キュオーッ!
大きなヘビがフレイナに襲いかかる。
「やぁっ!」
フレイナは、槍を蛇に突き出した。
ヘビは体を大きくくねらせて、それを回避する。
キシャーッ!
体勢を立て直して、ヘビがまた襲いかかる。
「えいっ!」
フレイナは、突き出した槍を地面に突き刺して、棒高跳びのように大きくジャンプ。
ヘビをよけた。
「いくよっ!」
後ろに回り込んで、ヘビの尻尾を狙う。
ザクッ!
槍の先端がヘビに刺さった。
クシャーッ!
ヘビが苦しそうに鳴くと、フレイナは槍を抜く。
ギャシャーッ!
怒った蛇は、その尻尾で槍を弾き飛ばした。
「わっ!」
慌てて拾いに行こうとするフレイナ。
蛇が大きな口を開けて、彼女を食べようとする。
「美味しくないよッ!」
フレイナは右手から火を出して、蛇を威嚇した。
身を引く蛇。
その隙に、フレイナは左手で槍を取り戻す。
「まだまだぁ!」
右手の火を刃先に移して、両手で槍を突き出した。
ザシュッ。ヘビの体を貫いた。
グシャアアーッ!
ヘビの悲鳴が響く。
「あっ、ごめん! ちょっとやりすぎたかな…」
心配そうに見るフレイナ。
対して、蛇は彼女をキリッと睨み、地面に尻尾を突き刺した。
すると、まるで水しぶきのように、地面から土が溢れ出した。
土は蛇を飲み込んで、大きな山になる。
やがて、その頂上から、蛇の顔が現れた。
ギシャォオーン!
雄叫びを上げて山から飛び出した蛇は、もう蛇じゃなかった。
体が太くなり、小さな前足と、大きな後ろ足が生えて、顔は凶暴になった。
その全長は、大体15メートルくらい。
まるで、恐竜だ。
「うわわっ! そんなに大きくなるなんて、聞いてないよっ!」
フレイナは槍を構えるけど、恐竜はそこに、大きな尻尾を叩きつける。
ベキッ!
「あーっ!」
槍は、真っ二つに折れてしまった。
「ふ、フレイナ、大丈夫なの!?」
思わず、声を上げて確認すると、
「イセくん…どうしよう、大丈夫じゃないかも…っ」
フレイナは涙目でこっちを見ていた。
「そんな!」
めっちゃ強いって言うから、大丈夫なのかなと思って見守ってたのに。
「だって、こんなに大きくなるなんて、思わなかったから…っ」
フレイナは、今にも泣き出しそうだ。
僕は彼女に駆け寄った。
「と、とりあえず、逃げよう!」
言いながら、その手を取って走り出す。
恐竜も、僕らを追ってくる。
だめだ、すぐに追いつかれる!
「くそ、もっと早く走らないと…![
呟くと、突然、僕の左腕が光った。
「えっ!?」
「わっ!?」
揃って驚きの声を上げる僕らは、光の中に飲み込まれる。
次の瞬間、僕は見知った運転席に座り、ハンドルを握っていた。
「あれっ!?」
いつのまにか僕は、僕自身の愛車、カイザーに乗っていたのだ。
助手席にはフレイナが居る。
「あれ? えっ? ここどこっ!?」
混乱してキョロキョロするフレイナは、立ち上がろうとして、屋根に頭をぶつける。
「あいたっ!」
そりゃそうだ。普通車の中で人が立てるわけがない。
「じっとしてて!」
僕は視界に映るものを改めてを確認した。
…どうやら、今の僕は、さっきの大通りを、カイザーに乗って走っているらしい。
ミラーを確認する。
時折、恐竜の足が映る。
それにシンクロして、時折背後から大きな振動が来る。
つまり、恐竜はまだ、カイザーに乗った僕らを、追いかけて来ているんだ。
何でこうなったかはわからないけど、車に乗れたのなら、自分の足で走るよりも全然良い。
「このまま、振り切るよッ!」
アクセルを踏んで、カイザーを加速させる。
「うわっ!? 何これ!? …ひょっとして、イセくんの魔法…?」
魔法って…。
もしかして、フレイナは車に乗ったことがないのかな。
「とにかく、説明は後でするから!」
何よりもまず、恐竜から逃げ切らないと。
「う、うんっ!」
フレイナが頷いて、前を見る。
「…あっ! ダメだよイセくん!」
けど、すぐに僕の視界を手で遮った。
「うわぁ!」
視界を確保するために、体をひねろうとして、思わずハンドルを切ってしまう。
「わああっ!」
「きゃあーっ!」
大通りから外れてしまい、カイザーは、野原に侵入した。
ガガガガガコン! ガガガガダダダダ!
