盲目のヒーローアカデミア   作:酸度

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ビリー・クラブ

 朝は勉強、昼はオールマイトと一緒に特訓。夜はメリッサさんと一緒にアイテム開発といった感じで日々は過ぎていく。

 ある日の夜、オールマイトとデヴィットさんの話し声が聞こえ、僕ば目を覚ました。

 

「どういうことだ、トシ! この個性数値の異常な低下は!?」

 

 僕は眠りながら、その声を聴こうとする。

 

「かつてオールフォーワンと戦った後、たしかに肉体的な消耗はあった。だが、この低下速度は異常だ」

「ああ、だが、私の個性が衰えても、次代の英雄がいる。だから大丈夫さ」

「イズク・ミドリヤか。だが、彼がヒーローになり君のような抑止力となるまで、少なく見積もってあと10年はかかるだろう。

 それまで象徴の不在を日本は耐えられるのか?」

「それはそうだ。だが、日本には優秀なヒーローが大勢いる。だから心配するな」

「トシ……」

 

 そう言ってデヴィット博士は黙る。僕はゴクリとつばを呑む。

 僕がワンフォーオールを引き継いだから、オールマイトは弱体化している?。

 僕のせいで。

 

「トシ、今私はある装置を開発している」

「装置?」

「ああ、その名も個性増幅装置だ」

「何、それはまさか、私のために?」

「もともと弱個性救済のための装置という名目だったが、私は是非、君に使ってほしい。実は8割方完成しているんだ」

「そんな、だが確かに、それがあれば」

「この進行スピードでは五年持つかどうかも怪しい。だがその装置があれば……」

「……確かに、それは素晴らしい。だがデイヴ。あまり無理しないで欲しい。次代の芽は、確かに伸びているのだから。

 緑谷少年だけではない、メリッサもそうだ。これからの平和は彼ら二人で作り上げるものだからね」

「トシ……。そうだな、私は無意識に君に頼りすぎてたようだ」

「HAHAHA! だが、被験者が欲しいときは連絡したまえ、確かに私も緑谷少年とともに戦いたいからね」

「! ああ!」

 

 その後は談笑に戻ったが、僕はショックだった。

 オールマイトが、限界を迎えている。

 その時、僕は、一刻も早く。

 

 僕はサンドバッグを思いっきり叩いていく。

 ワンフォーオールを纏わせながら、足に背中に腕に、過不足なく集中させていく。

 

「どうしたのイズク君。ちょっとオーバーワーク気味じゃない?」

「め、メリッサさん。いえ、別に」

「……何かあったなら、話して欲しいな」

「……僕はオールマイトの弟子だから、もっと頑張らないとダメなんです。

 彼みたいになって、早く彼を安心させたいんです。でないと」

 

 彼はたくさんの人を救って、その彼は一体誰が救うだろう。

 

「……イズク君には、私が無個性だって、話してなかったね」

「へ?」

「昔は私もヒーローを夢見てたの、けれど無個性だって診断されて……。でもマイトおじさまとパパに励まされて、パパみたいなヒーローを助けるヒーローになりたいって思ったの」

「ヒーローを助けるヒーロー」

 

 僕とおんなじだ。

 

「だから、ね、イズク君。私にも、あなたを助けさせて」

「メリッサさん……」

「ね、お話ししよ。イズク君のこと、もっと教えて」

 

 そう言って笑うメリッサさんは、僕のレーダーセンスで捉えるまでもなく、天使か女神のようだった。

 僕は話した。四歳の頃無個性と診断されたこと。

 六歳の頃に事故で光を失ったこと。

 かっちゃんとの約束。母さんとの勉強。そして、ヘドロ事件。

 メリッサさんは僕の辿々しい話を真剣に聞いてくれた。

 勿論ワンフォーオールのことは秘密にして。

 メリッサさんは、僕の話を聞き終わると、溜め息をついた。

 

「私ね、本当はイズク君のことを、少し羨ましいと思ったんだ。だってすごい個性で、マイトおじさまの弟子で、私には無いものを一杯もってる」

 

 そこでメリッサさんは言葉を区切る。

 

「けれど、貴方の価値は、個性や超感覚じゃない。

この間、下水道で溺れる子猫を助けたように、ヴィランに襲われた友達を助けたように。

 いざという時恐れを知らず飛び込むことができる。

 それが個性よりも凄い貴方の力なの」

 

