人魚の復讐   作:ジャガピー

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第三章
人魚の復讐


後数分で午前5時を腕時計の針が指そうとしていた。

目の前の二階建ての戸建ての前で背中に背負ったゴルフバックを握りしめる。

 

目を瞑って一息吐くと、私は扉を静かに引いた。

鍵が掛かっているらしく、ガチャンと音を立てるだけで扉は開かなかった。

もしかしたら開いているかもと期待してみたがやはりダメらしい。

 

空いている窓が無いか建物の周りを一周してみたが、それも期待できそうに無いラシイ。

植木鉢の下やポストの中などを見てみたけれど、鍵らしきものは入っていない。

 

もういっそ朝まで待って奴が出てくるのを待つ事を考えたが、この近くを人が通って怪しまれることも考えると、それは得策では無い。

 

私はインターホンの前に立ち、諦め半分でボタンを押す。こんな夜中じゃ寝ているだろうし、そもそも怪しんで出ない可能性の方が高い。

 

シンと夜の静けさが辺りを支配する。

2回目のインターホンを鳴らし、やっぱり出ないことを確かめ、朝になるまでどこかに身を潜めようかと考えていると、唐突にガチャリと鍵が開く音がした。

 

 

「誰…?」

 

 

中から出てきたのは、20歳前後の女の子だった。

まさか、ここに来て場所を間違えて記憶していたかと焦る。

 

「あ、えっと…」

 

少女の顔は私をジッと見つめている。

まずい、何か取り繕わなければと脳内をフル回転させていると、

 

「あー、来るかもって言ってたよしきの友達?」

 

よしき、その名前に身を震わす。

高崎よしき。忌まわしき少年Aの名前だ。

 

「うん、そうなんだ。よしきくん居るかな?」

 

そう言うと少女は小さく首を振った。

 

「今ここには居ないよ。」

 

その言葉に絶望する。こんな山の別荘地まで来て、奴がいないとなると、また一から考え直さなければならなくなる。

 

「どこに行ったの?」

 

「すぐそこのコンビニ。って言っても原付で10分とかのところだけど。」

 

コンビニと言うと、マリと歩いている時に前を通ったあのコンビニか?

 

しまった、すれ違ってたんだ。そこで気づいていればこんな風に女の人に私の存在を見られなくて怪しまれずに済んだのに。

 

「どーする?中で待ってる?じきに帰ってくると思うけど。」

 

それもあまり良い提案では無い。この女の人と一緒にいて、ニュースやワイドショーで騒がれている松浦果南だなんて知られたらお終いだから。

 

「いや、そのコンビニに行くよ。私も買い忘れたものとかあるし。」

 

「そうなの?なら向こうで待っとくように伝えようか。友達が来てるよって。」

 

女の子は携帯電話を取り出して画面を操作している。

大きな目で小さい顔、引き締まった身体。この子は一体なんなのだろう。

 

「ねえ、」

 

「んー?」

 

「君は、よしきくんとどんな関係なの?」

 

そう言うと女の子は私を見て微笑んだ。

 

「よしきのただの遊び相手よ。貴方もそうじゃないの?」

 

 

遊び相手。肉体関係だけの関係ということなのだろう。

でも、そいつ自身に振り回されて、おもちゃのようにされているのだとすれば、私は彼の違う意味の遊ばれた相手に入るのかもしれない。

 

「うん、そんなところ。」

 

 

「じゃあそこの自転車使っていいから、ここの坂降りる途中にすぐ右にコンビニがあるから。」

 

そう言って鍵を受け取ると、私は自転車に跨った。

 

「その鞄、置いてきなよ。重そうだし。」

 

「ううん。大丈夫。すぐよしきくんを連れて帰るから」

 

 

そう言ってペダルを踏み出す。

舗装された真っ暗闇の道を深く帽子を被って大きなゴルフバックを背負って漕ぎ走る。

途中で、アイス買ってきてと聞こえたけれど、そんな事はどうでもいい。もうここに戻る予定はないから。

 

 

先程まで上がってきていた道を颯爽と下る。周りに怪しまれないように出来るだけ前照灯をつけずに走る。

数分して、暗闇の中で道路脇から恍惚と光る建物が見えた。

 

目当てのコンビニだと分かると私は自動扉の横に自転車を止めて中に入る。

 

いらっしゃいませ。

 

そう木霊する店内をぐるりと見渡すと、少女Aこと、西島たかしはそこにいた。ガムをくちゃくちゃと下品にも噛みながら、金色にそめた頭、たくさん空いたピアス、少しばかりか店員にも高圧的だ。タバコとお酒を買って外へ出ていく。

 

 

私はその後を追い、彼がタバコをふかすと同時に声をかけた。

 

 

「高崎よしきくん」

 

その声に原付に座っていた奴は私の方を振り向いて眉間に皺を寄せた。

 

「あ、なんだてめぇ。だれだよ。」

 

 

更生なんてしていない。

そう分かってしまうほど彼は私に攻撃的な目線をしていた。そうやって、弱い人を怖がらせて、自分だけ満たされて…。

 

