)

 

 今は、大事な試合中だろう? 

 さあ、目覚めるんだ。打ち勝つんだ。

 辛い時、「限界だー」って感じたら思い出せ。

 自分の原点、オリジンてヤツを。

 それが君を、限界の少し先まで連れてってくれる!

 

 じゃあな、またいつか会えるさ、ワンフォーオールの中で。

 

 女の人の気配が消える。視界が真っ暗闇に戻る。

 ここは、試合会場! 白線までのこり1メートル!

 僕はわざと指先にワンフォーオールを100%つぎこみ爆発させる。

 折れた痛みに、僕の洗脳が解ける。

 

『な、何だそりゃあ! 緑谷! 自爆で洗脳を解いたあ!!』

「な、くそ、あとちょっとで……」

 僕は走り抜けると、心操君に掴みかかり、投げ飛ばす。

 だが、信じられない力で堪えられる。

 そして、一撃頬に食らった。

「舐めんな! アンタに! 憧れたんだよ! 無個性でもあの時飛び出したアンタに! 個性つかえよ! 俺はそんなに弱いか畜生!」

 その声に、僕は覚悟を決める。

 僕は、ワンフォーオールを5%だけ発動し、彼の後ろに回り込んだ。

 そのまま裏投げをして、彼を場外へ叩き込んだ。

 

「勝者、緑谷君!」

 

 一瞬の後、歓声が響き渡る。

 

 僕はよろよろと立ち上がる心操君に声をかける。

「……憧れたって、何?」

「……さてね。俺、そんなこと言ったかよ?」

 僕は、他にも何か言おうとして、踏み止まった。

 勝者が敗者にかける言葉はない。

 ボクシングでも柔道でもそうだった。

 ただ、それでもプロヒーロー達の心操君を称える声、そして、普通科の人達の称える声を聞いて、多分大丈夫だと思い、僕は会場を後にした。

 

 

side心操

 

 動画を見たのは、本当に偶然だった。

 その中学生は、爆炎が吹き荒ぶ中、ヘドロヴィランに立ち向かった。

 個性を使わずに、機転と鍛えた体だけで。

 それから、俺なりに体と個性を鍛え始めた。

 それでも、あいつの努力量に比べれば、きっと全然だったんだろう。

 俺は、まだ痛む腹をさすりながら、廊下を進む。

 すると、常闇、尾白、青山がいた。

 俺は、疑問に思ったことを口にする。

「お前ら、あいつに俺の個性教えなかったのか?」

 戦いの時の様子から、緑谷が俺の個性を知らなかったのは明白だった。

 俺の問いに、常闇が口を開く。

 こいつの個性はこいつの意思とは自立した存在。

 ゆえに洗脳でこいつらを騎馬にした時も、こいつのダークシャドウにみんな起こされてしまった。

「最初はそう思った。我ら全員緑谷に恩義があるゆえな。だが」

 

『例えば、僕は塩崎さんの弱点を上鳴君に教えようとも思わないし、発目さんの発明品を飯田君に教えようとも思わない。だって、ほんの一競技だったけど、確かに仲間だったんだからね』

『それに、戦いなんて前情報が無いのが普通なんだから、それで負けるんなら心操君の実力が僕より上だってこと』

『だから気にすることなんてないよ。大丈夫。前情報無しでも勝ってみせるさ』

 

「だそうだ、」

「はあ、何だ、完敗じゃん、俺」

 そう言って自嘲した後、俺は疑問に思う。

「ていうか、俺のこと、仲間だって? 冗談だろ? 洗脳で無理矢理騎馬にしたんだぜお前らのこと」

「だが、それで我々が決勝に進出したのは間違いのない事実。なら恩義は確かにある。それが友情にすり替わってもおかしくないだろう」

「だから心操、ヒーロー科に来いよ。待ってるから」

「フィナンシェ食べる?」

 青山に菓子を口に放り込まれ、俺はそれを噛み砕く。

 ああ、ヒーロー科ってこういう奴らばかりなのかね。

 そう思いながら食う菓子は、少ししょっぱかった。

 

 

side出久

 

