スリーピング・ナイツ、マイホーム
「それじゃあボス攻略を記念して‥‥‥‥かんぱーい!」
「「「かんぱーい!」」」
黒鉄宮で記念撮影をした後、全員で打ち上げをすることになった。
「しっかしまさか一回で攻略出来るなんてね!」
「まあこれだけの人数がいれば可能ではある」
やいのやいの
攻略の喜びを皆で分かち合う。以前のアインクラッドでは考えられなかったことだ。
「そういえばふと気になったんだがな‥‥‥」
「ん?何?」
「このギルドの名前、スリーピング・ナイツなんだが、何故この名前を?言っちゃ悪いがあまり縁起が良く無さそうなんだが‥‥‥」
「それは‥‥‥‥」
回りを見渡すユウキ、皆の顔色は優れない。不味い、地雷を踏んだか?
「ああ、いや。言いにくいことの一つや二つあるもんだ。すまないな、こんなことを聞いて」
「いや、いいよ。話そう。でも、その前に‥‥‥」
「ん?」
もじもじするユウキ、そして
「その、間違ってたらごめんなさい」
「何がだ?」
「本当に協力してくれてありがとう。謙二!」
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥へ?」
恐らく今までで一番間抜けな声が出た
「えーと‥‥‥‥いつから気がついてた?」
「家で聞かれたとき。それとやたら女の人と距離を取ってたから。謙‥‥‥コハルは女の子に対する耐性低いじゃん」
「う、ぐ‥‥‥じゃあ何で隠してたんだ?」
「サプライズのつもりだったんだけどね‥‥‥まさかこうなるとは思ってなかったよ」
「そうだったのか‥‥‥」
「ごめんね、騙してて」
「気にするな。それで‥‥‥」
「うん、皆、この人になら話しても良いよね?」
「「「うん」」」
「ボクが彼らと出会ったのは結構前なんだ」
「今は元気だけど一回AIDSが発症しかけてね、入院してたことがあるんだ」
「その時出会ったのが皆なんだ」
それを聞いた俺は思わず
「じゃあ、スリーピング・ナイツっていうのは‥‥‥」
「うん。所謂不治の病にかかってた皆、だから眠る騎士達、スリーピング・ナイツ」
「最もボクとシウネーは回復の見込みがあって今は不治では無いんだけどね。発足当初は皆そうだった」
「実はこのギルドはね、ボクが作ったわけじゃ無いんだ。ボクの姉ちゃんが作ったのを引き継いだんだ」
「‥‥‥‥‥」
何故引き継いだのかは聞くまでもない。亡くなったんだろう。お姉さん。実際に俺と会ったときは一人ぼっちだって言ってたしな。
「皆余命が宣告されてた。だからこそ自由に動けるこの世界にボク達が生きてた証を残したかったんだ‥‥‥‥‥なんかごめんね。湿っぽい話になっちゃって」
「そうだったのか‥‥‥ありがとう。言いにくいことだろうに聞かせてくれて」
「いいのいいの。だって‥‥‥」
ユウキの見つめる先にはニコニコしたシウネーさん
「あなたがいないとき散々ユウキから聞かされてましたから。あなたになら聞かせても受け入れてくれると思いました」
「そうでしたか‥‥‥」
「まっ、ボクを受け入れてくれたコハルがスリーピング・ナイツを受け入れない訳が無いけどね!予想通り!」
「良く分かってらっしゃる」
「それはそれとしてさ、実はボク達ってALO以外にも色んなゲームを遊んできたんだ!」
「それは気になるな。例えば?」
「あれはアメリカのね‥‥‥‥」
それから数時間後
「じゃあ名残惜しいけどここまでだね」
「ん?それはどういう意味だ?」
「実はね、今回のボス攻略が無事終わったらこのスリーピング・ナイツは解散する予定なんだ」
「なんで!?」
寝耳に水で驚くコハル
