盲目のヒーローアカデミア   作:酸度

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林間合宿 二日目とカレー

 結局あの後は悶々として寝れなかった。

 僕にできることは何かあるだろうか。

「何もねえだろ。思い上がんな」

「かっちゃん……」

 何でこの人僕の考えてることがすぐ分かるんだろう。

「お前わかりやすいからな。大方、あのガキに何か言えることがあるか考えてるんだろ」

 図星です。

 僕はバンダナを深く被りなおす。

「何もねえよ。たかだか一週間程度関わる位のヒーロー候補生のガキに、一体何が言えるってんだ」

「……そうだよね」

「ぐだぐだ考えてねえで、俺らがやるべきことをやるしかねえだろ。とっとと強くなって、ヴィラン連合をとっ捕まえる資格を手に入れて、奴らぶちのめすのが最優先だろうが」

 それも学生の身分からは逸脱していることだとは思うけど、概ね言う通りだ。

 やるべきことがある。か……。

「あ、皆おはよう」

 女子達も眠そうだ。

 だが、僕らの姿を認めると、麗日さんはハッと目覚めビシっと背筋が伸びる。

「お、おはよう! いい天気やね!」

「う、うんどうしたの? 何かヘンだよ?」

「丸顔は概ねいつもヘンだろ」

「ひど、嫌だってその」

 麗日さんはもじもじしながら僕らを見る。というか女性陣概ねそんな感じだ。

 首を傾げながら、僕らは相澤先生の方へ向かう。

「おう、お前らおはよう。とりあえず遺書は書いてきたんだろうな」

(まじで何されるんだろうか)

「といっても、そんなに難しいことじゃない。君らの中でもやってるやつはいるだろう。

 個性の限界突破。個性は使えば使うほど強くなる。つまり使いまくればいいわけだ」

 成程。

「君らがどれほど辛かろうが、苦しかろうが、やり続ける限り伸び続ける。そういうものだ」

「何かブラック企業の管理職研修みたいなこと言い始めたぞ」

 相澤先生はニッコリと笑う。

「死ぬほどキツイが、くれぐれも死なないように」

 やさしく殺してほしいなあ……。

 

 

 

 

side塩崎

 

「個性を伸ばす……」

「A組はもうやっている。我々も続くぞ」

 ブラドキング先生が手を振り上げ言います。

「前期はA組が目立っていたが、後期は我々だ。行くぞ」

((不甲斐ない教え子でゴメンブラキン先生!))

 ドカーン!

「でも、20通りの個性があるわけで、何をどう伸ばすのかわからないんですけど」

「具体性が欲しいな」

 ドカーン!!

「個性とは筋繊維と同じで使えば使うほど太く、強靭になる。よって君らがやるべきは、限界突破」

 

 見ると、A組の面々は各々、個性を発動しながらの訓練をしておりました。

 麗日さんはゴムボールの中に入って転がっていますがあれはなんでしょうか?

 

 

「許容上限のある発動型は上限の底上げ、異形型・その他複合型は個性に由来する器官・部位の更なる鍛錬」

 ドコーン!!

「でも、私ら合わせて40人だよ。それをたった6名で管理できるんですか?」

「だから彼女らだ」

 

「煌く眼でロックオン!」

「猫の手手助けやってくる!」

「どこからともなくやってくる」

「キュートにキャットにスティンガー!」

「「「「ワイルドワイルド・プッシーキャッツ!!」」」」

 ドカーン!!

 

「私の個性サーチでそれぞれの弱点を把握!」

「私の土流でそれぞれに見合った場所を形成!」

「私のテレバスでそれぞれにアドバイス!」

 

「そこを我が殴る蹴るの暴行よ」

 そう虎さんがのたまいます。

((色々駄目だろ!))

「単純な増強型は我のもとに来い! 我ーズブートキャンプを始める」

「古!!」

「増強型と言えば、緑谷さんは? あと先ほどからの爆音は」

「ああ、それは」

「虎さーん」

 その声が聞こえると、緑谷さんは上半身裸でやってきます。

 あらまあ。

「この材木どうしましょう」

 見ると、山のような材木を抱えて、緑谷さんが近づいてきます。

「うむ、相変わらず筋がいい。こいつがその気になって暴れると辺り一面禿山になってしまうからな。

 塩崎! 貴様は緑谷とスパーだ」

「ただし、今日は2、3時間と言わず限界まで全力でやれ」

 そういうことですか。

「では、お願いします」

「いえいえ、こちらこそ」

 私は手渡されたペットボトルを抱えて緑谷さんと移動します。

「がんばんなよー茨ー」

「? ええ、はい」

 私の反応に取蔭さんはため息をつきながらも見送ります。何でしょう。

 

 

