結局あの後、僕は疲れて眠ってしまったらしい。
そして、翌朝、プッシーキャッツとの別れ。
「いやあ、伐採したねえ」
「……まさか、一日で山を禿山にするとはな。凄まじい身体能力よ。大量の薪は使い方を考えよう」
虎さんたちに褒められる。いやあ。
「ねこねこねこ。それで、君は何でミルコの後ろに隠れているのかな」
「……見ないでください。恥ずかしいんです」
僕の答えに一同が笑いだす。
「いやあ、でも大分よくなったよ! 弱点が一日で消えるって中々ないよ!」
「ありがとうございます……。恐縮です……」
「ふふ、また縁があったら会いましょう」
マンダレイに笑いかけられ、僕はさらなる羞恥で身を隠す。
「んじゃ、とっとと雄英に戻るぞ。今日で金曜日だからな」
「あ、そっか! 職場体験も終わりですね。ではまた……。あの最後に握手を」
「行くぞ!」
ミルコに小脇に抱えられる。
「ああ! 待ってー!」
僕は手を振るプッシーキャッツに見送られ、彼女たちの元を去った。
そのまま、移動する途中。
「お! デアデビル! 何だその移動! これまでと違うな!」
「いえ! あなたの教え通りに実践したら出来ました!」
やっぱり思った通りだ。
出力を20%まで下げた方が速い。
「んじゃ私もスピードをあげるぜ!」
そう言ってミルコはさらに速度を上げる。
僕は遅れないようについていく。
「はい! ……あれは!」
「ん! ビル火災か! 行くぞ! ? デアデビル!」
僕はミルコより早く飛び出す。ワンフォーオール! オーバーセンス!
僕の耳朶が、二人の親子の悲鳴を捉える。
「ミルコ! 個性の使用許可を! 人が二人逃げ遅れています!」
「……ああ! 許可する! とっとと行ってこい!」
「はい!」
僕は速度をあげ、ビルに突っ込む。そのままさらに速度をあげ、二人の親子を連れ、飛び出した。
ビルから隣のビルに飛び移り、ビリークラブを突き立て、壁面に張り付く。
そのままワイヤーを伸ばし、地面に降り立った。
すぐに歓声を浴び、フラッシュが焚かれた。
その後、取材に答えたあとは、何事もなく東京駅に着いた。
「んじゃ、これで職場体験は終わりな。私は広島に帰る」
「はい、その。一週間! ありがとうございました!」
僕がお辞儀すると、ミルコは肩をバンバンと叩く。
「うし、体の使い方は学んだな。私も有意義な経験だった。仮免とったらインターンにも来な。歓迎するぜ」
「は、はい! ありがとうございます!」
「じゃあな、デアデビル。トレーニングは忘れるなよ。あとは昨日気づいたことさえ忘れなきゃ、お前はもっと強くなれる」
僕は、さらに深々とお辞儀する。
「その、ミルコ先生! あなたのおかげで自分の馬鹿さ加減に気づくことができました! 本当に何と言っていいか……」
「ま、気にすんな。手加減ってのは難しいからな。しかし、先生か……。悪い気分じゃねえな」
ミルコは耳をぴくぴくさせると、ポケットから携帯を取り出す。
「連絡先交換しとこうぜ。また困った時はいつでも呼びな。アドバイス位はしてやるよ」
「え! いいんですか?」
「誰かに教えんなよ? おら、携帯だせ」
「は、はい! ジャービス! 登録を……」
『了解です。イズク様』
そして、交換したところで、発車のアラームが鳴る。
「それでは、お世話になりました」
「おう! ……気張れよ! デアデビル!」
僕は、新幹線が通り過ぎていくまで、何度も手を振った。
得るものが、多すぎる職場体験だった。
けれど、それ以上に、僕はまだまだ体を動かしたかった。
「……今から学校で訓練……。いや、とりあえず筋トレか……。近所にスポーツジムあったっけ……」
またああしてビルの上を飛び跳ねられないのが、とてももどかしい。
「仮免か……。必ず取ろう」
僕はそう決心し、杖をついて歩き出した。
その夜、僕はパソコンを開き、ナイトアイとグラントリノ、そしてオールマイトと会話する。
そして、ヒーロー殺しについて詳しく話す。
オールマイトは僕の説明を聞いた後、感嘆したようにため息を吐く。
「大変だったね」
「はい、ですが飯田くんかっちゃん轟くん。何よりミルコとエンデヴァーに助けてもらいました」
「ふむ、ヒーロー殺しに同情するメンバーだ。……ところで、ヒーロー殺しの個性、血を舐めた相手の自由を奪う個性だったそうだ」