激しい音を立てて、車体が大きく振動する。
とにかく、ブレーキを踏まないと!
ガコンガコンガコン!
ガダガダガダガタドドドドドグアシャーッ!!
…なんとか、無事に停車できた…らしい。
「ふ、フレイナ! 危ないよっ!」
「ご、ごめん! …でも」
フレイナは、さっきまでの進行方向を指差す。
「村に向かってたから…」
…えっ?
「…あっ、そうか」
大通りを走るってことは、その先にある村に向かう、ということだ。
僕らが村に向かうと、それを追って、恐竜が村に来てしまう。
フレイナは、その危険を察したんだ。
「…って、そうだ、恐竜は!?」
慌てて、その姿を探す。
大通りを挟んで向かい側の野原に、倒れ込んでいた。
なんだか苦しそうに、右足を抑えている。
…ひょっとして、突然軌道を変えたカイザーに蹴躓いて、転んだのかな…。
ギッ、ギァッ、ギシャアーッ!!
恐竜が立ち直って、こちらに向かってくる。
「やばい、逃げないと!」
なんて言うけど、困った。
このまま大通りを走ったら、村についてしまう。
かといって、逆走しても、そのうち別の村についてしまう。
通りを外れて野原を走る…には、路面が不安定すぎる。
カイザーでは満足なスピードを出すことができない。
逃げられない。
「それなら、あの恐竜を、大人しくさせるしか…!」
そう言った途端、また、僕の左腕が光った。
よく見ると、光っているのは腕じゃない。
腕についている、ガントレッド状の機械だ。
さっき、光の人が僕に押し付けたモノ。
ええと、たしか『お前の思う、お前の力』だったっけ…。
「なんとか、できる…?」
機械の光が一度消えて、また光った。
まるで、僕の言葉に、頷くかのように。
「…よし、やってみよう!」
決意すると、頭に言葉が浮かんだ。
そのまま、叫ぶ。
「勇合転生!」
一瞬、フワッとした感覚。
僕の体は、カイザーの屋根をすり抜け、ボンネットの上に立った。
運転手を失ったカイザーは、ひとりでに走り出した。
トランクルームを開けて、光のようなものを噴射し、その勢いで大きくジャンプする。
噴射が終わると、車体は宙を舞いながら、上下に分割された。
リアを基点に、上半分が180度、後ろに倒れた。
続いて、フロント部分が三分割され、僕が立っている中心以外の両端が、斜め後ろに迫り出した。
やがて、僕が乗っていた部分もパタパタと倒れ、僕ごと車体中央に格納される。
その瞬間、僕の意識は、カイザーと一つになった。
ルーフが足に。
トランクが膝に。
フロントが肩に。
ドアが腕に。
頭が出て、目が灯る。
口が勝手に、叫ぶ。
『転生勇者! イセカイザー!!』
ーーそれは、少年の持つ力。ーー
ーーそれは、強き戦士としての姿。ーー
ーー生を転じて成り遂げた、勇ましき者。ーー
ーーその名は。ーー
ーー『転生勇者 イセカイザー』!!ーー