 僕は、リカバリーガールの治癒を受けた後に、スケッチブックに鉛筆を走らせる。

「こんな女性でした」

 僕は絵をオールマイトに見せる。

「……確かに七代目、お師匠様だ」

「あの夢は何なんでしょうか? その後、他にも七人の人が現れて、その中にはオールマイトもいました」

「……すまないが、先代と話す夢というのは、私も見たことがない。モヤがかかった人影のようなものは何回か見たがね」

「……そうですか。でも、悪いものではなさそうに感じました。何となくですけど、暖かかった」

 僕がそう言うと、オールマイトも笑った。

「……お師匠様は、なんて言ってたんだい?」

「はい、限界だって感じたら自分の原点を思い出せって、それが僕を限界の少し先へ連れてってくれるって」

 僕がそう言うと、オールマイトの心音が跳ねる。

「……そうか。お師匠達先代のことなら、私が少し調べてみよう。君はとりあえず次の試合の心配をしなさい」

「そうですね、戻ります。あの、オールマイト」

「? なんだい?」

「オールマイトのお師匠様、すごい綺麗な人ですね」

「ふふ、だろう」

 そう言うオールマイトは、とてもうれしそうだった。

 

 その後、会場に戻ると、丁度リングが氷に覆われた所だった。

 轟君……。

 その心音は依然として冷たく、僕の言葉は届かなかったと見える。

 だが、こちらも退くわけには行かない。

 

 次の対決は、上鳴君と塩崎さん。

 上鳴君は先手必勝とばかりに開幕から放電するが、塩崎さんは切り離したツルで電撃を防ぐ。

 上鳴君は、塩崎さんのツルの群れにじわじわと動ける箇所を制限されていく。

 そして数分後、上鳴君の制限が切れ、塩崎さんに軍配が上がった。

 

 次の発目さんと飯田君の戦いは、名目上は飯田君の勝ちだが、実際勝ったのは発目さんだろう。

 発目さんのサポートアイテムアピールに飯田君は使われてしまった格好だ。

 僕のとなりでメリッサさんがさらに解説を加えてくれた。

 二人を引き合わせたら面白いかもなと思ってると、麗日さんが立ち上がる。心音がとても激しい。

 僕とメリッサさんは麗日さんについていった。

 

「だ、大丈夫やよ。そんな心配せんでも」

「……相手かっちゃんだよね。無理もない」

「かっちゃんって、騎馬戦の最後にイズク君と戦った爆破の子? ……確かに、強敵ね」

 メリッサさんが心配そうに、麗日さんに言う。

「……アドバイス。いる?」

 僕が思わず尋ねると、麗日さんは笑顔で言う。

「……大丈夫、いらへん」

「麗日さん。でも」

「確かにね、怖いよ。でも、一番怖いのは、デク君に頼り切ってまうのが、今は……怖いかな。

 何かね。このままデク君に頼ってたら、デク君の隣に立てなくなる気がするんや。

 本当は、飯田君が挑戦するって言った時、自分が恥ずかしくなった。

 騎馬戦で一緒にやったのだって、無意識にデク君に頼ってたのかも」

 そこで、麗日さんは言葉を区切る。

 会場から、尾白君と切島君との闘いは切島君の勝利に終わったとのアナウンスが流れてきた。

「でも、皆全力でやって、皆がライバルなんやよね。

 だから、私はこう言うよ。

 ……決勝で会おうぜ」

 僕は麗日さんのサムズアップを受け、言葉に詰まる。

 でも、これだけは言いたかった。

「麗日さん! USJで君がいなければ、僕達は乗り越えられなかった! だから……君は強い! 頑張って!」

「! ……ありがとう!」

 麗日さんは手を振り上げて、試合会場に向かって行った。

「行きましょうメリッサさん。 見届けないと」

「ええ、そうね」

 そう言って僕達はアリーナへ向かった。

 

『さあ、続いての対戦は、カタギの顔じゃねえ! 中学時代から有名人! 爆豪勝己! バーサス!