成る程、てっきり毒物的なものかと思ったが、だが何故急に。
「ワンフォーオールはDNAを取り込んだ相手に譲渡される……」
「僕が血を舐められたら、ヒーロー殺しにワンフォーオールが?」
「いや、本人の意志が必要だ。無理矢理渡すことは出来るが、奪うことは出来ない」
「成る程、覚えておきます」
いつかピンチになったら、誰かに託さなければならない……。か。
今まで、オールマイトや志村さんたちが繋いできたものを、僕の代で潰すわけにはいかない。
「それより、問題は敵連合だろうな。ヒーロー殺しの狂信的な思想、強迫観念、安い話カリスマが、悪意を引き連れヴィラン連合に集中する事態となっている」
「全国のネームドヴィラン達がヴィラン連合に与する事態となる。か」
グラントリノとナイトアイが呟く。
「すいません。あの時きちんと仕留めておけば」
というか、今であれば、五秒でノックアウトできる。
それができなかったのは、偏に僕の未熟さの所為だ。
「悔やんでも仕方がない。それに無茶も怪我もなくよく乗り切った」
「いえ、あの時轟くんとかっちゃんが間に合って無かったら危なかったです」
そう、全て僕の未熟のせいで、本当に恥ずかしい。
「ふむ、相当な強敵だったようだね。動画を見たが、かなりの気迫だった。それでも動けたミルコとエンデヴァーは流石と言える」
「ええ、ですが、何か掴めた気がします」
そう言うと、ナイトアイが言葉を挟む。
「それで緑谷。お前は今何をしている?」
「……実は今、とりあえず空いている時間は筋トレをしようと。
手始めに100kgのハンドグリップを買ってきました」
「そうか、確かに、ワンフォーオールの上限を上げるには肉体改造が手っ取り早いか……。まだ高校一年生だ。程ほどにしなさい」
「……いえ、焦りますよ。それは」
ああもむざむざとプロとの差を見せつけられるとは思わなかった。
でも、それで凹んではいられない。
「僕はもっと強くなります。それこそ貴方を超えるくらい。そうしなきゃ、いけないんです」
それに、重大な思い違いもしていたし。
「僕、ぜんぜんワンフォーオールを使いこなせていなかった。それを今回の職場体験で痛感しました」
そう言うと、オールマイトも頷く。
「……頑張りたまえ、緑谷少年」
「……なら早く寝ることだ。10時から2時までの睡眠が身体の成長を促す。もう休むべきだ」
「はい!ありがとうございます! ナイトアイ! グラントリノとオールマイトも」
「うむ、ではな」
そう優しい声で言われ、通話が切られる。
僕はその後ストレッチをし、眠りについた。
夢を見た。
「もうすぐ、時がくる」
僕の目の前に菜奈さんが現れる。
またあの夕焼けの見えるビルの上だ。
「時……って、何ですか」
「……俊典の残り火は、消えかけている」
僕は菜奈さんの言葉に、ゴクリとつばを飲む。
「君は巨悪に立ち向かわねばならないだろう。たった一人で」
「……オールフォーワンですか?」
「……それ以外にも、脅威となるヴィランはいる」
確かに、世界にはまだ多くのヴィランがいるのだろう。
「それでも、勝ってみせます」
僕の問いかけに、菜奈さんは笑う。
「心配に思っているわけじゃあない。だが覚悟はしてもらいたい」
「そうですね。でも……」
僕は、菜奈さんの目を見る。
「僕にはかっちゃんや塩崎さん、メリッサさんや麗日さん葉隠さんたち、みんながいます。
何よりオールマイトと、貴方たちがいます。
だから、負けません」
そう言うと、僕を眩しいものを見る目で見つめる。
「それが、私達と君との違いか」
そう寂しげに笑い。だが、彼女はそれでも言う。
「ああ、自分で言ったことを忘れる所だった。ありがとう。
改めて言うよ。君は、一人じゃない」
彼女は僕の頬に手を伸ばし、触れようとしたところで、目が覚めた。
学校が、始まる。
この辺で職場体験編終了です。
しかし色々考えて思ったのですが未熟なオールマイトとはいえOFA100%引き出せる人に嘔吐物吐かせられるグラントリノ(全盛期)ってヤベえ人だな。そりゃ恐れるわ。
やっぱりOFAとはいえそれが人間の扱うものである以上、高速移動できる人なら勝機はあるということか。かっちゃん頑張れ
次回は掲示板ssを挟み期末試験へ。