盲目のヒーローアカデミア   作:酸度

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体育祭終了

 ポンポンと、花火があがり、表彰式の準備が整った。

「さあ、表彰式の準備が整ったわ!」

 ミッドナイト先生が言うと、会場がざわめき、フラッシュがたかれる。

「さて、メダル授与よ! 今年メダルを授与するのはもちろんこの人!」

 そう言うと、巨大な塊が空気を裂いて飛んできた。

「私が、メダルを持ってき「われらがヒーローオールマイト」た」

 カブッた。

 気を取り直したオールマイトが、まずは常闇くんにメダルを持っていく。

「常闇少年、入賞おめでとう。強いな君は」

「……組み合わせに助けられたまで。この4名の中で、自分の実力が一番劣っています」

「そう謙遜するな。君の実力はトーナメントでも随一だった。だが、相性差を覆すには個性に頼り切りでは駄目だ。地力を鍛えれば取れる択も増えるだろう」

「……御意」

 そう言って、オールマイトは大きな体でハグをする。

 

「塩崎少女、入賞おめでとう。入賞者の中で唯一の女性。準決勝では、素晴らしい頑張りをみせた。……理由を聞いても?」

 塩崎さんは、まだ髪はベリーショートといった短さだが、それでも綺麗にまとめてそこに立っていた。

「……はい。昔私は、緑谷さんに命を救われました。それからずっと、彼の隣に立てるようなヒーローになりたかった。だから、彼に全力を出し切れてよかったと思います」

「君の頑張りは確かに緑谷少年に届いていたよ。そして、周りにも確かに伝播したはずだ……ハグしても? 麗しいレディ」

「はい! よろしくお願いいたします! オールマイト先生!」

 そう言うと、短くハグをする。

 

「さて、頑張ったな爆豪少年。……こっちを向いてくれるか?」

「……うるせえ、あんだけ大口叩いてこの結果だ。あんたに顔向けできるかよ」

「そう言うな、君はいつだって全力で戦った。衝撃のカミングアウトだったがね」

 その言葉にかっちゃんは少しだけ辛そうに、でも吹っ切れたように口にする。

「……犯した罪は消えねえ、けど、それでも俺はヒーローになる。あんたみたいな必ず勝つヒーローに。そしていつかあんたを超える。そんだけだ」

「過去の罪につぶされることなく、十字架を背負いながら、それでも、つねに正義に邁進する。それもまた、一つのヒーローとしての在り方だ。だから、精一杯前を向きなさい。ただし、あの締め技だけはナンセンスだ。自分を大事にしなさい」

「……っす」

 かっちゃんはリカバリーガールにも散々怒られたからなあ。

『あんたは何考えてんだい! 折れた腕で殴るだけなら飽き足らず! リミッターを外すタイプはこれだから!』

 一応リカバリーガールの尽力で後遺症は残らないそうだが、痛々しいギプスがつけられている。

 それでも、後にひかなくて良かった。

 

「さて、有言実行おめでとう。緑谷少年。素晴らしい成績だった。感想を聞いても?」

「はい、でも、正直、全然実感がわかなくて」

 僕は、言葉につまりながらも答える。

 そう、あのぶつかり合いの後、僕はギリギリ白線の内に留まり、かっちゃんの足先は僅かにステージから飛び出した。

 本当にギリギリの、差とも言えない僅かな違いだった。

「皆、強い人達でした。……抱えてるものがありました。けれど、僕はそれでもあなたや両親、そして支えてくれるみんなに、僕が来たって見てもらいたかった。

 そして、一刻もはやく、あなただって助ける位のヒーローになりたい。だから、まだまだです」

「常に自らを鍛え続けるその姿勢、常に完璧を求めるその姿勢は素晴らしい。だが、今日くらいは自分を褒めてやってくれたまえ。

 そして、私を助けるか……。それは私でさえも敵わないような危険に立ち向かうってことだ。

 そんなヒーローになるのはとても大変だが、それでも、私は君を頼りにしているよ。いつか君と隣で戦う日を楽しみにしている」

「……! はい!」

 そう言って僕とオールマイトはハグをする。

 

「さあ皆さん! 今回は彼らだった! だが、この中の誰しもがここに立つ資格はあった! 次代のヒーローは着実に芽を伸ばしている!!