 可愛い顔して個性は触れたら一撃必殺のデンジャラスガール! 俺こっち応援したい麗日お茶子!』

 

「丸顔。あの黒改造人間との闘いじゃ、お前がいなきゃヤバかった。だから、全力でいくぞ」

「うん、爆豪君もあの時はありがとう。全力でやろう!」

 そう言いあって、二人は構えを取る。

 麗日さんの体勢が低い。何かを狙っているのか。

「ケロ、ある意味最も不穏な組み合わせね」

「ウチ、見たくないなあ」

 蛙吹さんと耳郎さんが、心配そうな声を出す。

「緑谷は、どう思う? お前は二人とは知己だろう」

 障子君に尋ねられ、僕は思うところを告げる。

「かっちゃんは確かに強い。けど相澤先生が言った通り、麗日さんがいなければ僕ら何人かこの世にいないよ。

 個性だけでみれば、はっきり言って麗日さんの方が強い個性だ」

 僕の言葉に、みんなが注目する。

「確かに、プレマイ先生の言う通り、ほとんど一撃必殺だもんな」

 上鳴君が納得したように言う。

「だが、ぼ……俺としては、麗日君が爆豪君に触れられるイメージが湧かないな」

 飯田君の言ももっともだ。

「それも言えてる。かっちゃんの持ち味は個性だけじゃない本人の戦闘力の部分だから」

「となると、お互いいかに自分の勝ち方にもっていけるか。麗日さんに相手に触れる策はあるのか。かっちゃん君の方は、それを防げるかの勝負、ということかしら」

 かっちゃん君……。

「そういうことです。メリッサさん」

「なるほど……。お前の中では、この勝負は互角と言うことか」

 障子君の結論に僕は頷く。

「うん……。ただ……。僕は麗日さんの作戦ってのが、いまいち想像つかないんだけどね。何せフィールドは平坦だ」

「ケロ、確かに、お茶子ちゃんの取れる選択肢は少なそう」

 そう話し合ってる中で、試合は始まった。

 

 結論から言えば、麗日さんは負けてしまった。

 かっちゃんの爆破によって生じた瓦礫を使っての流星群。

 しかし、それを一撃で防ぎ切ったかっちゃんの個性の強力さ。

 僕は走って、麗日さんの所に向かった。

 その途中、かっちゃんに会う。

「おい、デク、あれお前の入れ知恵か?」

「いや、あれは麗日さんの実力だよ。僕は一切麗日さんの戦略に口を挟んでいない」

「……そうかよ。ならいい」

「それに、いい作戦があったら僕が真っ先に君に食らわせるさ」

「は、言いやがる。……あと二つ、負けんじゃねえぞ」

「そっちこそ」

 そう言いあって、僕達は別れた。

 

 麗日さんは泣いていた。

「負けてしまった。いやぁー! やっぱ強いな爆豪君は」

「麗日さん」

 泣いていた。

「もっと頑張らんといかんな私も!」

「僕に、嘘は通じない」

「……デク君」

 麗日さんの動きが止まる。

「悔しい時は泣いていいんだ。僕はもう涙腺なんてないけれど。君には涙があるんだから」

「……デク君はずるいなあ。私かて、ヒーローやねん。悔しいからって泣かんねん」

「泣くよ。ヒーローだって、人間だもん」

「そうかな」

「そうだよ」

 そう言うと、麗日さんは、よろよろと僕に近づいてきた。

 

 轟君との試合が始まるまでの10分弱。僕は、胸を貸し続けた。




心操微強化。上鳴善戦。そしてイズクもちょっと強化。
流石に70%まで来て面影見えるだけもないだろうと思った。
菜奈さんは今の所、第五ヒロインではないですが、原作の展開次第ではあるかも。

デアデビル的に時折霊的な存在として助言をしてくれる存在も必要かなと。

そしてお茶子ちゃんは原作通りの動きさせるだけでヒロイン力が凄まじいなあ。

職場体験編へ向けてアンケート取りました。
一応今の所体育祭決勝までは書き溜めできております。

職場体験先、どこがいい? (参考)準決勝終了まで

  • 原作通り グラントリノ
  • 幼き日の憧れ プッシーキャッツ
  • インターンへの布石 サー・ナイトアイ
  • 異能解放戦線への布石 ミルコ

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