転生勇者イセカイザー   作:楽雁つばさ

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2-3「良生の力」

店に帰ってきて、かなり時間が経った。

フレイナも、かなり元気を取り戻していたようだったけれど、僕は。

「うーん…」

ベッドに寝転んで、自分の左腕を見た。

気になっていた。

あの時、トアロさんの言っていた言葉。

『巨人は、モンスターの親玉』。

改めて思えば、トアロさんがあんなに怖がっていたのは、その話を信じているからだろう。

確かに僕は、カイザーと一つになるを手に入れた。

『お前の思う、お前の力』。

光の人にそう言われたこの力で、僕は巨大な姿になって、モンスターを倒した。

それ以来、なんとなく、そのための力なんだと納得していた。

けれど。

僕は噂になっている通り、今朝、山を荒らしている。

そんなつもりはなかったけれど。

事実として、山の地肌が見えるほどに、僕は樹々や草花を押し退けた。

その様は、誰かに「荒らした」と言えることだ。

そして、その後トアロさんの家でのこと。

今思えば、彼の家が崩壊したのは、家の中で僕が巨大化したからなのだろう。

正確にはわからないけど、大きくなった時、僕の視点は地表から約15m高い位置になる。

つまり、カイザーと一つになった時、僕は全長約15mほどの大きさになるんだ。

そんなに大きくなったら、木造の家なんて、簡単に崩れてしまうだろう。

僕が持っている力は、それだけ大きくて、強くて。

…危険な力、なんだ。

「…どうして僕は、こんな力を…」

呟いてみるけど、左手の機械は、答えてくれない。

代わりに。

「…イセくん」

声が聞こえて振り向くと、部屋の出入口にフレイナがいた。

扉、閉め忘れていたかな。

「イセくんは、自分の力に戸惑ってるんだね」

「…えっ?」

上体を起こして、フレイナを見る。

「そうなのかな、って気はしてたんだ。…よくわからないでモンスターを浄化しちゃうのとか、山で振り返って驚いてたのとか…」

やがて、僕の隣に座った。

「大きすぎる力、強すぎる力に、自分じゃ身の丈に合わないんじゃないか、自分には扱いきれないんじゃないか、って…。イセくん、なんだかそういう顔してる」

…そう、なのかな。

いや、自分でも良くわからないけれど。

「…うん。そうだと思う」

そう言われると、このモヤモヤした気持ちが、なんだかしっくりくる。

「そっか…。でもね」

言って、フレイナは立ち上がった。

「あたしは、イセくんに助けてもらった」

その指先に魔法陣を浮かべて、小さな火の粉を見せてくれる。

「イセくんは、あたしの魔法を守ってくれたんだ」

火の粉を消して、その手を胸に当てる。

「今、あたしの魔素が無事なのは、イセくんが持ってる、イセくんの力のおかげ」

僕の左手を、フレイナが左手で取った。

「だからさ、イセくんの力は、誰かを助けられる力なんだよ」

強く、そう言ってくれる。

誰かを助けられる力…。

「そう…なのかな」

左手の機械を見る。

「そうだよ!」

そこに、フレイナが右手を添える。

「あたしが保証するよ!」

その微笑みが、とても優しくて。

「うん。…ありがとう」

僕も、笑い返した。

 

 

ーー ーー

 

一人の男が、村を彷徨い歩いていた。

「おじさん、これからどうしたらいいんだろう…」

自らを中年だと自負するこの男、名はトアロという。

先程、勇者の怒りに触れ、住居を壊されてしまった。

それ以前にも、男は罪と呼んで然るべき行為に、走ろうとしていた。

結果として住処を失ったとはいえ、男がそうなってしまったのは、男自身の招いた結果でもある。

「だれか、助けてくれてもいいのに…」

呟くトアロ。行き交う人々は、男に気を配ることはなく。

むしろ、冷ややかな視線を送るものすらいる始末だ。

それもその筈、この男、以前より村の中での評判は、あまり良くなかった。

その理由は、村中で評判の良い喫茶店へ、かなりの頻度で足を運んでいたため。

その目的が、店の従業員である、年頃の少女と言葉を交わすためだったこと。

赴くたびに長時間居座り、従業員の少女を会話で拘束していた。

少女本人や、店の主は勿論、ひいては少女に注文を伝えたい他の客へも、大きな迷惑をかけていた。

その様を知らない者は、この村にほとんどいない。

「なんか、みんな冷たいなぁ…」

極め付けは、本人に罪の意識がないことである。

何も言わずに付き合ってあげている少女の優しさに浸け入り、その時間の多くを奪って尚、男は自分が大勢の人間に迷惑をかけていることに気がついていないのだ。

しかし。

「わー…ホントだねぇ。オッサンめっちゃ嫌われてんじゃん」

そんな男にも、声をかける者がいた。

少女だ。

しかし、件の店の従業員の少女ではない。

全く別の、見慣れない格好をした少女だった。

「…きみは?」

「アタシ? …まぁ、旅人ってやつさ。…ってかオッサンめっちゃ落ち込んでるけど、なんかあったのかい?」

少女は、心配そうに聞いてやる。

その瞬間だ。

「おお、聞いてくれるかい!?」

トアロは突然、少女の手を取った。

「うわっ! …ええ…?」

手を強く握られた少女は、露骨に嫌そうな顔をする。

が、トアロはその様子を気に留めない。

元より、そういう男ではない。

「おじさんさ、仲良しの女の子が居たんだけど、その子を狙った巨人に襲われてさ! 家も壊されちゃったんだよ! だから、どうしていいか分からなくてさ!」

「おーおー、わかったわかった」

捲し立てるトアロの手を、少女は強引に振り解く。

「あれ?」

一瞬、それを疑問に思うトアロ。

「わかってくれたか! じゃあ!」

しかし、すぐにまた、少女の手を取ろうとする。

が、

「いんや」

その手が少女の手を掴むことは、もうなかった。

地面に落ち、血を吹き出し始める。

少女が、トアロ手を切り落としたのだ。

「づあッ!?」

あまりにも高速で発動した魔法は、その魔法陣すら、トアロの視界には映させなかった。

「やー、オッサンすごいね。女の子の手を握って、拘束魔法で解けないようにするとかサ」

激痛で蹲るトアロの頭を、少女は左手で、無造作に掴み上げる。

「お目当てはアタシの魔素かい? お目が高いのは認めてあげるけど…」

少女は、そのか細い腕からは想像もつかない力で、トアロを踏みつける。

「目ェ以前に、頭が高いね」

成人男性の肉体を、少女のか細い足が、軽々と蹴り飛ばす。

「生意気だよ。クズのくせに」

やがて、トアロの体を突き破るように、大きな魔法陣が展開した。

「グロール、お食べ!」

続いて、少女は両手から魔法陣を浮かべ、蛇のようなものを召喚した。

それは一直線にトアロへと伸び、丸呑みにしてしまう。

「さぁ、育ちなァ!」

胴体の膨らんだ蛇は、そのまま膨張し、爆散した。

溢れ出るのは衝撃ではなく、闇。

それらが四肢を、巨大な顎を、長い尻尾をも形成し、闇は異形な怪物をとなった。

「グオオオオオオ!!」

雄叫びを上げる異形の怪物。

その肩に、少女が跳び乗った。

「名付けてあげよう! キミの名は、グロルドン!」

「グオオオオオオ!!」

名を冠されたグロルドンは、もう一度雄叫びを上げる。

その力強さと荒々しさを兼ね備えた鳴き声に、少女は満足げに口角を上げて。

「ウィーーーーーーーッ、チッチッチッチ!」

高笑いをした。

 

ーー ーー

 

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