 僕の手に、メリッサさんの手が添えられる。

 

「その勇気がある限り、きっと大丈夫。だから、焦らないで」

 

 僕は、メリッサさんの手をぎゅっと握り返す。

 こんな時、なんと言えば良いのか分からない。けれど、これだけは言える。

 

「メリッサさん。ありがとう」

 

 

 そして2週間後。

 

 

「完成したよイズク君」

「これが、僕のアイテム……」

「ああ、名付けて、ビリー・クラブ」

「二つのこん棒ですか。シンプルで格好いいですね」

「ああ、その名の通り、二つに分かれることができる」

 

 二つのパーツはヌンチャクのようにつながっている。

 

「最大で10メートルほど伸縮するワイヤーにスイッチを押すとフックが飛び出す構図となっている」

「ほう、中々格好いいじゃないか緑谷少年、決まってるぜ!」

「ありがとうございます! お二人も」

「あ、あと私からはこれ、フラッシュボム、まあ簡単に言うとスタングレネードなんだけど、これは音が全くしないタイプなの」

 

 それはいい。普通のスタングレネードは大音量が鳴るのでレーダーセンスを阻害するが、これならリスクなく使える。

 

「スーツもね、私の超圧縮技術を使ったものを作ろうとしているの。ただこれは雄英にはいってからになると思うんだけど……」

「そ、それは悪いですよ。まだ合格してもいないのに……」

「フフ、イズク君なら絶対受かるわ。自信持って」

 

 僕は思わず赤面してしまう。こんなにまっすぐに僕を信じてくれる人は、今までいなかったから。

 オールマイトと出会ったことといい、母さんやかっちゃんといい、僕は恵まれすぎている。

 

 

「ありがとうございます。必ずお二人の期待に応えて見せます」

「その意気だ、緑谷少年」

「フフ、じゃあ今日は完成記念のパーティーね。どこかに食べに行きましょう」

「ああ、私のおごりだ。好きなだけ食べるといい」

 

 オールマイトが張り切って答える。

 

「え、いいんですか」

「ああ、でも緑谷少年は手加減してくれよ。君、とんでもない量食べるだろう」

「はい、腹8分にします」

 

 

 その日は楽しい時間だった。

 その日行ったステーキハウスでは初めてTボーンステーキというものを食べた。

 

「まずはヒレ、次にサーロイン、最後に骨回りを食べるのよ」

「成程、勉強になります」

 

 二人で並んで食べる様子を見て、デヴィット博士はしみじみという。

 

「こうしてみると、二人は姉弟のようだな」

「そんな、恐縮です」

「もうパパったら、イズク君に失礼よ。ねえ?」

「いえ、そんな、僕も一人っ子なので、うれしいです」

 

 メリッサさんみたいな知的な女性が姉なら、それはとても良いだろう。

 

「HAHAHA! なーに、ここにいる間は姉弟のように過ごすといい」

「……けれど、イズク君もおじさまも日本に帰らないといけないのよね」

「うむ、あと一週間もしたらビザが切れるからな」

「なーに、今の時代離れていてもいつでも会えるさ。寂しがることはない」

「……そうね。そうよね!」

 

 そう言ってメリッサさんは、花のように笑った。

 

 そしてデヴィット博士の車で戻ると。僕のレーダーセンスが異常を捉えた。

 

「オールマイト、博士。誰かいます。多分空き巣です」

「何、このI・アイランド内でまさか。サムだろうか?」

 

 サムというのは、デヴィットさんの助手のこと。

 僕も何度か見たことがある。ただし。

 

「まず体形が違います。サムさんのふくよかな体形の出す足音ではないです。

 それに、足運びから分かるこそこそした動き。呼吸音から、隠密を意識した呼吸。

 何より、電気点いてますか?」

「……点いてないわね」

「……私が様子を見てこよう。三人は念のため、離れていたまえ。緑谷少年は二人を守ってくれ」

 

オールマイトがそういうと、僕の方を向いた。

 

「はい」

 

 僕らは努めて音をたてぬよう動きだした。




メリッサさんはヒロインの器なんだけど、本編に入るとお茶子強すぎるので、今のうちに走らせておく

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