 てな感じで最後に一言」

 

「「「「プルス「お疲れさまでした」」」」」

 

「そこはプルスウルトラでしょオールマイト!」

 ミッドナイトが叫ぶ。

「いや疲れただろうなって」

 最後にしまらなかったけれど、それでも僕達は笑いあった。

 そのあと、僕はよろよろと歩き出すと、かっちゃんと塩崎さんに両脇を抱えられた。

 どうやら、限界だったみたいだ。

「かっちゃん、塩崎さん、ありがとう」

「ケ! 世話が焼けやがる」

「……ずっと、こうしてあなたを支えたかった」

 そう言うと塩崎さんは、僕の頬に頬を寄せる。

 僕は耳まで赤くなりながら、退場しようとする。

 そんな僕達の様子を、フラッシュの音が覆う。

「みせもんじゃねえぞコラ!」

「いいでしょかっちゃん。今日くらいは」

「ケッ!」

 かっちゃんが舌打ちすると、塩崎さんはクスクスと笑い出した。

 

 好敵手とかいて「とも」と呼ぶ。

 なんて恥ずかしいけど、確かに今日、僕は友達ができた。

 

 

 でも、やはりヴィランは待ってはくれなかった。

 

 

「インゲニウムが、ヴィランにやられた?」

「うん、飯田くん、早退しちゃった……」

「……心配だ」

 麗日さんと、ともに話し合う。

「デクくん……」

「とにかく、連絡を待とう。今、僕達にできることは、祈ることしか……」

「……そやね」

 ……無事でいてくれ。

 

 

「おつかれっつうことで、明日と明後日は休校だ。プロからの指名等まとめて休み明けに発表する」

 飯田くんの空席を見ながら、僕は思案する。

 僕は、彼に対して、何ができるだろうか。

 

 

 それでも、今日くらいは。

 

「おーい、緑谷ってまだいる?」

「何? えっと」

「拳藤さんですわね。B組の委員長ですわ」

 八百万さんに言われる。委員長会で知り合ったのだろうか。

「はい、緑谷ですけど。何か?」

「悪いね八百万! ちょっと借りるよ!」

 そう言うと、僕はB組に連行される。

 そこには、塩崎さんが待っていた。

「……ええと、塩崎さん、さっきぶり、どうかした?」

「いえ、私も何が何やら」

 そういって二人で首を傾げあう。

「ねえ、緑谷ー! 茨とはどうなの実際?」

 僕は、耳元でささやく声にびっくりする。レーダーセンスには口だけが浮かんでいる。体のパーツを切り離す個性だろうか。

「どうといわれましても、ねえ」

「……ああ、そういうことですか」

 塩崎さんは、何やら納得したようだ。

「確かに、私は緑谷さんをお慕いしています。ですが、緑谷さんの気持ちというものも大事でしょう。ですので、今すぐどうしようという訳ではありませんよ」

 ……何か、今、さらっととんでもないこと言われなかった僕?

「お、お慕いしています!」

 麗日さんの驚く声が聞こえる。

「……ふーん、そっかー、まあそうだよねー」

 葉隠さんの納得する声が聞こえる。

「あの、おおおお慕いしていますってててて?」

 僕はどもりながら塩崎さんに尋ねる。

「言葉の通りです緑谷さん。私はあなたをお慕いしています」

 その途端、B組の女性陣から歓声が上がる。

 そっかーお慕いされちゃったかー。

「え、ええええええ!!」

「ですが、緑谷さんは素敵な方。それに、周りにも素敵な女性が多い。ですので、あまり焦って結論を出さなくていいんですよ。

 あなたが後悔しない選択をすることが、何より一番なのですから」

 そう言って、塩崎さんは聖女のように笑った。

 僕は茫然とする。

「は、え、ええと」

「もちろん、最終的に私を選んでくれればとは思います。ですが、周りに流されてあなたの意思が反映されない結果になる。

 それはあなたに救われた私にとって、一番やってはいけないことですので。ですからどうか、あなたの心のままに」

「うううう茨ー!! あんたやっぱいい子だよー!!」

 拳藤さんが、感極まった感じで塩崎さんに抱き着く。

「緑谷……」

 僕の肩を叩くのはさっき、体のパーツを切り離していた女の子だ。

「ええと、君は」

「申し遅れました、私、取蔭切奈と申します」

「ああ、どうもご丁寧に、緑谷出久です」

 そう言って握手する。

「頼む、茨と接吻してやってくれ」

 全然丁寧じゃないー!!

