「さぁ! どんなふうに改造してあげようかねぇ!」
巨人の手が、グレンチュリオンに伸びる。
「うわあっ!」
慌てて履帯を回し、回避するフレイナだけど、
「遅いねぇ!」
巨人は、グレンチュリオンの正面に回り込んだ。
早い。増魔獣だった時とは大違いだ。
「うそっ!?」
フレイナは軌道を変えようとするけれど、グレンチュリオンの左の履帯が、巨人の右手に掴まれた。
増魔獣だった時の頭が、そのまま腕になっている。
大きな口で、噛みつくかのように持ち上げた。
「わわわわっ!」
慌てるフレイナ。
「まずは動力を止めようか!」
巨人の左腕、増魔獣の尻尾の先端が、硬化する。
あれじゃあ、まるで槍を構えているかのようだ。
その先端が、グレンチュリオンの、フレイナが乗る砲塔に向けられる。
「まずいっ!」
僕は当たりを見回した。
ちょうど良いところに、倒れて斜めになっている、大きな瓦礫がある。
「いくよ、カイザー!」
僕はカイザーに飛び乗って、アクセルを踏み込んだ。
フルスピードで瓦礫の斜面を駆け上がり、飛び上がる。
「勇合転生!」
叫ぶと、僕とカイザーは一つになった。
飛び上がった時の勢いのまま、巨人の左腕を蹴りつける。
「まじょっ!?」
巨人はバランスを崩して、グレンチュリオンを取りこぼした。
『フレイナッ!』
その隙に僕は、グレンチュリオンへと跳躍。
落下による衝撃から守るために、グレンチュリオンの下に回り込み、僕自身の両足を、先に地面につける。
『ぐうっ!』
瞬間、グレンチュリオンの重量で、僕は押しつぶされそうになった。
思わず体をそらし、自分より後ろに、グレンチュリオンを下ろす。
なんて重さだ。カイザーと一つになっているこの体ですら、まともに支えきれなかった。
『無事か、フレイナ!』
「う、うん!」
ともあれ、フレイナに怪我はなかったらしい。
良かった…。
「あ、アンタ…」
その後ろで、巨人が僕を見る。
「どこから現れた…いや、何者だい?」
カイザーと一つになった僕を見て、なんだか動揺しているらしい。
『私は、転生勇者イセカイザーだ』
名乗ると、巨人はまた驚く。
「そうか、アンタはアンタで、別の勇者ってことかい。…こりゃ好都合だね!」
巨人の左腕の槍が、僕を狙って飛んできた。
『たぁッ!』
素早く横に飛んで、槍を避ける。
反撃…しようにも、あの大きさだ。
下手に近づけば、こちらが危険になるだろう。
ここは…あのライフル銃を使おう。
『アンブレ・ライフル!』
右腕のドアからライフルを出現させ、両腕で構える。
とりあえず、巨人の腹あたりを狙って…、
『シュートォ!』
叫びつつトリガーを連射し、エネルギー光弾を当てる。
しかし…
「あははっ! それでも反撃のつもりかい!?」
巨人には、かすり傷一つ付けられなかった。
『バカな、モンスターを一撃で沈めた銃だぞ!?』
「アタシのベイビィに、アタシ自身が合身してるからさ! そんじょそこらのモンスターなんか、比較ならないね!」
気付けば、巨人の右腕、増魔獣の顔が、こちらに迫っていた。
『くっ!』
僕自身は回避できたけど、持っていたライフル銃は噛み砕かれてしまう。
しかも、
「貰ったよぉ!」
回避した先で、巨人が左腕の槍を構えていた。
『しまった!』
だめだ、間に合わない。串刺しにされる!
そう気づいたその時、
「炎剣突きィー!」
ズドォーーン!!