「言ったと思うけど今回はボク達が生きてた証を残すことが目的なんだ。それと‥‥」
「ボクの姉ちゃんが死んだときに決めたんだ。次一人いなくなったらギルドを解散しようって。それで突然いなくなるより皆揃ってる時に解散しようってね」
「まさか‥‥‥‥」
「うん、そのまさか。ここでは元気そうにしてるけどこのギルドの大半はリアルでは死にかけなんだよ。既に一人余命宣告が間近の人がいるんだ」
「それで‥‥‥」
言葉が見つからない。第一こんなに笑顔で元気な皆が死にかけてるなんて信じられない。信じたくない。
「そんな顔しないでよ。生きてた証は残せたし、ボク達のことはボクを含めて皆の宝物だからさ。それに‥‥‥」
「何て言うんだっけ?昔コハルが良く言ってた言葉があるじゃん」
「‥‥‥‥‥‥縁‥‥か?」
「そうそれ!皆がこうして集まれるのも縁ってやつでしょ?だから悲しむのは違うかなって」
「そう‥‥‥だな」
ならばせめて‥‥
「ならむしろ笑顔で別れないとな!」ニコッ
「そうそう!‥‥‥‥‥‥じゃあスリーピング・ナイツのギルドマスターとしてここに‥‥」
皆を見渡すユウキ
「解散を宣言するよ!皆、今まで本当にありがとう!皆のことはいつまでも忘れないからね!」
響き渡るユウキの声に皆は声を揃えて
「「「じゃあまたいつか!」」」
そして現実世界へと戻る謙二、真っ先に向かったのは
コンコン
「入っていいか?」
「うん、良いよ」
何だかんだで初めて入る木綿季の部屋はぬいぐるみとかが置かれた年頃のザ・女の子の部屋、という感じだった。
「しかし驚いたな。まさか既にALOをプレイ済みだったとは。参考までにいつ頃始めたのか聞いてもいいか?」
「謙二があの事件に巻き込まれてから一年が経ったとき。元々あのメンバーで色んなVRゲームを渡り歩いてたからさ。謙二が始めなかったらこっちから誘う予定だったんだよ」
「そうだったのか‥‥‥‥‥‥ん?」
目的を果たした筈の木綿季の顔色は優れない
「どうしたんだ?辛気くさい顔して。スリーピング・ナイツが恋しいのか?」
「それもあるけど‥‥‥‥なんかさ、今だから言えるけどボクはスリーピング・ナイツの皆に対して罪悪感があったんだ」
「なんでまた?」
「言ったでしょ?皆残り少ない命だって。なのにボクとシウネーだけは助かる見込みが見えちゃったから。ボク達だけ助かるのが申し訳ないというか‥‥」
「何言ってるんだよ‥‥‥‥」
思わず低い声が出る
「いつもの元気な木綿季はどこ行った。自分だけ助かるのが申し訳ない?他の人の分も生きればいいだろ!」
「謙二‥‥‥‥」
「頼むから‥‥‥もうそんなこと言わんでくれ」
普段は木綿季に対して声を荒げることは無い謙二がそうぶちまけた
「もう一人はやなんだよ‥‥‥」
想像してしまった。木綿季がいなくなって一人になったときのことを。一人ぼっちは慣れている筈なのに耐えられない。それほどにこの生活が当たり前になっていた。
「‥‥‥‥‥ごめん。ボクらしくなかったね!もうあんなこと言わないからさ。顔上げてよ」
「ん?」
ポンッ
「基本家から出ない上出るときはボクと一緒だから気がつきにくいけど謙二の人間不信もまだ治ってないしね。あれが治るまで死ぬ気は無いよ」
「うぐぐ、すまん」
(精神的に)年下の女の子に撫でられるのは嫌いな筈だが不思議と心地よい。いかん。本格的に木綿季無しで生きられない体になりそうだ。それに安らぐ‥‥‥‥
「不味いな、この生活に溺れそうだ‥‥‥」
「溺れちゃいなよ。ボクは死ぬまで離れないから。フフッ計画通り」
んん!何やら悪寒が‥‥風邪か?
