転生勇者イセカイザー   作:楽雁つばさ

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1-2「フレイナ」

どれくらい歩いただろう。

森の中をひたすら歩いて、辿り着いたのは、小さな村だった。

さらに進んで、少し大きめの建物の前で止まる。

建物の入り口には『喫茶 ルクルエ』と書かれた看板。

その真下には『本日休業』と書かれていた。

「ここが、あたしの家。…正確には『あたしが住み込みで働いてるお店』だよ。…ささ、入って」

言われるままに、彼女の後についていく。

入った途端、木材の匂いが鼻をくすぐった。

それに混じる、微かな食べ物の匂い。

まさに『森の奥の食事処』といった具合だ。

「そこで座って待ってて」

カウンターの席に案内された。

「うん、ありがとう」

僕が答えると、女の子はその奥に行き、棚に手を伸ばす。

「うーん…、今すぐ食べられるのは、これかな…」

ボウルのようなものを、僕の目の前に置いた。

「これは…?」

中には、団子みたいなものがたくさん入っている。

「キビィだよ。…知らない?」

首を振って見せる。

「いろんな果物を混ぜて、魔法で固めたものだよ。保存食だからそんなに美味しくはないけど、コンパクトで腹持ちもいいから、ダンジョンの散策の時なんかに便利なんだ」

へぇ…。

「ごめんね。本当は何か作れたら良いんだけど、あたし、料理はそんなに得意じゃなくて…」

「そんな、充分だよ」

とりあえずひとつ摘んで、食べてみる。

程よい甘み。少しモサモサした食感だけど、水分が欲しくなる程でもないというか。

うん…これはこれで。

「…美味しい」

「ほんと? よかった」

僕が笑って見せると、女の子も笑ってくれる。

「そのキビィはね、あたしが作ったんだ」

「そうなの?」

さっき、料理は得意じゃないって聞いたけど…。

「うん。実は、お店のメニューにもなってるんだよ。『フレイナのキビィ』。…あんまり注文は入らないんだけどね」

「フレイナ?」

「あたしの名前。…って、そっか、まだ名乗ってなかったね」

…そういえば、僕もだ。

「ああ、ごめん。…僕は、育美良生っていうんだ」

「ハグクミーセ…くん?」

…なんか違う。

「育美、良生。…良生でいいよ」

「…イセくん、だね。わかった」

女の子は頷く。

「あたしは、フレイナ。よろしくね、イセくん」

「うん、よろしく」

そんなふうに、お互い自己紹介を終えたとき。

お店のドアが開いた。

「ただいまー。…はー。疲れたぁ」

入ってきたのは、30前半くらいの女性。

二つの大きな袋を持っている。

「フレイナ、運ぶの手伝って…って、あら、お客様?」

その目が僕を捉えた。

「ごめんなさい、今日は休業日なのよ」

「あ、違うのジュルンさん。この人はお客様じゃなくて…」

「えっ、じゃあ、フレイナのお友だち?」

「ええっと、友だちっていうか、会ったばかりなんだけど…」

この人は、この店で働いている人だろうか。

それなら、挨拶しないと。

「すみません、お邪魔しています。僕は、育美良生といいまして」

「そうそう、イセくんって言うんだよ。…旅人さんなんだけど、パロポロの実を食べようとするくらいだったから、ほっとけなくて…」

フレイナが補足してくれると、女性は目を見開く。

「ええっ!? …そこまでの人なら、確かに、ほっとけないわねぇ」

女性は僕の前に来た。

「はじめまして。私はジュルン。この店のオーナーシェフをやっているわ」

「はじめまして。…それから、すみません。お休みなのにお邪魔しちゃって…」

「いいのよ、そんなこと。…って、そうだ、じゃあイセくん、お代ってわけじゃないけど、ちょっと手伝ってくれない?」

ジュルンさんは、持っていた袋を一つ、僕に向けた。

ああ、僕に運んでほしいってことかな。

「わかりました、お手伝いします」

袋を受け取る。

「イセくん、あたしも手伝うよ」

フレイナが僕の持つ袋に手を当てた。

すると、なんだか急に軽くなる。

「あれ…?」

よく見ると、袋の下に、魔法陣のようなものが付いていた。

「ジュルンさんも」

「はい、お願いね」

フレイナが差し出した、もう片方の手。

そこにジュルンさんが袋を当てると、僕が持つ袋と同じように、下に魔法陣が浮かんだ。

「あー、いつもながら、助かるわ」

「ううん、気にしないで」

…うーんと、ひょっとして。

「これも、フレイナの魔法…?」

「うん。そうだよ」

驚いた。フレイナは、本当に魔法が使えるんだ…。

やっぱり、魔法って、実在してたのか…。

「じゃあ、食料庫に行きましょうか。イセ君もついてきてね」

「あっ、はい」

ジュルンさんとフレイナが歩き出した。

僕が後ろに着くと、それを確認した二人は、歩きながら会話を始めた。

「…今日は、荷台陣使わなかったの?」

「それがね、近頃、隣町への大通りに、モンスターが出るようになったらしいのよ」

「えっ! じゃあ、隣町には行けないの?」

「行けない、ってことはないらしいわ。…でもホラ、運び屋さんの特型荷台陣って、大きくて目立つでしょ? 運ぶのは食べ物だし、モンスターに襲われたら大変じゃない」

「じゃあ、運び屋さんはしばらくお休み…?」

「私もそう思ったんだけど、それはそれで困る人がいっぱいいるから、むしろ普段より運べない分、沢山往復してるんですって」

「そうなの? …大変だなぁ」

「ええ。…だから彼のためにも、ウチも明日からはお店は開けないことにするわ。常連さんへのお弁当配達に専念しましょう」

「うん、あたしも、そのほうがいいと思う」

二人の話はよくわからないので、僕は黙ってついていく。

「…イセ君も」

と思ったら、ジュルンさんが僕を振り向いた。

「旅の人ってことは、寝るところも決めてないんでしょ?」

「えっ、…まぁ、はい」

そういえば、全く考えていなかった。

「だったら、とりあえず今夜はウチに泊まって行きなさいな。部屋も空いてるし。貸してあげるわ」

「えっ、いいんですか?」

そう言ってもらえるのは、とても嬉しい。

「じゃあ、お言葉に甘えさせてもらいます」

「オッケーよ。…じゃあ、これが終わったら部屋を案内するわね」

ジュルンさんは優しく笑ってくれた。

 

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