「さっきの塩崎さんの話聞いてた!?」

「うるせー! こんないい子が思いに蓋しなきゃいけない世界なんて滅べばよい! 私は事を急ぐ!」

「切奈やめな」

「生温いこと言うな一佳! このまま女子特有の同調圧力により一気に事を進める!」

「あんた緑谷にとって初対面なのにキャラフワフワしてんよ」

 ……B組も楽しそうだな。

 その時、するりと葉隠さんが麗日さんを引っ張って僕に近づく。

「お茶子ちゃんターッチ」

 僕の体がフワフワと浮き出す。

「瀬呂君テープ」

 そう言って、僕の体にテープが巻かれる。

「戦略的撤退!」

 そして葉隠さんに引っ張られる。酔う。

「逃げたぞ! 追えー! 男子ー!」

「いや、逃がしてやれよ」

「塩崎の意思を汲んでやれ」

 常識人っぽい男子達が冷静に突っ込む。

「逃がさないノコ!」

「あんたも悪ノリしない希乃子」

 B組も賑やかなクラスだなあ。

 

 その時、B組に怒号が響き渡る。

「おい! 何ちんたらしてやがるデク! とっとと行くぞ! おばさんから連絡ねえのか!」

 僕はかっちゃんに言われ、ポケットから盲人用スマホを取り出す。

 メッセージを開けると、自動音声読み上げ機能が働く。

『今日は爆豪さん家でお疲れ様会をやるから、二人で帰ってきなさい』

 ……そっか、そうか。

「ごめんね麗日さん、解除してもらえる?」

「……ん、分かった。……良かったね、デクくん」

「……それはとても大事な用事ですね。是非行ってください」

「ありがとう、麗日さん、塩崎さん、また明々後日」

 そう言って、僕らは別れた。

 

 かっちゃんとの帰り道、色んな話をする。

 他愛もない話だ。

 クラスのあの人はどうだの授業はどうだの。

 たどたどしくも、この10年間を埋めるように、色んな話をした。

「かっちゃんが、橋から落っこちた? そんなのあったっけ?」

「……覚えてねえんならいいわ」

「ふうん。何か傷つけた?」

「傷ついてねえわアホが!」

「あっそう。……ついたね」

 久しぶりに来るかっちゃん家だ。

 

 僕らは少し躊躇ったが、意を決して、扉を開けた。

 瞬間、いい匂いが僕らを包む。すごいごちそうだ。

 僕らは二人揃って、部屋に入ると、母さんとかっちゃんのお母さんである光己おばさんがいた。

「お疲れ様、ふたりとも」

 母さんが僕らを出迎えて、カバンとジャケットを受け取る。

 光己おばさんが、僕達によろよろと近づく。

 そして、僕達を抱きしめた。

「ババア、なにし」

「かっちゃん……」

 光己さんは震えながら、言葉を紡ぐ。

「イズク君、勝己を許してくれて、ありがとう」

「勝己、アンタ自身を、許してくれてありがとう」

「凄い戦いだった。だから、ありがとう」

 

 ああ、そうか。きっとずっとこの人は、気に病んでたんだ。

 

「光己おばさん……」

「……しみったれた顔すんじゃねえババア。未来のナンバーワンヒーローの母親がよお」

 かっちゃんは、本当に素直じゃないなあ。

「アンタは……本当にもう」

 そう言って、光己おばさんはかっちゃんの頭を叩く。

 二人にしておいて、僕は母さんのもとに近づく。

「母さん、ただいま」

「おかえり出久。頑張ったわね」

「うん、母さん」

 そう言って、今日一番伝えたかった言葉を言う。

 母さんに一番最初に伝えたかった。

 

「僕が来た!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アメリカ、ニューヨーク。ここは通称ヘルズキッチン。

