一連の騒動から夜が明け、各々の行動は進むもの、滞るものに別れた。
その中でも八雲 紫は暖かな布団でぐっすりと寝ていた。
早急な対応が必要なのは彼女も理解している。
だが、それ以上に先日で力を使ってしまっていた。
今の体力では目的の者たちへ向かったとしても返り討ちにされてしまうという判断だった。
しかし、ただ寝ているだけの彼女ではない。
彼女は知己に彼の者たちの捜索を依頼して、床についた。
彼女ほどの慧知ならばきっと見つけることができるはず
そう期待し、ふわふわの羽毛布団にくるまり、眠りについた。
「まったく、なぜ私がこんなことを…」
妖怪の山本部の屋敷の一部屋で頭を抱える鬼が一匹。
彼女こそ"山の賢者"こと茨木華扇。
彼女は鬼でありながらも、徳を積み、上位の存在へと目指す変わり者であった。
ただ、その彼女でさえも解らぬものはある。
その中でも特に頭を悩ますのは友人?の八雲 紫である。
今まで多くの妖怪と出会い、粗方の種族やそれらの性格の傾向や属性を理解してきたという自負は華扇にはあった。
しかし、八雲 紫だけは自分の知識の中では当てはまらない。
掴みどころがなく、どこかふわふわとしながらもしっかりとした芯がある。つまるところ、考えが読めない。
そして今回のこともそう。
いきなり式をよこしたと思ったら人妖の捜索を頼んできた。
「私が探すよりも自分で探す方が早いでしょうに…」
八雲にやきもきしながら、菓子を頬張る。
「茨木様、虎金様より伝言を仰せつかりました」
「なにかしら?」
「例の天狗殺しのことについて犯人が割れたそうです。そのことについて茨木様に相談したいとのことです」
「どいつもこいつも、私を便利屋とでも思い込んでいるのかしら」
と文句を言いつつも結局引き受けてしまうのが彼女の性なのだろう。
「虎金、来たわよ」
華扇が呼び掛けると自然と戸が開いた。
「応。やっと来たか」
「相談したいことって何かしら?」
「まぁ座れや。おい、茶と菓子を出してくれ。甘いやつだ」
虎金は部下に茶を用意させる。
「ねぇ、早くしてくれないかしら。私もあなたたちみたいに暇じゃないの」
「なんだそれじゃ茶菓子は要らないか」
「いらないとは言ってない」
虎金が菓子を片付けようとすると華扇は彼女の手を止めた。
「はぁ…仕方ないわね。ちゃんと聞くから、早く話して」
華扇は観念して腰を下ろした。
「じゃあ話すぞ。使いの者からあらましは聞いたな?」
「えぇ」
「部下が犯人と接触した。その部下は私が愛顧してる奴でな。そこらの妖怪には引けを取らない奴なんだ」
「で、その子が負けたから自分が出るべきだと考えたけど結局分からなくて私に頼った ということ?」
「察しがいいな。その敵とやらが厄介でな。部下の話を聞く限り私一人じゃどうにも分が悪い」
「その敵とやらは誰なの?」
「ひとり と 人間の男 だ」
「ひとり?それって河童のひとりかしら?」
「そうだ。ひとりは─「分かった。もういいわ」
華扇は菓子を口へ放り込み、立ち上がった。
「おい、まだ話は終わってないぞ。ここからが─「もう結構よ。その話の内容は
「お、おお、知ってるのか。なら私と一緒に─「それも結構。この問題はあなた以外と対処するわ」
「あ?今なんて言った?」
「この二名に関しては知り合いにも頼まれてるの。それに、貴女と一緒にやるくらいなら私一人の方が早く終わる」
「てめぇ、私を舐めてんのか?」
「ええ、仮にも四天王と呼ばれている癖に一人で敵に向かわない腰抜けだと思ってるわ」
瞬間、空間が揺れ、壁にはひびが入る。
「一度死ぬか?」
「やれるものならやってみなさい。できないでしょうけど」
そこで虎金は完全にキレた。