 

side緑谷

 結局、塩崎さんと一緒に夕方ごろまでスパーリングをしていた。その辺りは天変地異でも起きたかのようになっていたが。

「いよう、大分激しかったねお二人さん」

「うん、迷惑だった?」

 僕が言うと、取蔭さんは手を上げ首を振る。

「何ていうか、からかいがいがないねえ二人とも」

「取蔭やめな」

 拳藤さんが取蔭さんにチョップする。一体何なんだろう。

「さあ、昨日言ったね世話するのは今日だけだと」

「オノレの食うメシ位自分で作れ! カレー!」

 皆元気ないな。

「というかあんたら二人あれだけ暴れて余裕そうだね」

「いや、結構つらいよ」

「やせ我慢です」

「……あんたら似てるわ」

「アハハ、全身筋繊維ブッチブチ! だからって雑なネコまんまつくったら駄目ね!」

 ラグドールの言葉に飯田くんがハッとする。

「確かに災害時に要救助者の心と腹を満たすのも、救助の一環。流石雄英無駄がない! 世界一ウマいカレーを作ろう皆!」

「じゃあ、僕も……」

「あなたはまずこっち」

 マンダレイが僕に袋を手渡す。これは。

「あなたのために買ってきた。業務用パスタ5kg×日数分」

「あなた食べすぎるから、まずそれオリーブオイルと塩で食べてからにしてね」

 うわあVIP待遇。

「それ母さん怒らすと出てくるやつですね」

「あんたのお母さんの心中察するわ」

 感謝してます。

「皆、カレー作りには参加できないけど頑張って!」

「うおーふざけんな!」

「てめえに食わせるカレーはねえ!」

 そんな殺生な!

「嘘です。食材位は切るから僕の分取っておいて!」

 そう言って僕は玉ねぎを材料分切っておき、自分のパスタをゆでた。

「デクくん包丁使いうまいね」

「まあ、一人で生きれるようにと料理は結構教えてもらってるから」

「そうなんやあ」

 麗日さんと話しながら作業するが、何かもじもじしている。どうしたんだろう。

「いや、何でもないんや、本当に何でもないよー!」

 何なんだろう。

 そして僕はパスタを食べ尽くし、いざカレーというところで、離れていく洸汰くんを見つける。

 僕はカレーを持って、洸汰くんを追いかけた。

 

「ちっ何やってんだかデクが」

「爆豪。どうした?」

「何でもねえ、ちょっくら席外す」

 

 洸汰くんの腹の虫の音が聞こえる。

「お腹すいたよね、カレー食べる?」

 僕が現れると洸汰くんは驚いたようだ。

「てめえ何故ここが!」

「いや、音を辿って」

「音……? いいから出てけよ、お前らとつるむ気はねえ。俺の秘密基地から出ていけ!」

「秘密基地か……」

 僕は、辺りを見回す。位置情報、修正。把握完了。

「“個性”を伸ばすとか張り切っちゃってさ。気持ち悪い。そんなにひけらかしたいかよ、力を!」

「その、僕らが、ヒーローを目指しているのは」

「いいよ興味ねえ! 何だよもう! そんなバンダナつけちゃってさあ!」

 そう言って洸汰くんが僕のバンダナを外す。

「! ……それ!」

「あ、ごめん、怖かったよね」

 僕は茫然とする洸汰くんからバンダナを受け取り、つける。

「お前、目、見えてねえの?」

「うん、まあ、事故でね」

「……そんなんで、何でヒーロー目指すんだよ。訳わかんねえよ」

 そう言うと、洸汰くんはさらに泣きそうな顔をする。

 わけわかんないか。そうだよね。

「声が、聞こえたんだ」

「声?」

「誰かが助けを求める声が、ね」

 そう言うと、洸汰くんがポカンとする。

「その声を聞きたい。誰かが助けを求めているなら、なんとしても助けたい。それが僕の理由、かな」

「……わけわかんねえ。気持ち悪い」

「……僕なんかが言えることじゃないけど、カレー食べてよ。それじゃあね」

 そう言って、僕は降りていく。そこで、僕は見知った気配を感じる。

 

「食わねえんか、カレー」

「お前は、何だよ次から次へと」

「別に、食うんならカツ位のせるだろうと、作っといた」

「んな、材料あったのかよ?」

「ちょろまかした」

 かっちゃん。いつのまに。

「んだよ、俺のことなんてほっときゃいいだろ」

「そういう訳にもいかねえんだよ。これでもヒーロー志望だからよ」

「ヒーローヒーローって何だよ。誰かの為に戦えば偉いのかよ。それで死んでも偉いのかよ」

「……どうだかなあ、死んじまったら、元も子もねえからな」

「そうだろうが! なのに、皆、パパとママを」

「……いいからくっとけ、冷めんぞ」

 そう言うと、洸汰くんは観念したのかがつがつとかきこみ始めた。

「クソ! 何なんだよ! どいつもこいつも! 皆、おかしいよ!」

 かっちゃんはスプーンを置いて話す。

「あのデクの、もじゃもじゃ頭の顔の傷な、あれ、俺のせいなんだ」

「! お前が?」

「ああ、昔、どうしようもなく力をひけらかしたくて、無個性の奴や弱え奴いじめたり、徒党汲んで粋がってたりしてた馬鹿がいたもんでな」

「……はは、そうか。ヒーロー志望ったって、一皮むけばそんなもんだろ。力をひけらかして、個性ひけらかして、そんなことしてるから」

「だが、お前の父ちゃんと母ちゃんは、ちげえだろう」

「! そんなことわかってる!」

 洸汰くんが涙を堪える。

「そんなこと、わかってるけど」

「……すまん」

 それっきりかっちゃんは何も言わず、ただ黙々と、洸汰くんと二人でカレーを食べてた。

 ……やっぱり、敵わないなあ。

 僕はそう思いながら、その場を後にした。




かっちゃんのヒロイン力に慄くばかりの酸度です。
少し更新遅れ目になりますがご容赦ください。

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