それから数日後
「突然だが木綿季、デートに行かないか?」
「どうしたのさ?藪から棒に」
「いや、今まで何だかんだで時間取れなかったしさ、学生のうちに行きたいと思ってね」
「本音は?」
「この間の結構引き摺ってます。正直辛いです。木綿季が居なくなる夢を毎日見ててマジでヤバいです。助けて下さい」
「それで最近元気無かったんだ、末期じゃないか‥‥‥‥良いよ。でも言い出しっぺは謙二なんだから行き先とかちゃんとしてよね?」
「期待はせんでくれ」
「はいはい」
「まさか‥‥‥‥これは予想外だよ。ボクじゃなきゃ即刻別れてるよ」
「やかましいわ!こちとら今も昔も恋愛ド初心者じゃい!だから言っただろ!期待するなって」
俺がデートに選んだ場所、そこは
「本当に予想外だよ。確かに場所はいいけどさ‥‥‥」
ALO内の有名デートスポットの公園だった。
「だって!?外行くのは怖いしお金かかるし雨とか降ったら最悪だし‥‥ここならその心配無いからさ」
「アバターじゃない本物の謙二が良かったんだけどな‥‥‥」
「言わんでくれ。決めておいてなんだがスッゴい後悔してる」
頭を抱える謙二を木綿季は
「まあいいよ。謙二とならどこだって良いからさ。さて、どんな風にデートするの?」
「さ、散歩とか?」
「うん!期待したボクが間違ってたよ!」
「本当に‥‥‥すんません‥‥‥」
「やれやれ。どうせALOなら‥‥‥‥それ!」
「うわぁ!」
ALOでしか出来ないこと。それは飛ぶということ
「そうか、むしろALOでしか出来ないことをすれば良かったのか!」
「気がつくのがおそーい。後、それだけじゃないよ」
「何が?」
「上を見てみて」
「上?‥‥‥‥‥!?」
そこには天井があった。外なのに。だが少しずつ動いているそれは
「アイン、クラッド、これがどうした?」
「これ、凄く大きいよね」
「そうだな」
「これ、どんな風に見える?」
どんな風に、か。なら
「凄くデカイ城だな」
「そういうのじゃなくてさ。謙二にとってあの世界はどうだったの?」
「‥‥‥残酷な世界だが、とても充実した城だったよ。悪人も善人もいた、それが良かったよ。今じゃ大勢の妖精が闊歩するカオスな城だけどな」
「それだよ‥‥‥」
「それ?」
「今何て言った?」
「カオスな城だって‥‥‥」
「その前」
「悪人も善人もってやつ?」
「そうそれ。まだ気がつかない?」
「何がだよ」
「限りなくあの城は現実に近い。ならさ、いると思うよ。現実にも謙二を受け入れてくれる人がさ。少なくともボクや両親はね」
「‥‥‥‥‥」
そう、そもそもの俺の人間不信の発端は帰還直後のご近所さんの陰口だ。端から見れば下らないと思うかもしれないが当時の俺にはトラウマになるに十分過ぎた。
「皆が皆謙二を、帰還者達を差別してる訳じゃない。もう一回試してみようよ。もしそれでダメだったならその時考えよ?」
「あ、ああ。全くもってその通りだな。やってみるよ。しかしなんだな。これじゃデートという名のいつものゲームだな。木綿季の説教付きのな」
「まあボク達らしくていいじゃないか」
「違いない」
ALOから戻ってきた俺は早速外に出てみることにした。だが木綿季無しでだ。今まで外に出るときは何があっても木綿季がそこにいた。正直、怖い
「世の中捨てたもんじゃない。行ってみるんだ!」
足は震える。だが進めない訳じゃない
「じゃあ、軽くこの辺りを回ってみるよ。何かあったら電話する」
「頑張ってね」
「応さ」
スッ
小さな、それでいて俺にとってはとても大きな一歩。
「行ける、行けるぞ!」
久々の俺だけの外出。ふと、目の前を一人の子供が通る
「こんにちは!」
純粋無垢な子供は誰にでも挨拶をする。されたら返すのが道理
「こ、こんにちは」
詰まったが何とか返せた。子供は満足げに去っていく
「だいぶマシになったな‥‥‥」
「ただいま」
「お帰り。どうだった?連絡が無いってことは異常なし?」
「ああ、俺、外に出られたよ。話せたよ‥‥‥‥」
「そうだね。良かったね。今の気持ちは?」
「訳が分からん。嬉しいようななんというか。ただひとつ言えるのは‥‥‥」
「木綿季のあの言葉で救われちまったよ。あっさりしてんな」
「謙二って何かと考えすぎて抱え込むじゃん?あのやり方なら効くかなって」
「なんか、助けられてばかりだな‥‥‥」
「そんなことないよ!」
「!?」
珍しく木綿季が声を荒げた
「まあ自覚無いだろうけどボクも何だかんだで謙二にスッゴい救われてるんだよ。下手したら今ここに居なかったかもしれないレベルでね」
「そーなのかー」
「むぅ~。信じてないな~?」
「シンジテルヨー」
「‥‥‥‥‥‥‥」
多分気がついてないし今後も気がつくことは無いんだろうな。小学校のあの日のことは忘れないからね。
「さてと!じゃあ飯にしますか!」
「作るのはボクだけどね?」
偶然小学校で出会い、偶然虐めから助けられ、偶然AIDSが発症しなかった木綿季
偶然SAOに巻き込まれ、偶然ご近所さんの陰口を聞いて人間不信になり、偶然木綿季の一言で外に出たとき普通の子供に挨拶され少しは人間不信がマシになった謙二
案外この世の全ては偶然の上に成り立っている。それに理由を付けるなら‥‥‥そう
縁と言うのだろう。
無理矢理感ありますかね?なんかどんな風に締めたらいいものか分からなくなってしまって‥‥このあと番外編がありますのでお楽しみに!
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