彼方で、グレンチュリオンが火を吹いた。
「まじょっ!?」
巨人の足に大きな衝撃を与え、またもバランスを崩し、転倒させる。
おかげで、僕は事なきを得た。
『助かった、フレイナ!』
そういうと、彼女はニッと笑う。
とはいえ…。
「こんな程度、その場凌ぎじゃないか。痛くも痒くもないね!」
巨人はすぐに立ち上がった。
悔しいけど…、奴の言う通りだ。
今の僕らでは、この巨人を退けることはできない。
『このままでは…』
何か手を考えないと。そう思っていると。
「イセくんッ!」
グレンチュリオンから、フレイナが声を張り上げた。
「あたしが、イセくんに合わせるよ! だからイセくんは、思うように戦って!」
『しかし…』
「大丈夫!」
弱音を吐きそうになった僕を、フレイナが勇気付ける。
「イセくんの力も、あたしのグレンチュリオンも、同じ『誰かを助けるための力』なんだから!」
笑顔でそう言ってくれる。
「だから、力を合わせよう!」
力を、合わせる。
その言葉を聞いた途端、僕の頭の奥に、衝撃のようなものが奔った。
『…そうか』
その手があった。
その手が、あるんだ。
そんな手が、あったんだ。
『フレイナ!』
脳内に広がるイメージ。それは、まるで何かを思い出すかのようで。
『ありがとう! 君の力、借り受ける!』
やった事のない事なのに、妙な自信が生まれる。
できる。
今の僕には、それが出来る。って。
「えっ? …うん! 任せるね!」
フレイナが頷くのを待って、僕はその言葉を叫んだ。
『炎剣! 転生合体!!』
瞬間。
グレンチュリオンは、乗っていたフレイナを下ろした。
「あれっ!?」
驚く彼女の目の前に、大きな魔法陣が二つ浮かぶ。
「えっ! えっ!?」
その中から、新たに二台の車両が現れた。
荷台にロケット砲を装填したトラックと、パラボラアンテナのようなものが付いたトラックだ。
「まさか、『ローラ』と『メリッサ』!? まだ呼んでないのに…!?」
僕は見たことのない車だったけど、フレイナは何か知っているようだ。
ともあれ、ローラと呼ばれたトラックは右に、メリッサと呼ばれたトラックは左に、それぞれ走り出す。
一方で、グレンチュリオンは車体前方を起点とし、履帯を左右に開いた。
そのまま前方に閉じた後、履帯を唸らせ、本体後部を持ち上げる。
車体が地面と垂直になり、履帯を二本の足として立ち上がった。
そこへ、本体右側にローラが、本体左側にメリッサが、それぞれジャンプして合体する。
ローラは右腕となり、メリッサは左腕となった。
更に、胴体前方が大きく開いて、中から半透明のスロープ伸び、僕の足元に届く。
『てやっ!』
僕はカイザーと一つになったまま、車の姿に変形し、半透明のスロープを駆け上がった。
グレンチュリオンの中に飛び込むと、胴体が閉じ、僕を格納する。
『リバイブ・アップ!』
掛け声で、僕の意識は広がり、溶けていく。
一つになった、グレンチュリオンの中へ。
顔が出て、目が灯る。
口が勝手に、その名を叫ぶ。
『転生合体! ファイヤァァァアッ!!イセカイザァァァアアア!!!』
ーーそれは、少年の新たな力。ーー
ーーそれは、炎纏いし勇者としての姿。ーー
ーー生を転じて成り遂げた、灼熱の剣士。ーー
ーーその名は。ーー
ーー『ファイヤーイセカイザー』!!ーー
「まじょっ!?」
巨人が驚き、一歩後ずさる。
対して僕は、一方前に出た。
「な、なんなんだい、その姿は!」
言われて、僕は改めて、自分自身を見る。
大きい。
僕の体は、目の前の巨人と、肩を並べて立てるくらいになっている。
その体は、これまでとは違い、さらに機械的な姿になっていた。
右腕がローラ、左腕がメリッサ、胴体と両足はグレンチュリオンで、それぞれ構成されている。
そして、体の中にはカイザーもある。
まるで、カイザーを中核に、他の三車両で出来たスーツを着ているようだ。
そうして更に、理解する。
この体が出来ること。
この体に宿る力。
確信する。
この姿なら、巨人に勝てる。
『私の名は、ファイヤーイセカイザー』
右手の人差し指を、巨人を向ける。
『貴様を倒す、勇者の名前だ!』