 かつて、とある個性犯罪の災禍から、スラム街となってしまった地域である。

 そんな背景のある町にしては場違いな高層ビルの最上階。

 二人の男が会話している。

「どうかね、アダマンチウム製の強化骨格の調子は」

「頗る快調だボス」

 男は写真を弄びながら答える。男は写真を指で弾くと、トランプを投げつけ、写真を壁に縫い付ける。

「AFOを頼らなかったのは正解だ」

「あんな改造人間とか作ってる奴ら頼れるかよ。……あのガキめ!」

 男はさらにトランプを投げつける。

 写真に写っているのは、雄英体育祭優勝者、緑谷出久。

「私怨では動くなよ」

「分かってるよボス。これでもプロだ」

 怒気を収め、男は憮然とした表情で言う。

「ならいい。厄介なヒーローに対する一番の方法は何か分かるか?」

 その男は、巨大な白人男性だった。

 縦にも大きいが、何より横に大きい。

 だが肥満ではない。

 見る人が見れば、その肉体のほとんどが筋肉であることが分かるだろう。

「後ろから頭蓋をブチ抜く?」

「それは次善の策だな」

 男は葉巻に火をつけ、吸う。

 彼が吸い込むと、キューバ産の上質な葉巻は一息で全て灰になった。

(これで増強系でも異形系でもねえんだから凄えな、ボスは)

 男は改めて戦慄する。

 仮に自分とボスが戦ったとして、自分が勝つビジョンが見当たらない。

 それなら、オールマイトやAFOと戦った方がマシである。

「一番の方法は、そのヒーローのテリトリー外でコトを収めることだ。

 日本に厄介なヒーローがいるとして、それはAFOに任せれば良い」

 2人がけのソファーに狭そうに腰掛けながら、彼は言う。

「成る程……」

「……雄英体育祭、私の望む個性の持ち主はいなかった。

 この八百万というお嬢さんは惜しかったがね」

「となると、やはりAFOですか」

「……個性方面ではヤツが一番情報を得やすい。

 だが一年で何の成果もないところを見ると、やはり例の装置に注力した方がいいかもしれん。

 まあ、そちらは表の顔でどうにかなりそうだが」

「となると、俺はまだ出向ですか」

 男は、不満げな声を上げる。

「苦労をかけるな」

「報酬が支払われている内は構わんですよ。だが俺が脳無とかいうヤツにされそうになったらすぐ逃げますよ」

「構わん、流石にヤツらもそこまでの無体はせんと思うがな。お前の判断でいい」

「了解、ではまた」

 そう言うと、男は窓からビルの外に降りて行った。

「頼んだぞ、ブルズアイ」

 そう言うと、男は花瓶から薔薇を一本取り出し、匂いを嗅いだ。

 その後、男は壁側まで歩いていき、部屋の壁に貼り付けられた写真をとる。

「日本のリトルヒーローか、私の脅威とならなければ良いが。

 ……せいぜい引っ掻き回してくれることを期待しよう」

 コンコンと扉がノックされる。

「入れ」

 ガチャリと、女性秘書が入ってくる。

「ウィルソンさん。シールド博士のスポンサードの件で連邦保安局が話したいことがあるそうです」

「……すぐに向かおう」

 そう言うと、男は先程までとは打って変わって人好きのいい柔和な表情を浮かべる。

「マギー、娘さんの病気は良くなったか?」

「ええ、その節は、ウィルソンさんのお陰です」

「何、家族ってのは一番大事だ。さあ今日も稼ごうじゃないか」

 

 男の名は、ウィルソン・フィスク。

 アメリカ経済界にその名を轟かす実業家。

 

 裏の名は、キングピン。

 アメリカ裏社会最大のフィクサーである。

 




本当は引き分け同時優勝とかも考えましたが、
それだと逆にかっちゃんが救われないかなと。
一度完璧に負けといた方が彼にとっていいかなと思いました。
爆豪勝己はこの戦いを機にもっともっと強くなります。


そして正義が力をつけると同時に、悪もまたその栄に限りはないのです。

アンケート設置しました。回答お願いします。
10万UA記念短編は、日曜日の12時投稿予定です。
下品です。あんまり期待しないでください。

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