彼が殺された時もそうなんだろう。脅されてる子を助けようとしただけなのに。

 

 

「少年Aって、言った方がわかるかな?」

 

 

 

 

その言葉に目の前のゴミは、見る目がみるみる恐怖の目へと変化していった。この得体の知れない存在が何なのかという恐怖に苛まれているのだろう。

 

 

「な、なんだよ、何でその名前で知ってんだよ…?!」

 

 

「さぁ、何でだろうね。」

 

「近づいてきたらタダじゃおかねえからなッ!!」

 

原付から降りると、少年Aは臨戦態勢に入る。

 

この姿を見て、あぁ、少年法は絵に描いたような餅で、こいつらは社会に害を生すだけのゴミ以下の存在なんだと改めて認識した。

 

 

私はゴルフバックから猟銃を取り出した。マリの家で盗んだということにして借りてきたもの。

マリの家で一回だけ教えてもらった銃の使い方、まず弾を薬室に入れるためにここを引いて…

かちゃりと音がなると、照準を目の前のゴミに合わせた。

 

 

「は、なんだよそれ。おもちゃなんて怖くッ…」

 

 

バンッッ‼︎!‼!

 

空気を割くような音がコンビニの前で児玉した。

 

 

 

 

「、な、なんだよ…これ…、う、うあああああ、ああああ、ヴァァァァァァァァ?!ァァァァァァァァ⁈‼︎」

 

 

弾は右足を貫通させたらしく、大きく地面に尻餅付いて転げ回っている。

 

私がもっていた銃は後ろへと弾き飛んでいた。ここまで威力がすごいとは。計算外だった。やっぱり映画のようには上手くいかない。

 

扉の前の方まで飛んだ猟銃を取ると、コンビニのお店の人が悲鳴をあげてその場に腰を抜かしていた。

私はその事に微動だにせず、猟銃を持って立ち上がり大声で痛みに呻き転がる獲物の前に立って見下ろした。

 

「どう?痛いでしょ?」

 

 

「な、何なんだよお前えええぇええ!!」

 

「彼も私も、それ以上の苦しみを味わったの。ここでちょっと痛いくらいで死ねるだけマシだとと思うことね。」

 

「死ぬ…?え?何言って……。」

 

「私は、あんたちが殺した結月の婚約者よ。」

 

「まさか、たかしと連絡取れなかったのも…」

 

「私が殺した。ニュース見てないの?だからどうしようもない能無しのゴミような人間になるんだね。理解した。」

 

「てめぇ、ほんとにふざけやがって…、殺してやる!!!」

 

 

そ、やっぱり結局中身すらも変わってなんかないじゃない。

 

 

「やってみれば?」

 

 

バンッッ!!

 

 

私は下で悶えている少年Aの背中を撃ち下ろした。甲高く聞くに耐えない悲鳴が辺りを響かせる。

リロードして、照準を合わせて、もう一発

 

バンッッ!!

 

 

もう一度

 

 

バンッ!!

 

 

気が晴れるまで

 

 

バンッッ!!

 

 

 

 

 

肉片が飛び散り、コンクリートの上に侵食している大量の血液を見てほっと一息を吐いた。

最後に地面に垂れた顔を引っ張り上げて、ポケットのナイフを顔面に突き刺した。

 

「刺しにくいなぁ。」

 

肉塊をゴロンと仰向けにして、ナイフを再び立てる。顔を何度も何度も。誰だかわからなくくらい。生き返っても外で歩ける顔じゃなくなってるように。

 

足も股間も腰も背中もお腹も、全部刺せるだけ力強く刺す。ナイフがダメになってしまうまたところでそのゴミにナイフを突き刺し、私は血塗れの手で猟銃を持った。

 

 

電柱に腰掛け、空を見た。まだ日は登っていないけれど、綺麗な星々が見える。あそこのどこかに結月はいるのかな。この上の空の天国に。会いたいなぁ。

 

そう考えながら、口に猟銃の発射口を加えて、足の間に猟銃を立てた。靴下を脱いで、足の親指に引き金を掛ける。

 

 

 

 

 

復讐とは、自分の運命に決着をつけるためのもの。

過去を振り返って良かったことだけを思い起こしても、幸せだったときの時間は2度と帰ってこなかった。

 

失った過去からは逃げられないのだから。

 

それでも、私にはまだ大切な人がいた。

鞠莉、ダイヤ、千歌、曜、梨子、善子、花丸、聖良、理亜ちゃんも。まだ、私のことを思ってくれている人がいるのは知っている。でもね、もうこれ以上の迷惑はかけられない。

 

 

楽しかった。27年間、色々なことがあったけど、私の最後はこうすることしかできなかった。

 

みんなどうか、許さなくてもそれだけはわかって欲しい。

 

 

さようならみんな。

 

 

そして、今行くからね、結月。

 

 

 

 

 

 

 

パンッと言う乾いた音が聞こえたと同時に、私の意識もそこでぷつりと途切れた。

 

 

 




あと一話後日談的なのが続きます。
もう少しだけお付き合いください。
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