互いの拳が交わされようとしたその時
「止めな!!」
何者かが間に入り、両者の拳を止めた。
「「
酒呑。妖怪の山の上層部である鬼を纏める山の総大将が名乗る名。ちなみに天狗の総大将は天魔と呼ばれる。
「訳は知らんが喧嘩はよしな。四天王同士が争うなんてみっともないよ」
「しかし、酒呑様。茨木の奴が私を侮辱したのです」
「相も変わらず女々しい奴だね虎金。そんなの黙って聞き流せ。茨木も茨木だ。あまり気に障ることを言うな。ただでさえ鬼は気が短いんだ」
「善処しますよ」
「まったく、上の者がこれじゃ下の者への面目が立たないよ」
「また、
「世捨て鬼を目指すあんたには上に立つ者の気持ちなんて分からんだろうね」
「ええ、解りませんね。力で支配する組織の苦労なんて」
「文句があるならいつでも去りな。ま、その時はちゃんとけじめをつけてもらうけどね」
「それじゃ貴女様がいる限り、出ていけませんね」
「そういうことだ。あんた頭は良くなったけど反抗的なったね。昔はもう少し可愛げがあったのにさ」
「知と年を重ねれば、嫌でも変わりますよ」
「ふぅん。それじゃ知と老いは劇薬だね。変わらなくていいとこまで変わっちまう」
「この世に不変なものなど存在しません。たとえどんなに拒んでも、いつか必ず変化は訪れるものです」
「おや、あたしに説法かい?」
「ええ、私なりの親切ですよ」
「それならありがたく受け止めとくよ」
この二人の会話の間、虎金は話に割り込む機会を窺っていたが結局入れなくて黙っていた。
東の山の先に少し寂れた神社が一つ。
そこには八雲 紫の式 藍 の姿があった。
「博麗の巫女よ、聞いているのか?」
「ええ、あの馬鹿が私にまた一つ厄介事を吹っ掛けてきた てことでしょ」
「貴様!紫様に向かって馬鹿とはなんだ!」
「だってあいつ、考えてるふりして実は何にも考えてないでしょ。面倒事はぜーんぶ他人に丸投げで自分は暖かい布団でゴロゴロしてるだけ」
「もし貴様が巫女で無ければ八つ裂きにしてるところだ」
「口だけならどうとでも言えていいわね。ま、実際に八つ裂きにされるのはあんただけど」
「ぬぅぅ」
藍は怒りのあまり唇を噛みしめすぎて口の端から血を流していた。
事実、この巫女と藍が戦えば藍が一瞬で塵となるだろう。
それくらい、この博麗の巫女の力は常軌を逸している。
「そんなに悔しがらなくていいでしょ。それにその頼みも聞かないとも言ってないし」
「む。それならいいが」
藍の表情はスッ と戻った。
「うっ、いつ見ても
「仕方ないだろう。そういう風に組まれているのだ。もう少し最適化されればましになるはずだ」
「ならあんたの修行も早めに終わらすべきね」
「よろしく頼む」
「ぅ、ここは」
「気がついた?私の家だよ」
「花櫚様。……すみません、私が…」
「いいのよ。もう終わったこと、責任を感じるのなら次の仕事で結果を出してね」
花櫚は楓の頭を優しく撫でた。
「花櫚様…。お慕い申しております」
「はいはい」
優しい情景の裏腹、花櫚のはらわたは煮えくり返っていた。
私の可愛い楓を傷つけ、さらに私に恥を掻かせたあの男を
必 ず 殺 す
その殺意は静かながらも鉄を溶かすほどに、沸々と沸き上がっていた。
一方、雅とひとりは新居にて睡眠を取っていた。
二人が目覚めた時には既に陽は沈みかけていた。
静かなる休息。
これはその一日が平穏であったということに他ならない。
それは二人が望む日々。
しかし、二人が眠っている間に局面は刻一刻と進んでいった。
たった一つの事柄にいくつもの情念が錯綜する。
きっと紅き女王がこれを視たならば
「運命の糸が絡まりあってぐちゃぐちゃだわ」
と言うに違いない